2012年6月18日(月)
――昨年、片岡さんにインタビューした時、本作では“カッコいい戦争”ではなく“死の恐怖を感じられる戦争”を描きたいとおっしゃっていました。トレーラーにもその考えはキッチリと反映されているのでしょうか?
片岡:はい。わたしも一緒にポーランドに行ったんですけど、そのコンセプトはしっかり入っていると思います。まだ編集が終わったものを見ていない状態ですので、完成版をすごく楽しみにしています。
――押井監督は、“死の恐怖を感じられる戦争”を映像に盛り込めたと思いますか?
押井:死の恐怖以前に、まず“密室の恐怖”があると思うんですよね。これは戦車に1回乗ればわかるんだけど「これで戦争するの絶対いやだな」って誰でも思うんじゃないかと。外でうろついてる歩兵のほうがまだマシ。文字通り棺桶なんですよ、あれ。“出られなくなるんじゃないかという恐怖”、“周囲が見えないことの恐怖”それが混在する独特の空間ですよね、戦車っていうのは。
――すごく浅はかな考えかもしれませんが、外に生身でいるよりも戦車の中にいるほうが安全なんじゃないかって思えますけど。
押井:状況がわからないってことが一番怖いんだと思う。歩兵は撃たれればすぐ死んじゃうけど、自分が置かれた状況は最低限はわかるでしょう。個人的に逃げる努力も可能だから。戦車を操縦している人間は逃げる努力さえ不可能だもの。戦車の怖さってそういう内面的なものなので、それがテーマに通じる部分でもあります。でも、それを描くためには少なくとも映画規模の長さが必要なんです。トレーラーならもっとこう、閉鎖空間の息苦しさとか、そっちのほうにいきました。
――戦車の中と外とでは、怖さの種類が違うと。
押井:戦車が被弾して、中の人間が死ぬって描写は、どの映画でも描かれていないんですよ。誰も見たことがないから。いろんな本を読むと、すごいことになっているらしい。被弾した戦車をハッチからのぞきこむと、すごいことになっているって。しばらく肉が食えないとか、そういう話はいっぱいあるよね。でも今回はそこが大事なわけじゃなくて、戦車の怖さって内・外の“断絶に耐えること”ですね。だからハッチっていうのも割とポイントにしました。
――どういう意味でポイントになっているんですか??
押井:それは見てのお楽しみ(笑)。いや、大したことじゃないんだけど、要するに2つの世界の接点の象徴だから。
――確かにそうですね。
押井:実際に重たいんですよ、とにかく。映画みたいにバタンと閉めて、クルクルと回しておしまいじゃない。面倒くさいもんで。実際に撮影では、女優さんがハッチを開けてはい出る芝居があったんですけど、女の人じゃまず不可能です。男でもしんどい。ケガなんかしちゃったらたぶん開けられないと思います。そういうところが実はおもしろいんだけどね。戦車のディテールのおもしろさって、実はそういうところにある。主砲がどうのこうのとか、そういうことじゃなくて。そういうことを最終的にはやれたらいいなと思っていて、だから『重鉄騎』が大ヒットしたら、次はもう少し大きな予算で作らせてもらいたいって思いながら撮影してました(笑)。
――それが実現するといいですね。
押井:他にはあまりチャンスがないと思うんですよ。戦車を映画で使うこと自体が、普通の人には動機たりえないからさ。だから『重鉄騎』というゲームが好きな人は、たぶんみんな戦車好きだと思う。だからトレーラーじゃなくてもかまわない。『重鉄騎』って映画を撮らせてくれれば一番うれしい。でもそれは言っておくけどすごくお金がかかりますよ(笑)。
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