2012年11月27日(火)
現在App StoreおよびGoogle Playで配信中のiOS/Android版『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生(以下、ダンガンロンパ)』。PSP版の発売から11月25日で丸2年が経ちました。それを記念しまして、スマートフォン版の開発を手掛けたスパイク・チュンソフトの齊藤祐一郎さんへのインタビューを、電撃オンラインのミステリー・ホラー・サスペンス系アドベンチャーゲーム紹介コーナー“まり蔵探偵事務所”の所長・まり蔵が敢行しました!
本作は、2011年に発売されたPSP用ソフト『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 PSP the Best』をスマートフォン向けに調整したタイトル。あらゆる分野の超一流の高校生を集めて育てるために設立された“私立 希望ヶ峰学園”を舞台に、脱出をかけたコロシアイが始まるという物語になっています。
齊藤さんは、PSP『ダンガンロンパ』や『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園(以下、スーパーダンガンロンパ2)』をアシスタントプロデューサー/アソシエイトプロデューサーとして担当。ソフト開発から始まりイベント出演など、さまざまな場所で本作にかかわっているキーパーソンです。今回は、そんな齊藤さんに、スマートフォン版がリリースされることになった経緯や、開発中のエピソードを聞いてみました。本シリーズのファンだけでなく、興味があるけどまだやっていない人も要チェックですよ!
▲本作を手掛けた齊藤さん。横にいるモノクマ学園長は、齊藤さんが口をすべらせないか、見張るために登場した!? |
――まず最初に、スマートフォンへの移植が動き始めたきっかけを教えてください。
僕自身がiPhoneユーザーで、スマホのアプリを遊ぶことが多かった。遊んでいる中で、自社だけでなく他社様がリリースされているAVGに勢いがあることを感じたのです。『ダンガンロンパ』はAVG要素が多く含まれたゲームなので親和性は高いと思い、「ニーズがあるのならば出してみたい」というところから立ち上がりました。
――PSP版の廉価版が売れているにもかかわらず配信しようと思ったのは、その“勢い”だったのでしょうか?
現在廉価版の売れ行きは好調ですが、「廉価版の勢いがあるのでアプリ版も出そう」という流れではありません。スマホ版の開発が始まったのは、PSPの廉価版を出せるか出さないかが決まる時期。その後、廉価版がリリースされ、続編の『スーパーダンガンロンパ2』も発売されましたが、我々としては「廉価版の勢いがこんなに続くんだ!」という印象で驚いている感じです。
――作業は廉価版と同時並行だったのですか?
『ダンガンロンパ』がリリースされた後、ユーザーの感想や、スタッフ内での改善点が集まり、いろいろとソフトを研究していました。廉価版発売が決まる前からチューニングだけは進んでいて、内容を練りつつ、タイミングを見ているという状況でした。スマホ版は廉価版をもとにして、アプリに移植することを決め、去年の秋くらいから動き始めたという流れですね。
――スマホ版の特徴を教えてください。
PSP版は難易度を選択できたのですが、スマ―トフォン版は難易度をチューニングした専用のものを用意しています。アプリは移動中に遊ぶことが多いだろうということで、PSP版の“やさしい”をベースにしています。
あとは、画質のHD対応です。スマートフォンの解像度にあわせた綺麗なグラフィックを用意することで、PSP版を遊んでいる人にも驚きを与えられるようにチューニングしています。
▲左がiOS版で、右がAndroid版。 |
――移植するにあたって、改めてPSP版をプレイしましたか?
スマ―トフォン版のデバックもしているのですが、改めてPSP版はプレイをしています。大きな流れは覚えているのですが、「あれ、この言弾(ことだま)どれだっけ?」などの細かい部分は忘れているんですね。他にも、遊ぶと「ここはこうした方がよかったな」といった問題点も思い出せるので、そこらをピックアップしつつ調整を進めました。
――移植で大変だったところはどこですか?
ハードの特性がそれぞれ違うことです。例えばiOSにしても、3Gから4Sまで少しずつスペックが異なる。本作が普通のAVGと大きく違うところとして、3Dでのマップやアクション部分が大きいことがあげられます。それらによって、メモリとの戦いになることが多く、「こちらの機種だと動くけど、こちらだと無理」というのがデバックをしていて大変でした。
画質を選択できるようにしたのも、高画質だけにしてしまうと処理が遅くなってしまい、プレイしにくい環境が出てきてしまうためです。対応機種が少なくなりユーザーを狭めてしまうのであれば、画質はPSP版と同様であっても遊べる環境を広げたいという意図があり、現状のように選択式にさせていただきました。
――想定していたユーザー層は、『ダンガンロンパ』が好きというシリーズユーザーと、人気コンテンツで名前を知っているが、まだ遊んでいないという新規ユーザーでしょうか?
やはり新規ユーザー層は強く意識しました。また、気軽にプレイしてほしいという考えで、1章までは無料で配信しました。全然知らなかった人、知っているけどプレイしていない人がさわって、おもしろかったら続きを購入してもらえれば、裾野が広がっていく。そのために値段も、章ごとのものとセットの2つを用意しました。
――料金を、各章500円(税込)にしたのはなぜですか?
僕らが一番見せたいと思って作っているのは、やっぱりベースにあるPSP版なんです。その想いが根底にありつつ、より手軽に触れてもらえるようにと、アプリとして配信しました。それもあって、まとめて購入すると、ベスト版よりも少し安い値段になる2,000円にしています。
とはいえ、アプリの料金として2,000円は少しお高め。移動中だけ遊んだ場合は、チャプター1つでも結構なボリュームとして楽しんでいただけるので、もう少し簡単に手が出しやすくなる500円にしました。まとめて買った場合は少しお得になるので、自分のペースでやっていくのもいいし、まとめて買ってしまうのでもいいということです。
――他に、気を配ったところは?
PSPは十字ボタンやアナログスティックで操作するように設計されているので、タッチ操作については気を使いました。そこについては、もっと洗練された描写もできたのですが、スマートフォン全般でプレイできるようにバランスを取りつつ、開発するのが大変でしたね。
あと、コンシューマだとプラットフォーム上で最高峰のパフォーマンスを目指すのですが、今回は最高水準ではなくて、市場に出回っている中での平均値を意識しつつ、その中で高みを目指すところも気を使いました。基準を下にしてしまうと最新機種のユーザーからすると「グラフィックや音質をよくしてほしい」というのがあり、上にしてしまった場合、少し前の機種だと「遊べない」という風になってしまう。そこを意識しつつ、「これなら特徴を感じつつ、楽しめる」というバランスに苦労しました。
――さまざまなシステムがあるにもかかわらず、それらをすべてタッチ操作で遊べるようにした上で、データ管理は平均値にする必要があったと。移植と呼ぶには、ふさわしくないほど大変だったのでは?
コントローラ操作をできない状況で、すべてタッチ操作でプレイする必要があったのは、本当に大変でした。
例えばマシンガントークバトルであれば、画面内に表示されるアイコンや記号が多いんですね。下にリズムが出つつ、画面内には相手からの言葉が表示される。操作性だけを考えれば、もっといい場所にそれらを置くこともできたと思うんですが、高画質版も用意しているので、画面を見てほしいというのは大事にしたかった。そこの兼ね合いで、「もっとこうしたい」というのもありつつ、落としどころを考えて配置していきました。
このように。物語やドラマ性を伝えることや見せたいことを主軸にしたために、あえてプレイ感を犠牲にしている場所もあります。
▲さまざまな内容が詰まっているため、タッチ操作で入力するように変更するのが大変だったという。 |
――左手で視点移動、右手で移動という独特の操作性を採用したわけを教えてください。
プレイする環境を考えた時に、移動中が多いと思ったためです。右手で携帯電話を持ってプレイする人が多いことに加えて、テキスト送りのボタンも右手で押す人が多い。逆にカメラをグリグリ動かすのは優先度として低いので、進行や移動は片手でやれた方がいいと思い、この仕様にしています。
しかし、ゲームをよく遊んでいる人は、左手で移動して右手でカメラ操作というのに慣れている。そういう声が多く上がっているようなので、オプションで切り替えできるように、アップデートで対応する予定です。
先ほどもありましたが、僕らとしては「いままで遊んでいない、あまりゲームをやらないユーザーさんにもやってほしい」という目標があったため、「左手が移動で、右手がカメラ」という意識はそこまでないだろうという先入観を持っていました。実際には、ゲーム慣れしている人や、PSPでやった人が再度遊ぶというケースが予想以上に多かったようで、ここは見込み違いでしたね。
――ニコニコ超会議で配信時期は5月とアナウンスされましたが、延びてしまったワケは?
ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。デバックを進めていく中で、「こちらの機種では動くがこちらでは動かない」ということがありました。特定の機種向けには動いていたのですが、幅広い機種に対応させるための通常画質を追加することで、調整に時間がかかってしまいました。
ハード側にも問題点が出た場合、我々としてやれることが限られてしまう。実は「マップ移動を出さない方がいいのか?」という議論にもなりました。移動パートを3Dで入れていることには理由があって、ただのAVGではないことを見せるために入れているのですが、それを取るのを検討するほどの問題でした。しかし、スマートフォン版も『ダンガンロンパ』として見てもらうために、最後の最後、ギリギリまで調整することになりました。
――アプリとして『モノクマの逆襲』と『アルターエゴ』が配信されていますが、このようなスマートフォンでの展開は、今後もあるのでしょうか?
どちらもファンの方に楽しんでもらっているということで、ありがとうございます。実はこれらは、最初は作る予定がなかったんですね。
――え? そうなんですか?
昨年、エイプリルフールネタということで、僕と小高(シナリオライター・小高和剛さん)がTwitter上でウソ企画を語っていたのですが、やっつけ感がすごかったんですよ(苦笑)。「今年はアプリでウソネタをやってみよう」ということで、イラストを公開しました。僕が午後につぶやいたのですが、エイプリルフールが午前中までということを知らなかったので、エイプリルフールで言ってしまったということを含めて、ファンサービスにしてしまおうと。『スーパーダンガンロンパ2』が発売される前に、こちらから何かファンの方にご提供できればということで、無料でリリースしました。
現在、『スーパーダンガンロンパ2』をご贔屓(ひいき)いただいていているので、僕が感謝の気持ちを伝えたくなるか、エイプリルフールでまた何かやってしまったらリリースするかと思います(笑)。
▲左がミニゲーム集『モノクマの逆襲』で、右がツールアプリ『アルターエゴ』。どちらも無料配信中です。 |
――何かしてしまうことを期待しています。少し気が早いと思うのですが、『スーパーダンガンロンパ2』がスマートフォンでリリースされることはあるのでしょうか?
ユーザーさんから「『2』もスマホで遊びたい」という声があり、今回の移植で見えた問題点をクリアできるのであれば、検討したいと思います。
――スマ―トフォン用グッズをオフィシャルから出す予定はありますか?
これまで水面下で動いていたものがイロイロあるので、それらの情報を少しずつ出していければと思っています。ブログ・希望ヶ峰学園購買部をチェックしていただければ、お持ちの携帯電話を『ダンガンロンパ』色に染めてもらえると思います!
――希望ヶ峰学園購買部といえば、“らーぶらーぶ”トークセッション ~ほわわっ、ネタバレもアリなんでちゅか!?~”が先日開催されましたが、こちらを行うことになったきっかけは?
狛枝凪斗役の声優・緒方恵美さんが、いろいろな場所で「本作について話をしたい!」とコメントされていました。さらに、僕らが情報を集めているTwitter上でも、マナーのいいユーザーさんがネタバレなしで、本作を広げてくれているのを確認していました。そんなユーザーさんに対して、うっぷんを晴らせるような場所を提供してあげたいと思った2つがきっかけです。開発が会社を説得して、急きょ開催することになりました。
――かなりユーザーさんも楽しんでいたようですね。では読者にメッセージをお願いします。
これまで『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』に興味は持っていたけど、プレイしていなかった人がいらっしゃいましたら、1章クリアまでは無料で遊べるので、このスマートフォン版をプレイしていただければと思います。そして、遊んでおもしろいようでしたら、その後も購入していただければうれしいです。
クリア後としては、PSPで続きの作品『スーパーダンガンロンパ2』が出ています。『スーパーダンガンロンパ2』には、成田良悟先生に書いていただきました『1』のキャラクターが登場する“ダンガンロンパIF”を収録しています。この“ダンガンロンパIF”は、『1』をやっている方には特に楽しんでいただける作品です。他にも小説『ダンガンロンパ/ゼロ』では、本作の起源にせまる物語を楽しめます。
『1』から『ゼロ』、『1』から『2』と、すべての軸になるのはこの『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』。もしこの世界観を気にいってくださった人は、そこからの広がりを見ていただけると、よりサイコポップな世界観を楽しんでもらえると思います。
▲多くの人に支持されている『ダンガンロンパ』シリーズ。「すべては『1』があったから広がっていきました」と齊藤さんも語っていたので、まだプレイしていない人はまずはダウンロードしてみては? |
⇒次ページで『ダンガンロンパ』好きな編集・kbjによるプレイレポートをお届け!
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