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2011年2月10日(木)

これは今まで読んできたラノベへの恩返し! 『シロクロネクロ』多宇部先生を直撃

文:電撃オンライン

■ 青春時代は電撃文庫とともに ■

――なぜ電撃大賞に送ったのかを聞かせていただけますか?

多宇部:僕らの年代って、ちょうど青春時代に出てきたレーベルが電撃文庫だったんです。それが大きな理由ですね。

――多宇部先生は、現在31歳ですが、電撃文庫の中ではどういった作品を読んできたんですか?

多宇部:電撃文庫の創世記の作品はだいたい読んでいます。中でも、田中哲弥先生の『大久保町』シリーズと、秋山瑞人先生の『鉄コミュニケイション』は大好きですね。秋山先生の作品の中で初めて読んだのがこの作品だったんですが、秋山先生の作品は全部好きです。このお2人の作品は、自分の中で甲乙付けがたいくらい高いポジションにあります。

――どういった部分がお好きだったんですか?

多宇部:秋山先生の作品って、ページから読者に向かって「どうですか、これは!?」って乗り出してくるようなエネルギーがあるんです。それでいてイヤミじゃない。私も『シロクロネクロ』の中で、できれば読者の方にそう感じてもらいたいと思って書いたシーンがあるんですが……。うまく伝わってくれれば何よりです。

■ テキトー主人公・由真のモデルも超テキトー ■

――では、本作の中身について伺っていきます。なぜ由真を主人公にしようと思ったのでしょうか?

多宇部:“エロスとタナトス”という言葉がありますが、エロいことと死を結びつけようと思ったんです、で、エロいことを考えていると死なないという設定にしました。それと、どんな悲劇的なことがあっても笑い飛ばせるような主人公にしようと思って作りました。

――確かに明るい主人公ですよね。ゾンビになってしまっているのに。

多宇部:もちろん彼なりに苦悩や葛藤はあるんでしょうが、とにかく根がテキトーなヤツなんですよ。彼にはモデルがいるのですが、その人も本当にテキトーで……。

――由真も相当テキトーだと思いますが……。

多宇部:いやいやいや、こんなもんじゃないです! モデルになった人を仮にAとしますが、彼がある日友人から「今日俺、誕生日なんだ!」と言われたらしいんですよ。その時、Aは誕生日の楽しさを共有したかったのか「俺も今日誕生日なんだ!」って言ったんです。まるっきり嘘なんですけど、Aに嘘をついた感覚がないという……。ただ、一緒に楽しみたかったらしいんですよ。でも、だからってそんなこと言うかなって。

――その発想がすごいですね。

多宇部:自分で言ったことを2秒後に忘れてますからね。そんなエピソードがいくつもあるのですが、そうしたテキトーさを由真も受け継いでいます。読者の皆さんも、ぜひ由真の言動にツッコミを入れながら読んでいただきたいですね。

――それでは、ヒロインの雪路は?

多宇部:彼女は、死と分かちがたい関係にある記憶というものを生かして作ったキャラクターです。実は、電撃大賞に送った段階の作品と電撃文庫の作品として皆さんが手にとっていただくものとでは、ちょっと違いがあるんです。

――それは、どういった違いなんですか?

多宇部:講評で高畑先生に「どんでん返しがある」とおっしゃっていただいたのですが、記憶にまつわる何かをギミックとして使いたいと思ってすこし変えました。雪路はツンデレなんですが、彼女はわざとそれをしている女の子なんです。本当は素直だけど、わざとツンデレを演じている。そのギャップってカワイイと思うんです。

――カワイイですし、読んでみた感想として強いヒロインだなと感じました。

多宇部:強いんですけど、ちょっと足りない部分がある。そこが主人公と一緒にした時にいい具合になるんじゃないかと思ったんです。

――主人公は、だいぶ本能全開ですよね。

多宇部:彼は実は、あれで抑えているんですよ。外側に関しては、ですが。ただ頭の中、つまり地の文ではかなりひどいですね(笑)。もちろん彼は、読者が読んでいると思っていないわけですから。むしろ、内面ではブレーキを踏むつもりがありません。普通の人だったら死んでいるような局面で、あれだけエロス全開にできるのは、自分で書いておきながらスゴいと思います(笑)。

担当編集:基本的には、主人公自身は肉体的に弱いのですが、性格はまっすぐな“主人公タイプ”なんですよ。それが一番生かせるような話になっていると思います。

――他のキャラクターについても質問なのですが、万里王(まりお)と瑠衣(るい)は、どういう経緯で作り出されたんですか?

多宇部::万里王は主人公にとってライバルキャラクターですので、主人公とはまた違った形でバカなキャラクターにしようと思って作りました。そこにギャップを加えようと思って、妹萌えを付け加えました。

――瑠衣については?

多宇部:これも主人公との対比です。主人公が“人間に近いゾンビ”なのでこちらはもっと怪物らしいゾンビにしようと。底抜けに明るいんだけど、怖い。そしてカワイイゾンビにしようと思って作りました。彼女の言語については、ニコニコ動画などの影響が強いかもしれません(笑)。

――ニコニコ動画ですか?

多宇部:ニコニコ動画は、作品によってはかなり言語センスが高い方もいるので、見ていて楽しいです。話がちょっと変わりますが“ブロントさん”というキャラクターもおもしろいです。これはおそらく2ちゃんねるが発祥だと思うのですが、独特な言語センスなんですよ。最後のほうは、おそらく複数の人間が書いていると言われていますけど、ある種の集合知みたいなものの感じです。かなり影響を受けていますね。かつて『ファイナルファンタジーXI』をプレイしていたんですが、変な口調でしゃべっていたら「あなたブロントさんでしょ?」なんてツッコまれたこともあります(笑)。

――ゲームなどもよく遊んでいるんですか?

多宇部:はい。『ファイナルファンタジーXI』のせいで大学を2年留年しています(笑)。

――かなりのハマりぐあいだったんですね(笑)。

■ 担当編集とのアツい打ち合わせ! その内容は……? ■

――それではちょっと話を戻しまして、このあとの『シロクロネクロ』についてお話を聞かせていただけますか?

多宇部:いろいろと考えているのですが、今はもうちょっと後で行かせる修学旅行のネタで悩んでいます。その場所をどこにしようか? という話で、打ち合わせの際に担当編集さんとせめぎあっています。ただし、せめぎあっているのは「水着があるから沖縄がいいよ!」という話と「舞妓さんが出るから京都がいいよ!」という部分なのですが(笑)。あと、最近の打ち合わせではパンツの話で盛り上がったりしています。

――パンツですか?

担当編集:パンツが第2巻で重要なガジェットになるんですよ。

――それはどういった意味で重要になるんでしょうか?

多宇部:ただ、女の子がはいているパンツはそれだけで魅力的じゃないですか。でも今悩んでいるのは“パンティそのもの”を魅力的に見せるとするならどうしたらいいのか、という点ですね。今回、パンツそのものを描写せざるを得ない展開になっていて、そのために担当編集さんと“萌えパンツ”は何かということを話しあったりしています。

――なるほど!

多宇部:私が「ヒモパンがいいんじゃないでしょうか?」と言うと、担当編集さんが「ヒモはちょっと……過激すぎるのでは?」みたいなやり取りをしています。本当のところ、私はヒモよりも縞(しま)がいいと思っていますが。

――私も縞パンがいいですね。おしり周りの立体感がわかるところがいいですよね。

多宇部:確かに! やっぱり縞パンはいいですね。

――……なんか変な方向に話が盛り上がってしまいましたが。では、書いていて大変だったところを聞かせていただけますか?

多宇部:主人公のギャグパートは、パーっと書けるんですが、実はこの作品には裏設定がいくつかありまして、その部分にくると途端に詰まってしまいました。設定の説明などもそうですね。1日1行くらいしか書けない時もありました。そうしたところで詰まったら、気分転換というわけでもないんですが、主人公のギャグパートを書いたりしていました。ラストのバトルのところは2日間くらいで書き上げました。バトルのところは止まってはいけないという思いがありましたので、とにかく集中して書き上げましたね。

――好きなキャラクターは誰ですか?

多宇部:全員好きなので、特に誰と言うこともないんですが……。書きにくいということではプラトーンですね。ですます口調が苦手なんですよ。得体の知れないところがあって、ちょっぴりやりづらいところもあります。

担当編集:そう言われてみて気付いたのですが、この作品に出てくるキャラクターって、瑠衣をのぞいてそんなに口調が特徴的ではないですよね?

多宇部:そうですね。私自身が、セリフを書いた時にすべて口で言ってみるんですよ。

――えっ!

多宇部:わかります、わかります(笑)。いや、雪路の最後のほうのセリフを言ったりはしていませんよ?(笑) それはさておき、自分で読んだ時にナチュラルに口にできないセリフや地の文はイヤなんですよ。これも好みの問題ですね。口調やセリフでフックを付けるものも、読んで楽しく感じるんですが、自分で書く時にはこっちのほうがいいですね。

担当編集:こちらでも、そのあたりについては特に言いませんでした。ただ、キャラクターを深くしたり、似たようなキャラクターが登場した時にどう差別化するのかは考えたいところですね。

多宇部:第2巻でさっそく似たようなキャラクターが出てきてしまいましたけどね(笑)。実際に今悩んでいます。

 →イラストの木村樹崇先生は心に何かを“飼っている”?(3ページ目へ)

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データ

▼『シロクロネクロ』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2011年2月10日
■定価:578円(税込)
 
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