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2011年9月15日(木)

今後数年、ゲーム産業は“コミュニケーション”が主戦場になる――TGSフォーラム第1部・和田洋一氏の基調講演

文:電撃オンライン

 東京ゲームショウ2011の初日となる本日9月15日に、基調講演が開催された。この記事では、社団法人コンピュータエンタテイメント協会(CESA)会長・和田洋一氏が登壇した第1部“ゲーム産業革命の本質”の模様をレポートする。

今後数年、ゲーム産業は“コミュニケーション”が主戦場になる――TGSフォーラム第1部・和田洋一氏の基調講演

 今回の講演は、ゲーム産業の成長過程を3つの観点から述べ、その環境認識を業界全体で共有することにより、環境の変化に正確な対応をできるようにすることが目的だという。登壇した和田氏は、まずゲーム産業の変遷を、スライドの資料とともに説明した。

今後数年、ゲーム産業は“コミュニケーション”が主戦場になる――TGSフォーラム第1部・和田洋一氏の基調講演

 和田氏によれば、ゲーム産業は右肩上がりで成長しつつも、古い世代の事業も消えることなく地層のように積み重なっているという。具体的には、コンピュータ事業として最初に登場したのがアーケードゲームで、その次に任天堂のファミコンが爆発的なブームを起こすことになった。ここで初めてコンピュータを個人が購入できる水準になり、“家庭用ゲーム産業”がスタートしたが、アーケードゲームも消えることなく同時に存在している、といった具合だ。

 アーケードゲームは、1つのゲームが1つの筐体に入っているだけだったが、家庭用ゲーム機の登場により、1つのハードでいくつものゲームが遊べるようになった。家庭用ゲーム機の確立後は家電メーカーが続々と市場に参入し、ソフトウェア数が増加……といった具合に、市場は変化していく。

 ここで和田氏は、“環境投資の負担が減るにつれて市場が拡大していく”ことに言及する。具体例は、2000年のPS2だ。DVDプレイヤーとゲーム機のハイブリッド機が登場したことにより、ユーザーは1つのハードでDVD鑑賞とゲームプレイの両方を楽しめるようになり、ゲーム環境への投資の負担が減ったという。2000年代に入ると、ケータイが登場。汎用機でゲームが遊べるようになり、さらに環境投資の負担が減る。それにともない、市場も拡大している。

 2007年には、すべてのゲーム機がネットに対応し、さらにiPhoneが登場。これにより、ユーザーの環境投資が極限まで減ることになった。なお、この変遷の過程にはPCもあったが、PCでゲームをプレイするには、ゲームプレイ専用ともいえるほどのハイスペックが要求されるため、2000年代前半までは皆が使えるゲーム機としては扱いづらかったとも補足があった。

 その後は、プラットフォームがネットワークにシフト。端末にブラウザが標準搭載されることにより、ブラウザゲームや、ネットワーク上のクラウドを利用したゲームが増えていくことになるそうだ。しかし汎用機でゲームができるようになり、環境投資が減ると、そのぶん気軽に遊べるようになるため、カジュアルユーザーが増加する。和田氏は、メーカーはその点に留意すべきだと述べていた。

 2つ目の観点は、ドライバの変遷。2000年ぐらいまでは処理能力(CPU/GPU)が主戦場となっていたが、2007年ごろからは“Input”の部分に軸が移ったという。Inputというのは、ファミコンのコントローラに始まり、ゲームボーイのようなハンドヘルド、DSのタッチパネル、Wiiのモーションコントロールなど。和田氏はDSやWiiのヒットについて、すでにドライバの軸が処理能力からInputの部分に移っていたからだと説明していた。

今後数年、ゲーム産業は“コミュニケーション”が主戦場になる――TGSフォーラム第1部・和田洋一氏の基調講演

 ここで和田氏は、先ほどの“環境投資が減ることによりカジュアルゲームが増加する”という現象を振り返り、汎用機に高度な処理能力やInputの要素が取り入れられてしまうと差がなくなってしまうと言及。これにより、軸が“コミュニケーション”に移ったと指摘した。

 さらに氏は「この“コミュニケーション”は、まだまだ始まったばかり。我々はユーザーの要求に応えていかなくてはいけない」とコミュニケーションの重要性を繰り返し述べた。和田氏は軸の移り変わりについて、「旧ゲーム業界は、汎用機が生まれたことと、ネットワークが主体になるという2つのことが同時に起こり、環境が一変したことで苦労したんです」と分析。「ゲーム概念も異なれば、ユーザーやビジネスモデルも異なるため、この本質的な変化に私も焦った。ようやく今1波が終わったところです。2波3波がくると思います」と述べた。

 その上で、今後数年はこの“コミュニケーション”が主戦場となるという考えを語り、重要視する姿勢を示していた。また、さらなる今後の変遷について“3D”の可能性を示唆し、高度な3D技術を搭載するには、専用のハードが必要になるため、ドライバーのパラダイムシフトが起こる(1周回って軸が処理能力の部分に戻る)かもしれないとも語った。

 3つ目の観点はビジネスモデル。和田氏は「近年ではサービスや商品の単価が下がっていると言われているが、アイテム課金などにより、ユーザが選択肢を持つシステムが確立されたというだけ。コンテンツのポイントが変わってきたということ」と説明し、コンテンツ作りもその観点から行うべきだと主張した。

今後数年、ゲーム産業は“コミュニケーション”が主戦場になる――TGSフォーラム第1部・和田洋一氏の基調講演

 では、ユーザーはどこに“価値”を見出すのか。和田氏によれば、最初はソフトそのものに価値があったが、“再生(コピー)”できてしまうと価値がなくなってしまうとのこと。なのでユーザーが新たに価値を見出すのは、たとえば自分がゲームプレイにより経験したことなどということになる。さらにそれが友だちとのゲームプレイなどになれば、より再生できなくなるので価値が高まるのだという。和田氏は具体例を挙げ、「CPUは昔、人間の対戦相手をしていたが、今では人間と人間の仲介役になっている。そこが今後の競争の本質になると思う」とまとめた。

 最後に和田氏が言及したのは、クラウドについて。端末に投資されている現在のゲーム産業を振り返った上で、氏もたくさんの端末を持っているが、それが1日にすべて動くことはないと話す。だがそれらがクラウド化することによって、ネットワークが整備され、処理能力も高まるとのこと。氏はこのクラウドがもたらす革命について、「独禁法や著作権などは今のビジネスモデルを基本としているので、もしかすると市場の失敗が起きるかもしれない。そのくらいのインパクトを持っているのがクラウドだと思っている」とコメントし、講演を締めくくった。

■東京ゲームショウ2011 開催概要
【開催期間】
 ビジネスデイ……2011年9月15日~16日 各日10:00~17:00
 一般公開日……2011年9月17日~18日 各日10:00~17:00
【会場】幕張メッセ
【入場料】一般(中学生以上)1,200円(税込)/前売1,000円(税込) ※小学生以下は無料

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