2012年3月10日(土)
悩める“3K女”を描いた第18回電撃小説大賞・MW文庫賞『月だけが、私のしていることを見おろしていた。』成田名璃子先生インタビュー
『月だけが、私のしていることを見おろしていた。』で、第18回電撃小説大賞・メディアワークス文庫賞を受賞した成田名璃子先生のインタビューを掲載する。
▲雨先生が描く『月だけが、私のしていることを見おろしていた。』の表紙イラスト。 |
本作は、高学歴、高年齢、高層マンション住まいの“3K女”二宮咲子の姿を描いた作品。元彼の御厨に未練たらたらの日々を送っていた咲子は、週末の友人の結婚式で御厨と奥さんに再会しなければならなくなる。そのことに悩む咲子は、さらに占い師から「1週間で出会いがないと一生独身」だと宣言されてしまう。驚いた咲子は合コンやお見合いの予定を入れていくが、逆に自分の未練を自覚していくばかり。
そんな咲子には、誰にも言えない楽しみがあった。それは、年下青年の住むぼろアパートを中古の天体望遠鏡でのぞくこと。今の彼女の心を暖めてくれるのは、月夜に望遠鏡を通して知り合った青年・瑞樹との“交流”しかなかったのだが……。
成田先生には、本作を書いたキッカケや、お気に入りのシーン、小説を書く時のこだわりなどを伺った。
――小説を書こうと思ったキッカケと、この作品を書いた経緯を教えてください。
キッカケというのは特にこれだというものが思い当たらないのですが、就職活動をする前の年に、ぼんやりと小説家になりたいなと思った記憶があります。とはいえ、いきなり小説家は無理だなと思い、コピーライターならなれるかもと思って就職活動をはじめ……なめてますね(笑)。
ラッキーなことに結局そのまま就職して10年ほど経ってしまいました。そしてちょうど10年目を迎えたころ、リーマンショックと広告業界全体の不況のダブルパンチで、定時に帰れる日が続いたんです。今思うと、この不況が転機だったと思います。それまで嵐のように忙しかったし、仕事が楽しくてたまらなかったのに、ふと「このままでいいのか」「いつか書こうと思っていた小説はいつ書くんだろう」などと考えるようになりました。
それで一念発起して小説の学校に通いはじめ、本格的に小説を書きはじめたんです。デビュー作については、近所に住む子どもたちと見知らぬ男の人のとあるやりとりを偶然聞いて、そこから物語をふくらませていきました。
――作品の特徴・セールスポイントはどこですか?
主人公・二ノ宮咲子と一緒に、ドタバタで、ちょっと不思議な7日間を体験できるところだと思います。咲子は「どっちへ行くんだ?」 と何度か人生の大切な決断を迫られます。そのたびに読者の皆さんにも、ハラハラしたり、ドキドキしたり、ロマンチックな気持ちになったり、涙したり、じーんとしたりしていただけたらうれしいです。映画のラブコメのように、読み終わった後に、元気になれたり、ハッピーにな気持ちになっていただきたくて書いた物語です。
――作品を書く上で悩んだところは?
この物語は、ファンタジー要素も含んでいますが、設定はあくまで“キャリアウーマンのリアルな日常生活”です。そこで、物語の中でどれくらいまでファンタジー色を強めれば、読者の皆さんにも納得して楽しんでもらえるのかという部分をプロットの段階から少し気を遣って考えました。執筆にかかった時間は、あまり筆が速いほうではないので約2カ月です。
――主人公の咲子はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
たくさんの昼と夜を費やした友人たちとのガールズトークがいつの間にか輪郭を持ちはじめ、そのうち人格まで持つようになったんです。そうしてあの主人公やその他のキャラクターになっていったのだと思います。今日もあちこちのカフェや飲み屋さんで、主人公たちと同じような会話が交わされている自信があります(笑)! あ、でも本物のガールズトークは、もっといろんな意味で容赦がないかもしれませんが……。
――特にお気に入りのシーンはどこですか?
なんといってもイントロダクションです! 最近の小説にしてはスロースタートで、物語が動き出すまで少しゆっくりなのですが、この部分で、全体の世界観がコーヒーに注いだミルクみたいにぼんやりとわき上がっていくところが気に入っています。当初、早く展開させたほうがいいと思っていたのですが、担当の編集の方に「導入の部分はもっとゆっくり重めでいいです」とおっしゃっていただき、思い切って書くことができました。その結果、主人公のぐるぐるしがちな思考も表現できたと思います。
あとは、主人公が手をつなぐ場面ですね。書きながら久しぶりにドキドキしました♪ あのドキドキを味わうには、もう生まれ変わるしかないのかと思うと少し切ないです(涙)。それと、主人公が天体望遠鏡ごしに青年と筆談をするところも気に入っていますね。あんなことが実際あったら、とっても楽しいだろうなあと思います。
――小説を書く時に、特にこだわっているところは?
当然のことかもしれませんが、一読者として引いて読んだ時に「本当におもしろいのか?」というところは意識して推敲するように努めています。また、出だしは読者を引き込む重要なパーツであるのと同時に私にとっても執筆前に全体の世界観がふくらんでいく大切なパーツなので「これがいい!」と思える出だしが思いつくまでこだわっています。思い入れが強すぎて、あとから読み返すと意味不明の文章になっていて、ざっくりとけずることもままありますが……。
――アイデアを出したり集中力を高めたりするために、何かしていることはありますか?
絶対にアイデアが出ると信じて疑わないようにしています。それと、アイデアが出やすい状態を自分なりにつかんで、その時間を大切にしていますね。私の場合、シャワーを浴びている時間、寝る寸前、寝て起きてすぐなど、あまり潜在意識が優勢ではない時に物語の中に入り込んで行きやすいので、それらの時間をゆっくり取るようにしています。単に寝坊しがちなヤツだと思われているのですが、断固として違います! というほどは言い切れませんが……。
どうしてもアイデアが出ない時は、アイデアが出たという自分のシーンを小説風に書いてイメトレしています。バカみたいな方法ですが、これが意外とよく効きます。それでも出なければ、とりあえず大声で歌います。
――初の商業作品がいよいよ発売となります。その感想は?
ここまで導いてくださった先生方や編集部の皆さん、特に担当のお2人への感謝の気持ちと、出版へのワクワクする気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました! これから拙著を買ってくださる読者の皆さんへも、前もって心からの感謝の気持ちをお伝えしたいです。ただ、意識としてはもう次の作品に飛んでいます。1作目からできるだけ高い場所へジャンプした作品をお届けしたいです。
――今後、どういった作品を発表していきたいですか?
ありそうでない。起こりそうで起こらない。でももしかしたら!? というような、ちょっとだけ不思議な物語を書いていきたいです。そこに描かれている空気感、その1冊に切り取られた世界にいつまでもひたっていたいと思っていただける物語を、綴っていきたいと願っています。
暇な時、つらい時、いつも私を受け入れてくれたのは本の向こうに広がる物語世界だったので、作者としての私も、皆さんの一時のシェルターになれる物語をお届けしていきたいと思います。読んでくださる皆さんへの責任として、いつまでもどこまでも楽しんで書いていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします!
(C)2012 ASCII MEDIA WORKS 表紙イラスト/雨
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