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2013年8月29日(木)

PS4の『THE PLAYROOM』が作り出す新たなAR(拡張現実)表現、ポイントとなるのは“動き検出”と“デプス検出”【CEDEC 2013】

文:電撃オンライン

 パシフィコ横浜・会議センターで、8月21日~23日にかけて開催されたゲーム技術者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。ここでは、SCEジャパンスタジオの横川 裕さんと吉田 匠さんが語るPS4に関するセッション“PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』”についてお伝えする。

 『THE PLAYROOM』とは、PS4のDUAL SHOCK4とPlayStation Cameraを使って、現実とゲームの空間が入り混じるAR(拡張現実)表現が楽しめる新コンテンツ。ARを使ったコンテンツというだけでなく、PS4のロンチタイトルとしても注目を集めるこの作品が、どのようにして生まれたのか?

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』
▲SCEワールドワイド・スタジオ JAPANスタジオ シニアプログラマーの横川 裕さん▲SCEワールドワイド・スタジオ JAPANスタジオ プログラマーの吉田 匠さん

■“ASOBI TEAM”が厳選した4つのコンテンツでAR体験!

 まずは横川氏が壇上に登り、本作が数十人のクリエイターで構成される“ASOBI TEAM”の手で開発されたことを説明。チームには、『EyeToy:PLAY』の制作に携わったドゥセニコラ氏や『GRAVITY DAZE』、『THE EYE OF JUGEMENT』などを手がけた横川氏本人をはじめ、優秀なスタッフが参加している。

 プロジェクト自体はPS4の開発初期から始まっており、スタッフ全員がさまざまなアイデアを捻出。数十ものプロトタイプを作り上げ、その中から実現可能なものを厳選。そこからプロダクション入りさせたのが“Controller Check-up”“Play with ASOBI”“AR Bots”“AR Hockey”の4つだという。

 この4つのコンテンツについて簡単に説明すると、“Controller Check-up”は、“ASOBI”と呼ばれるロボットがAR空間に出現し、コントローラや周辺機器の操作方法をナビゲートしてくれるというもの。“Play with ASOBI”は、空中を飛びまわるASOBIのアクションを見たり、触れ合ったりして楽しめる。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』

 “AR Bots”は、AR空間に大量に発生した小さなロボットに触れたり、手で払ったりしてそのリアクションを楽しむことが可能。“AR Hockey”は、AR空間内に出現したデジタルチックなホッケー場を舞台に、2人のプレイヤーでボールを打ち合って楽しめるミニゲームだ。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』
▲ロボットと触れ合ったり、エアホッケーをしたりと、仮想のAR空間を舞台にさまざまなことができる。これまでにないゲーム体験の映像に、来場者も興味津々だった。

 このようなAR表現を実現させるのにひと役買っているのが、PlayStation Camera。これはPS2の『EyeToy』、PS3の『PlayStation Eye』の後継機で、2眼のレンズでユーザーの姿を立体的にとらえられるだけでなく、それぞれのカメラで異なる情報を制御することもできる。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』

 また、カメラには顔認識機能もあり、ユーザーの顔や目の位置、角度までも認識してさまざまなリアクションがとれる。『THE PLAYROOM』では、ユーザーの髪に炎を浴びせて燃やしたり、逆に凍らせるシーンが見られた。ほかにも、DUAL SHOCK4のライトバーやタッチパッド、モーションセンサーを『THE PLAYROOM』に利用している部分もある。

 具体例をあげると、PlayStation Cameraがライトバーを認識し、モーションセンサーと連動して画面内のDUAL SHOCK4の位置を特定し、そこに光などのエフェクトを発生させることができるというわけだ。

 またDUAL SHOCK4については、搭載されているスピーカーが重要な存在になる。会場では、コントローラから竜巻のエフェクトと同時に掃除機の音を出て“AR Bots”のロボットを吸い込んだり、“AR Hockey”の勝者がコントローラを振ると、シャンパンを振る音と栓が抜ける音がして、水が噴出するエフェクトが出たりするムービーが流された。このように、映像とスピーカーからの効果音を組み合わせることで、よりリアルなAR体験が可能になっている。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』
▲PlayStation Cameraで写したAR空間に、光のエフェクトや音が加わることで臨場感がアップ。

■“動き検出”と“デプス検出”、2つの技術を応用して実現した多彩なリアクション

 次に、吉田氏から『THE PLAY ROOM』を例にしたARゲーム開発の技術的な解説が行われた。カメラの設定方法やカメラワーク作成のポイントなど、さまざまな話がなされたが、中でも特に注目されたのが、ユーザーとゲームのキャラクターの接触判定の作り方だ。

 これにはPlayStation Cameraに搭載された“動き検出”と“デプス検出”という、2種類の技術が使われている。“動き検出”は物体の動きをフレームで判定し、一定っっd以上の変化があれば“何かが動いている”と認識する技術。“AR Bots”のロボットには動き検出が利用されており、ユーザーが手を振るとロボットも手を振り返す、といったことを実現しているわけだ。

 “デプス検出”は、デプスボタンという当たり判定を複数用意し、その差異によってリアクションを変えるというもの。“Play with ASOBI”を例にとれば、ASOBIには体の表面を包む部分と、体の中央にデプスボタンが設置されている。そのため、ユーザーが優しく触れれば表面のボタンのみ反応し、喜ぶリアクションに。

 パンチなど激しくたたいた場合は表面と中央、両方のボタンが反応し、遠くへ吹き飛ぶというリアクションになる。さらに、モーションセンサーを併用することで、軽く触れる“タッチ”とゆっくり押す“プッシュ”を認識させるなど、細かな部分まで設定。こういったこだわりが、よりエキサイティングなAR体験を実現している。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』
PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』
▲接触判定の解説はもちろん、カメラの設置やカメラワークの作り方など、さまざまな技術についての説明が行われた。

 また吉田氏は、Android/iOSを搭載したスマートフォンやタブレットで動作するPS4のソフトウェア“PlayStation App”との連動にも言及。スマートフォンやタブレットのお絵かきアプリで描いた絵を画面外にフリックすると、『THE PLAYROOM』のAR画面内にその絵が飛び出すなど、楽しい実例を見せてくれた。こういった新しい遊び方を提供してくれるPS4とARゲームだけに、今後の展開も楽しみなところだ。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』
▲スマートフォンで手軽に描いた絵をAR空間に放出。その際はPS4のスペックにより高解像度の絵になる。

■ARゲームの難しさを認識しつつ、楽しいゲーム作りを目指す

 最後は壇上に戻った横川氏が、『THE PLAYROOM』を制作する過程で学んだことを報告。これによると、ゲーム内のキャラクターにユーザーのアクションを認識させるには、相当な苦労があり、試行錯誤の連続だったという。

 その経験を踏まえて“認識ロストはバグではなく常に起こり得ること”を前提として、チームで連携を取りつつゲーム作りを進める必要があると論じた。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』 PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』

 また横川氏は『THE PLAYROOM』という、数々のテストをクリアして作られた作品を、ARゲーム作りの参考に役立ててほしいとも発言。ARというこれまでにないゲーム体験を可能にする技術が今後どこまで進歩するか、ASOBI TEAMとAR技術に興味を持つすべてのクリエイターたちの活躍に期待したい。

PlayStation 4の新UIから生まれた『THE PLAYROOM』
▲体験談を交えた横川氏の話はじつにわかりやすく、多くの来場者も納得した模様だ。

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