2014年3月21日(金)
【GDC 2014】今年の『パズドラ』講演のテーマは“勘”! ガンホー森下氏によるゲーム制作セッションをレポート
3月17日~21日の期間でサンフランシスコにて開催されているゲーム開発者向けイベント“Game Developers Conference 2014”。4日目にあたる3月20日に、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜氏を招いたセッション“Puzzle and Dragons Postmortem”が行われた。
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▲ガンホー・オンライン・エンターテイメントCEOの森下一喜氏。 |
1年前のGDC 2013でも同様にセッションを行った森下氏。前回の講演で「来年はもう来ない」と言ったものの、結局来ることになったと挨拶した。なお、今回はガンホーのCEOではなく、企画の一員としての講演になると初めに説明をした。
まずは、ガンホーが手がけるスマートフォン用のネイティブアプリについて。ガンホーは2012年にネイティブアプリに移行してから現在までに6タイトルをリリースし、運営してきた。そのすべてが黒字を達成しており、そのうち4タイトルは月100万ドル以上の売上を実現しているという。その筆頭となるのが、もちろん『パズドラ』だ。『パズドラ』は現在、13カ国で3000万ダウンロードを記録している。月の売上は100億円以上とのこと。
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この『パズドラ』の成功について、GDC 2013では“LUCK(運)”と説明したが、GDC 2014では“INSTINCT(勘)”をテーマに説明をしていく。
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▲GDC 2013は運をテーマに講演。 |
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▲今回のGDC 2014では勘をテーマに説明などをしていく。 |
『パズドラ』は2012年に企画がスタートし、プロデューサーの山本氏と2人でさまざまな紆余曲折を経て、現在の3マッチパズル形式へと落ち着いた。このあたりは各所で紹介がされているので、改めて詳しく紹介することもないだろう。
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▲まず最初に設定した『パズドラ』のゲームコンセプト。 | ▲これをもとにプロデューサーの山本大介さんが企画書を作った。 |
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▲一週間で作ってきたのは2種類。RPGとタワーディフェンスを組み合わせたものと、RPGとパズルを組み合わせたもの。 |
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▲当初は横持ちでのゲームを考えていたが、森下さんはこのゲームをどういう状況で遊ぶかを考えた。 | ▲日本では電車での通勤が一般的なため、片手で持ちながら親指だけで操作できる方が望ましい。 |
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▲縦持ちで画面の下半分を使うシステムが考案された。 | ▲ドロップの色に当初は意味がなかったが、モンスターと紐付けることであった属性のモンスターが攻撃を行うというゲーム性が生まれた。 |
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▲イメージキャラクターに子どものドラゴンが採用されているのは、企画書の際に森下氏が書いたイラストがそのまま通っているからだという。 |
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▲当初は『Dungeon&Puzzle』というタイトルだったが、森下氏による「ドラゴン」という単語をタイトルに入れるという鶴の一声で、『パズル&ドラゴンズ』へとタイトルが変更された。 |
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▲ゲームのテスターには山本さんの奥さんと、森下さんの10歳になる子どもも採用された。これにより、ノンゲームユーザーからの声も吸い上げることができたという。また、森下さんいわく「ゲーム開発者は家族を持て」とのこと。 |
なお、ソーシャルゲームではもはや定番とも言える、トラブル時の有料アイテムのサービス(詫び石)。これの元祖が『パズドラ』であるのは周知の通りだが、この詫び石は上がりすぎてしまったARPUを下げる調整にも使われているという。
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ARPUを上げていくのはアプリゲームの鉄則でもあるが、ARPUが上がりすぎてしまうと、逆にユーザーは離れて行ってしまうという。これを防ぐために1月単位でARPUが高くなりすぎないように調整を行っていくという。これについて森下氏は「売上は焚き火のようなもので、薪をくべすぎると火はすぐに消えてしまう。火を長続きさせるためには適度な量の薪が必要だ」と表現した。
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また、森下氏はゲーム内のリソースを俯瞰で常に見ており、バランスが悪くなった部分についてはすぐに修正を行えるような体制にしているという。
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例えば、ゲーム内のコインが不足しがちでモンスターのレベルアップがなかなか図れないといった意見が多く寄せられた時は、すぐさまコインがたくさん取れるウィークエンドダンジョンを週末に追加したり、今度は進化がさせにくくなったと言われたら、曜日ごとに取れるアイテムがことなる曜日ダンジョンを追加。
こうすることで生活の中に『パズドラ』を入れることができ、1週間の中で時間割のように『パズドラ』を遊ぶという概念が生まれた。また、ゲーム内のアイテムの消費スピードを抑えるといった効果も得られたという。
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こうした詫び石、曜日の概念は『パズドラ』以前はあまり存在しなかった。しかし、昨今ではこの概念は当たり前のように各タイトルに組み込まれてる。これを見て森下さんは「運営のスタイルについても、『パズドラ』流のやり方が日本のスタンダードになった」と思ったという。
なお、『パズドラ』は最初に述べた通り、13カ国での配信を行っている。どの国でもレビューでは4.5以上の星を獲得しているとのこと。ガンホーはユーザーレビューを非常に大切にしており、このユーザーレビューの数字が低いうちはプロモーション展開を行っても、お金が出て行くだけとのこと。
各国のサービスの運営は、各国で行われており、一見すると非効率的にも見える。しかし、配信国でそれぞれ手厚いサービスを提供することで、『パズドラ』を長く遊べるものへとしているという。
テーマである“勘“について、森下氏は『パズドラ』をリリースに至るまで、リリース後の運営中に必要になった判断の場面を“勘”で行ってきたという。これはただの当てずっぽうなのではなく、経験の産物によるものだと森下氏は説明する。運営を通じて行ったたくさんの失敗、それに少しの成功体験が勘を養うのに役立っているという。
また、森下氏はガンホーのゲームタイトルにおいて、複数のタイトルを並行して、企画段階からデバッグ、リリースまでを見ている。森下氏はその中でも企画と仕様の決定を行うことが多い。その判断をもとに開発チームがゲームへと昇華させていく。『パズドラ』は、勘とチームが起こした「サクセスストーリー」であると森下氏は述べた。
なお、ガンホーにおけるゲーム開発は、複数の開発チームがアメーバのように交じり合って行われているという。きっちりとチームが分かれているのではなくあいまいな組織として形成されている。メンバーにさまざまなチームやプロジェクトをを縦横無尽に経験させて、個々のパフォーマンスや得意分野を最大限に発揮できるようにしているとのこと。
このようにチーム間での交流があることで、別のチームにトラブルが発生したり、そのチームだけでは手に負えない事態に陥ったら、他のチームが作業の手を止めてでもトラブルの対処を行うようになる。これによって、お互いに助けあって、知恵や勘といったものを全員で共有できるようになるという。
『パズドラ』の新たな展開としては、2月に発表された『パズル&ドラゴンW』がある。これは『パズドラ』のアプリ内に、もう1つ『パズドラW』というアプリを内包するものだという。メジャーなゲームにおいて、シリーズタイトルとして新たに続編などをリリースするのではなく、もともとのゲーム内に追加するというのは、これまでにはなかった手法とも言える。
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『パズドラW』は、ドロップを動かすシステムは『パズドラ』と同一だが、よりパズルアクションが楽しめるものになっているという。これにより、既存ユーザーだけでなく新規ユーザーの招致も期待するとのこと。2014年春に配信を予定しているが、森下さんは「我々の春はとても長い」として具体的な時期の明言は避けた。
なお、森下氏にとって『パズドラ』は、10年、20年続けていきたいコンテンツであると語る。これにあ、いつか孫に『パズドラ』を遊んでもらいたいという思いがある。ただし、それだけ長い時間、IPとして持続させていくにはゲームだけではダメで、あらゆる方向からブランド価値を高めていく必要がある。
そのいくつかの例が、400種類におよぶグッズ類や3DS用ソフト『パズドラZ』、4月に稼働が決まったアーケード版『パズドラ バトルトーナメント』だ。また、4月からは全国でリアルイベントを開催していくという。
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▲2013年12月に3DS用ソフトとして発売され、140万本もの販売本数を記録した『パズドラZ』。:▲その他、スクウェア・エニックスの開発である『パズドラ バトルトーナメント』やさまざなグッズを用意。 |
最後に森下氏は「ゲームというものは、勝ち負けにこだわるのではなく、あくまでゲームとしてのおもしろさにこだわって挑戦していくものだと思っている。そうした経営とクリエイティブをガンホーはやっていく」と語って、締めの挨拶とした。