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2011年12月28日(水)

【通好みゲームメーカー 会社案内 Vol.4 ケイブ編】浅田氏が『インスタントブレイン』で伝えたかったこと、そして梅本氏への思い

文:megane

ケイブSTG好きのディレクターがネーミングで大爆走

――ところで、キャラクターの名前が非常に特徴的なんですが、元ネタはあるのでしょうか?

浅田 キャラクターの名前の由来については、見ればすぐわかる名前も多いですが、ケイブの各作品から取っています。ディレクターがシューターで、ケイブ作品が大好きなんです。ケイブ作品に出てくるキャラクターの名前を、漢字に押し込んだらどういう名前になるか、とやってみたのが本作です。自分としては覚えにくいというか、覚えられないという気持ちのほうが強いですよ(笑)。すぐに覚えたのは主人公の“原滝ゼンヤ”くらいですね。

――主人公の原滝ゼンヤという名前は、どこから出てきた名前なんですか?

浅田 主人公の原滝ゼンヤについて、最初はわからなかった人も多かったみたいなんですが、ケイブといえば『怒首領蜂』、『怒首領蜂』といえば“蜂”、“蜂”といえば“働きバチ”……ということで“ハタラキバチ”から“バラタキ”となっています。これについてはおまけシナリオの“怒首領蜂シナリオ”でも言っていますね。

▲主人公・原滝ゼンヤ。名前の由来は怒首領蜂から。

 アンドロイド・シー以外は、すべてケイブ作品から取っているはずです。中でも第5章に出てくる“簿務武ヨシユキ”(『むちむちポーク』のボム名称“ボムブー”より)などは、なんだこりゃという感じですよね。あとはドン◯西みたいな見た目のキャラを入れてみたり、モ◯ポリーのおじさんみたいなキャラがいたり、大丈夫かな? と思ってしまう要素は結構入れてみました。ゲーム開始直後の謳い文句は『シックスセンス』から影響を受けましたしね。大塚明夫さん(“大佐”役で登場)の収録のときに、コッソリと「これを言ってもらえませんか?」とお願いしました。

▲名前も姿も突っ込みどころが多い、第5章に登場する簿務武ヨシユキ。名前の由来は『むちむちポーク』のボムブーから。▲第3章に登場する風呂木屋ヨージ。名前の由来は『プロギアの嵐』のタイトル名から。
▲第2章に登場するキワドイ容姿の出州間カンサイ。名前の由来は『デススマイルズ』の略称“デスマ”。▲ゲームをスタートさせると、この謳い文句が表示される。映画『シックスセンス』と同様の表示となっている。

 実は本作にはこういう名前遊びだけではなくて、いろいろな部分で遊びの要素を入れたかったんです。例えば、CHANNEL∞(メビウス)の外壁に『エスプガルーダII』のセセリのポスターがあるんですが、これを『デススマイルズ』とか、別の作品にも切り替えたりしたかったんです。ただ、この要素を入れるのは時間的にきつくて、無理に入れるよりも、ほかの部分のブラッシュアップにかける時間のほうが必要という判断になったので、カットしました。そのほか、背景も1枚絵ではなくて、アニメーションさせるという案もありました。背景を歩いているモブキャラの1人にケイブのキャラクターがいて、たまにこっちを覗いているとか、そういったことも構想としてはありましたが、予算の問題もあって断念しました。

▲作中で何度も訪れることになるCHANNEL∞。壁には『エスプガルーダII』のキャラクター、セセリと決め台詞が描かれている。

――そもそも、背景自体にかなりの枚数がありますよね。

浅田 背景も多かったんですが、写真のCGとイベントCGが大量にありましたので、スケジュールを組むのがとにかく大変でした。マスターアップ前の2週間は、ずーっと絵の修正をしていたほどです。マスターアップは9月末でしたから、今回は本当にヤバイ匂いがプンプンしていました。9月上旬は発売を延期するかどうかをずっと考えてましたよ。そのうえ、ほかのメンバーがマスターアップ作業をしている間、自分は限定版につけるサントラCDの作業をしていたという状態ですから……。それで、9月末にマスターROMができて、マイクロソフトの認証テストに通ったのが、10月の頭ですね。でも、実はテストに1回落ちているんですよ。

――どういった理由で認証テストが通らなかったんですか?

浅田 確か、Kinect接続時のエラーメッセージの出し方だったと思います。ほかの部分に関しては全部OKだったのですが……。本作でのKinect対応は本当にオマケ程度のものでしたが、実際にKinectを触ってみて、専用タイトルだったらいろいろとおもしろい遊び方ができるのではと思いましたね。今後はマイクロソフトと相談をして、「こんな作品を作りたいんだけど……」ということはしていきたいです。実際にいくつか話もしているところでもあります。

 あと、これはいろいろなメディアで言っているんですが、初代Xboxでマイクロソフトから発売されていた『Jockey’s Road』をKinect専用で出したいと思っているんですよ。これはもう泉水さん(日本マイクロソフトの執行役で、Xbox 360を含むエンターテイメント事業の統括を務めている)に直接お願いしようかと思っているレベルです。

――なるほど……。

浅田 『Jockey’s Road』は本当におもしろいんですよ! 私は昔、競馬の記事を書いていたこともあって、そのあたりのコネもあるので「騎手とか連れてきますよ!」とか言ってですね……。自分の人件費はナシでもいいと思っているくらい、作りたい作品なんです。


第2章は本作の象徴である芸能界を色濃く表している?

――話は変わりまして、本作を最後までプレイして気になったのですが、第1章から第7章まで物語がある中で、第2章だけ特に長いですよね。あれは何か意図があったのですか?

浅田 第2章については、このゲームの一番の魅力というか、芸能界を舞台にしていることが、一番わかりやすい章であると思っています。第1章はチュートリアルという意味合いで制作し、第2章から物語がガーッと盛り上がるように制作しています。やはり芸能界という舞台には、我々が知らないようなことや、汚い部分がたくさんあるのではないかと思ったんです。そういった要素をめいっぱい盛り込んだら、結果的に一番大きな章となってしまいました。

▲芸能界といえば、やはりなんといってもスキャンダル。

――章の中で物語が二転三転していきますしね。これで終わりかと思ったら新たな事件が発生したりして……。まともにプレイしていったら5時間はかかります。

浅田 実際にシナリオを書かれている放送作家さんたちの話を聞くと、芸能界って怖ええ! と思いますね(笑)。そういった舞台であれば、放送作家さんに任せるのが一番と思い、シナリオの内容でダメ出しをしたことはなかったんですよ。「こういう要素を追加してほしい」とお願いした部分はたくさんありますけどね。

――具体的にはどの部分を追加してもらったのでしょうか?

浅田 一番大きいのは、各章の“追求パート”ですね。当初は事件が解決に向かう際に、特に何もアクションがなく、話だけで終わっていたんです。しかし、それでは味気ないので、ゼンヤが犯人を追い詰めるような形でゲームらしさを入れてもらいました。ただ、こういった“自分が追加したい要望”が多すぎて、脚本をかなり書き直してもらうことになってしまいました。こうしたことが原因で、シナリオにつじつまが合わない部分が出てきてしまう箇所がありました。これは自分の最初のゲーム設計でのミスですね。

▲各章の最後では、事件を解決に導く“追求パート”が用意されている。これまでの調査をもとに証拠を提示していくことになる。

――この要素を追加してよかったという部分はありますか?

浅田 どちらかというと、追加してよかったというよりも、ここも削らなければいけないのか、という気持ちのほうが大きかったですね。自分のやりたいことが10あるとしたら、本作では5くらいしかできなかったというのが正直なところです。

――では逆に削られてしまって残念だった部分はありますか?

浅田 なんといっても胸を揺らせなかったところですね。サンプルまで作ったのにマイクロソフトからの許可が下りませんでした。あとはKinectで胸を揉めるようにもしたかったです(笑)。そうそう、おまけシナリオをクリアすると遊べるようになる『怒首領蜂』も、街のゲーセンに入ると遊べるようにしたかったですね。また、これはスタッフから総反対にあったのですが、『さんまの名探偵』みたいに画面にカーソルを出して、背景をクリックしたところを調べられるようにしたかったんです。

――90年代のアドベンチャーゲームにたくさんありましたね。『同級生』とか……。

浅田 スタッフから「無理なのでやめてください」とお願いをされました。関係なさそうなところをクリックすると出てくる、どうでもいい文章も全部書くつもりでいたんですけどね(笑)。同じところをクリックしても、話の進行度合いによってさらにテキストが変わっていたりして。

――追加された要素といえば、第7章はどちらかというと事件が解決したあとの物語といった感じですが、このシナリオを入れた理由を教えてください。

浅田 第7章については、事件後の後日談を描いている章なんですが、物語は元々第6章で終わるはずだったんです。そこを無理を言って追加してもらいました。第7章では事件の発端となったオーディションが行われて、原点に戻る形での後日談というイメージなのですが、ゲームが終わった後の世界観のままの後日談を、本編でやりたかったんです。

▲第7章では物語の後日談として、これまで登場したキャラクターを交えつつ、新たなエピソードが描かれている。

 だから、絶対にオマケという扱いにはしたくありませんでした。賛否両論に分かれるだろうとは思いましたが、自分としては「みなさんお疲れ様でした」という感じで終わりたかった、ということなんです。本当は第7章はもっと長い予定だったんですよ。製品版で終わっている部分よりも、2倍以上のボリュームがありました。ただ、後日談でそんなに長い尺を取るのはどうかと思いまして、今くらいの長さになったというわけです。

――それでは、浅田さんが本作を通じて伝えたかったテーマやメッセージを教えてください。

浅田 まず根底にあるのは、最初のほうにも言っていましたが、“アドベンチャーゲームは文章を読むだけじゃない”ということです。文章を普通に読むだけの作品だったら、自分が制作総指揮としてかかわる理由はないと思っていました。しかし、会社から本当に好き勝手にやってもいいということでしたので、そのとおり好き放題にやらせてもらいました。単調に文章を読むだけのゲームにはしたくなかったし、かといって選択肢だけのゲームにもしたくなかったんです。

 また、当初から考えていた古いアドベンチャーゲームの雰囲気は出せたと思いますが、その中で今までとは違うアドベンチャーゲームを考えていったら、本作にたどり着いたという感じです。ただ、今の形が完成形なのかと言われたらまた違うとは思います。「もっとこうしたらよかった」というアイデアはいくつかあるので、もし次回作があるなら、それに生かしたいと思っています。

 この作品をプレイしてくださったユーザーから、「アドベンチャーゲームは読むだけじゃなかったんですね」なんていう感想を多くいただけたら、伝えたかったテーマとしては成功かなと思っています。

 そのほか、物語のテーマとして伝えたかったのは“親子愛”です。自分は元々涙もろいタイプなんですが、6章のシナリオは読んでてボロボロ泣いてしまいました。周りのスタッフに何でいきなり泣き始めているんだと心配されましたよ(笑)。ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、そのシーンを収録するときに声優さんが現場でボロボロ泣きながら演じられてたんですね。それを聞いている周りのスタッフもボロボロと泣いてしまって……。

――僕もあのシーンではかなり胸に来るものがありました。うちには1歳の息子がいるので、親の気持ちにもなってしまって……。

浅田 そういうことを考えると、泣いてしまうのではと思います。子供って、おそらく自分の命をかけても守りたいと思う唯一無二の存在なんだろうなと思うんです。親子の絆っておそらくこの作品で描かれているものよりも、もっと強いものなのだろうと思いますし、そこに関してはすべて伝えられたかどうかは、ちょっと不安なところではありますね。

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