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2012年11月10日(土)

【Spot the 電撃文庫】1人の少女のために戦う学園スパイを描いた『S.I.A. -生徒会秘密情報部-』長月渋一先生インタビュー

文:電撃オンライン

 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。第57回となる今回は、『S.I.A. -生徒会秘密情報部-』を執筆した長月渋一先生のインタビューを掲載する。

『S.I.A. -生徒会秘密情報部-』
▲NOCO先生が描く『S.I.A. -生徒会秘密情報部-』の表紙イラスト。

 本作は、1人の少女を救うために、知恵と身体と未知の能力を駆使して敵に立ち向かう少年の姿を描いた学園スパイアクション。引きこもってネット三昧の生活を送っていた主人公・麻波守貴(まなみ もりたか)。受験合格を機に、過去を払拭し高校デビューだ! ……と意気込む守貴だったが“生徒会情報部”に連行され、生徒会会長閣下・遊氏茉絢(ゆうじ まあや)から、こう指令を下される。

 「P2Pソフト『MX』『NY』の後継版、脳内情報共有システム『OZ』に制御されたエリート校に“学生諜報員(ステージェント)”として潜り込め」と。

 茉絢に弱みを握られていたことから、学園に侵入する守貴だったが、そこである阿木良瑞穂(あきら みずほ)という少女と運命の出会いを果たすのだった……。

 長月先生には、本作のセールスポイントや小説を書く時にこだわっているところなどを語っていただいた。また、電撃文庫 新作紹介ページでは、本作の内容を少しだけ立ち読みできるようになっている。まだ読んでいない人はこちらも一緒にご覧いただきたい。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 担当さんから「学園を舞台に、ヒロインを助けるために、絶対勝てない敵に挑む少年の話を書いてほしい」というお題をいただき、そこから学園を舞台にした冒険小説としてふさわしい枠組みはなんだろうと考えて、中学生のころに好きだったスパイものを選びました。ライトノベルの主な読者層は中高生ですから、中高生時代の自分が夢中になれるもの、興味を持てるものというのを意識して、世界設定やキャラクターを練りました。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 サービスシーンをどう挿入するかです。今まで自発的に書いたことがなかったので、どれくらいの深度のものを書けばいいのかわからず、探り探り書いていました。ところがこれがやってるうちにクセになってきて、今ではすっかり抵抗がなくなりました(笑)。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 初稿は4カ月程度でしたが、中盤の原稿を130ページ分ほどごっそり書き直したりと改稿にやたら時間がかかってしまったので、総執筆期間は8カ月くらいだと思います。辛抱強い担当さんのおかげで、妥協せずに原稿に取り組むことができました。

――執筆中に起きた印象的な出来事はありますか?

 デビューが現実味を帯びたせいか、過去の名作や秀作を吸収しようというインプット欲がおう盛になって、映画を観る量が格段に増えました。今までは1年に50本くらいだったのですが、去年はその2倍。今年はさらにその1.5倍の数は観賞しそうな勢いです。

――主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 “かつてヒロインに窮地を救ってもらった主人公が、今度はヒロインを救うために奮戦し、ボロボロになりながらも敵を打ちのめす”というのが話の骨格としてあったので、主人公はできるだけみじめで情けないやつにしようと考え、いじめられっこ体質を武器に戦う麻波守貴というキャラが生まれました。

 メインヒロインはそんな主人公の頑張りに値する女性にしようと心がけ、儚げで心優しい少女にしました。ただ個人的に守られているだけの少女は好きではないので、それだけじゃない正義感や勇敢さ、凛とした部分も盛り込んでみました。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 女子寮での麻波守貴と和鳴亜子の口論の場面です。ののしりあいの場というのは、そのキャラクターの人生観や価値観、過去の呪縛などが垣間見えるものだと思うので一番熱を入れて書きました。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 続編が書ければ最良ですが、別作品であれば主人公の性質やテーマなど、何から何まで『S.I.A.』とは真逆な物語に取り組んでみたいですね。あと、アメコミが好きなのでヒーローものとかも。

――小説を書こうと思ったキッカケは?

 小学校のころからぼんやりとアニメ監督や脚本家を夢見ながら、物語の設定とかあらすじを考えて、ノートに書き留めていたりしていたのですが、ふと20歳になった時に後ろを振り返ったら、そうしたアイデアを1つも形にしてこなかった自分に気付いて「このままでは、口先だけの男で終わってしまう」と焦燥に駆られて、処女作を書き上げたのがそもそもの始まりですね。

 表現媒体に小説を選んだのは、1作品の中で映画並みか、それ以上のスケールの話を展開できて、なおかつ漫画に比べて手間がかからないと考えたからですが、実際には頭で考えるほどやさしいものではありませんでした(苦笑)。

――初の商業作品ということで、その感想は・

 スタート前の短距離走選手のように緊張しています。担当さんと二人三脚でトレーニングを積み、イラストレーターさんがデザインしてくださったシューズを履いて、いざスタート地点へ。勝負は一瞬で決まります。武者ぶるいが止まりません。

――今後、どういった作品を発表していきたいですか?

 中高生が夢中になれるものであればなんでも。できれば読んだ後に鬱々(うつうつ)としてしまうものよりは――個人的に読む方としては好きなのですが――B級映画を観た後みたいにスカっとしたり、元気になれるものを書いていきたいですね。

――小説を書く時に、特にこだわっているところはどこですか?

 “寂しい”という単語を使わないようにしています。人を愛したり、仕事に没頭したり、趣味に熱を上げたりして“寂しさ”を払拭することが人間の生きていくうえでの根源的な欲求なのではないかなと考えていて、だとしたらそうした人間の行動の根源をわざわざ文字で言い表すのは無粋と思い、“寂しい”という言葉は使わないようにしています。人間は誰もがそれぞれに固有の“寂しさ”を抱いているものです。小説もまた同じで、個々のキャラクターが抱える“寂しさ”の形を感じていただけたらなぁと思っています。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

(1)シャワーを浴びる。
(2)物語のテーマについて、自分なりの考えをノートに書く。
(3)イタコのようにキャラクターを自分におろす。

 特に3番目は、キャラクターの行動とか言動の整合性に行き詰まったときに椅子の上で三角座りをしながらよくやります。

――高校生くらいのころに影響を受けた人物・作品は?

 映画では岩井俊二監督の『リリイシュシュのすべて』、石井克人監督の『鮫肌男と桃尻女』、深作欣二監督の『バトルロワイヤル』。漫画では山本英夫の『殺し屋1』、望月峰太郎の『ドラゴンヘッド』、三浦健太郎の『ベルセルク』。音楽では降谷建志と菅野よう子。そして、もちろん同年代の作家さんたちと同じく庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』。

――現在注目している作家・作品は?

 最近はビリー・ワイルダー監督の映画をよく観ています。特に好きなのは『第十七捕虜収容所』『情婦』『アパートの鍵貸します』の三本。脚本、演出、キャラクター造形どれをとっても秀逸で文句の付け所がありません。現役の映画監督でいえばウディ・アレンとクエンティン・タランティーノの新作が待ち遠しくて仕方ありません。

――今熱中しているものはなんですか?

 アメリカンコミックの翻訳本の収集です。すぐ手に入らなくなってしまうので、出たら買う。これが鉄則です。それと熱中とまではいきませんが最近、ちょろちょろと落語を聴くようになりました。

――ゲームで熱中しているものがあれば教えてください。

 学生のころは『ベイグラントストーリー』『メタルギアソリッド』『グランド・セフト・オート』にハマったものですが、小説を書くようになってからはあまりゲームに熱中できなくなりました。でも、最近ちょっとPS3が欲しいです……。

――本作は“学園スパイアクション”とのことですが、長月先生が好きなスパイは?

 元祖黒縁メガネの公務員型スパイであるハリー・パーマーと、その継承者とも言うべきオースティン・パワーズ。銀幕を彩った偉大なスパイです。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 決して頭がいいわけでもないし、体力があるわけでもない。そんな元いじめられっこのぼんくら高校生が恩人であるたった1人の少女を救うために、持てる知恵と身体と未知の能力を駆使して、巨大な敵に立ち向かう。王道の学園スパイアクションです!! スパイものならではの秘密道具やハラハラドキドキの潜入任務はもちろん、美少女たちとのウフフ、ムフフもふんだんに用意してございます。是非、通勤通学、試験週間の現実逃避、就寝前のおともにどうぞ!!

(C)長月渋一/AMW
イラスト:NOCO

データ

▼『S.I.A. -生徒会秘密情報部-』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2012年10月10日
■価格:620円(税込)
 
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