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2010年7月6日(火)

Xbox 360版『ファントム』の作画演出を担当する澤井幸次さんにインタビュー

文:電撃オンライン

『Phantom PHANTOM OF INFERNO』

 ニトロプラスが今夏に発売を予定している、Xbox 360用ソフト『Phantom ファントム オブ インフェルノ(以下、ファントム)』の開発者インタビューを掲載する。

 Xbox 360版『ファントム』は、2000年にPCゲームブランド・ニトロプラスから発売された同名タイトルをリメイクしたアドベンチャーゲーム。詳しくは、4月23日に掲載したゲーム内容の紹介記事を参照してほしい。

 この記事では、『電撃ゲームス』Vol.10(アスキー・メディアワークス刊)で掲載された開発スタッフインタビューを再掲する。お話を伺ったのは、TVアニメ版の絵コンテ・演出および本作の作画演出を担当した澤井幸次さん。TVアニメ版製作に参加することになった経緯や、『ファントム』に対する思いを語っていただいたので、ぜひご覧いただきたい。

【取材・文/川地誠】

――まず、澤井さんがTVアニメ『ファントム』の演出を担当されたきっかけはなんだったのでしょうか?

 真下から直接声をかけられたました。過去にも『エル・カザド』や『無限の住人』などの作品に参加してきたので、その流れで今回も……といった形ですね。

――真下監督と澤井さんは旧知の仲なんですよね。

 そうですね。

――となると、『ファントム』も真下監督と阿吽(あうん)の呼吸で作ることができたということで。

 いえ。そういうわけでもないです。初期の全体ミーティング段階から、作品の外編や方向性について、監督から細かい説明がありました。TVアニメは話数が明確に決まっていて、そのなかで、どのエピソードでどのキャラクターの見せ場を作るのかといった、各話の核となる部分の割り振りをしっかり固めておく必要があるんです。そうやって決められた各話のなかで、担当した話の演出として構成を作り上げていくんですが、ここで“何を見せるか”といったコンセプトがちゃんと定まっていないと、作品がブレてしまうのです。

――では、演出として、まずはどの部分に比重を置こうと考えたのでしょうか。

 大人が自分たちの夢をつかむために子どもを利用しようとする残酷な世界で、図らずも闇の世界に生きることになってしまった少年少女たちの葛藤ですね。断定はしていませんが、少なからず、“もし、自分が同じ立場に置かれてしまったらどうしますか?”という問題提起を含めているようにも思います。

――確かに『ファントム』には、マフィア同士の抗争などの出来事が中心に展開されながらも、どこかキャラクターたちに自分を重ねて共感ができる部分があるような気がします。現実に同じような立場や状況に立たされることはなくとも、生き方によって、キャラクターの誰かと似た心情を覚えることもあるかと思います。

 そうですね。そして、それはどの作品にも必ず内包されているものだとも思います。クロウディアやリズィも反社会的な“悪”なのですが、彼女たちなりの生き様を持っているんです。そこをきちんと見せることが、演出上、大切な部分でしょう。

――クロウディアは原作には存在しないアニメ版だけのシーンも多いですね。

 そうですね。第18話のシーン(クロウディアが、あるキャラクターに銃で撃たれるシーン。無邪気な笑顔で浜辺を走るという形で彼女の最期が描かれる)は私自身も気に入っています。クロウディアのような生き方は、やれと言われてできるような単純なものではないでしょう。

――カッコいい女性ですよね。

 リズィもそうなのですが、もし彼女らに隣に立たれたら、きっと固まってしまうでしょうね。いや、変な意味ではないですよ、全然(笑)。

――まだ何も言っていないのに(笑)。

 墓穴を掘ってしまいましたね(笑)。墓穴ついでに言いますと、『ファントム』でグラマーな女性はクロウディアぐらいなので、どうしても作画スタッフの力が入ってしまうんですよね。

――胸にスタッフの熱意が濃縮されている(笑)。

 あとは、アインも原作に比べるといくらかセクシーになっているかもしれません。アニメの作画スタッフには“足”に情熱を傾ける人がなぜか多いので、アインも太ももに力が入っていますよね。あ、すいません。話が横道に逸れてしまいました(笑)。

――大丈夫です(笑)。『ファントム』は原作の人気が高い作品ですが、TVアニメにすること自体と、原作にないオリジナルのシーンを作ることに対して、プレッシャーのようなものを感じたりはしましたか?

 そこは、原作付きの作品だから、アニメのオリジナル作品だからといった境目はないですね。毎回、どの作品も傾ける集中力は一緒です。

――なるほど。では、そういう意味では今回もすべての力を出し切れたと。

 作品は、さまざまな分野のプロフェッショナルが分業の中で作り上げていくことで完成します。『ファントム』も素晴らしいスタッフたちに恵まれて作ることができたので、自分が予想していたものよりもさらにクオリティの高いものに仕上がったと思います。

――大人数の制作だからこそ、意思の疎通などで苦労されることも多いと思うのですが、『ファントム』はそれぞれの分野の力を結集することができたと。

 そこは監督の力が大きいと思います。明確な方向性を指し示してくれましたから。

――さて、Xbox 360版の話に移りたいと思いますが、澤井さん自身、普段ゲームをプレイすることは?

 子どものレースゲームに付き合ってあげたりぐらいは。いわゆるAVGというジャンルのゲームはあまり遊ばないのですが、ゲームの『ファントム』にはキャルやクロウディアのシナリオも入っているんですよね。

――そうですね。選択肢によって分岐します。

 途中でセーブしておけば、簡単に別の世界軸に行けちゃうんですね。それはちょっと、『ファントム』の世界観らしくなくてズルいなぁ(笑)。

――確かにセーブできてしまうと選択肢の意味が軽くなりますよね。でも、ゲームは大抵そうです(笑)。

 確かに。でも、自分も他のヒロインたちのルート自体にはすごく興味があります。キャルの××シーンのCGを観たら、モロに映画の『レオン』なんですもん(笑)。

――(笑)。Xbox 360版では、原作となるPC版のCGをすべてリファインしているということで、作業量も多かったのではないでしょうか。

 そうですね。最初にPC版の資料がニトロプラスさんから送られてきたのですが、その量に驚きましたね。TVアニメは動きで見せる部分が多いのですが、ゲームは静止画なので1枚1枚の描き込みを、よりしっかり行わなければなりませんから大変でした。

――ゲームの止め絵だからこそ、特にこだわった部分などはありますか?

 色合いですね。同じ昼のシーンであってもちょっと色を変えるだけでだいぶ印象が変わってしまうので。なので、“このシーンはどの程度の照明を使っていて、どの程度の明るさなのだろう”ということをニトロプラスさんと相談しながら色を調整していきました。

――ニトロプラス側との打ち合わせは、どのような形で行われたのでしょうか?

 最初は専門用語の確認からでした。アニメとゲームの業界では、同じ“原画”や“差分”といった言葉でも微妙にニュアンスが違うんです。そこで齟齬(そご)が生じないように、すり合わせを行うところから始まりましたね。

――実質的な作業期間はどのぐらいあったのでしょうか?

 2クールぶんのTVアニメが作れるぐらいの期間は使いました。ニトロプラスさんのチェックも厳しかったし(笑)、自分たちもこだわりたいという気持ちはありましたから。

――実質的な作業としては、キャラクターをTVアニメ版のスタッフが担当し、その後、ニトロプラスのスタッフが背景を仕上げるという形だったのでしょうか。

 そうですね。我々が先行してPC版のCGを参考にしながらキャラクターの絵をリファインしました。その作業はすでに完成しており、今はニトロプラスさんに頑張っていただいているところです。とはいえ、できあがったCGを送っていただいて、そこからさらに修正を施したりという作業はまだ続いています。

――背景が追加され、完成されたCGをご覧になった感想はいかがでしょうか。

 やはりプロの仕事はすごいと驚かされました。背景はすべて3D・CGで処理されているのですが、まったく違和感なくキャラクターと一体になっていますね。

――確かに、10年前のPC版と並べて見比べてみると、すごい進化だなと思います。

 TVアニメ版でも、エレンの狙撃シーンなどで3D・CGによる演出を取り入れてはいますが、今後はこういった表現がもっと自然に違和感のないものになってくるでしょう。

――やはり新しい技術は気になりますか?

 それだけ表現に幅が広がるということですからね、もちろん、今回ゲームのお仕事をさせていただいたこともいい刺激になりました。

――では最後に、ファンに向けてひと言お願いします。

 ニトロプラスさんに完成したCGを見せていただいて、これはすごいものができるという確信はあります。あまりゲームでは遊ばない自分も『ファントム』はプレイできる日を楽しみにしています。ぜひ皆さんも、我々アニメスタッフと原作のニトロプラスさん、2つのクリエイターの魂が込められた『ファントム』をプレイしてみてください。

――本日は、どうもありがとうございました。

(C)2009 Nitroplus/Project Phantom (C)Nitroplus

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