2010年10月8日(金)
本連載は『GEルネッサンス』の新大陸グラナド・エスパダを舞台に、美しいコスチュームと景色に全力でスポットを当て、主人公・電撃子による妄想ストーリーを全4回でお届けする。
【前回までのあらすじ】 |
新旧大陸のどちらでも天才デザイナーとして高名なアンドレ・ジャンジール。幼馴染だった父親の名前を利用して、まずは弟子入りテストまで電撃子はこぎつけた。「今まで誰もみたことがないような、画期的なコスチューム」という無理難題を、斬新なビーチウェアで見事合格。しかし、順風満帆な彼女の前に、何者かが立ちはだかった……。 |
「に、にいさん!」
閑静なリボルドウェの住宅街に、電撃子の悲鳴が響き渡る。全4回の連載のうち第3回という、物語も後半になって初登場のこの男。何を隠そう電撃子の実の兄、“電撃雄”である。いい加減このネーミングセンスは何とかしたいものだ。
▲連載第3回目にして突如現われた金髪のカレ。兄さんは兄さんですが、名前はキャ●バルじゃないし、妹もア●テイシアじゃありません。 |
しかし故郷を遠く離れて、兄と妹が再会したというのに何だか二人の間には刺々しい空気が流れている……。
「いやー、わが妹ながら一目で田舎から出てきたとわかるファッションセンスだね」
「あらお兄さんこそ、旧大陸の貴族を真似しようとして、中途半端にお金のかかったスーツが素敵。分不相応という言葉を知った方がいいわよ?」
「はっはっは。そういや電撃子、ぐらな堂を継ぐらしいじゃないか」
「誰かさんが銀行家だか、会計士になるとか言って家出したせいで、私が後継者よ」
国によっても違いはあるが、財産や家の地位を継ぐのは“男女問わず長子”または“長男”が常識だったこの時代。長子でも長男でもない電撃子が、ぐらな堂の後継者に指名されたのにはワケがある。コインブラの田舎暮らしと洋服屋の跡継ぎ、どちらにもまったく興味のなかった電撃雄は15年前に家を飛び出し、単身旧大陸オペルシアへ。それっきり音信不通となっていた。正直、父も母も、電撃子ですら便りの無い長男は死んだものと思っていたのだ。
とは言え、15年間も行方不明だった兄と妹が、偶然出会えるほどグラナド・エスパダ大陸は狭くなもないし、本連載もそこまでご都合主義ではない(本当か?)。会計士の資格をとった電撃雄は旧大陸でアンドレ・ジャンジールと出会い、彼専属の会計士として新大陸にまで同行していたというわけである。
「あ、それなんだけどな、やめたわ」
「……?」
「家を継ぐのをやめるのを、やめた。つまり“ぐらな堂”を継ぐってこと」
あまりに横暴な兄の発言に、金魚のように口をパクパクさせてしまう電撃子。だいたい兄は裁縫もデザインの修行もしていないではないか!
「まぁ、そこはプロの職人を旧大陸から連れてくることで解決。俺はこの才能を生かして経営面だけを担当する社長になるわ。しかしファッションの知識がゼロというのはマズイので、アンドレ先生。電撃子の変わりに俺を弟子にして、ファッション業界のイロハを教えてください」
電撃雄はアンドレにニッコリと微笑みかけた。
「そんなの卑怯じゃない。私は先生の出した試練をパスして弟子になったのよ」
「そうねぇ、私もアナタの態度はあまり関心しな、え?」
「先生、ちょっとこちらへ……例の帳簿ですが……でして。国税局……私がなんとか」
▲デザイナーとしてのアンドレ先生には、そんなに後ろ暗いところがあったのだろうか。衣装は純白だけど、以外に腹黒い部分を持っているのかもしれない。 | ▲兄が着用しているコスチュームは、リボルドウェの偉い人“リンドン”とおそろいのスーツだ。なお、NPCとしてのリンドンは開発者であるキム・ハッキュ氏専用キャラなので、今後も編入可能になる予定はないそうだ。 |
「弟子入り志願をする前途有望な若者を、どちらか一人選ぶなんて私にはとてもデキナイワー! こうなったら兄妹対決にしましょう。決戦の期日は2週間後、テーマは“異国情緒”よ」
二人にとってアンドレの言葉は絶対的なもの。弟子入りの権利をかけたコスチューム対決が2週間後に決定。この連載は毎週更新なのだが、そんな細かいことは気にしなくてもよい。
「思春期を貴族文化に漬かって過ごした俺の、至高のコスチュームを見せてやろう」
「望むところだわ兄さん、究極のコスチュームとは何か教えてあげるわ!」
▲究極vs至高のコスチューム。父と息子、じゃなくて兄と妹の醜い身内争い。どこかで聞いたようなテーマだ。 |
◇◆◇◆
「はぁ…どうしよ」
安易に試練を引き受けては、何の策もなくとりあえずため息をつく電撃子。先々週からまったく学習能力がみられない主人公の電撃子。今回も対決テーマとして与えられた“異国情緒”に悩みまくっていた。兄が言うとおりコインブラの田舎育ち、リボルドウェに来るまで異国文化に触れた経験が一度もない。
動物園のクマのごとく、リボルドウェの街をアテもなくうろつく中、一枚のビラが彼女の目にとまった。
「うわぁ、コインブラより全然大きい街。さすが商業都市オーシュだけあるわね」
2日後、手にビラを握り締めたまま電撃子は、北方エリア最大の街“オーシュ”に来ていた。赤レンガの屋根が美しいコインブラとも、石畳の敷き詰められた古き良き時代を映すリボルドウェとも異なり、オーシュは近代化が最も進んだ街で、真っ白い石造りの建物が立ち並ぶ。そして中央の巨大なアーケードに“オーシュ国際博覧会”の垂れ幕が掲げられている。そう、彼女がオーシュまでやってきた目的は、各国が最先端技術を展示して、己の国力を諸外国へ自慢しあう、いわゆる万博イベントの見学だったのだ。
国際博覧会にやってくるのは新旧大陸だけでなく、タルガ、シャム、アビシニア……ありとあらゆる国の人々。電撃子が異国文化を学ぶのに、こんなうってつけの場所は他にあるまい。辻馬車(レオナルド・エクスプレス)の周りには、今まで見たことも触れたことも無いコスチュームをまとった人々が群がっている。
「すっ、すいませーん!」
あまりの混雑に人酔いしかけていた電撃子だが、一人の女性を目にしたとたん思わず大声で呼び止めてしまった。
「あの。あの、そのお洋服はどこで買ったんですかっ!!」
「はぃ?」
▲万博の話をすると年齢がバレるため、一般的にはオリンピックに続いてタブーとされる話題。日本が初めて参加したのは1867年に開催されたパリ万国博覧会で、それまでヨーロッパの上流階級がたしなんできた“シノワズリ(東洋趣味)”ともまた違う、“ジャポニズム”という流行を巻きこした。日本の伝統文化って、日本人が思うよりも海外では評価高いんですよ。 |
◇◆◇◆
「さあ、電撃子に電撃雄。自らをモデルにあなたたちが作ってきた、究極と至高のコスチュームを解説してもらおうかしら」
「異国情緒というテーマに合わせ、ベースとなる純白の布は新大陸グラナド・エスパダ産。襟や足首の毛皮はアビシニア、戦闘にも日常にも動きやすいスリムなボディパターンはタルガの日常着を参考にしました。また、体中を覆う繊細な金属飾りは、旧大陸オペルシアの技術あってこそのもの。つまりグラナド・エスパダを取り巻く諸外国の素材、技術の結集が、俺のデザインした“ラ コスチュム ドゥ ラ フランム ブランシェ”であります」
「フム……なるほどね。じゃあ次は電撃子のを見せてもらうおうかしらん」
「わ、私の作品は名も知らぬ東方の国をイメージした、“ラ フルール エカルラート”です」緊張のあまり、電撃子の声が震える。
「コルセットを閉めているのは、かの国で使われている“クミヒモ”という技術。足回りや腕に使われているのは“カッチュウ”という戦で使われる鎧の一部です。背中のリボンは“オビ”。これにはカイコから取れた最高級シルクが素材です」
「“ラ フルール エカルラート”はヘアスタイルもファッショの一部。結い上げた髪を止めているのは、同じく東の国で使われる“カンザシ”をグラナド・エスパダ風にアレンジしました。飾りはこの国には咲いていない“ウメ”という花のモチーフです。」
「先生からいただいたテーマは異国情緒。私は東と西の文化の融合を、このドレスにこめました」
「電撃雄、あなたは私の会計士として自宅に10年近く出入りしていながら、“美”の何も学ばなかったのね。そのコスチュームは異国情緒ではなく、ただの寄せ集め! 究極v 至高のコスチューム対決は、東西の美を融合させた電撃子の“ラ フルール エカルラート”の勝利!」
こうして戦いの幕は情緒もなしにあっけなく閉じた。決して残り文字数の関係ではないことを読者にはお断りしておく。さて、アンドレ・ジャンジールの一番弟子となった電撃子はそれから1年間、世界各国のデザインを学び、ありとあらゆる布地素材の扱いの手解きを受け、スポンジが水を吸うがごとく学んでいった。若いってすばらしい。本来の目的である「父を納得させるだけの、斬新かつ実用的なコスチュームを作る」という課題はどうなったのか? 彼女は無事コインブラに錦を飾ることができたのか? すべては最終回で語られる……。来週の更新をお楽しみに。
▲オーシュ博覧会出会ったミフユとアスカ姉妹。彼女たちに東の国の素材やデザインの手解きを受けて、“ラ フルール エカルラート”は完成した。 |
→“ラ フルール エカルラート”をデザインした行徒先生のインタビューを読む
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