2014年3月22日(土)
アメリカ・サンフランシスコで開催中の“Game Developers Conference 2014”(GDC)。SCEAは現地時間3月18日のセッションで、PS4の魅力を高めるバーチャルリアリティシステム『Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)』を発表し、大きな注目を集めている。
今回、その『Morpheus』について、SCEワールドワイドスタジオのプレジデント・吉田修平氏にインタビューをすることができた。その内容をお届けしよう。
このインタビューが行われる直前に、『Morpheus』を実際に触ることができたので、その簡単なレビューをお伝えする。
今回デモで体験したのはEVEの『VALKYRIE』というシューティング。宇宙でのドッグファイトが楽しめるタイトルだが、ミサイルが慣性で流れていく感じや、戦場を漂う隕石の雰囲気などが非常にリアルで、(※逆に、リアルで見たことはないが)“宇宙戦争のゲーム”をしているという感覚よりも、実際に“宇宙戦争”を体験しているという感覚を得られたのが新鮮だった。
▲同時に、パイロットはすごい職業だなと思った。子どもが夢を描くのにも使えそうだ。 |
次に付け心地について。始めに断っておくと、筆者はOculus RiftやソニーのHMD-Zなどの装着経験はないので比較はできないのが、感想として、とくに“重い”という感じはなく、時間経過でどんどん熱を帯びるということもなかった。ただし、鼻にかけず頭だけで支えるので、成人男性では問題ないが、小さい子どもでは難しいかな? とも感じた。このあたりは、何か補助装置があれば解決するかもしれない。
3D酔いについては、私はまったく問題なかったが、同じく体験した成人女性は「少し酔う」と感想を述べていた。ただし、『VALKYRIE』がもともと360°の旋回など視点が目まぐるしく動くタイトルなので、その影響もあるだろう。
▲もう1つ体験できたのは、シャークケージから海の中を見渡すことができる『The Deep』。立ってプレイする同僚をながめていたところ、サメに襲われたときに身体ごと飛び退いているのが興味深かった。 |
私は体験前に比べて体験後ではかなり興味が大きくなったので、今後の機会でぜひ体験してほしい。
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――『Valkyrie』を体験してみて、実際にはキュリオシティ(火星探査機ローバー)があんなに大きいとは思いませんでした。体験してみないとわかりませんね。
▲SCEワールドワイドスタジオの吉田修平氏。 |
ええ。ですからゲームに限らないと思ってください。博物館に行くような感じで、子どもの教育にもいいかもしれませんね。
――『Morpheus』があれば、現実では行けないところも行けそうですね。
私は旅行が好きなんですけど、もっと年を重ねてくると、時差のあるところには行きたくなくなっちゃいますよね。『Morpheus』でアルプスを訪問したり、ハワイのビーチにいたり、そういうのも楽しいなぁと思いますね。
あと、コミュニケーションも楽しいと思うんですよ。オンラインでつないでアバターを表示させると、頭の動きなどがわかるので、PlayStation Homeと同じような感じで見せてあげると、本当にそこにいる感じがするんですよ。PS Homeがどうこうという話ではないのですが、アプリケーションとしてそういうコミュニケーションにも使えるなと。
あと、SCEJの人間に言われたのですが、日本のゲーム業界って、アイドルを見て楽しむというゲームが多いじゃないですか。それはこの『Morpheus』と相性がピッタリだと思います。自分が観客としてコンサートに参加するという雰囲気などが作れるので、日本からおもしろいコンテンツが出てくるのではないかと思っています。
――PS HomeのVR版など、ワールドワイドスタジオでも何か仕掛けたりしないんですか?
PS Homeについては何も言えませんが、PS4に『プレイルーム』ってありますよね。ハード開発者とジャパンスタジオの人間が一緒に作っているのですが、カメラとDUALSHOCKで新しいことができるというところを見せたくて作ることになったんです。
新しい技術を世に出すときは、ワールドワイドスタジオとして「こんな使い方ができますよ」ということを示したいと思っています。ですので参考というわけではありませんが、各スタジオでいろいろなことを試してみて、「これはうまくいくよ」ということを世に出していきたいと思っています。
――そのなかで、きっといろんなコンテンツが生まれてくるんでしょうね
とくに期待しているのはインディーゲームなんです。先日、京都でビットサミットがあって、そこで朱色賞(大賞)を取ったのが『MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』ですが、さっきデベロッパーの方たちが来てゲームを見せてくれまして、やっぱり彼らは発想がおもしろいですよね。『クレイジータクシー』のようなゲームなんですけど、ピックアップしたゾンビがすぐそばで何かをつぶやいていて、それがすごく味を出している。発想がユニークで、そういうことができるのはインディーズのほうが強いかと。
――Oculus Riftもインディークリエイターが盛り上がって、いろいろなコンテンツを作っていますよね。
そう思います。やはり大きなパブリッシャーとなるとビジネスが大事ですから、市場にに1台も出ていないハードのソフトを作るのは慎重になりますよね。内部の開発者に話を聞くと「すごくやりたい」と言ってくれますが、会社の承認を得ないと動けない。
それがインディーの人は経営者とクリエイターが一緒なんで、自分がやりたかったらやる。そこにすごく期待していますね。今回の我々の発表で、これまではOculus RiftでPCだけで出せるものだったのが、いいものを作ればPS4で出せることにもなるので、より投資する価値が出るんじゃないかなと。Oculus Riftさんと我々は、お互いに助け合う関係になると思っています。
――ソニーのHMDと『Morpheus』はまったく別ラインでの開発ですか?
まったくの別です。最初はHMDをつけてPS Moveを振ったりしているところを彼らに見せたりだとか、いろいろ実験をしていましたが、彼らが目指しているのは“個人シアター”です。大きな画面を手軽に、というところが目標なので、『Morpheus』とは方向性から価格ライン、ビジネスモデルまで全部違います。家電はコストにマージンを乗せて売らなければいけませんが、ゲームのモデルは実コストだけで売っても、そのほかのソフトやサービスで回収していけばいいという考え方ですよね。
我々がこのプロジェクトを3年前に始めたときから、パーソナルシアターではなく、VRゲームに特化したものを作るという思いでやってきています。ソニーにはカメラやレンズの専門家がいるので、彼らと一緒に協力して作っています。
――コストモデルの上限というものは設定されているのでしょうか?
コストよりは、どういうものを作るかですね。重要なのはコンセプトです。没入感を得るために必要なレイテンシーであったりトラッキングであったり視野角であったり。VR向けに作るのとシアター向けに作るのでは違いますよね。
――『Morpheus』は周辺機器ではなく、1つの新しいメディアという話をされていたと思いますが、普及を目指すのであれば、みんなが手に入れられるような価格設定にするのでしょうか?
もちろん価格は大事ですが、『Morpheus』はPS4ユーザーの一部のVRゲームに興味がある人だけにアプローチするものではありません。PS4やカメラをすでに持っている人であれば、ヘッドマウントユニットを買うだけでいいので、最初はそういうコアなゲーマーがターゲットになると思っています。
しかし、VRでできることに興味を持っている人はいろんなところにいます。アプリケーションはゲームに限らないので、例えば観光などのシミュレーションを楽しみたい人がいれば、PS4を含めて1つのシステムとして買ってもらうことになります。そういう部分こそ、我々が新しいメディアと呼んでいる意味です。業務用の用途にも道はあるかもしれません。
――業務用や観光、教育に使えるかもしれませんね。
そうですね。もうすでに車のデザインの現場などでは、実際の大きさで見るために使われていると思います。我々もレースゲームの制作チームが過去に試してみたことがありますが、すごくおもしろいのはレースゲームじゃなくなるんですね。速く走ると、ゆっくり景色が楽しめないので。
ゆっくり走って、キレイな景色を眺める。そして車を止めて外に出てみると、車がリアルサイズでそばにあるわけです。それをじっくり見るというのは、ものすごく不思議な体験ですよね。なので業務用など、ゲームとは違う角度から使用するということもとても意味があると思っています。
――VRに特化した用途だけではなく、PS4で普通にゲームをしたり、映像を見たりすることもできるのでしょうか?
やろうと思えばすぐにできるといいますか……、じつはもう準備はしていて、目の前にスクリーンを作って、そこに映画を流すということですね。でも個人的には、それは大きなテレビがあればいいと思うんですよね。最終的な商品仕様は決めていませんし、そういうモードを搭載することもできますが、我々がフォーカスしているものではありません。
やはりその世界に浸るということを体験してほしいですし、「どのゲームにも使えます」というようなことを謳って、実際やってみたけどたいしたことなかったと思われてもよくないので、基本的に『Morpheus』用のゲームは、それ用に作ったものしかないというぐらいでいいと思っています。今のゲームでどちらでもOKというようなゲームにすると、ゲームデザインが破たんするんですよね。テレビで楽しいデザインとVRで楽しいデザインは全然違うものですので、どちらかに決めて作らないとうまくいかない。一部、ゲームの中に専用のエクスペリエンスやDLCがあってもいいとは思うんですが。
――新しい才能、新しい発想が必要になりますね。
ええ。ですので、通常では普及させるために万人が好きなキラータイトル、『なんとかセブン』や『なんとかエイト』が必要になるのかもしれませんが、『Morpheus』に関しては我々はそう思っていません。人やタイトルはどこから来るかわかりませんし、どこからでも来る可能性があると思っています。
――インディーの人が参入しやすいような、開発キットの配布方法などはもう決まっているのですか。
ええ、もうそれは考えています。開発契約を結んでのことなので公表はできないのですが、すでにアイデアがある人やOculus Riftで開発実績がある人など、できるだけ多いインディークリエイターにプロトタイプを配布して開発してもらいたいと考えています。
――Oculus Riftのように、定額一律配布ということではないのでしょうか?
そのモデルではないということはお伝えしておきます。基本的にはPS4のゲームを作るときと同じです。
――体験した感じ、現在でもかなり完成度が高いと感じましたが、これから改善するべきところはどんなところでしょうか?
現状でも開発機材としては十分だと思っています。ですので今回発表に踏み切ったわけですが、細かいところを見ていくと、首を振った時に発生するモーションブラー(残像)を取り除いたり、レイテンシーをもっと小さくしたりとか課題はあります。レイテンシーは現状でも悪くないのですが、測ってみると我々が目指しているところよりにはまだ届かず、長くプレイしていると疲れてきますので。3Dオーディオももっと高めていきたいですし、トラッキングももっと強くしたい。改善したいところは山ほどありますね。
――現状のレイテンシーはどれくらいえしょうか?
40msくらいですね。これをもっと下げたいし、下げるためにどこをどうすればいいかというのはわかっています。しかし、時間をかけないとできない部分もあります。
――Oculus Riftも、目標はレイテンシーを下げることと言っていますね。
やはりそれは一番大きいです。使っていて気持ち悪くなるのは一番よくないことですし、使いやすさと誰でも楽しめるということを追求したい。ゲーム開発者の方はVRのことをよくわかっていますし大丈夫なんですが、コンシューマの方たちにはもっとよくする必要があると思っています。
ここで、『Project Mopheus』開発のキーマンであるマークス博士が参加し、『Morpheus』のトラッキング技術について語ってもらった。
▲リチャード・マークス博士。PS Moveを開発した技術者で、『Project Mopheus』でも重要なポストを占める。 |
マークス博士によれば、『Morpheus』前面のライトと、内蔵の加速度センサー、ジャイロセンサーによってモーションや位置を感知しているようだ。PS Moveは先端のスフィア1つをセンサーでとらえていたが、『Morpheus』では顔の両側にセンサーを配置することで、顔を振った際でも片側のセンサーがカメラにとらえられ、トラッキングができるという仕組みだ。
さらに、『Morpheus』とPS move、DUALSHOCK4は同じ1つのカメラでモーションの検知が可能。それによって、タイムラグが発生せずに入力処理が行われるということだ。
セッションで「PS Moveは少し時代が早すぎた(PS Move was a bit ahead of time)」と語っていたことが印象的だったが、マークス博士は「PS Moveは3Dの入力デバイスなのに、ディスプレイでは2Dの画像しか表示されません。それでPS Moveのよさが生かしきれていないところがありました。3DのVRならば、PS Moveのよさがもっと生きてくる」と語っていた。
ということで、『Morpheus』が登場したら、PS Moveの本来の力が発揮できるということです。ですので、みなさんPS Moveはぜひ捨てずに取っておいてください(笑)。
今回、『The Castle』というデモがあって、それをぜひ体験していただきたいのですが、剣をつかんで振るというのがとてもリアルなんですよね。剣を手から手に投げて持ち帰ることもできます。あ、PS Moveを実際に投げてはいけませんよ(笑)。PS Moveのトリガーを握っているのが、剣を握っている感覚にさせてくれるんですよね。剣をつかむときはトリガーを絞って、持ち替えるときはトリガーを放すと。
――SCEさんは前からコンソールの強みは没入感だとおっしゃっていますよね。VRはそれとすごくマッチしますね。
まさに究極系ですね。ゲーマーが持っている「こういうふうにゲームを楽しみたい」という理想が、VRがあれば実現できると思っています。それは体験してみないとわからないので、できるだけ多くの人に体験してもらいたいと思っています。
そのために工夫したのが、我々が『ソーシャルスクリーン』と呼んでいる『Morpheus』で見えている映像をモニターに映すシステムです。ほかのVRでは両目で見えている映像が曲がって表示されますよね。『Morpheus』では、内蔵のプロセッシングユニットをPS4につなぐことで、片目の中の映像をテレビに引き伸ばして映すのです。ですので1人で遊んでいても、周囲の人もゲームで何が起こっているのかわかります。
これがゲームのデザインにおいても重要で、例えば『The Deep』はタブレットに対応していて、周りからタブレットで亀を出す指定をして、それをサメが食べに来たりと、プレイヤーとインタラクションが可能です。お化け屋敷のゲームで、1人がお化け屋敷に行って、周りの人はMAPでどこからお化けや音を出すか指定したりと交代で遊ぶこともできます。ニッチな、オタク的なものではなく、家族や友達で集まってワイワイ楽しめるものにしたかったのです。
――内蔵のプロセッシングユニットは家庭用でも必ずつくということですか?
ええ、そうです。ですから、これからパフォーマンスを改良するうえで、プロセッシングユニットも見直していきます。必要であれば(後から)プロセッシングユニットにパワーを追加していくこともできますので、アップデートする際はPS4はそのままで『Morpheus』のほうで対応していくことになります。
――プロセッシングユニットをなくしてコストを抑えるという方向もあったと思いますが、ソーシャルスクリーンはそれでもあったほうがいいと判断したのですか?
そうですね。あとは将来を考えて、プロセッシングユニットを追加できるようにしておきたかったという面もあります。PS4は変えられないので、『Morpheus』に拡張性を持たせておきたかったのです。
――初代のモデルを購入して、後にプロセッシングユニットだけ買い替えるということもありえますか?
最初の商品構成も決めていない段階ですが、想定としてはあり得ます。
――将来的には、LCD(液晶ディスプレイ)から有機ELに変更することも考えている?
それはいろいろ考えています。LCDだからこそレイテンシーを下げる必要があるという面もあるので。OLED(有機発光ダイオード)にはOLEDの課題があるのですが、レイテンシーとパーシステンス(持続性)には優れているので、これから研究していこうと思っています。