2012年10月20日(土)
電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。第55回となる今回は、『魔王と勇者の兄妹カンケイ』を執筆した黒羽朽葉先生のインタビューを掲載する。
▲百円ライター先生が描く『魔王と勇者の兄妹カンケイ』の表紙イラスト。 |
本作は、ゆるゆるでコミカル、けれど少し熱血な“魔王と勇者”の物語。そのあまりの強さゆえ、中学時代に“魔王”と恐れられた少年・天木啓(あまぎ あきら)。しかし、かわいい妹・杏梨花(ありか)に迷惑をかけまいと、高校ではまじめに日々を過ごしていた。
しかし同じ高校に入学してきた妹が“勇者”だと発覚し、“灰の魔女”と呼ばれるロリ少女・宗久雫(むねひさ しずく)にもなつかれてしまったことから、啓の人生はヘンテコな非日常へと脱線していって……!?
黒羽先生には、本作のセールスポイントや小説を書く時にこだわっているところなどを語っていただいた。また、電撃文庫 新作紹介ページでは、本作の内容を少しだけ立ち読みできるようになっている。まだ読んでいない人はこちらもあわせてご覧あれ。
――この作品を書いたキッカケを教えてください。
実はこの作品は私にとって2作目なんですが、1作目はなんというか、何がしたいのかよくわからない作品になってしまいました。なので2作目の今回は、ひとまず“魔王”とか“学園もの”というわかりやすい題材をテーマにしてみようと思いました。私自身、なんだかんだで王道が好きですし。
――作品の特徴やセールスポイントはどんな部分ですか?
正直、ないように思います。この作品はとにかくわかりやすい設定であふれています。主人公に妹がいたり、変なこと言い出すヒロインが出てきたり、生徒会が異能を使って戦ったり、はては魔王と勇者なんて言葉を使ってみたり。そんなありがちな設定とか世界観をお借りしつつ、微妙にテンプレとは外れた何かしらを配置するようには意識しています。何がどう外れているか聞かれても困るのですが。特にこだわったのは主人公のキャラでしょうか。
――作品を書くうえで悩んだところは?
ページ数が大幅に増えそうなところを、いかにけずるかに苦労しました。とは言っても、単に私には無駄が多いだけだと思うのですが。どうでもいい描写を思いのまま長々書いてしまったり、たいした意味もなく設定をふくらまそうとしたり。例えば皆川というキャラが○○○を踏むのですが、実は元々はあの部分もなんらかの伏線でした。でもその設定もけずったので、結局皆川は○○○踏んだだけになりましたね。
――執筆にかかった期間はどれくらいですか?
最初に電撃小説大賞に投稿した段階では構想含めて完成まで3カ月弱。そこからの改稿の期間はかなり長かったです。結果として最初に編集の方にお声かけいただいてから出版までほぼ2年かかっています。仕事とかで手が止まっていた時間もあるのですが……その間も見捨てずにいてくださった担当様には本当に感謝の言葉もありません。
――執筆中に起きた印象的な出来事はありますか?
最後の改稿の際に短い期間で終盤を大幅に書き直すことになった時はさすがにしんどかったです。いつも入り浸っている喫茶店が閉まってからは、ひたすらアイデアを考えながらサイクリングしていたのですが、深夜3時ごろに意識飛んで花壇みたいなところに自転車ごと突っ込みました。幸い植物は無事でした。
――主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。
ライトノベルの主人公は平凡だったり無気力だったり特殊な才能を秘めていたり、あとは周りの魅力的な脇役を引き立たすために個性は薄めに描かれることが多いように思います。でも今回の作品では読み手があまり自己投影できない独自の感性とか信念とか背景を持たせつつ周囲のキャラに食われない強烈な個性を持った主人公にしたいと思ってました。
具体的なイメージで言うと昔の少年漫画でしか出てこなさそうな古いタイプの主人公です。女性キャラが申し訳程度にしかいない世界観での、男臭い造形で根性型の硬派な主人公。それこそ電波なヒロインやら非日常な現象を前にしても揺らぐことなく真っ向からぶつかって自己を貫くことのできるキャラを主人公にしたいと思っていました。
物語の展開についても、このような主人公を基点にいろいろと想像をふくらませました。例えば“不良漫画などのようなファンタジー要素のない世界観の最強主人公がファンタジー世界に行ったらどうなるか”とか“戦う運命を背負った魔法少女に兄がいたらどうなるか”とか。
――特にお気に入りのシーンはどこですか?
雫と釣り人のシーンでしょうか。特に深い意味はなく、なんとなく昔から1度やってみたかったので。
――今後の予定について簡単に教えてください。
妹の杏梨花はメインヒロインというよりも、どちらかと言えば“もう1人の主人公”な気がします。学園パートでは清く正しい学校生活をしようと頑張る自閉症気味の妹と、自分なりの立場を見極めながらそれを見守る兄。運命に選ばれた妹と、そうでない兄。それぞれの物語を上手く書けたらと思ってます。
――小説を書こうと思ったキッカケはなんですか?
キッカケになったのかどうかはわかりませんが、結構前にとある個人サイトで懸賞付きのネタ募集企画みたいなものがあって、そこで当選できたことが私の中では結構大きい出来事だったように思います。別に小説を募集していたわけではなく、私も別に小説というほどのものを送ったわけではないのですが、規模の大きい企画ではなかったとはいえ本格的に書いてみようと思って書いた長文作品が一定の評価を得られたことはうれしかったです。
――初の商業作品というところで、その感想は?
担当の方にお声かけいただいた時からそうなのですが、出版していただける今となってもあまり実感がわきません。ただ漠然とした不安はあるようで、職場でもたまに恥ずかしさでもだえそうになります。
――今後、どういった作品を発表していきたいですか?
具体的な展望は今のところあまりありません。ただ書きたいと思うのは、読み手が肩の力を抜いて読むことのできる作品です。書き手自身も肩の力を抜いて書けるなら言うことないですね。別にシンドイのがいやというわけでは、ありません。
――小説を書く時に、特にこだわっているところはどこですか?
今のところうまく表現できているとは到底言えませんが、緩急のある文章を心がけるようにしています。多少日本語が破綻してでもテンポのよさを意識したり、逆にあえて長々と理屈っぽい文章を書いたり。場面のスピード感に合わせて改行の数を増やしたり減らしたり。
――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?
本当に集中力がなくて困っています。“こうやっている間の自分は創作意欲と集中力がものすごいことになる”という自分なりのスタイルを見つけようと、散歩したり音楽かけたり温泉入ったりしているのですが、いまだにいい自己暗示の方法は見つかりません。家で執筆する時は女学生ファッションをデフォルトにしようかと女子制服販売サイトとか漁ったこともあります。結局、レディースのジャージを買うにとどまりましたが……
――今熱中しているものはなんですか?
中学時代くらいから漫画とかアニメとかゲームとかは、呼吸をするように自然といろいろなものをチェックするようにしていました。その時々で好きな作品というものは常にあり、どの作品からも少なからず影響を受けていると思います。今の年齢になってもそのスタンスはあまり変わらないですね。
最近では『花咲くいろは』というアニメを気に入り、今までDVDとか買ったことがなかったのですが初めて買いました。『TARI TARI』という作品も好きで、このインタビューでの私の回答に「たり」が多いのはその影響ということにさせてください。
――ゲームで熱中しているものを教えてください。
好きなシリーズとしては『スーパーロボット大戦』です。ロボットものと、さまざまな世界観が混在しているのが好きなので。最近では『空の軌跡』シリーズがお気に入りです。いい意味でわかりやすいRPGって感じで安心感があります。
――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。
この作品はシリアスでカッコいいバトルものを目指して書きました。ただあんまりシリアス過ぎても恥ずかしいので照れ隠しを兼ねつつ、あとは設定の粗をごまかせるだろうと思いコメディ要素も多めに取り入れたのが今回の作品です。ですが、あくまで目指すのは“バトル要素のあるコメディ”ではなく“コメディ要素のあるバトルもの”です。どんだけ上手いこといけてるか、上手くいけてないか、見ていただけたらうれしいです。
(C)黒羽朽葉/AMW
イラスト:百円ライター
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