News

2013年6月15日(土)

スクエニの市村龍太郎氏に聞く『ブラッドマスク』。その作り込み度はアプリの常識を覆す予感(PS4&Xbox Oneインタビュー付き)【E3 2013】

文:野村一真

――ゲーム内容について、いろいろと聞かせていただきました。あんまり聞くことがなくなっちゃったような気もしますが(笑)、ここからはインタビューに移りたいと思います。まず、『ブラッドマスク』のそもそものコンセプトやテーマを教えてください。

 自分が『Infinity Blade』を遊んでみて、すごいゲームだなと思ったことが根底にあります。この手のゲームを、スクウェア・エニックスが本気で作ったらどうなるだろうということが自分の中に生まれまして、実は『ブラッドマスク』はスクウェア・エニックスの内部制作タイトルなんですよ。『ファイナルファンタジー』シリーズや『キングダム ハーツ』シリーズを作っている社内のチームを集めてきて、そのメンバーで本気で作ってみたらどうなるのか。“究極のゲームアプリを目指す”というのをスローガンにスタートしたタイトルだったりします。このことがコンセプトの1つになっていますね。

 そのうえでキャラクターをどのように見せていくか考えた時、いわゆる我々がデザインしたキャラクターだと『FF』っぽいキャラクターになると思うんですよ。でも、今回のフォーマットは世界中で受け入れられているiOSですから、そこで勝負したいよね、ということで、ベースをヴァンパイアにして、さらに19世紀末のヨーロッパを舞台にしたとすれば、当然キャラクターは外国人というかそういう人たちになると。そこからスタートして、世界で受け入れられるようなキャラクター性を作ってみるというのが1つのテーマとしてありました。スクエニがそういうものを作れるという意味も含めて。さらに顔写真を撮って取り込むという要素を入れることで、どんな国でもどんな人種の人でも自分自身がキャラクターになれる、自分だけのキャラクターを作れるわけで。これなら世界に受け入れられるのではと考え、いろいろとこだわって開発を進めました。

――顔写真を取り込めるというのは、FacebookをはじめとするSNSからの発想でしょうか。

 開発当初のもう1つのコンセプトというのが、“戦うFacebook”です。まあ、僕が言っていただけですけど(笑)。そういうことをみんなが意識して開発を進め、そんなにガチガチのSNSは入れないけど、先ほど紹介したとおり仲間を2人連れいけるとか、そういった部分は入れようと。あと、杭を刺したあとに経験値を仲間に分配することもできるんですよ。“いいね!”を入れたのも、ゆるいSNS部分の1つですね。

――自分が作った(自分の顔の)キャラクターを、他の人が仲間として活用し、ミッションに連れていってもらえると経験値が入って帰って来ているという。

 そういうことになります。次にログインした時に“○○さんからこれだけ血液(経験値)をもらいました”となってて、その経験値でレベルアップすることもあります。

――そうすると“いいね!”のカウント数が多いキャラクターは、人気が高いということですから、より使ってもらえる可能性が高いので、経験値を入手しやすいと。

 そうです。もりもりレベルアップしていく可能性もありますね。

――19世紀末が舞台でヴァンパイアが題材になっている。いわゆる西洋の方からすればおなじみのテーマであって、自分の表情をキャラクターに取り込めて、さらにそれを使ったSNS的な要素(仲間要素)も入っている。これらのことから『ブラッドマスク』は、北米・欧州をターゲットにしているのかなという印象を受けました。

 そこは意識していますが、世界中の人たちにやってもらいたいというのは変わりません。ゾンビものはテーマとしていっぱいありますし、ヴァンパイアものはないわけじゃないですけど数は多くありません。実はゾンビブームが来て次にヴァンパイアブームが来てという流れ・周期が必ずあるんですよ。つい最近まで映画やTVドラマでヴァンパイアがどかーんと来ていた時期があったので、それに乗って次はゲームがチャンスなんじゃないかと。そういう点でもヴァンパイアものをやってみようという風に考えました。

――言われてみると、ゲームではゾンビがよく題材にされますよね。

 ゾンビは便利なんですよ。ゲームデザインの事情的にもレイティングの部分でも。でも、スクウェア・エニックスって、自分たちが持ってる美しさとか、何かそういうのあるじゃないですか。そして、ヴァンパイアもなんだかそういうところを持っていると思うんです。だから、ゾンビよりはヴァンパイアのほうがスクエニらしいかなと。あと僕は、本能的に淫靡な世界というか、ちょっとセクシャルな色気があるっていうか、そういったものを加えることが人間の欲望に突き刺さると思っていまして、例えば、首もとにがぶって刺すシーンとか印象的にわざと作っていたりするんですけど、そういった表現ができるのもヴァンパイアだからかなと思います。

――ヴァンパイアのお話にもかかわると思うのですが、次は設定部分についてお聞きしたいと思います。

 実は設定がものすごく深くて、バイブルというものを作ってまして、2,000年分くらいのお話が実はあるんですよ。『ブラッドマスク』の世界は、現実世界のifにあたるものでして、西暦1000年くらいにヴァンパイアが突然現れて、世界中をヴァンパイアが支配してしまったという設定なんです。『ブラッドマスク』の舞台は19世紀末なんで、もうヴァンパイアに1,000年近く支配されたあとなんですよ。ヴァンパイア政権があって、人間が全員奴隷になっていて、そうした構図で世界ができあがっている。そして、それに対抗するヴァンパイアハンターが主人公であり、さらに主人公はヴァンパイアと人間のハーフだから、ある程度パワーも強い。そして、自分たちみたいな不幸な連中をこれ以上増やさないために、人間を守ってヴァンパイアをせん滅させようという、戦いの物語なんですね。この西暦1000年までの歴史を含んだ状態でスタートしている物語なんで、結構深いんですよ。『ブラッドマスク』の舞台はパリなんですけど、実はヴァンパイアハンターの本拠地はアメリカにあります。そこから主人公は派遣され、“ヴァンパイアの本拠地であるルーマニアを目指すぞ”という大きな目的のもと、上陸した最初の都市がパリだったという設定です。長編物語のスタート部分にあたるお話なんですよ。

――アプリゲームであるにもかかわらず、設定、物語ともに壮大ですね。驚きました。設定面についてもう少しお聞きします。『ブラッドマスク』の世界は、現実の19世紀末ではなくて、西暦1000年頃にヴァンパイアに支配された世界における19世紀末っていうことなんですね?

 現実とはちょっと違う歴史を歩んできたと考えてください。実際のシャンゼリゼ通りがあったり、ベルサイユ宮殿が戦いの舞台になったりします。ちょっとこの画面を見てください。エッフェル塔と思いきや、ツインタワーにしちゃってるんですよ。これはヴァンパイアタワーと呼ばれていて、物語のキーになっていたりするのですが、言い換えれば、こういう進化をしたという一例なんです。世界がヴァンパイアの支配だったら、どうなったんだろうと歴史の置き換えをして僕らは設定を作りました。例えば、フランス革命のリーダーがヴァンパイアだったらどうなるんだろうとかも、バイブルに書いてあります。また、第二次世界大戦も実はヴァンパイアが引き起こしただとか、すべての国のいろいろな歴史をヴァンパイアの支配に置き換えて作ったうえで、今回は19世紀末のパリだけを抜き出してゲームにしています。もし、今後何か展開することがあれば、そのバイブルをもとに制作することになりますね。

『ブラッドマスク』
▲中央に建っている、エッフェル塔のようでエッフェル塔ではない2本のタワー。これがツインタワーだ。

――さて次は、開発の苦労話についてお聞かせください。

 タッチインターフェースに苦労しましたね。僕らはコントローラーの文化でゲームを作ってきたコンシューマ部隊出身なので、このインターフェースでどういうゲームを成立させるかというところに、かなりチューニングの時間をかけました。もっといろいろな操作を入れ込むこともできたのですが、今回はわざとタップとスワイプのシンプルな操作だけにこだわったんですよ。敵の攻撃を加味して立ち回ると、戦い方によっては深いバトルになる、戦略が生まれるという形を徹底追求したほうがいいと考え、アクションはシンプルにしようと結論づけました。UIの配置やデザインも、今までと全然違うものなので、結構時間がかかって苦労したんですけど、作業としてはすごくおもしろいものでした。新たな発見が多かったです。結果的に直観的な操作になったので、よりたくさんの人に触ってもらえるかもしれないなという兆しを感じたというか。勉強になったなと思いますね。

――今回触らせていただいて、ヴァンパイアの攻撃モーションをある程度こちらで覚えたうえで戦っていくという流れになるのかなと思いました。

 今回プレイしていただいたのは序盤の敵なんですけど、先に進むとカポエラみたいな動きをする敵とかが出てきます。変な動きから蹴りを出してきたりするので、苦戦すると思いますよ。でも、それをだんだん覚えて、タイミングよく避けることができてカウンター扱いで連続攻撃を入れられるようになると、脳汁が出るような気持ちよさがあると思います。「おぉー、およけられた!」、「俺、かっこいい」みたいな。徐々にうまくなっていることを実感できると思いますよ。そうした部分もすごく気持ちいいんです。とはいえ、RPG部分も用意しているので、アクションが苦手な人は、倒しやすい敵をひたすら倒して経験値をため、武器や装備を強くしていけば、強力な敵も倒すことができます。アイテム課金でお金を少し使って強い装備を作ってしまうという、ドーピング的な遊び方もできますし。いろいろな幅を用意してあるので、人によって楽しみ方はさまざまになると思います。

――遊びの幅の広さとビジネスを両立させている感じですよね。課金部分は主にどのあたりになりますか?

 価格はまだ決まっていないのですが、最初にダウンロードする時に、いくらかお支払いいただくことになります。基本無料ではありません。その後、ゲームをクリアするまでは、無課金で遊べるバランス設計にしています。「課金したほうがスムーズに進められるよね」ぐらいのバランスですね。課金のポイントは、先ほどちょっと説明した杭ですね。金の堅杭を使えば経験値を多くもらうことができ、レアアイテムも必ず手に入るようになる。さらに仲間に多くの経験値を分け与えられるので、自慢要素というか「あの人、経験値おごってくれるよね!」といった感じでしょうか。なお、ヴァンパイアにやられてしまった時にコンティニューができる体力回復の薬も、課金アイテムとなっています。また、一部の強力な武器や防具についても、課金アイテムになっています。あと、クリア後に、より凶悪なヴァンパイアが出てくるようになるんですけど、ここからは課金をしたほうが遊びやすいというか、楽しく遊べると思います。

――Android版は今後予定していますか?

 現時点ではiOS用に特化していますが、チャンスがあればやろうと思っていて、検討を始めたところです。iOS特化でグラフィックを追求したので、Android版を出すまでに少し時間がかかっちゃうかもしれませんけど、やってみたいなとは思っています。

→次のページでは、次世代ゲーム機について伺いました。(4ページ目へ)

(C)2013 SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved.

データ

▼『BLOODMASQUE』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:iOS
■ジャンル:アクションRPG
■配信日:2013年夏予定
■価格:未定

関連サイト