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2010年7月27日(火)

【洋鯨亭 第21回】ゼニマックス・アジア、ローカライズへの心意気(前編)

文:電撃オンライン

■キャラは雰囲気が重要。英語テキストの翻訳について

──テキストなどを翻訳する際、一番苦労することはなんですか?

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 データ素材と一緒にテキストもエクセルファイルなどで開発元から届くのですが、ざっと見てなんのことを言っているのかわからない文章の解読は苦労します。特に、それまでのセリフを全部読んだり物語の流れを追わないとわからない単語だったり文脈だったりですね。海外と国内の発売日を近づける場合はローカライズの時間に余裕がありませんので、そういった用語の確認は苦労します。ときどき開発の途中でセリフが変わることもあって、その対応も大変ですね。

──セリフを変更されると、音声収録が大変ではないですか?

 ええ、後日録り直すこともありますし、変更が出そうな部分に関してはあらかじめ何パターンか予測して収録しておいたりもします。他にも、単語レベルで別収録しておいて、あとから編集してしてセリフに組み込んだりすることもあります。

──翻訳する際に言葉の選び方で苦労はされませんか?

 多少はありますね。といっても、実は使ってはいけない言葉がCEROで決められているとか、そういった規制があるわけではないんです。ただ、一般常識的にこの言葉を使うのはよくないだろうという判断はあります。たとえば、“売○婦”という言葉を使うのは適切ではないと考えて、“夜に働くお姉さん”というようなだいぶぼかした言い回しに変えるとか(苦笑)。

──そういった判断の基準は、やはり自主的なものになるんでしょうか?

 そうですね。明確な基準があるわけではありません。

──何か基準があるのだと思っていました。ではローカライズをするにあたって、海外版の開発スタッフとはどのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか?

 実は、ほとんどやり取りはないんです。もう、お任せいただく感じですね。こう言ってはなんですが、海外スタッフの優先順位はアメリカが1番で、次がヨーロッパ。あとは、あぁ日本もあったね、みたいな感じなので(苦笑)。まぁ海外スタッフは作業のしやすいところから手をつけていきますから、どうしても同じ英語圏を優先しますよね。なので、僕らはなるべく彼らの手をわずらわせないように心がけます。ほとんどこちらに任せてもらっている分、作業としては非常にやりやすいですね。

──では、ほぼ国内だけで進められるわけですね。

 細かい部分でのやり取りなどはありますけど、ほとんどそうですね。あとは、国内版だけゲームの内容を変えなければいけない部分や、カットせざるを得ない部分が発生した場合の確認ですね。

──それは、原作で表現している内容がそのまま使えない場合ですか?

 はい。そういった表現が含まれたイベントをカットしたり、変更しなければいけない場合ですよね。

──そういう提案をした場合、海外のスタッフはどんな反応をされますか?

 内容にもよりますが、だいたいは納得してくれますよ。国ごとの法律だったり、国民性なども関係しますので。

──では、ゲームの中で強烈な個性を持ったキャラクターを、どう見せるかで悩んだりされませんか? 言葉遣いのニュアンスをどう再現するかというような……。

 そういったキャラクターの場合、大事なのは“そのキャラクターが個性的であること”と、キャラクター自身がかもし出す雰囲気だと思いますので、それらがちゃんと伝わるようにしようと考えています。たとえば、すごく攻撃的なキャラクターの場合はその性質が全面に出るように、といった具合です。なので、ゲーム内容にそれほどかかわらない部分のセリフなどについては、必ずしもそのまま忠実に翻訳するわけではないですね。“翻訳すること”にこだわりすぎると、大事な本質が失われてしまうことはよくありますので。

──なるほど。では、個人的な興味で恐縮なのですが、たとえば日本版の『Fallout 3』にも出てくるラジオDJのスリードッグも、海外版とは違った翻訳がされていたりするのでしょうか?

 いえ、あのキャラクターは基本的にプレイヤーの起こした行動に対してラジオでしゃべっているので、変更を加えづらい部分でした。なので、話している内容はほぼ原文に近いですね。他には日本版で日本語をしゃべる中国人っぽいキャラクターがいるのですが、あれも海外版では中国語なまりの英語をしゃべるキャラクターになっていますから、そういった雰囲気はうまく伝えられていると思います。

──まずはキャラクターの雰囲気を伝えることが重要、ということですね。ところで、ゼニマックス・アジアさんのローカライズに関して、ユーザーさんからはどのような意見が寄せられますか?

 全体的には、ありがたいことに肯定的なご意見をいただくことが多いですね。あえて否定的な例を挙げさせていただくと、「この声優さんを使うのをやめてください」といった、ピンポイントなご意見ですね。あとは誤訳が多いといったご指摘ですとか、日本語音声と英語音声を選べるようにしてほしかったといったご要望ですね。

──声優さんに対するご意見は、何が理由なんでしょう?

 ヘタだから……だそうです(苦笑)。

──手厳しいですね(苦笑)

 中には、それはちょっと厳しすぎない?(笑) という内容のご意見もあるんですが、ほとんどはローカライズする側として納得のいくものばかりなので、1つ1つ拾って改善に役立てています。

──ちなみに、声優さんはどのような基準で選ばれているのですか?

 当然ながら、まずはプロの声優さんであることですよね。試しに、声優ではない方を起用してみたこともあるのですが、やっぱり演技力などの面でかなりの差が出ますね。そういった場合に、先ほど言ったようなご意見をいただくのかなと。あとは、キャラクターの雰囲気に合った演技ができる方です。といっても、日本の声優さんは上手な方が多いので、どんなキャラクターでもほとんど演じていただけるんですけどね。そういったこともあって、声優さんの事務所には、大まかなキャラクターの特徴などをお伝えして、リストアップしていただいた中から採用する方を決めています。

──では、収録の際に声優さんのアドリブが出たり、それを採用するようなことはありますか?

 収録はゲームの映像を観てもらいながら行うのですが、声優さんによってはアドリブが飛び出すことはありますね。それが翻訳したものよりもよければ、採用することはあります。これも雰囲気であったり収録の流れでそのセリフがふさわしいかどうかを見ています。もちろん、ストーリーの根幹にかかわる部分は変えられませんが、サブイベントやNPCの単なるつぶやきのようなものについては、アドリブもたくさん使っていますよ。

──なるほど、ありがとうございました。

 今回は、ローカライズの細かい作業などについてお伺いしました。来週更新分では、洋ゲー好きな皆さんが興味のあるであろう“表現のローカライズ”と規制などについてお伺いします。お楽しみに。

→いつものご意見募集です(3ページ目へ)

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