2011年2月21日(月)
鎌池:得意な絵と苦手な絵みたいなのってありますか?
灰村:苦手な絵は枚挙にいとまがないですよ。やっぱり無機物を描くのが大変ですね。ビルとか車のような、構造体。さっき言っていたパワードスーツもそう。
鎌池:『禁書目録』では結構描いてますよね。扉とか、風斬が暴走したシーンでは、学園都市全体を俯瞰で描いてますし。
灰村:あれは黒と白で抜いてるからまだいいんです。線で起こすのが、かなり難解ですね。本当に背景どうしようって思うことが多くて、3Dでくるくる回す背景サンプルがほしいくらいですよ。他に写真を二値化して線を抽出してくれるソフトとかもあるんですが、そういうものに頼るのはおもしろくないし、やっぱり何か違うよなと。
鎌池:キャラクターと同じ有機物、恐竜とかクリーチャーとかは大丈夫なんですか?
灰村:時間があればできます。空想上の生物って、作業工程が多いんですよ。翼のように、人間にないものが付いていますから。人間は単純に見慣れているから、描きやすい。実在の人間をマンガ的なフォーマットに落とし込んで描いているので。
鎌池:架空のクリーチャーとかだと、筋肉がどう動くかというようなことまで想像しなきゃいけないから時間がかかると。
灰村:人間だったら、多少自分の身体を動かしてみたり、手の指の描写は自分で鏡で見ればいい。でも、翼の描写って、そう簡単には見られない。さらに架空の生命体のフォルムとなると、なかなか想像しづらいんですよね、現実に目の前にあるわけではないので。
鎌池:やっぱり断然キャラクターが描きやすいと。今まで一番うまく描けたのは?
灰村:6巻口絵のシェリー・クロムウェルですね。一緒に描いたゴーレムも、クリーチャーといえばそうなんですが、いろんな物体がわさわさと寄り集まっている過程を描いてもよかったので、究極のところ形が崩れても問題はなかった。だから描けたんでしょうね。
鎌池:絵のタッチで言うと10巻の口絵裏に近いですよね。
灰村:時間があればもっと描き込まれていたであろうリドヴィアさんですね。あれこそ本当に3倍くらい時間ほしかった!
鎌池:3倍!(笑)
灰村:そうなんですよ。あの手の絵柄って、エンドレスで描き込めるので。
鎌池:厚塗りっていうんですかね。線よりも、色で描いていくような。昔の絵に戻した感じですよね。
灰村:でも、その描き方や雰囲気が作品に合わなかったのでマンガ的な方向に変えていったんです。もう一点は文庫という紙面のサイズですね。この大きさでグレートーンが混在してる絵って、視線が散っちゃってダメなんですよ。メインとなる文章があって、次に絵があって、さあページをめくるか! っていう流れがほしいのに、イラストがゴチャゴチャしているとそこで視線が止まってしまう。口絵は冒頭ですし文章がないからいいですが、モノクロは絶対変えなきゃいけないなと、2巻あたりからずっと考えていたんです。これは話の流れに全然合ってない、文章のスピード感と合ってないぞと。
鎌池:挿絵としてどうあるべきか、要するに情報量が多すぎてもいけないというところですね。逆に、絵柄を昔のものに戻すことは可能なんですか?
灰村:やろうと思えばできると思いますけど、段階的に絵を変えているので、完璧には無理かもしれない。
鎌池:他の作品でも作品ごとにタッチを変えたり、アプローチを変えたりしてることはありますか?
灰村:そうしたい……ですけど、なかなかできてないかもしれないですね。難しいんですよ、たとえば、作家さんと編集さんが求めているイラスト像が違っている場合とか。もちろん作風に合わせて絵を描きたいんですけど、それを求められないこともある。ただ“『禁書目録』っぽい”絵だけを求められるのはイヤなので、最近はお断りすることが多いです。だって内容全然違うのに同じ絵にしろって無理がありますよね?(笑)
――ペンネームが2種類あること関係していますか?
灰村:それは少し意味が違って、純粋に最近の絵の方向性が硬質なものから柔らかいものになったから、というニュアンスが近いでしょうか。なので、ペンネームも漢字とカタカナからひらがなに変えました。『禁書目録』だけそのままなのは、単純に始まった時期の問題ですね。『スプライトシュピーゲル』と『メイド刑事』は、ひらがなに変えるいいタイミングだったからというだけです。
――『禁書目録』に関しても、次からペンネームはひらがなになりました。
灰村:そうですね。これもいいタイミングだったからです(笑)。
鎌池:そういう意味では、『禁書目録』に合わせた絵の進化と灰村さんが描きたい絵の違いっていうのは、当然あるんですかね。
灰村:『禁書目録』はわりと自分が描きたい絵と作品の方向性が合ってます。以前から実線で描こうとは思っていたんです。いやらしい言い方ですけど、そうしないと受け入れられない。そういうものなんですよ。
鎌池:わかりやすさが必要だと。
灰村:そう、わかりやすくないとダメなんですよ。ライトノベル=文庫という紙面の大きさの制約がある以上、キャラクターを単純化する必要がある。グレーもなるべく使わず、白と黒をメインに描く必要があった。その制約がいい具合に自分のやりたい方向と相互作用した感じですね。
鎌池:たとえばiPadや電子書籍で出しましょうという企画だったら、もっと違う形になってたかもしれないですね。
灰村:それが『禁書目録』だったとしても、間違いなく違った形になっていると思います。大きさだけでもだいたい文庫4ページ分ぐらいありますからコマも増えるでしょうし、表現の幅が広がりますから。
――では、画集のアピールポイントを、灰村さんご本人から。
灰村:人に説得されて画集を出すことになった俺がですか!?(笑)
鎌池:ご本人から言っていただかないと(笑)。
――おそらくですが、イラストレーター予備軍にはとてもいい本になるのではないかと思います。今回言及された、“作品に合わせて絵を作っていく”という手法あたりなど特に。
灰村:絵柄は目的ではなく手段ですからね。絵柄が目的になっちゃダメですよ。特定の絵柄を描くことが目的になったらおしまいです。絵が老化しちゃいますからね。
鎌池:で、アピールポイントを(笑)。
灰村:えっ。必死に逃げようとしていたのに(笑)。とりあえず、やっぱり一番おもしろいのは、1巻のカバーイラストのオマージュじゃないですかね。実は似たようなことを過去にやってるんですけど、あんまり気づいてないかな。『インデックスのクロスペンダント』という商品に封入されていた、インデックスが十字架を持ったイラストです。あれが実は1巻のオマージュなんですよ。なので、これが2枚目なんです。それと……そうですね、あとは過去から13巻に至るまでの履歴を見られるというところでしょうか。最新刊まで入れようとしたらページ数が倍以上になっちゃうので、そこで許していただこうかと(笑)。
鎌池:それこそ、画集がボックス仕様になっちゃいますからね!
灰村:そうでもなくても、過去の他の作品も入れたら、ちょっとした辞書くらいの厚さになりますから(笑)。
鎌池:ボックスに入ってさらに分冊ですよ。
灰村:そういうお手軽でない形になるのはいやだったんですよ。何にしても履歴を見るっていうのは、僕がうっかり友人に説得されたところですね。時系列で掲載イラストを割ったのも、時代の流れに合わせて履歴を見るためですからね。
鎌池:「This is HAIMURA KIYOTAKA!」ってことですね。
灰村:13巻までですけどね。
――では鎌池さんからも画集のアピールポイントを。
鎌池:私がかかわったトコだと……書き下ろし短編が収録されます。編集部から「画集が出るので何か書いてください」と言われたので、「何かリクエストありますか?」って投げたら、灰村さんから「上条抜きで、他の学園都市のキャラクターを書いてほしい」というオーダーが来たんです。これを自分なりにアレンジして書くとどうなるかなと。ストーリーの軸に上条以外の誰か、重要なキャラをぽこっと立てて、普通に読むと各々バラバラな話なんだけど、そのキーキャラクターを念頭に読むと1本の話になるとおもしろいんじゃないかなと思って、雲川メインの話にしたんです。
灰村:あれは不意打ちでしたよ。まさか雲川でくるとは思わなかった。
――普段と違うことができますからね、おもしろい。違うといえば……というと少し強引ですが、『禁書目録』は次の巻で……。
鎌池:タイトルが変わります(笑)。
灰村:それに合わせて僕のペンネームもひらがなに。
――新作『新約・とある魔術の禁書目録』では、新生・はいむらきよたかの絵にも注目というところですね。では最後に。灰村さんは鎌池さんに、鎌池さんは灰村さんにお言葉があれば、ひと言ずつお願いします。
鎌池:新しいシーズンに入ると、より一層面倒くさい設定がたくさん出てくると思いますけど、そこらへんで見捨てないでください。お願いします。
灰村:大変なことは確かですけど、それで自分を抑えたりはしないでくださいね。好き勝手に書いて投げてほしいです。
――遠慮しちゃうのは逆に相手に失礼ですしね。無理かどうかは、間に立つ編集者が苦労すればいいということで(笑)。それでは、おつかれさまでした。
鎌池&灰村:おつかれさまでした!
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