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2013年12月11日(水)

『ブレイブルー』の歴史をアークシステムワークス25周年記念本でチェック。ラグナやジンの少年時代の本書用小説にも注目

文:そみん

■25周年本には2本の『ブレイブルー』小説を掲載! 杉山友希氏の挿絵にも注目!

 本書に掲載する新作小説は3本で、『ギルティギア』の小説はシリーズのディレクターを務める山中丈嗣さん、『ブレイブルー』の小説は『フェイズシフト』シリーズでおなじみの駒尾真子さんが執筆している。

 3本とも本書用の書き下ろしのため必読だが、『ブレイブルー』の小説は杉山友希さんの挿絵にも注目したいところ。今回は特別に、レイチェルの物語を描く“Scarlett rose”と、ラグナ、ジン、サヤの幼少期を描く“Evergreen eyes”の冒頭部分をお届しよう。


【Scarlett rose(ブレイブルー)】

 欠けない丸い月が赤々と、明けない夜に浮かんでいた。

 物言わぬ赤い月が見下ろしているのは、どこまでも広がる薔薇園とその中央にそびえる尖った屋根の城だ。

 荘厳にして華やかなアルカード城。その城の一室、豪奢(ごうしゃ)で大きなベッドの中では、ひとりの少女が深い眠りについている。

 輝くような金色の髪に透けるような白い肌、まるで精巧に作られた人形であるかのように冷え冷えと美しい少女だ。

 彼女はもう数十年、眠り続けている。それは失ってしまった力を取り戻すため、多くの知識を得るため。なにより来る時に備えるため。

 その唇は頑なに閉ざされ、その瞼(まぶた)は微動だにせず、眠りは永遠に冷めないかと思われた。けれどそれも今日これまで。

 微かに、ほんの微かに薔薇の香りを含んだ風が少女の切り揃えられた前髪を浮かせた。その風を受けて、窓辺で花瓶に活けられていた蕾(つぼみ)のままの薔薇がふわりと香る。息をつくように花弁がほどけ、ドレスの裾を翻すように真紅の花が楚々と開いた。

 それと同時に、長い睫毛(まつげ) に縁取られた少女の瞼が開かれる。薔薇の赤よりなお鮮やかな真紅の瞳が、まだ眠たげに辺りを見回した。

 それから深く呼吸に胸を上下させると長い金の髪を滑らせながら身を起こし、小さな唇で呼びかけた。

「……ヴァルケンハイン」

 眠りにつく前と変わらない、少女らしからぬ気品と優雅さを備えた調子で執事を呼ぶ声が、アルカード城の時間を動かし始めた。

『ブレイブルー』シリーズ 『ブレイブルー』シリーズ

【Evergreen eyes(ブレイブルー)】

 気持ちよく晴れた青い空を覚えている。温かな陽光が降り注ぎ、庭では洗濯物が風を受けてはためいていた。尖った屋根の教会の壁が白く輝いていて眩しかった。それはのどかな昼下がりだった。

 なのに、どうしてだろう。歩く少年は胸中に問う。どうしてこうなってしまったのだろう。どうして自分は今、青空を閉ざす濃い枝葉の下、鬱蒼(うっそう)とした森の中を延々と歩き続けているのだろう。

 きっかけは数時間前のことだ。陽光の下のまどろむような教会の中で、シスターがぽんと手を合わせて言った。

 ――今日はみんなで、キイチゴのジャムを作りましょう。

 シスターは確かに言った。森にキイチゴがなっていて、去年もジャムを作ったのだと。キイチゴの群生地は、よーく覚えている……と。

 教会を出て森に入って、どれくらい歩いただろう。枝葉の向こうで遠く輝く陽の光はずいぶん傾いてきた。どこか恨めし気に頭上を見上げた金髪の少年――ラグナは思わずひとつため息をついた。

「にいさま……?」

 ラグナの背中で、少し前から背負われていた少女が覗き込むようにして心配そうに声をかけた。肩より少し長いくらいの金色の髪はラグナと同じ色だ。柔らかな緑の瞳もラグナと同じ。

「なんでもない。大丈夫だ」

 首を捻って振り返り、ラグナは安心させようと力づけるような声色で言う。彼が背負っている少女はサヤといった。ラグナの妹だ。ラグナたちが教会に引き取られる前から、ずっと一緒だった。

 ラグナには妹のほかに弟もいる。それが、ラグナとその背におぶさったサヤの後からシスターと一緒についてきている、やはり金色の髪に緑色の目をした少年、ジンだ。

「兄さん。僕もう疲れた……」

「わかってるって。もうちょっとだから」

「もうちょっとっていつ?」

「んなの……」

 こっちが聞きたいくらいだ、とはうんざりした様子のジンへは言わず、ラグナは胸中に浮かんだ恨み言を先頭の老女へと向けた。

「おい、ばあさん。一体いつになったら着くんだよ」

「そうねぇ……もう着いていてもいいころなんだけど」

 修道服を着た彼女は、ラグナとサヤ、ジンが少し前に預けられた教会のシスターだ。人里離れた教会をひとりで守ってきたらしい。

 よく笑う老女だった。けれどラグナはその笑顔が嫌いだった。人の好さそうな、優しそうな笑顔。そんなものを気安く、どこの誰とも知れない自分たちのような子供に向けるなんて、信用できない。

 そもそも自分で案内すると言い出したキイチゴの群生地にも辿り着けない老人の、どこを信用したらいいというのか。

「どこかで道を間違えちゃったのかしらね? でも大丈夫。歩いていれば森から出られるはずだから。もう少し、頑張りましょう」

 シスターは手を胸の前で組んで楽観的に、そして無責任に微笑む。

 ラグナは軽い頭痛を覚えた。眩暈(めまい)かもしれない。とにかく悟った。

(ダメだ……このままじゃ全員、森で干からびる)


●担当ライター・そみんの言い訳:個人的にシスター推しなので、ちょっと“Evergreen eyes”のほうを長めに掲載しちゃいました……。レイチェルファンの皆様、ごめんなさい!

『ブレイブルー』シリーズ

 ちなみにレイチェルの小説の挿絵は、ベッドで目覚めたばかりのレイチェル様の御姿。薔薇も添えられた美麗なイラストとなっているので、ぜひこちらも本を手に取っていただければと思います。

→『ブレイブルー』シリーズの世界観をチェック!(3ページ目へ)

(C) ARC SYSTEM WORKS

データ

▼『アークシステムワークス25周年記念 公式キャラクターコレクション』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2013年10月24日
■定価:3,360円(税込)
※B5判256ページ(フルカラー)
 
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