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2012年10月23日(火)

『STEINS;GATE』新作小説ではダルと鈴羽も主人公――『閉時曲線のエピグラフ』のキーマンに独占インタビュー

文:ごえモン

 MAGES.のゲーム&音楽ブランド5pb.から、11月9日に発売される小説『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート) 閉時曲線のエピグラフ(以下、閉時曲線のエピグラフ)』のスタッフインタビューをお届けする。

『STEINS;GATE 閉時曲線のエピグラフ』

 本作は、2009年にXbox 360で発売され、その後TVアニメ化もされた科学アドベンチャーシリーズ第2弾『STEINS;GATE』の新作小説第1巻。7月28日に牧瀬紅莉栖を救えないまま戻ってきた主人公・岡部倫太郎のその後が描かれる。原作ゲームのシナリオを担当した林直孝さんの監修のもと、『STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん』でシナリオを手掛けたたきもとまさしさんが執筆を担当。イラストは、本編に続きイラストレーターのhuke氏が担当する。

 インタビューを行ったのは、原作ゲームのシナリオを担当した林直孝さん、『閉時曲線のエピグラフ』を執筆したたきもとまさしさん、ドラマCDの脚本を手掛けた安本亨さんの3名だ。小説のタイトルに込められた意味やドラマCDの内容、第2巻『永劫回帰のパンドラ』などについてお話を伺ったので、先行販売版を読んだ人も、発売を楽しみにしている読者もぜひチェックしてほしい。(※インタビュー中は敬称略)

※原作ゲームのネタバレに関する情報も含まれています。本編をクリアしていない人やTVアニメを見ていない人は、ご注意ください。

■新作小説はドラマCD『無限遠点のアークライト』の世界線から始まる

――本日はよろしくお願いいたします。それでは最初の質問ですが、『STEINS;GATE 閉時曲線のエピグラフ』はどんなストーリーの作品なのでしょうか?

たきもとまさし(以下、たきもと):基本的には、ゲームの『STEINS;GATE』本編で言うところのβ世界線のお話になっています。

林直孝(以下、林):紅莉栖はラジオ会館で死んでしまったけれど、まゆりは生き残っている状況ですね。オカリンは鈴羽とともにタイムマシンに乗って紅莉栖を助けに行きましたが、失敗してしまい立ち直れずにいます。

『STEINS;GATE 閉時曲線のエピグラフ』
▲ドラマCD β『無限遠点のアークライト』

たきもと:以前発売された『STEINS;GATE』のドラマCD β『無限遠点のアークライト』の世界線から始まる物語ですね。今まで明らかになっていなかった、“執念オカリン”がどうやって生まれたのかについて描いていきます。

――それでは、『STEINS;GATE』のクライマックスで未来から電話をかけてくるオカリンまで描かれるのですか?

たきもと:そこはまだ迷っているところなんですよね。あのシーンは『STEINS;GATE』の肝なので、さすがにそこは伏せたほうがいいかなと思っています。ただ、最終的にどこまで描き出すのかは、これから書きながら決めていくつもりです。

――今回タイトルになっている“閉時曲線のエピグラフ”という言葉ですが、これにはどんな意味が込められているのですか?

たきもと:“エピグラフ”という単語は、よく小説の冒頭などに記載されている引用句などを指す言葉です。かたや“閉時曲線”は相対性理論でいうところの、“過去と未来がループしている空間”のことを言うのですが、今回の小説は“閉じてしまっている”世界から始まる物語なので、そこを表現しようとしてこのタイトルをつけました。また、今回の小説は第1巻にあたるものなので、イントロダクション的な意味も込めてあります。

――なるほど。では今回の小説は何巻構成でお考えなのですか? また、各巻ごとにタイトルが異なるのでしょうか。

たきもと:全3巻構成で考えております。タイトルは2巻目が『永劫回帰のパンドラ』、3巻目が『無限遠点のアルタイル』となる予定です。

『STEINS;GATE 閉時曲線のエピグラフ』
▲先日公開された『永劫回帰のパンドラ』のティザーサイト。

――3巻目のタイトルが意味深ですね。先ほど触れられたドラマCDへの関連性を感じますが。

たきもと:『無限遠点のアルタイル』ですが、今回の小説のストーリーが先ほどご説明したドラマCDで描かれた世界線と同じ舞台であることから、あえて対になるようにしました。なお、アークライトは七夕伝説に登場する“織女星(織姫星)”のことで、アルタイルは同伝説の“牽牛星(彦星)”のことです。

――たきもとさんが今回の小説を執筆されることになったのは、どういったきっかけからだったのですか?

たきもと:「『STEINS;GATE』でシリアスな内容のものがやりたいよね」、という話がMAGES.さんのほうで以前からあったようでして。林さんからそのアイデアを聞いた時に「それなら、まだ語られていないβ世界線に触れたらおもしろいんじゃない?」と盛り上がったのがきっかけでした。ただ、いざ書き出してみると新しく設定をしなければいけない部分が数多く発生して。そこは小説を書きながら林さんと一緒に考えていきました。

:元々『STEINS;GATE』のグレーゾーンと言いますか、あえて詳細な設定をしないことでユーザーの皆さんの想像にお任せした世界線だったんですよ。そこを一から整理し直して、設定を作り上げています。

――執筆にあたっては、どんなところで苦労されましたか?

たきもと:登場キャラクターに関しては、ラボメンたちのことはよく知っていたのであまり悩まず動かせましたけど、設定については林さんといろいろ頭を悩ませましたね。

安本亨(以下、安本):ドラマCDについては、僕もたきもとさん同様にラボメンたちはよく知っていたので困らなかったですね。新キャラとどう絡ませるかという部分も、ドラマCDの方向性が決まっていたのですんなりと進みました。

――『閉時曲線のエピグラフ』のあとがきを読む限りでは、いろいろな設定が浮かんでは消えていったようですが……?

たきもと:そこはですね、林さんが実は意外とアバウトなんですよ(笑)。

:そんなことはないですよ(笑)。ちゃんと考えてるから!

たきもと:真面目な話、林さんのほうで今まで考えてはいたけど、具体的な形にしていなかったアイデアがたくさんありまして。今回の小説ではその辺りを設定にいろいろと盛り込んでいます。

■比屋定真帆は“合法ロリ”という指定で生まれた!?

――今回は小説のみの通常版に加え、ドラマCD付きの限定版も同時に発売されますが、このドラマCDの内容は小説と同じなのですか?

たきもと:いえ、まったく別物です。

安本:『閉時曲線のエピグラフ』のほうがシリアスな内容ですし、また作中に出てこないキャラクターもいますので、ドラマCDのほうは和気あいあいとした内容でいこう、ということになりました。タイトルは『射影曲面のエピキタシー』です。

たきもと:どちらかというと『STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん』の世界線に近い内容ですね。明るく楽しい感じで。“世界線変動率3%台の世界”、といった感じです。

安本:『閉時曲線のエピグラフ』の内容をドラマCDに落とし込もう、という話も最初はあったんですよ。ただ、あの小説を読んだ後にまた同じ物語を、今度はドラマCDで聞くのはさすがにしんどいんじゃないか? と思いまして。だからあまり深く考えずに楽しんでもらえる内容に仕上げました。

:今回の小説とドラマCDは先ほども言った『STEINS;GATE』のグレーゾーンに踏み込んでいるので、スムーズに意思疎通が取れる方たちと作りたかったのですが、非常におもしろい作品になっていると思います。

――『閉時曲線のエピグラフ』に登場する新キャラ・比屋定真帆(ひやじょう まほ)もドラマCDに登場するとか。

『STEINS;GATE 閉時曲線のエピグラフ』
▲比屋定真帆

安本:そうですね。真帆とラボメン全員が登場します。真帆を演じているのは、声優の矢作紗友里さんです。

たきもと:もうこれが真帆というキャラクターにぴったりなんですよ。今回はhukeさんに真帆のキャラクターデザインを描き下ろしていただいたのですが、これがとてもかわいくて素晴らしいです。

:かわいくもあり、どこかワイルドですよね。

たきもと:足元を見ると、靴が片方ずつ違うところもいい(笑)。“服装に頓着しない”という設定を非常にうまく表現していただけています。このhukeさんのデザインは僕にとってすごくありがたくて、真帆をより明確にストーリー中に取り込んでいけるようになりました。

――真帆が話題にあがったところで、『閉時曲線のエピグラフ』から登場する新キャラクターについてお聞きしたいのですが?

たきもと:まずは比屋定真帆ですね。彼女は紅莉栖の大学の先輩なのですが、彼女は林さんが「今回の小説には新しいキャラクターが必要ですよね」と言ったのがきっかけで生まれました。

:そうですね。それで「新キャラなら紅莉栖に関係のあるキャラがいいのでは?」と考えまして。

たきもと:『STEINS;GATE』本編の紅莉栖のセリフで「アメリカの大学でいろいろあったのよ」というようなセリフがありまして。大学内での紅莉栖の立場を出したいな、と思ったんですよ。紅莉栖の先輩がいて、その先輩とは仲がいいんだけど、他の研究者とは折り合いが悪くて……、みたいな。ヴィクトル・コンドリア大学の人間は作中に出したいと思っていたところで真帆が生まれました。

:『STEINS;GATE』本編では紅莉栖のアメリカでの暮らしぶりは一切描写していなかったのですけど、そこを描きたいという気持ちもありました。ですので大学の先輩という設定になりました。

――オカリンも紅莉栖の思い出を持っていますからね。紅莉栖のことを共有できる相手がいるのは、『閉時曲線のエピグラフ』を読んでいておもしろかったところです。

たきもと:“紅莉栖大好きっ子”同士の会話をやりたかったんですよ。結局真帆は岡部に近いところがあって、紅莉栖のことは大好きだけど、その天才ぶりに少し嫉妬しているところとか……。紅莉栖に対して歪んだ愛情を抱いているところは意識して岡部に似せました。

:(ボソリと)真帆がロリっ子体型になった理由を詳しく。

安本:あれは林さんたっての希望じゃありませんでしたっけ?(棒)

たきもと:林さんがきっかけでしたよ? 「出すならロリキャラですよね」って一番最初の打ち合わせで言っていた。実はメモが残っていたりするんだよね(笑)。

安本:林さんの嗜好的にこれはしかたないよね。

:え……(汗)。そうでしたっけ!?

たきもと:今、最初の打ち合わせのメモを見ているけど“新キャラ:ロリキャラ”、“合法ロリ”ってはっきりと書いてある。

:最低なメモですよ、それ!(笑) 紅莉栖が大人っぽいキャラクターなので、それに対比するキャラとして……。というニュアンスを、そう表現したのかもしれませんけど。

■紅莉栖と真帆の関係はモーツァルトとサリエリから

――続いて、レスキネン教授の誕生経緯を教えてください。

たきもと:レスキネンに関しても、真帆と同様に紅莉栖のセリフがきっかけになっています。大学に在籍して研究をしているからには指導教授がいるわけで。ただのアメリカ人だと特徴がないので、北欧系の大柄な男性にしました。

:最初は教授も女性にしようか? という話もあったんですよ。

たきもと:でも、それだと女性だらけの作品になってしまうので、それはちょっと違うでしょ、ということで男性になりました。

――『閉時曲線のエピグラフ』を読んでいて、レスキネンにはミスター・ブラウンに近い印象を持ちました。

たきもと:レスキネンは真帆と対比させる意味もあって、大柄でたくましいキャラクターということにしていますが、ブラウンほどいかつい感じではないですね。

:打ち合わせをしていた中では、いかにも学者というイメージで考えていました。

――この2人以外の新キャラはいかがでしょうか。

たきもと:まずはまゆりの義理の娘であるかがりがいます。『閉時曲線のエピグラフ』だと冒頭に顔見せ程度でしか登場していないので、現時点ではあまり語ることができないのですが、今回の小説のキーパーソンとなるキャラクターです。これから先のストーリーに大きくかかわってくることになりますのでご期待ください。

――キャラクターではないのですが、レスキネン教授が研究している“Amadeus(アマデウス)”の存在も気になるところです。

たきもと:“Amadeus”の名前自体は作曲家のモーツァルトのフルネーム“ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト”から取っています。また、モーツァルトの才能に嫉妬したとされるサリエリという作曲家も存在していましたが、彼らの関係を真帆と紅莉栖の微妙な関係にも引っ掛けて表現しています。この“Amadeus”に関しても、次巻でいろいろな展開がありますよ。

――新キャラたち以外で『閉時曲線のエピグラフ』の中でここは注目、というポイントはどの辺りになりますか?

たきもと:ダルと鈴羽の橋田親子ですね。あの2人は書いていて楽しいんですよ。あと、『閉時曲線のエピグラフ』を読んだMAGES.のスタッフの方から、「この小説の主人公はダルと鈴羽でもありますよね」と言われて「なるほど」と思いました。今回の小説はもちろんオカリンと真帆が中心になって話が進みますが、同時にオカリンを復活させようと頑張るダルと鈴羽の物語でもあります。この2組の主人公たちの動きに注目してほしいですね。

安本:他にも、それまで『STEINS;GATE』本編でもほのめかされてしかいなかったキャラクターたちも登場しますしね。

たきもと:例えば阿万音由季とフブキやカエデがそうですね。今まで隠されていた部分が明らかになってくるので、そこも大きな見どころだと思います。

――ドラマCDはどうでしょう?

安本:そこはやはり真帆の存在に尽きます。彼女がラボメンたちと絡んだらどうなるのか。また岡部や紅莉栖との微妙な温度感といった部分も注目してほしいです。

たきもと:紅莉栖と真帆で、例えば百合っぽい展開とかはないの?

安本:百合な展開かあ(笑)。そこは今後おいおい、というところですかね。ただ今回のドラマCDの後半のほうで、ちょっとしんみりする部分はありますよ。

――それでは第2巻となる『永劫回帰のパンドラ』についてもお聞きしたいのですが……?

たきもと:現在まさに執筆中でして、あまり詳しいことは話せないのですが……。岡部のとある出会いがストーリーの鍵になります。また、ダルの周辺でもいろいろな出来事が起きるかもしれません。

――タイトルにはどんな意味を込められたのですか?

たきもと:ギリシャ神話の“パンドラの箱”のように、希望や絶望が入り混じった物語、といったふうに捉えていただければと思います。

――それでは最後に、ひと言メッセージをお願いいたします。

:先日のコミックマーケット82ではセットの一部として先行販売された『閉時曲線のエピグラフ』ですが、今回ドラマCDも付いた形で皆さんにお届けいたします。小説の内容はシリアスでハードで、キャラクターたちの今までとは違った一面が味わえると思います。ドラマCDはラボメンたちがワイワイガヤガヤと楽しそうにしている姿を描いておりますので、ぜひあわせて楽しんでください。

安本:ドラマCDはシリアスな本編に対する一服の清涼剤といった立ち位置で考えていますので、気楽に楽しんでいただければと思います。新キャラの真帆も、声が付いたことでキャラクターに深みが増しているので、ぜひ聴いてみてください。

たきもと:今回この小説を執筆する中で、『STEINS;GATE』という作品やキャラクターへの愛着を新たにしている自分がいたりします。ファンの皆さんには、今回の小説3部作を通じて、『STEINS;GATE』という作品や登場するキャラクターたちにより深い愛着をもっていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

(C)2009-2012 5pb. /Nitroplus

データ

▼『STEINS;GATE 閉時曲線のエピグラフ』
■メーカー:5pb.(MAGES.)
■発売日:2012年11月9日
■希望小売価格:通常版 1,000円/ドラマCD付 3,990円(各税込)
※B6サイズ小説(192ページ)
 
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