2014年3月29日(土)
3月29日に東京・新宿ロフトプラスワンで行われたライブ&トークイベント“Falcom Acoustic Live & Talk Show ~近藤社長に聞く!「白き魔女」から「閃の軌跡II」へ受け継ぐべきもの”の模様をレポートする。
“Falcom Acoustic Live & Talk Show”は、キャラアニの主催で行われた日本ファルコムの“ファルコムjdkバンド”によるライブ&トークイベントで、1月に行われた“~近藤社長に聞く!「閃の軌跡」続編と謎の大型タイトル~”に続く第2弾として行われた。今回も日本ファルコムの近藤季洋社長とファルコムjdkバンドのオカジこと岡島俊治さんによるトークが催された。
1月のイベントとは違い、お昼の13時からのスタートとなった本イベント。イベントの前半は、ファルコムjdkバンドによるアコースティックライブが行われた。今回は1994年3月18日に発売されたPC用の名作RPG『英雄伝説III 白き魔女』が今年3月で20周年を迎えたことを記念して、『白き魔女』オンリーでのライブとなった。
開幕を飾った曲はゲーム中のオープニング曲『もうひとつの英雄たちの物語』。オカジさんいわく、あえてSEの部分まで再現したとのことで、往年のファンとしては物語冒頭のラグピック村の風景が頭に浮かぶ幕開けとなった。
ここで恒例ともいえるステージ&観客席で乾杯を行うことに。普段は“発情期(初ジョッキ)!”といったハイテンションな乾杯をすることが多いが、オカジさん的には『白き魔女』にはそぐわないということで、別の言葉を使うことに。その言葉は、『白き魔女』のエンディングとなるデュルゼルの手紙をしめくくる一文“人の世も、かくあらん”という渋いチョイスで、会場は「かくあらん!」の声で満たされた。
そんな『白き魔女』ファンをニヤリとさせる乾杯に続く2曲目は、「それではラグピック村を出てみましょう(オカジ)」という言葉通り、山岳地帯などのフィールドで使われた『MountainPath』。3曲目は『浜辺の午後』、4曲目は『迷いの森』と、『白き魔女』の巡礼の旅を思い起こさせるようにフィールドやダンジョン曲を演奏していった。
そして5曲目は海獣ガルガとのボルト大決戦を代表するバトル曲『強敵!!』。6曲目は水谷美月さんがヴァイオリンを置き、ヴォーカルを担当。『その勇気その瞳その優しさで』をしっとりと歌い上げ、そのまま最終曲となるエンディングテーマ『小さな英雄―ジュリオとクリスの大冒険―』へとノンストップで演奏をつなげて、ライブのフィナーレを飾った。
イベント後半は、近藤社長とオカジさんのトークコーナーが展開。まずは『白き魔女』の20周年を記念するトークが行われた。近藤社長はそもそも『白き魔女』に感銘を受けて日本ファルコムに入社し、『海の檻歌』や『空の軌跡』を手掛けたという経緯もあり、さまざまな秘話が公開された。以下、トーク中の注目内容についてピックアップしてお届けしていく。
ちなみに『白き魔女』の話題にとどまらず、『朱紅い雫』や『海の檻歌』など、『ガガーブ・トリロジー』全体に関するトークが展開する場面もあった。
――『白き魔女』20周年を迎えて
近藤:まさかソフト発売から20年もたった時期にこんなイベントをできるなんて、本当にうれしいですね。『軌跡』シリーズを続けてきたことで『英雄伝説』を忘れずにいてもらえたことも理由だとは思いますが、これだけ愛される作品となって感謝しています。『空の軌跡』や『閃の軌跡』も、20年後に記念してもらえるような作品になるように頑張ります。
――初期設定が書かれた文字資料を見ながら
近藤:僕が入社前に作られた初期の資料を持ってきました。
オカジ:固有名詞やストーリーの大枠は、初期段階からかなり固まっていたんですね。このナーガスという名前は見覚えがありませんけど。
近藤:ナーガスは後にレバスとなったキャラクターですね。ステラの名前が苗字まで設定されていたり、ちょっとダジャレっぽい名前が多かったりするのは、初期設定ならではかもしれませんね。
▲初期設定資料の他、なつかしのセガサターン版『白き魔女』のマニュアルを見せる場面もあった。 |
――バンバンの父親について
オカジ:バンバンの設定はI部長が作ったそうですね。
近藤:実はI部長が作った当時の資料が見つかったんですけど、バンバンの父親は北極を冒険していると書かれていまして(笑)。いったいどういうことなのか事実を確認中です。
オカジ:まさかアドルと関係があるんですかね(笑)。
――キャラクターの初期デザイン用ラフを見ながら
オカジ:バダットの初期デザインはマッチョ系で、ちょっと『イース』のドギっぽいですね。
近藤:たしかに当時は筋肉質でドギっぽいキャラは多かった気がします。『英雄伝説II』のランディなんかも、魔法使いなのにマッチョでしたし(笑)。
オカジ:うわっ。このローディの初期デザイン、すね毛がやばいですね(笑)。
近藤:半ズボンはローディの特徴とはいえ、リアルに描くと衝撃的ですよね(笑)。
オカジ:あっ、これもすごい! ゲルドの顔がしっかりと描かれてるじゃないですか!
近藤:最終的には顔を明かさないことになりましたが、初期デザインとしては顔を出すことも考えられていたようです。
――幻の『白き魔女』後日談を描く“ショート・パック・シリーズ”
近藤:実は『白き魔女』の後日談を描く続編の構想があったんですよ。その資料がこちらです。
オカジ:バンバンやシャーラたちが活躍するサーカスの話や、ルーレとバロンが数十年ぶりに戦う話なんかがあったんですね。これは見てみたい!
近藤:サブキャラクターだけでもどんどんと追加シナリオの構想が出てくるところは、『白き魔女』のすごいところだと思います。
――『白き魔女』の裏シナリオについて
近藤:開発当時、クリスとジュリオの巡礼の裏でゲルドとデュルゼルの旅もゲーム中で描く構想があったそうです。ただ、もう1本ゲームを作るくらいのボリュームになってしまうのであきらめたそうですが。
オカジ:ついでにハックおじさんの1人旅も描いてほしかった(笑)。
近藤:借金取りから逃げながら1人で遺跡を探索して、最後は馬に蹴られると(笑)。
――武器や小物などの設定画について
近藤:こういう設定画を見ていると、ファルコムって変な会社だなって思うんですけど、とにかく設定が細かいんですよ。なぜネジの外し方まで設定しているのかと(笑)。
オカジ:このまま設計図として使えそうですもんね。
近藤:こういった設定の細かさは踏襲しており、『軌跡』シリーズの場合も本当に細かい部分まで考えています。
オカジ:エスペランサやゲルドの杖の初期デザインらしきものもありますね。
近藤:個人的には、ずっと昔からゲルドの杖の形をしたマドラーが欲しいと思っています(笑)。
――オープニングアニメの原画を見ながら
近藤:実はオープニングアニメには、ボツになった部分がけっこうあるんですよ。ギャグやコミカルなシーンが多かったようですけど。
オカジ:ジュリオとクリスの微妙な距離感とかがいいですよね。それに原画で見ると、よりフィリーがかわいい(笑)。
――『白き魔女』との出会いについて
近藤:当時住んでいた場所のPC売り場で『白き魔女』のデモを見たのがきっかけです。その時はPCを持っていなかったので遊べませんでしたが、その数年後に大学でPCを使うことになりまして。
あの時に見たゲームを思い出して遊んだ結果、『白き魔女』にはまって日本ファルコムに入社することになり、今はその流れをくむ『軌跡』シリーズを作っているわけで……。あのPCデモを見なかったら、『閃の軌跡II』は生まれていなかったかもしれません(笑)。
――赤の部族の設定について
近藤:昔、会社で仕事をしていたら唐突に先輩から「実はステラって赤の部族なんだよね。ゲーム中には入れられなかったけど」と言われたことがあるんですよ(笑)。あまりに突然だったので驚きましたが、これはどこかで発表してほしいということなのかなと思い、Win版『朱紅い雫』を作っている時に、その設定を小説に反映したことがあります。
――『空の軌跡』のヨシュアのルーツ?
近藤:僕を含めた『空の軌跡』の開発チームはだいたい同年代で、大学生のころに『白き魔女』の影響を受けたスタッフが多いんですよ。そういうメンバーと話していた時に、『空の軌跡』のヨシュアが『朱紅い雫』のルティスに似ていると指摘されたことがあるんですよ。
オカジ:たしかに元暗殺者で組織を裏切るところとか、黒髪の部分とか、共通点はありますよね。
近藤:意識したわけではありませんが、そういった影響を受けてきたことがファルコムらしさにつながっているのかなと思う部分もありますね。
――『白き魔女』で学んだ3行ルール
近藤:『白き魔女』を遊んだ時はまだ1人のファンで、ファンサイトを運営したり、ゲーム中のセリフを書き起こしたりしていました。
オカジ:ファルコム作品の伝統でもある、1回に表示するセリフを3行にするという暗黙の了解的なところも、その時に体得したんですか?
近藤:なんとなく雰囲気をつかんだ部分はありますね。入社後に先輩と話をした時も、長い文章を読んでもらうための工夫について、いろいろと教わりました。適度に改行をして余白を作らないと文字が多く見えて読み飛ばされてしまうとか、1行目は短くして3行目を長くすると最後まで読んでもらいやすくなるとか。
そういったテクニック的な部分をしっかりと受け継ぎ、『軌跡』シリーズでも踏襲しています。
――ステージ入場時に甲板掃除の曲を聴いて
近藤:この音楽を聴きながら掃除をすると、すごくはかどるんですよ(笑)。
オカジ:モップをかけたくなりますね。マストにのぼったり、洗濯物を干している場所から滑り降りたくなりますけど(笑)。
――『海の檻歌』での大事件について
近藤:『海の檻歌』の時は日本ファルコムに入社していてがっつりとかかわった作品なので、開発秘話はいくらでもありますよ。
ただ、一番思い出に残っている大事件がありまして。アイーダが住む村で村人が輪になって踊るイベントがあったんですけど、そのスクリプトを消去してしまったんですよ。あの場面は複数キャラを同時に制御する複雑なスクリプトで、先輩の力作だったんですが、それを消してしまい青ざめました。
結果的には、本当に運よく先輩がバックアップをとっていたので大ごとにはなりませんでしたが、今でも『海の檻歌』と聞くとそのことを思い出して辛くなります(苦笑)。
――ライブ会場限定料理“クリスのグリーンカレー”について
近藤:これ、クリスが作ったってだけ書いたらよくないでしょう(笑)。
オカジ:たしかに、ちゃんとグースが味を調えた後のものですって書かないと、『白き魔女』ファンは怖くて注文できないかもしれませんね(笑)。
近藤:あの時のグースの“個性的な味”という表現は、すごく前向きでいいですよね。
トークコーナーでは『閃の軌跡II』に関する話題も展開。前作との比較動画が公開された他、気になる開発状況についてもコメントがあった。
――モーションに関する比較動画を見ながら
近藤:前作を作る時はまだまだ研究中の部分もあり、モーションで納得がいかない部分もありました。そのため『閃の軌跡II』ではモーションをすべて作り直しています。アリサちゃんを例にした比較動画を作ってみたので、ご覧ください。
オカジ:走り方がすごく女の子らしくなっていますね。手をちょっと下ろしている感じがリアルですし、髪のなびき方もすごいです。
近藤:続いてはラウラちゃんで……いや、ラウラはラウラさんのほうがしっくりきますね(笑)。前作ではアリサとラウラの走りモーションは共通でしたが、今回はそれぞれ違います。
オカジ:ラウラのほうはちょっと勇ましいというか、しっかりした感じですね。フィールドアクションも、縦斬りの後に横斬りを入れる連携になっていて新鮮です。
近藤:最後にバイクシーンもちょっとだけ。前作では馬に乗れましたが、今回はバイクに乗って自由に走れます。
オカジ:ここだけ見ると、RPGじゃなくてレースゲームみたいですね(笑)。ゼリカ先輩の置き土産ですし、乗るのが楽しみです。
――『閃の軌跡II』の開発状況&発売日について
近藤:システムを組み込み終わり、今は『軌跡』シリーズでもっとも重い作業となるスクリプトの作業中です。これはイベント中のキャラの動きや演出などを制御するもので、本当に大変です。
オカジ:発売日は9月くらいですか?
近藤:まだ秘密です。ただ、毎年秋ぐらいに発売しているので、ある程度は予想できるかもしれませんね。
なんにせよ、近いうちに発売日の発表ができると思いますので、もう少しだけお待ちください。
▲スクリプト作業と同時に進めているという『閃の軌跡II』のオープニングアニメのラフも披露された。 |
6月12日の発売が決まったPS Vita版『碧の軌跡 Evolution』。本作の音楽のアレンジはオカジさんが行ったとのことで、そのアレンジ版が披露された。また、オープニング曲となる新曲『碧き願い』も発表された。
――『Exhilarating Ride』について
オカジ:主にミシュラムで使われる曲です。今回のアレンジは全般的に原曲のテイストはそのままにして、生音にすることなどでアレンジを加えています。
個人的に印象に残っているアレンジはPCエンジン版『イースI・II』なんですよ。いろいろとアレンジをしているのに原曲のテイストはしっかりと残っているのがすごくって。今回のアレンジも、その方向性を目指しています。
近藤:PCエンジン版『イースI・II』はすごかったですよね。神殿のところで水が滴る音が入ったアレンジとか、印象に残っています。
――『大都市に潜む罠』について
オカジ:ジオフロントで使われる曲です。サイバー感やSFっぽさを強めてアレンジしました。
近藤:これはかっこいい! すごくサイバー感がありますね。
――『月下の想い』について
オカジ:リーシャとのイベントで使われる曲です。ピアノとヴァイオリンオンリーにしてみました。ちなみにヴァイオリンは美月さんの生演奏です。
近藤:この曲調でピアノとヴァイオリンはずるい(笑)。すごくいい曲になっていて、かつての名盤『プレプリマ』(ファルコム音楽のアコースティックアレンジ集)を思い出しました。
オカジ:それは最高の褒め言葉です! ありがとうございます!!
――『Concentrate All Firepower!!』&『碧き願い』について
オカジ:宝箱魔獣戦のバトル音楽ですね。これは後々、ライブで生演奏をやることを想定してアレンジしてみました。
近藤:ギターがいいですね!
オカジ:そして、『Concentrate All Firepower!!』をヴォーカルアレンジしたのが、『碧の軌跡 Evolution』のオープニング曲となる『碧き願い』です。
この歌はコテカナ(小寺可南子さん)はヴォーカルには参加していませんが、作詞とコーラスの部分で参加しています。いろいろと新しい挑戦もしているので、ぜひご期待ください。
イベントの終盤には、前回同様にアニメ『みんな集まれ!ファルコム学園』の主題歌でおなじみの「ゴーファイ!」を観客とともに叫ぶ場面も。これはこれで盛り上がりつつ、イベントのシメを飾ったのは「あべよ!」という『白き魔女』にちなんだ迷言。
これは盗賊ワイルドキャット団の一員のコンタの言葉で、他のメンバーが「あばよ!」と別れを告げる中、ドジなコンタは1人だけ「あべよ!」と間違った言葉を残して去っていったのだった。
デュルゼルの「人の世も、かくあらん」で始まり、コンタの「あべよ!」で終わった今回のイベント。次回のトーク&ライブイベントは6月8日に東京・新宿ロフトプラスワンで行われる予定とのこと。発売直前の『碧の軌跡 Evolution』が中心となるのか、『白き魔女』の流れで『ガガーブ・トリロジー』をクローズアップするのか。続報に期待してほしい。
■“Falcom Acoustic Live & Talk Show”公演概要
【出演者(敬称略)】
近藤季洋(日本ファルコム社長)
岡島俊治(Dr)
水谷美月(Vn&Vo)
宮崎大介(Gt)
榎本敦(Ba)
【演奏曲目/出展作品】
01.『もうひとつの英雄たちの物語』(『英雄伝説III 白き魔女』より)
02.『MountainPath』(『英雄伝説III 白き魔女』より)
03.『浜辺の午後』(『英雄伝説III 白き魔女』より)
04.『迷いの森』(『英雄伝説III 白き魔女』より)
05.『強敵!!』(『英雄伝説III 白き魔女』より)
06.『その勇気その瞳その優しさで』(『英雄伝説III 白き魔女』より)
07.『小さな英雄―ジュリオとクリスの大冒険―』(『英雄伝説III 白き魔女』より)
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