2013年12月27日(金)
――ローカライズに苦労はつきものだと思いますが、ズバリ、一番大変だったのはどこでしたか?
ティム:日本語特有の要素は全般的に大変だったので、とても1つに絞れませんが、とにかく大変だったのは“ことわざ”ですね。ソードマスターのアビリティのことですけど、あれはとにかく悩みました。
同じことわざが別の言語で存在していたとしても、元となる言葉が違うとソードマスターというジョブとイメージが合わないこともあります。また、日本語は漢字のおかげで少ない文字数にしやすい部分がありますが、ことわざは基本的に文字数が長い場合が多いので、アビリティ名におさまりきらないことが多々ありました。
英語の翻訳者から第一案が上がってきてから、1週間くらいはこのことわざ関連でのやり取りを続けたことを覚えています……。
▲英語版のソードマスター | ▲フランス語版のソードマスター |
――英語以外のことわざもローカライズしていったのでしょうか?
バウアー:無理にことわざを使って煩雑になるよりも、日本語のニュアンスに合致した言葉を選んだ言語もあります。ローカライズする際、特にドイツ語はスペルが長い場合が多いので、翻訳者の方々に知恵を絞っていただくことが多いです。
――スーパースターのアビリティ名も大変だったのでは?
浅野:日本のアニメソングのニュアンスを入れた部分もあるので、難しかったと思います(笑)。
ティム:そうですね。そもそも日本でいうアイドルのイメージの歌手が海外にはあまりいません。ただ、ポップな曲名というイメージからローカライズをしていったので、それなりにスムーズだったと思いますが、細かい調整は必要でしたね。
――逆に忍者のアビリティは漢字の熟語系が多いと思いますが、“一気呵成”が“Ikkikasei”といったように、英語でも読みをそのまま表記してますよね。あれはやっぱり、漢字のローカライズが難しいということでしょうか。
ティム:漢字の意味をローカライズするのが難しいというより、漢字を使うと情報量が増えるため、同じ文字数で別の言語に置き換えることが難しくなる部分はありますね。
ただ、忍者のアビリティについては、意図的に読みをそのまま使っています。というのも、海外で忍者=Ninjaと訳されるように、忍術はあえて英語に訳さないほうがクールなんです。
▲英語でもフランス語でも、NinjaはNinja。UtsusemiとKakuremiも読み方は変わらない。 |
――たしかに、寿司(Sushi)やすき焼き(Sukiyaki)は、あえて訳さないイメージがありますね。
ティム:特に忍者については、アメリカでは『NARUTO -ナルト-』の人気があることもあって、それなりに忍術の名前がポピュラーになっている部分もありますから(笑)。
また、仮に空蝉の術の“Utsusemi”という単語がわからなかったとしても、バトル中にXボタンを押せば、そのアビリティのヘルプ説明文が表示されるので、ゲームをプレイする際に支障はないという判断もあります。
――ゲーム中、プリンが『純愛(ハートマーク)十字砲火』を歌う場面がありますが、ああいった歌詞や歌声に関するローカライズはいかがでしたか?
ティム:実は、あの曲にはちょっとした裏話がありまして。翻訳者の方が何パターンか歌詞を出してきて、その中からどれかを選んで収録する予定だったんですけど、声優さんが全パターンを歌ってくれたんです。
せっかくなので全パターンを入れてしまおうということになり、日本語版では1種類の歌詞パターンの繰り返しだった部分が、英語版では複数の歌詞パターンが流れるようになっているんです。
高橋:なるほど、英語ですごく長い歌パートが届いたので、「英語版のローカライズチームはすごく気合いを入れてくれているんだな」と感心していたのですが、そんな裏話があったんですね(笑)。
▲『純愛(ハートマーク)十字砲火』は、ぜひ英語でも聴いてみることをオススメしたい。 |
――終盤の章タイトルについて、日本語では、EQUAL、DASH、OVALという記号を使って、繰り返す世界の裏にあるイメージやカウントダウンが演出されていましたが、海外版ではどうなのでしょうか?
ティム:=(イコール)は漢字の2、―(ダッシュ)は漢字の1、そして○(オーヴァル)は数字のゼロという演出ですよね。これを英語で表現するのはかなり悩んだ部分ではありますが、記号を頭に浮かべた時に、棒が2本あって(イコール)、それが1本になって(―)、最後に○になる(ゼロ)というイメージは可能なので、オリジナル版と同じ形にしています。
高橋:別案として、月の満ち欠けのような言葉に置き換えるなど、いろいろとアイデア出しをした覚えがあります。
ティム:月の満ち欠けの表現はフランス語のローカライズで使用しています。ドイツ語やイタリア語、スペイン語もそれぞれの違った表現を使っているので、比較するとおもしろいと思います。
――浅野さんがプレイしていて、印象に残っているローカライズされたセリフはありますか?
浅野:イデアがアニエスのことを「この堅物ガンコ巫女!」と呼ぶ場面があるんですけど、そこが英語テキストでは“crystal-headed girl(クリスタルヘディッドガール)”となっていて、このローカライズはうまいなあと感心しました。
それにしても、たくさんの言葉遊びの要素を入れている『ブレイブリーデフォルト』をここまで上手にローカライズしていただいて、ティムさんには本当に感謝しています。『フォーザ・シークウェル』の強敵を倒すと入手できる“HPあげ饅頭”といったアイテムも、まさに“上げ”と“揚げ”をかけた言葉遊びの部分がありますし、そういう部分も含めてローカライズが本当に大変なゲームだと思います。
高橋:“HPあげ饅頭”については、ちょっと時間がなかったので、わりとストレートな翻訳になっていますが、ティムさんからは「やっぱり、こうしたい」とか「もっとおもしろい表現があるはず」と、ローカライズが終わった後もいろいろな案をいただきました(笑)。
▲あげ饅頭は、英語だとBooster Bunのようだ。 |
浅野:言葉遊びの部分は『ブレイブリー』らしさの1つだと思いますので、次回作でもティムさんを苦しめるような言葉遊びをどんどん入れていきたいと思います(笑)。
ティム:日本語と英語が混じったセリフだったり、ことわざだったり、ローカライズでは大変なことが多い作品ですが(笑)、とてもおもしろいゲームだと思います。
本作には、いろいろなシーンを簡単に見直せるイベントビューワーがあるので、ぜひチェックしてみてください。マルチリンガルに対応していることで、遊び方の幅も広がっていると思います。勉強にも役立つと思うので、いろいろな言語で楽しんでいただけるとうれしいです。
――いろいろなお話をありがとうございます! さっそく編集部に戻ったら、イベントビューワーでいろいろなシーンをいろいろな言語で見直してみたいと思います。
→続編にも迫る『フォーザ・シークウェル』発売後インタビュー掲載中!
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(C)2012,2013 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
MAIN CHARACTER DESIGN:Akihiko Yoshida.
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