2012年7月23日(月)
――鹿鳴市に話は戻るのですが、これを最初に見た時に“6名”という意味があるのかと思っていました。キーマンが6人、生き残れるのが6人。よくよく考えると、強い力を持ったBC能力者も本編に6人ぐらいいそうですし。それに加えて“6名死”という意味もあるのだろうと。
ははは、それはまったく考えていませんでした(笑)。でも、深読みされるのって、僕はすごく好きで。ユーザーさんが発売前からアレコレ考察しているのを見ていて、ものすごく楽しんでいたんですよ。「すごい、気づかれた」とか「それは考えていなかったけどおもしろいな」とか。なので名前などを考える時は、深読みするともっと何か見えてきて楽しくなるものにしています。
――名前に限定すると、キャラや組織に“夏の大三角”と“冬の大三角”を連想させるものが含まれています。
▲レスキュー隊・シリウスのマーク |
これの発端は夏彦の名前を決める時でした。キャラ間で結びつきのようなものを作れたらと思っていて、それで夏彦の名前は彦星(アルタイル)をモデルにし、悠里を夏彦と絡めるために織姫──つまり、こと座(ベガ)の琴を苗字に含めました。残りは白鳥(デネブ)なので、真っ白な鳥で鳥羽ましろと(笑)。
その夏の大三角に対して、彼らを害する関係として冬の大三角を入れたらおもしろいと考えました。今だから言いますが、当初、対比関係を際立たせるために、レスキュー隊員全員(風見や洵さえも!)を夏彦たちの敵にしようとしたころもあったんです。ADを開発した製薬会社・ベテルギウス──つまり巨人オリオンは、コミュニケーターを捕らえるために、おおいぬ(シリウス)とこいぬ(プロキオン)2頭の猟犬を用いる──。
さらには、彦星と織姫みたいに離れ離れにある夏彦と悠里の仲立ちとなる存在として、笠鷺渡瀬(カササギの羽)という名前を考えました。笠鷺渡瀬とヘンテコな名前だと思いますが、これは百人一首から取ったんです。“彦星と織姫を引き合わせるために、カササギが天の川に掛け渡す橋”について謳った和歌ですね。
そしてこれは後付けですが、サリュという名前は七夕に降る雨・催涙雨(さいるいう)と似た響きを持っています。“サリュ”は元々、フランス語の「やぁ!」というあいさつで、コミュニケーションができない子だけど、そんな意味を持つニックネームをましろにつけられるところから第一歩を踏み出します。なので、サリュという名前にしたくて“三ノ宮ルイーズ優衣”というフルネームを作りました。最初は“サリュ”という名前しかありませんでした。
――“三ノ宮ルイーズ優衣”はわりとムリヤリだったんですね(笑)。
ムリヤリですね。ムリヤリだけどいいやって、逆にそのムリヤリ感がおかしいかなと(笑)。催涙雨も絡んでよりステキな関係になったなと思っています。
――サリュと聞いて思い出すのが、三ノ宮サバットですが。
サリュが体術に優れている設定は、ギャップの大きな子にしたかったからですね。幼いけど頭がいい、体は小さいけどものすごく強いという。格闘技ができてとにかく強い子にする、という設定は当初からあったのですが、僕は格闘技関係の知識全然ありませんでした。でも、月島さんが格闘技通らしくて、その設定周りはまるまる考えてもらいました。
――カラオケボックスのシーンは笑いました。
カラオケのシーンにあのくだりを入れ込んだのはおもしろかったですね。半分ジョークなようで、彼女にとっては必死な説明なんです。真面目にやっているんだけど、その真面目さが滑稽というのはおもしろいですよね。
――そこがサリュのかわいさであり、悲しさでもありますよね。サリュと言えば、本編で『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』辺りを読んでいると思われる描写がありました。
僕も小説は好きですが、月島さんもものすごい本読みなので、シナリオ内にわかる人にはわかるネタを入れてくれています。たとえば、サリュが持つARMS・アリスですね。
ARMSの設定はかなり初期からでき上がっていたのですが、シナリオを書き始めるまで固有名をつけていませんでした。シナリオ中の設定とソックリですね。そこで月島さんから女流SF作家ジェイムズ・ティプトリー・Jr.の本名の“アリス”にしたらどうか、と提案がありました。ティプトリーの作品には『たったひとつの冴えたやり方』という名作があります。僕も大好きな作品なのですが、それが『ルートダブル』のいろいろなテーマに絡んでいるので採用となりました。
――『ルートダブル』の終盤の展開は『たったひとつの冴えたやり方』の対比だったりするのでしょうか?
月島さんたちはそういうイメージで書かれたかもしれません。元来の企画コンセプトとして、何かを失って何かを勝ち取る、ということをストーリーに入れたかったので、必然的に向かうべき展開でした。また、Dルートでその要素を色濃く感じ取れると思いますが、AルートとBルートにもそういう展開がありますよね。
――自己犠牲がテーマに含まれているのでしょうか?
自己犠牲というよりは、自分の信念を貫くために何かを犠牲にする、ということですね。別に自己犠牲でなくてもよくて、自分以外の誰かを犠牲にしてもよかったんです。すべてを得ることができないんだと、何か大きなものを勝ち得るためには、それに等しい何かを失わなければならないことを描きたかったんです。
――『たったひとつの冴えたやり方』以外の作品は、どのように物語と絡んでいるのでしょうか。
『七瀬ふたたび』は月島さんお気に入りの作品で、本作のテーマとして掲げていた“人と人はわかり合えない”という部分に通じていましたから、取り入れたいと提案がありました。他にも、サリュの設定そのものがいろいろな古典SFにつながっている部分があります。
彼女がラボに閉じ込められている時に、知識をさまざまなものから得ることによって、自己存在を確立していくところとかですね。サリュの場合はSF小説ですが、悠里はもっと広いなんでもアリな活字中毒です。悠里はさまざまな本の話をしていますが、全部わかったら大したものですね。著作権に抵触しないように、ざっくりと要約、表現を工夫して書いてもらいましたし、悠里なりの解釈で話しているので、ストレートには扱われていないんですよ。
例えば、悠里が「とてもステキな恋愛小説を読んだ」という話をしている時に挙げている作品は、世間一般ではSF小説に分類されています。それを悠里は恋愛小説として読んだと言うのですが、実際にさまざまなものが込められている作品なので、そういう見方もできるんです。
それ以外で彼女が一番よくネタとして扱うのが『星の王子さま』ですね。これも夏彦と悠里の関係に重なり合って見えるから、ぜひ取り込みたいという月島さんからの提案でした。ズバリ入れてしまうと問題になるので、これも遠まわしに盛り込んでいます。
――本編中のテキストとしてもそうですが、シーンタイトルにもネタがいろいろ仕込まれていました。
そうですね。僕からのオーダーは、渡瀬視点と夏彦視点でそれぞれ共通したルールで……例えば、片方は英語なら、もう片方は日本語とか……というところまでだったのですが、月島さんたちは工夫しておもしろいシーンタイトルにしてくれましたね。RAMシステム中のシーンタイトルは、さらに遊び心にあふれています。シーンタイトルに限らず、言葉にはすごくいろいろな思いを込めた作品だと言えますね。BGMの曲名や、エンディング名や、実績の名前を考える時でさえ、熟考を重ねました。なんでもない単語でも、ちょっと調べてみるとさまざまな重ね合わせがあるので、いいかげんにつけているものではないんです。
奇しくも、情報や記憶をテーマとしている作品なので、その辺りが絡み合っているんじゃないかと思います。言葉も情報ですし、作品の引用やオマージュも、その人が過去に読んだ作品の記憶を連想させるものですから。
(C)イエティ/Regista
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