2014年3月21日(金)
アメリカ・サンフランシスコで開催している、世界最大のゲーム開発者会議“Game Developers Conference 2014”(GDC)。いろいろな新要素が飛びなす中、大きく注目を集めたのが、ソニー・コンピューターエンターテインメントのバーチャルリアリティーヘッドマウントディスプレー『Project Morpheus(プロジェクト・モーフィアス)』だ。(関連記事)
まず18日のセッションではひとつの部屋に収まりきらないぐらいの長蛇の列ができ、急遽、第二会場が用意されていた。19日から始まったエキスポ(ブース展示)でも、SCEAが入り口近くに会場内で最大となるスペースを確保し、8台のMorpheusでデモを展開していたが、その整理券を求めて朝から長蛇の列ができていた。
そうしたSCEの挑戦について、開発者はどう見るのだろうか? GDCには、同種のヘッドマウントディスプレー『Oculus Rift』のソフトを制作し、イベントを企画して多くの人にVR体験を提供してきた“Ocufes”メンバーも参加している。GOROmanさん、needleさん、野生の男さんという、Morpheusを体験した3人に集まっていただき、注目ポイントや気になる点をざっくばらんに話してもらった。
▲Project Morpheus。PS4につないで頭に装着すると、視界すべてを覆うような映像を表示してくれる。頭を動かせば、視界にあわせて映像も切り替えてくれるので、まるで映像の中に入ったような没入感を実現してくれる。操作には、PS MoveやDUALSHOCK4を使用。発売時期や価格は未定。 |
――まず、ソニーがOculus Riftと同種のヘッドマウントディスプレーを出してきたことについて、率直にどう感じますか?
Needle:ありがたいと思います。しかも製品のクオリティーが高かったのがよかった。
GOROman:今年1月のInternational CES(世界最大の家電見本市)で、ソニーはヘッドマウントディスプレー『HMZ』シリーズの改造版を出してたけど、それだとOculusの体験は超えていなかった。1年ほど前、吉田さん(SCEワールドワイドスタジオのプレジデント、吉田修平氏)がOculusを体験してファンになったという話を見かけたので、MorpheusはOculus Riftと同じ方向性にしたのだと思います。
――Morpheusのセッションでは、以前から開発していたという話も出てましたが……。
Needle:直近で商品化する予定がなく研究としてやっていたところから、OculusでVRが注目を集めたことがきっかけで表に出てきたのかもしれません。
GOROman:そもそもソニーは以前からヘッドマウントディスプレーを研究していて、1996年には『グラストロン』も発売してます。
――needleさんはセッションに出られたそうですが、発表時の空気はどうでした?
Needle:僕は行列に並びましたが、直前で仕切られて第二会場にまわされてしまったんですよ。でも歓声が聞こえてきました。このセッションは最初に配られたパンフレットに載っていなくて、追加情報の冊子で発表されたので見逃した人も多かったはずなのに、非常に人気が高いセッションでした。
▲Needleさんが撮影したセッション待ち行列の写真 |
――デモで実機を装着してどう感じました?
Needle:僕はメガネをかけているので、装着時に引っかからないのがいいなと思いました。Oculusは視力に合わせてレンズの交換は可能ですが、メガネと併用する場合はフレームによっては引っかかる上、顔に押し付けられるような感じになるので痛いんです。でもMorpheusは頭に固定したバンドからディスプレーをぶら下げているので、目の回りに圧迫感がない。ディスプレーの距離やバンドのきつさも細かく調節できるし。
GOROman:自転車用のヘルメットみたいですね。
野生の男:レンズの回りが柔らかい素材でできているので、例え顔に押し付けられたとしても装着感はいいです。
▲装着前の写真 |
Needle:デモではそんなに汗かくようなことはしませんでしたが、あの構造なら湿気でメガネがくもることもないなと。ただ頭を振り回していたら、メガネがずれてきました。
――Oculus Riftと比べるとどっちが快適なんでしょうか?
Needle:条件によって違うという感じです。Morpheusはヘッドバンドで、Oculus Riftはスキーゴーグル。ちゃんと装着できていれば、どちらも快適ですね。ただ、頭のポジショントラッキングについては、Morpheusのほうが優れています。
――頭の位置を検出するための光は、ディスプレー前に4つ、後頭部に2つついてますね。
Needle:ヘッドバンド型は、後頭部側にも回路を入れられるんです。後ろにもLEDをつけておけば、背面を向いてもポジショントラッキングができる。Oculus VRが、開発者向けに新しい『Development Kit 2』(DK2)を発表しましたが、こちらは真後ろを向いてしまうと追えなくなってしまう。
▲前面に4つLEDがついている。未来的なデザインはさすがソニーといった感じ。 |
▲Oculus RiftのDK2 |
GOROman:ポジショントラッキングといえば、Morpheusの『The Deep』というデモは、しゃがんだらアバターの脚もまがってましたね。あれはおもしろかった。
Needle:膝の情報は特に取っていないと思うんですが、おそらく、頭の位置がこれだけ低ければ膝も曲がっているだろうと計算して曲げているんでしょう。
GOROman:MorpheusはPlayStation Cameraで位置を見てます。多分、DK2で位置の検出に使っている外部カメラより、PlayStation Cameraのほうが広範囲の情報を取れているんじゃないですかね。DK2はどちらかというと、首の動きを細かく取得している。
▲『The Castle』はダミー人形を相手に剣を振ったり、矢を打ったりできるデモ。 |
▲『The Deep』は、サメよけのゲージから海の中の様子を見渡せるデモになる。 |
――音声も立体的に感じられる“バイノーラルサウンド”に対応してます。
Needle:オーディオもOculus Riftの先を行っているところですね。バイノーラル音響をインタラクティブに生成できるんだったら、相当リアルさが上がると思います。耳元で話されたり、頭のすぐ後ろを何かが通ったりすると、反射的によけるぐらいの感覚じゃないかな。
――ホラーゲームがスゴそうですね。
GOROman:『バイオハザード』とかね。
――もしかしたらギャルゲーとかも?
GOROman:『アイマス』とか『ラブプラス』とか『ドリームクラブ』とか。あれを全編バイノーラルでやられたら日本は終わりますよ(笑)。
――逆に実機で気になったところは?
Needle:有機ELよりも応答速度が遅いはずの液晶をディスプレーに使っているところは気になりました。
――Morpheusは映像酔いはないんですか?
Needle:酔いというよりは、動きすぎて周囲のものにぶつかる危険がありますよね。あとはハードウェアではないですが、個人開発者の動きをどこまで汲んでいくのかも気になります。Oculus Riftがいいのは、どこの馬の骨ともわからないヤツでも300ドル出せばデバイスが手に入って、作ったソフトを共有してみんなで楽しめるところですよね。クオリティの高いゲームだけでなく、おもしろいもの、変なものを作りたいという個人が発表できる場があると、より盛り上がると思います。
GOROman:やっぱりOculus Riftは、作ってすぐにアップできるのがアドバンテージだよね。UGC(ユーザー生成コンテンツ)を取り込んでいく仕組みはあったほうがいいと思います。
――確かにその動向は気になりますね。最後に100点満点で点数をつけるとしたら何点ですか?
Needle:80点は超えます。あとは価格と日程次第かな。あのスペックのまま1、2年後に登場すると、もしかしたらOculus Riftのほうに優位性ができてしまうかもしれない。DK2は7月に手に入るのも大きいです。やっぱりMorpheusのソフトも共有してもいいよ、みたいな話が出てきたら万々歳だなぁ。
GOROman:SCEもインディーデベロッパーの流れはかなり意識していると思うんですけどね。
Needle:PS VitaではPlayStation Mobileのような試みもありますし、ぜひその辺を検討してほしいですね。