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2012年2月29日(水)

一時はネットカフェ難民に!? Xbox 360『ルートダブル』シナリオライター・月島総記さんのすべてに迫るインタビュー

文:ごえモン

■『ルートダブル』の結末を巡って中澤さんと言い争いに

――ゲームシナリオのどの辺りに魅力を感じたのでしょうか?

 まず、小説では描ききれないような壮大な作品が描けることです。『ルートダブル』のような作品は、小説としては長すぎて、なかなか書くことができませんからね。

 次に分岐を駆使したり、展開をゲームシステムと連動させたり、よりトリッキーな構成の物語を書けるということです。子どものころから趣味としてサウンドノベルを作っていたのですが、仕事として真剣に取り組むと、ますますそのおもしろさがわかりました。

 それとやはり“たくさんの人々と力を合わせ、1つの作品を作り上げる充実感”を感じられるということです。小説よりも多くの人がかかわる分、その楽しさはより強く感じられます。デビュー前からともに作品作りをしている仲間が2人いるのですが、他人と一緒に何かを作り上げるのは基本的に楽しいものです。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』

――シナリオライターとしてデビューされた当時、目標にされていたことはなんですか?

 長編コンシューマーゲームのメインライターになりたい! と切に願っておりました。そしてできれば自分の力のすべてを注ぎ込むような、こだわりと気合に満ちた作品を書きたいとも。今回の作品では、その2つの夢が叶いました。うれしいことです。

――月島さんの夢の1つを叶えることとなった『ルートダブル』ですが、その本作に参加されることとなった経緯はどんなものだったのでしょう?

 仕事が少なかった時期に、各ゲーム会社さんに営業メールを送ったのですが、それで返信をくださった方の1人が中澤工監督だったんです。

 私、実はもともと中澤監督のファンだったので、もうびっくりしてしまって。それでメールをやりとりしたり、コンペに参加させていただいたりして、本作のメインライターに選ばれました。相当うれしかったですね。仕事仲間と祝杯をあげました。

――では、その中澤さんへお会いした時の印象について教えてください

 中澤監督について語ると、おべんちゃらみたいになってしまうのが嫌なんですが……尊敬しております。第一印象は、わりとクールで理知的な方に見えたのですが、内面は熱い男でした。仕事に妥協なく、使命感も強く、優れたアイデアマンでもある。それにとってもいい人ですしね。

 そういう人間性の面から見ても、いいリーダーだと思います。監督の思い描くアイデアを実現するために、全力を尽くそうと素直に思えました。だからこの長期のプロジェクトも、最後まで息切れせず、駆け抜けることができたように思います。

――シナリオ執筆作業はすでに終了しているとお聞きしましたが、すべてを終えて、中澤さんに何か言いたいことはありますか?

 『ルートダブル』が終わったら、また一緒にゲームを作りたいですね。執筆終了当初は、本作ですべてを出し切ったと思いましたが、あれから半年たつとまたいろいろなアイデアなどがわいてきて、新たなゲームを作りたくなっています。まだまだ未熟な私ですが、中澤監督とは今後もよきお付き合いをいただければと思っております。

――『ルートダブル』のシナリオを書く上で、悩んだ部分や苦労された部分はありますか?

 それが多すぎて……! 執筆中は常に悩み、苦労しっぱなしでした。特に構成が複雑な“Bルート”を書いている時は、頭がオーバーヒートするかと思いました。Aルートも矛盾が発生しないよう、全登場人物の行動を1分単位で決めていったりと、細部の構築が本当に大変でしたね。でも、やっぱり楽しかったです。いい作品を作るため、妥協なく全力を注ぎこめたということは、ライターとしては一番幸せなことです。

『ルートダブル -Before Crime * After Days-』 『ルートダブル -Before Crime * After Days-』
▲Bルートでは、ラボに閉じ込められる6日前と、閉じ込められた後のエピソードが頻繁に切り替わりながら進行していく。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 2010年3月18日にスタートして、2011年8月14日に脱稿しました。およそ1年半ですね……長かったです、本当に……。

――大幅な書き直しも何度かあったとお聞きしています。どのような点を、どのように改善されたのでしょう?

 まず中澤監督もインタビューで答えられていましたが、“作品のテンポを上げること”ですね。無駄を徹底的に廃し、それでいて似たような展開が連続しないよう、メリハリをつける作業を主にやっていました。

 よりおもしろくするために、一度でき上がったシナリオをほぼ全編書き直したこともあります。ボツになった原稿の総量は、恐らく完成原稿より多いと思います。

――本作の執筆中に起きた印象的なエピソードはありますか?

 シナリオの制作も佳境に入った、ある日のこと。私と中澤監督は打ち合わせの最中、意見が食い違い、言い争いをしてしまいました。互いに譲らず、議論は完全に平行線となり、にらみ合いが続いたのですが……その時、中澤監督が言ったある言葉で、考えが変わりました。

 それでクールダウンした私は、再び一から監督と議論をやり直し、そして双方納得する結論を出すことができたのです。なんだか非常にいい思い出でした。

 なおこの時監督が仰った言葉を私は気に入り、本作でもとあるキャラに言わせてみました(言い方は違いますが)。ネタバレになるので言えないのですが、『ルートダブル』のテーマを貫くセリフです。

――どのような内容で言い争いになったのでしょう?

 物語の最終盤の展開についてです。まず私が中澤監督のご意向を聞いて、入念に吟味してプロットを作ったのですが、それが全ボツになりまして。監督曰く「これはこれでおもしろいとは思うけど、しかしもっと別の結末にしたい」とのことでした。

 それ自体は非常によくある話なのですが、自分としてはそのアイデアをすごく気にいっていたし、これ以上の結末はないと思っていましたので、監督に食い下がったんですね。互いの求めるものが食い違い、まさに平行線でした。

 しかし最終的には、互いの意見を1つに混ぜ合わせて、よりよい答えに辿り着くことができました。なんとなく象徴的な話です。

→自分が本当におもしろいと思える物語作りが達成できました

(C)イエティ/Regista

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