2014年1月23日(木)
――今井監督の作品で忘れてはいけないシステムが、感情入力システムです。これはどのようにして生まれたのでしょうか?
今井:ADVの選択肢で、自分ならこうじゃないなというものってありますよね。ゲームを遊んでいて「こんなセリフ言わない」と思ったり、「こうしたかった」と思ったりする瞬間が誰にでもあると思います。
口調でもそうです。主人公が怒った時に「うるせえ、このやろう」と言ったとします。でも、自分はこういう風に言わないと思う人もいます。そこを、どう解消しようかなと考えたんです。
映画やドラマは見たことをそのまま受け入れるだけですが、ゲームにはプレイヤーが介入したり、想像したりする余地が残されています。だから主人公のセリフは、プレイヤーの想像に任せるのがいいのではと考えたんです。たとえば主人公が怒っているという行為だけ教えてあげて、セリフはユーザーにイメージしてもらう。その想像の入り口まで連れていく役目をするのが、感情入力システムなんですよ。
▲ゲーム中に愛や友などの感情を入力することで、仲間や物語の展開が変化する、今井作品ではおなじみの“感情入力システム”。『魔都紅色幽撃隊』では、さらに“五感”の入力も可能になった。(画面写真はPS3/PS Vita『魔都紅色幽撃隊』) |
――ゲームにおける無個性主人公の中でも、際立った存在ですよね。
今井:そうですね。ちなみにフルボイスじゃないのも、プレイヤーの想像力を働かせてもらうためなんです。フルボイスだと、聞いたらそのしゃべり方しかないんですよね。「ありがとう」という言葉1つとっても、「このシーンではこう言ってほしかった」という理想のイントネーションは人によって違います。
人間というのは便利なもので、一度ボイスを聞くと、脳内ではその声でテキストが再生されるようになっているんです。アニメを見た後にコミックを読むと、アニメのキャストで声が再生されたりしますよね。だから指標となる声の情報があれば、脳内で勝手にテキストを自動再生してくれるんです。しかも、自分が一番理想とする読み方で。
感情入力と同じように、キャラクターのボイスも想像の入り口まで連れて行く役割を果たしてもらっています。ゲームというメディアでやっているのですから、想像力で補えるというゲームならではのよさを活かしたいと思っています。アニメやドラマCDは、フルボイスじゃないといけないものなので。
▲一部のセリフにボイスがついたパートボイスが採用されている。ボイスが聞けるセリフは印象的で、キャラの特徴がよく表れたものが多い。(画面写真はPS3/PS Vita『魔都紅色幽撃隊』) |
――作品を作っている時に、楽しかったのはどんなことですか?
今井:“楽しい”しかないですね。
金沢:今井さんは、いつも楽しそうに作ってますよね。
今井:作り手が楽しまないと、ユーザーは楽しめないと思っています。データを作るのも楽しくて、昨日も『魔都紅色幽撃隊』のゴーストジェネレーターを作っていました。途中までプランナーが作っていたんですが、私がやるからデータ頂戴って言って。エクセルデータを見ながら、“午前零時の すすり泣く サラリーマン”のようなゴーストができて、おもしろいなと思いながら作りました。
金沢:今井さんは、ユーザーの遊んでいる姿を想像しながら作ってるんですよね。
今井:『魔都紅色幽撃隊』では、ゴーストの名前がランダムで自動生成されるんですよ。だから組み合わせによっては“男好きの セクシーな 男子高校生”なんて、おかしなものもできます。そんなゴーストと支我たちが戦っている姿を想像するだけで、楽しいじゃないですか。そういう遊び心を大事にしたいんです。
――『魔都紅色幽撃隊』の編集部なども、遊び心満載ですよね。
今井:エンターテインメントなので、遊び心がないとダメですよね。編集部の壁に張り紙がしてあったりなど、いろいろネタを詰め込んでいます。これも世界観を作るための大事な要素です。
▲主人公たちが活動する夕隙社の編集部。さまざまなアイテムが置かれているので、ぜひ細部まで注目してみよう。(画面写真はPS3/PS Vita『魔都紅色幽撃隊』) |
編集部のデザインをお願いした映像作家の高橋さんに、メールでいろいろネタを書いて送ったんですよ。そうしたら、高橋さんに「こういうのが今井作品の重要なところなんですね」と言われました(笑)。オカルトやゴーストもののオマージュなどもいろいろ入っていますので、ぜひ探してみてほしいです。
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