2012年5月19日(土)
【Spot the 電撃文庫】突如できた“妹”に振り回される少年の恋路をハートフルに描いた『ちびとも!』の中村一先生にインタビュー
電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。第33回となる今回は、『ちびとも!』を執筆した中村一先生のインタビューを掲載する。
![]() |
---|
▲color先生が描く『ちびとも!』の表紙イラスト。 |
突如5歳の幼女・佐倉柚葉(さくら ゆずは)と一緒に暮らすことになったひとりっこの高校2年生・鳩ヶ谷快人(はとがや かいと)。本作は、そんな彼が2人の少女と近付いていく様子をつづったラブコメディ。
気になる女の子・河原(かわはら)さよりと一緒のクラスになることができた快人だったが、彼女に話しかける度胸はなく、仲よくなるどころか接点を作ることさえできずにいた。
そんなある日、柚葉がキッカケで快人はさよりと仲よくなることに。そのうえ、クラス内で浮いていた美形不良娘・水野夏南(みずのかな)ともお近づきになるのだった。快人は、急にできたワガママな“妹”に振り回されつつ、さよりや夏南と交流していくのだが……。
実際に子育てをするパパだという中村先生が、どんな経緯で本作を書いたのか? 執筆中に起きた印象的なエピソードなどを交えて語っていただいた。すでに本作を読んでしまった人も、そうでない人もぜひご一読いただきたい。また、電撃文庫 新作紹介ページでは本作の内容を少しだけ立ち読みできるようになっている。まだ本作を読んでいない人はこちらもあわせてご覧あれ!
――この作品を書いたキッカケを教えてください。
うちの子を預けている保育園に、一時期、ある小さな赤ちゃんが在園していました。で、その子のママがとても若くて、高校生だったんですね。すぐに転園してしまったので、残念ながら僕はそのママと直接お会いできなかったんですが、“朝、制服姿で園に赤ちゃんを預けにくる女の子”という話を聞いて……。するとやっぱり、その光景を想像するじゃないですか? たぶんそれがキッカケです。
――作品の特徴やセールスポイントはなんですか?
かわいい幼女に囲まれて「お兄ちゃん♪」と慕われるようなお話では、今のところないです(笑)。“好き勝手に育ってきたひとりっこの非保育系男子が、突如現れた熾烈(しれつ)な幼女に振り回されつつ、あこがれの保育系女子とミーツするとどうなるのか!? ヤンキー女子も出るよ!”――ということで、目指したのは、ホームドラマ的な温かくて楽しいお話です。“きょうだい初心者”な主人公がいろいろと悩みつつも、幼女との関係を模索して一生懸命頑張ります。不器用な彼らのやり取りに、少しでもほんわかしていただければ幸いです。
――作品を書くうえで悩んだところはどこですか?
高校生の登場人物たちと“保育”という舞台のなじみにくさ、でしょうか。保育をどのようにストーリーに絡ませるか、という点については、試行錯誤を繰り返しました。初期案では、“今よりさらに少子化が深刻となった近未来、国の政策で保育実習が普通科の高校のカリキュラムにも組み込まれ、主人公たちが通う学校がモデルケースに……”というものもあったのですが、やはり説教くさくなってしまい、保育を頑張りすぎてはダメだ! と悟ったりもしました。
あと、前作がいわゆるシリアス系のお話だったので、次は楽しくにぎやかなお話をやりたい! と思っていたんですが……、僕はどうやら、ちょっと気を抜くと文章が自然と固く重くなってしまうようで、そのあたりのさじ加減には苦心しました。
――執筆にかかった期間はどれくらいですか?
プロット段階では紆余曲折(うよきょくせつ)ありましたが……、完成までは半年強を費やしています。
――主人公やヒロインについて、生まれたキッカケや思うところをお聞かせください。
ゆるふわヒロイン(さより)は、かなり手強かった記憶が。初めは彼女の人となりをつかむのに苦労しました。基本、前のめりでグイグイいっちゃうけど、ちょっと抜けたところもある、憎めないヤツです。得意技は勘違いです。キャラデザの時、イラストレーターさんが描いてくださったラフ画を見て「さよりはもうちょっとスカート長めなのでは?」と言ったら、編集さんに「……ないですね!」と力強く却下されました。
金髪ピアスヒロイン(夏南)は確か、初期段階ではもっと言葉づかいが荒くて、もっとヤンキー然としていたような。僕は好きだったんですが、各方面からダメ出しを受けました(いいじゃないですか! いかにもなキャラが好きなんですよ!)。夏南はどちらかと言えば、“表現しやすいひと”です。僕が彼女の手のひらで踊らされている可能性もありますが……。見た目については、表紙絵をいただいて、頭の中のイメージ通りだったので、すごくうれしかったことを覚えています。
柚葉は、(性格が)あまりかわいくないところがリアル幼女だと思います。マーケット的に求められている幼女像とはかけ離れているのかもしれませんが、作者的にはかわいいヤツです。でも、毎日彼女を保育園に連れて行くのはちょっとイヤかな……(笑)。
主人公はひとりっこ代表ということで、極めて自然体で書いています。いやぁ、エラいと思いますよ。なんだかんだ言って、毎日柚葉の面倒見ているのが。
――お気に入りのシーンはどこですか?
主人公と幼女が一生懸命“きょうだい”してるシーンはどれも好きですね。“みゆちゃん・みゆパパ”と“柚葉・快人”ペアの対比を書いているところとかは楽しかったです。あと、璃空の無邪気な桃色行為によってさよりがあせっているところに……、というシーンも捨て難い。願望的な何かが詰まっているのかもしれません!
――中村先生ご自身もパパさんとのことですが、実体験が生かされている部分はありますか?
保育園のシーンを書く時などは、やはり普段の経験は“下地”としてそれなりに参考になっていると思います。幼女の描写については……実体験をそのまま生かすと、もっといろんな意味で大変なことになるかと思いますので(笑)、生かしすぎないようにしています。あと、僕は物心ついてから思春期後半まで、「1人はさびしい……。“きょうだい”がほしい……」と延々思い続けてきた悲しき“ひとりっこ”なので……。そうやって熟成された妄想がブレンドされていたりもします。
――執筆中に起きた印象的なエピソードがあるようでしたら聞かせてください。
ストーリー展開に悩んで、食卓などでツマと作品の話をしていると、それを隣で聞いていた子ども(4歳)がキャラの名前なんかを覚えちゃって、「パパとママ、さよりとカナとコタローの話してるんでしょ? 知ってるよ」てな感じでイキナリ会話に参加してきたことがあって、本当にビビりました。外でポロっと口に出していなければいいんですけど……。
――アイデアを出したり、集中力を高めるためにやっていることは?
うんうんうなってじりじり考えてアイデアを出すほうなので、どんなに行き詰まって苦しくても、机に向かうこと。創作から離れて気分転換している時に閃く、というのは、なくもないですが、前提条件としてはやはり考えて考えて考える時間が必要です。それに、ようやく出たアイデアの種を育てる時にも、やっぱり机に向かってうならないと始まりません。
――小説を書く時に、特にこだわっているところは?
読後感のよさ、でしょうか。振り返ってみれば投稿時代から、ラストの空気感は重要視していました。読み終わった時に、胸の奥でふわっと風が吹くような、そんな作品が好きなんです。デビューして、著作に対する客観的な評価をいただくようになってから、さらに強く意識するようになりました。
――今後の予定について教えてください。
現在、第2巻を制作中です。主人公とWヒロイン(+1)の関係はどうなっていくのか。どうにかなるのか、どうにもならないのか!? 次回もハートフルをモットーにお届けする予定ですので、どうぞご期待ください。
――高校生くらいの頃に影響を受けた人物・作品は?
上遠野浩平先生の『ブギーポップは笑わない』を刊行直後に読んで、衝撃を受けました。それまで読書はあまりしなかったのですが、すっかり魅了されて、本屋さんで電撃文庫のたなをチェックする日々が始まることに。Oasisの曲を聴き、ゲームは『トゥームレイダース』や『サクラ大戦』『FINAL FANTASY TACTICS(ファイナルファンタジー タクティクス)』にハマり、漫画は『HELLSING(ヘルシング)』に夢中になり……。そんな高校時代でした。
――現在注目している人物・作品を教えてください。
夏海公司先生の『なれる! SE』です。読んでいるとニヤニヤが止まりません。創作技術的な面でも尊敬してます。ご本人にお会いできた時はテンション上がりました。
――今熱中しているものはなんですか?
あえて言わせていただきます。やっぱり“育児”でしょうか! これはもう、熱中せざるを得ません(笑)。
――ゲームを遊んでいるようでしたら、今現在よく遊んでいるものを教えてください。
最近iPhone/iPadアプリで出た『FINAL FANTASY TACTICS 獅子戦争』です。ストーリーの重厚感、キャラの魅力、そしてゲームとしてのおもしろさ。名作ですね。アグリアスとディリータが好きすぎる……。
――それでは最後に、読者へのコメントをお願いいたします。
“ひとりっこ”の人は、ひょっとしたら主人公に共感を覚えることができるかもしれません。そして“きょうだい”がいる人は、“妹”ができてあわてる主人公に対して、ちょっとした優越感にひたることができるかもしれません。
作中では、登場人物たちみんなにそれぞれの家族があって、事情があって……、そんな彼らがなんの因果か“ちびとも園”という場で同じ時間を過ごすようになります。これまでは自分1人の世界にこもってばかりだった主人公が幼女と出会い、どんなふうに変わっていくのか、ぜひ確かめてみてください。
(C)2012 ASCII MEDIA WORKS
表紙イラスト/color
データ