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2013年9月25日(水)

【ほぼ毎日特集 ♯47】春秋戦国~清時代の中国武将たちを趣味全開チョイスで大鍾会……違った、大紹介! イラストもあるでよ(うどん)

文:うどん

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 本場中国でもっとも人気のある“武将”といえば、“三国志”の関羽と“隋唐演義”の秦叔宝だったりします。義侠心に富んだ知勇兼備の名将――ってのが向こうのツボなんでしょうか。ちなみにもちろん『水滸伝』だと関勝。終盤参戦のポッと出のわりに、関羽の子孫ってことでおいしいところを持っていきまくりんぐ。先ほどちょびっと名前の挙がった、一〇八星キラーの石宝を破ったのも関勝さんだし。

 でも、中国史でもっとも人気のある“ヒーロー”が誰かといえば彼、岳飛だったりします。彼が活躍したのは宋~南宋の時代。同時代の日本だと、平安末期~鎌倉のころですね。で、この宋~南宋は中国史の中でも非常によわっちい国で、建国しょっぱなから北方異民族国家の遼にフルボッコにされて、以降ひたすら謝罪と賠償コース一直線。遼が新興勢力の金に滅ぼされたと思ったら、今度は金が南下してきてまたフルボッコ。

 ついには皇帝まで金に捕えられちゃって、国家総出で長江以南に逃げ出しちゃったという軟弱貧弱だったりします。遼にボコられてたのが宋。金にボコられて逃げ出した亡命政権が南宋、というわけ。

 そういえば宋のフルボッコで思い出すのが、かのコーエーテクモゲームスの『水滸伝 天命の誓い』。“水滸伝”をテーマにしたこのゲームは、1127年までにゲームをクリアしないと金の南下が始まって、強制的にゲームオーバーになってしまうのです! かの一〇八星も、金には手も足も出ません。北方健三小説では梁山泊メンバーが金国といい勝負をしていたりしますががが。

 で、外には圧倒的な力を持つ異民族国家・金。国家の内政もしっちゃかめっちゃか(反逆者たちが主人公になる『水滸伝』が成立するような時代ですし!)。そんな大ピンチの時代だからこそ、漢民族のナショナリズムを刺激されるヒーローが生まれたのでっす。

 なにせ強い。負けっぱなしの南宋勢力の中で、岳飛だけが連戦連勝の大暴れ。元々は農民出身の下層階級だった彼ですが、義勇軍に参加すると一躍頭角を表してあっちこっちで金を破ったのです。ついには金に落とされた旧首都・開封の目前まで進撃。いろいろあって撤退しちゃいましたが、その活躍っぷりは当時の民衆からも熱狂的な支持を受けたのでした。

 たぶん一番近い例えでは、ジャンヌ・ダルクあたりになるんじゃないでしょうか。あっちは百年戦争で英国にフルボッコのフランスが生み出した英雄だったりで。あとモンゴル軍を撃退したベトナムの英雄・陳興道とか。日本史で例えると――うーん?

 ちょっと不思議なのですが、どこの国にも“侵略者と戦った英雄”って必ずいるんですが、日本だとあまりリスペクトされないですよね。刀伊の入寇を撃退した藤原隆家、元寇に抗った小弐一族、バルチック艦隊を破った東郷平八郎とかとかいくらでもいるんですが。特にそれが顕著なのが元寇。御家人たちがモンゴル軍の上陸作戦を阻止し続けた戦術的成功をあまり評価せず、「神風が来た! 台風で勝った!」と、国家的な“運”のほうがクローズアップされたりなんだり。そこらへんは戦前の皇国史観の影響のような気もしますががが。ほら、日本史最大のヒーローといえば楠木正成ですし。

 で、話は戻って岳飛。漢民族の守護者となった彼ですが、その最期は悲劇的なものでした。そもそも南宋というか漢民族を護るために戦った彼は、あんまり協調性がありません。「政治とかよくわかんないし俺~。来る敵ボコるだけッスよ」みたいな。そのうち周囲からも浮くようになり、勝って勝って勝ち続けた彼を最終的に待っていたのは、中国史でお約束の“狡兎死して走狗煮らる”でした。それきたドン。

 金との和平を考え、外交交渉を成功させつつあった南宋宰相の秦檜にとって、岳飛は極右主戦派の邪魔者となっていたのです。

 で、ついには罪をかぶせられて、息子ともども獄中で殺害されてしまいました。これにはむしろ敵国の金がビックリ。南宋からやってきた使者に、「我々にとっての最大の敵を、自分たちで殺してくれてありがとう」と皮肉たっぷりのお礼を述べたとかなんとか。なんだろう。例えるなら、楽天がマー君をいきなり解雇しちゃってパ全球団困惑、みたいな。

 先ほど例に出したジャンなんとかさんも国王に見捨てられるという似たような末路でしたね。民衆から出てきた英雄なんてものは、そういう最期を遂げるのが宿命なんでしょう。今風に言うと、政界に進出されても困るし。義侠心に富んだ漢民族の守護者、そして悲劇的な最期。いくつもの要素が組み合わさって、彼は“人気武将”というカテゴライズから飛び出た“ヒーロー”となったのでした。

 ちなみに最後の余談になりますが、現在中国にある岳飛像の前には、罪人のように縛られた秦檜像も併設されております。こちらは、岳飛を陥れた彼を侮蔑し“唾をかける用”の像。いやはや、なんというか、彼は彼で南宋の将来を考えて主戦派を粛清したという見方もあるんですが……。再評価の機会すら与えられず、死後数百年経っても(リアルに)唾をかけられるとは。岳飛は確かにヒーローでしたが、その後数十年にわたる南宋の平和を作り出したのは秦檜の功績だったりします。残念ながら“ヒーロー”が登場するということは、今度はそれに対する“悪役”“憎まれ役”もまた作られるということ。

 日本だと明確な“悪役”ってそうそういないと思うんですよ。源義経を殺した藤原泰衡にせよ、楠木正成を討った足利尊氏にせよ、死後にまで民衆から怨まれ、憎悪を浴び続けるようなことにはなっておりません。

 なんというかいろいろ思うところはあるんですが、エウメネス風に言うと……「文化が違ーう!」というオチでしたとさ。

『ほぼ毎日特集』

 ちなみに『三國志12』のパッケージ版シナリオ“戦国七雄”には岳飛が楚に緊急参戦。こと戦闘に関しては統率99に武力91、“神速”“鬼謀”持ちという曹操や陸遜以上の化け物スペックで、呉組、項羽組らとドリームチームを結成します。『三國志』シリーズでは別時代のレジェンド武将がたびたび登場しているのですが、岳飛はその定番メンバーですよ!


■9月26日に『三國志12 with パワーアップキット』が発売!

 明日9月26日には、今回紹介した岳飛も登場するPS3/PS Vita/Wii U『三國志12 with パワーアップキット』が発売。さらに、基本無料でオンライン対戦プレイが楽しめるPS3/PS Vita『三國志12 対戦版』もPS Storeで配信される。

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データ

▼『三國志12 対戦版』
■メーカー:コーエーテクモゲームス
■対応機種:PS3/PS Vita(ダウンロード専用)
■ジャンル:SLG
■配信日:2013年9月26日
■価格:無料(アイテム課金)

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