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2014年3月31日(月)

【GDC 2014】VR、次世代、インディーズ。主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは?

文:佐藤カフジ

 3月17日よりサンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議“Game Developers Conference 2014”が、3月21日に閉幕した。

 ゲーム開発の最前線に立つ人々にとって毎年の最重要イベントであるGDCは、業界のワールドワイドトレンドを色濃く反映する。特に、これからのゲームが次の1年でどのように進化していくかを測るための材料は、GDCの会期中に出尽くしてしまうといっても過言ではないほどだ。

 今年のGDCはゲームの未来をどのように示してくれたのだろうか。重要トピックを改めて振り返ってみよう。

主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは?
▲世界中のゲーム開発者が集まったGDC 2014。今年のトレンドを振り返ってみよう。

■いよいよ具体化が始まったVR(=仮想現実)ゲーミング

 昨年、GDC 2013にて初出展された『Oculus RIFT』をきっかけに、業界の大きなエネルギーがVRゲーミングの実現に注がれはじめた。いまだ開発キットの配布しか行なわれていないにもかかわらず、AAAスタジオからインディーズまで多くの開発者がVRゲームの研究にのめり込んでいる。案の定、GDC 2014では開発元のOculus VRによる複数のセッションが行なわれ、非常に大きな注目を集めた。

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▲Oculus VRのブースも常に行列ができる人気。

 その影響はプラットフォーマーにも及んだ。PS4をワールドワイドで成功させつつあるSCEは、PS4用VRヘッドセット『Project Morpheus』を発表、GDC Expoでプロトタイプ版を出展した。

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▲SCEAが『Project Morpheus』を発表。スペック的にはOculus VRのものとほぼ同等だが、PS MoveなどPS4周辺機器が使えるのが強み。

 コンソールマシンならではの手軽さと次世代機ならではの性能を活かし、コンシューマー向けのVRゲーミングという新しい道を提示している。いよいよ、大手のゲームパブリッシャーも無視できない大きな流れができはじめた。

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▲SCEAブースで行われていた『Project Morpheus』試遊は、朝イチで整理券をもらいに行く必要があるほどの人気となっていた。

 台風の目、当のOculus VRは機能を大幅に向上させた『Oculus RIFT Development Kit 2 (DK2)』を発表、これを発展させた製品版の開発開始をアナウンスしている。

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▲Oculus VRが開発キットの新バージョンを発表。1080p/75Hz、高詳細と低遅延を追求。
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▲平行移動のトラッキングも可能となり、VRヘッドセットとしての機能を充実させてきた。

 その『DK2』と、SCEの『Project Morpheus』は、VRヘッドセットとしての基本スペックは以下のような感じで、共通点が多い。特に視野角やトラッキングの自由度はゲームの設計に大きな影響をあたえるため、将来登場する製品版でも基本的な部分は大きく変わらず、それがそのまま業界標準になる可能性が高そうだ。

・解像度:1080p (サイドバイサイド分割による両眼立体視)
・視野角:水平90度
・トラッキング:6軸自由度(角度3軸+移動3軸)
・接続方法:ミニHDMI+USB

 GDC会期中のスピーチや報道を総合すると、SCEAとOculus VRはともに、コンソールとPCという全く異なるフィールドに同志が出現したことを喜んでいる。市場が異なるため、両者は互いに顧客を奪い合うのではなく、VRゲーミングが本当の意味でコンシューマーエレクトロニクスの一部となるために刺激しあう関係になれるだろう。

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▲Oculus VR、SCEAブースともにデモされていた『EVE Valkyrie』。VRコンテンツはプラットフォームの垣根を超えそうだ。

 その観点で言えば、GDC終了直後に発表されたFacebookによるOculus VRの買収は気がかりだ。FacebookはVR技術のソーシャル的な活用を望んでいる。それがたとえ高品質なVRゲーミングの実現の後に動き出すプロジェクトだとしても、ゲーム用途に特化することでブレークスルーを起こした『Oculus RIFT』のビジョンを濁らせてしまう恐れはある。

 この発表を受けて、Oculus VRのプロジェクトを助けてきたインディーゲーム業界やKickstarterコミュニティに混乱が起きつつある。ただ、Facebookからの巨額の資金を得たことで『Oculus RIFT』の製品版は圧倒的な競争力のあるものに仕上がるだろう。いちユーザーとしては、原価割れ過剰品質の製品で夢を見させてくれることを期待中である。

 ともあれ、上記の顛末がこれからのゲームを語る上で最大のトピックであることは間違いない。次の1年、VRゲーミングがどのように具体化されていくか、注目だ。

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▲違ったアプローチのヘッドセットも。Sulon Technologiesの『Cortex』はレーザーセンサーで周囲環境をスキャン、リアルの風景をVRゲーム空間化する
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▲網膜投影型という新方式で注目される『Glyph』もGDC会場近くでデモ。映像は極めて鮮明だが視野角が狭く、VRではなくホームシアター用途に特化の模様。

■進化するゲームグラフィックス、内容の代わり映えは?

 2013年末にXbox One、PS4と次世代機が出揃ったことを受け、GDC 2014ではたくさんの次世代機向けゲームのポストモーテム(事後分析)セッションが設けられ、各プラットフォームのローチンタイトルとして肝入りで開発された各ゲームの技術的な詳細が明らかになった。

 PS4のローンチタイトルとなった『Killzone Shadow Fall』では、物理ベースのレンダリングを軸に、空間のボクセル分割による大局照明(Global Illumination:GI)、レイマーチング法によるボリュームライティング、レイトレーシング法による局所反射表現など、GPGPUを用いた次世代機水準のグラフィックス技法に加え、過去フレームの再利用による最適化が行なわれていることが詳細に披露された。

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▲『Killzone Shadow Fall』ではすべての光源がボリュームライト。▲マップ全体をボクセル分割しライトスフィアを配置するGI手法。次世代機の膨大なメモリ量が可能にする手法だ。
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▲レイマーチング法によるボリュームライト表現。空気感の演出に一役買う。▲GPGPUを用いた光線の並列演算により、反射表現も緻密なものに。

 Xbox Oneのローンチタイトル『Ryse』でも物理ベースのレンダリング手法を採用。“シネマティックとゲームプレイの融合”を旗印に、ゲーム内キャラクターを1億3千万ポリゴンという驚異のディティールで作り込み、これまでにない忠実度で3Dモデルやアニメーションを実現した経緯が明らかにされている。

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▲高詳細に作られた『Ryse』の3Dモデル。鎧の部品ひとつで400万ポリゴンにもなるという。▲顔だけで260個ものジョイントが設定され、映画品質の演技を可能にした。

 高性能GPUを活かした物理ベースのレンダリング、映画品質の3Dモデル製作、リアルな映像を生み出すための様々な技法……それはそれでよいとして、“ではゲーム内容はどう進化したか?”というと、GDC 2014では、少なくともAAA級タイトルのポストモーテムセッションではそのあたりが完全に置き去りだったような印象だ。次世代機でなければ実現できなかったような“未知のゲーム内容”はまだ披露されていない。

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▲『Assasin’s Creed IV: Black Flag』でも映像技術の細部が語られたが本質的な次世代感は感じられず。▲『Forza Motorsport 5』のセッションでは車体のレンダリングについての技術解説。確かに映像は大きく進化した。

 他方、VRゲーミングというワクワクするような新しい未来が提示されているだけに、こうした“大作”の代わり映えのなさが余計に印象付けられてしまうとも言える。映像の進化は必要だし、求められているように見えるけれども、ゲームユーザーが本当に必要としているのは遊びの中身の進化なのだろう。

 極めつけはMicrosoftによるDirectX 12の発表だ。最新のGPUに合わせてシンレイヤー化を推し進めたDirectX 12は、PC・モバイルのMicrosoftプラットフォーム上で高度な最適化を可能にし、ゲームの実行効率を大幅に向上させるもの。

 しかし、この発表について深い関心を示していたのはテクニカル系ライター陣とコア技術者ばかりで、前身のDirectX 11が発表された頃(もう5年も前だ!)に比べると、その他の層からの関心は非常に薄く見えた。これが現在のゲーム業界トレンドを反映した風景と言えるだろう。

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▲ゲームグラフィックスを高速化するというDirectX 12。来年予定のリリース時点で全ゲーマーの半数のPCに対応するという。▲『Forza 5』のDirectX 12版デモも披露された。

■破壊と創造の最前線。真の変革はインディーズから始まる?

 “大作”が前世代から本当の脱皮を果たせずにいる一方で、ゲーム産業に爽やかな新風を巻き起こしているのがインディーズゲームの世界だ。

 『Minecraft』が驚きの大ブレイクを果たした2010年以降、ゲーム開発者の“インディーズ化”が急速に進行している。ごく一握りのパイオニアが成功を収めた2008~2010年ごろが第1段階とすれば、大手スタジオを辞めて独立する者が続出した2010~2012年ごろが第2段階。その後はインディーズスタジオの資金獲得手段や販路が大幅に増え、はじめから独立系としてスタートアップできる環境が整った状況にある。

 こうした背景から、2013年には多くのインディーズゲームが大きな成功を収めた。GDCでは毎年、インディーズ開発者が集まる“Indie Game Summit”および“Indie Game Festival”が開催されているが、今年のそれは時流を反映し、かつてないほどの盛り上がりと見応えがあった。

主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは?
▲“Indie Game Summit”の様子。多数のインディー開発者が成功事例を報告した。

 個性的な開発スキルと自由な発想で生まれるインディーズゲームは、まだ見ぬゲーム体験が次々に生まれる苗床だ。

 開発模様をTwitch番組化してコミュニティとともに開発を進める『Nuclear Throne』、プリレンダCGの専門家と宇宙科学・惑星学の専門家が集まって作った1fph(frame per hour)のゲーム『extrasolar』、ナレーションとの対決という新機軸でゲームにおけるナラティブのあり方に新解釈をもたらした『Stanley Parable』。数々のインディーズゲームに関するセッションが開催され、個性的なゲームや個性的な開発手法に大きな拍手が鳴り響いていた。

主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは? 主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは?
▲Twitch放送やSteamの早期アクセスシステムを駆使してコミュニティ開発を進める『Nuclear Throne』。▲1時間に1フレームの映像で、深宇宙との交信をリアルに体験させるゲーム『extrasolar』。

 特に大きな支持を集めたのは、共産国の入国審査官をプレイする『Papers, Please』だ。8ビット機を思わせるプリミティブなグラフィックスで、パスポートとビザ等の書類を確認してハンコを押すだけのゲームが、他の技術的・映像的に洗練されたゲームを押しのけて、“Indie Game Festival Award”の大賞ほか複数の部門賞を獲得した。

主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは?
▲入国審査官の仕事を通じて独特の体験を楽しめる『Papers, Please』。IGF Awardを総なめにした。

 『Papers, Please』は、入国審査官というユニークなゲーム性を軸に、生活を守るスリルと歴史に翻弄される人々のヒューマンドラマを見事に織り込み、プレーヤーに強烈な印象を残す作品だ。様々な事情(と偽造書類)を抱えて検問所を訪れる人々の顔と、昨年プレイしたAAAタイトルの名シーンと、どちらが鮮明に思い出されるだろうか?人情や賄賂のために不正を見逃す腐敗役人の心理を、AAAゲームは教えてくれただろうか? ゲーム開発者は正直なので、本作の名を挙げたのだろう。

主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは? 主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは?
▲これも2013年にヒットを収め、高く評価された『AntiChamber』。スタンディングオベーションを受けた稀有なセッションとなった。▲作者のAlexander Bruce氏は4年間をかけ無数のインディーズイベントに参加、作品の広報と改善をたったひとりでこなし続けた。

 GDC 2014を機に、そのクリエイティビティが発揮される土壌も大きく発展した。安価・高性能で知られるゲームエンジン“Unity”が、次世代機対応も可能なバージョン5を発表。AAAタイトル御用達だった“Unreal Engine 4”も一般公開を機に、月額19ドルで全機能利用可という驚愕のプランをスタートさせた。これに引き続き、“CryEngine 3”も安価な月額利用プランを発表するなど、業界最高のテクノロジーを個人レベルで扱える環境が完璧に整いつつある。

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▲Epic Gamesは“Unreal Engine 4”の月額プランを発表。月19ドルで全機能が使え、各プラットフォームでゲームを販売できる。
主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは? 主要トピックを振り返って考える、世界最大のゲーム開発者会議が指し示したゲームの未来とは?
▲これまでインディーズに縁のなかったCrytekの“CryEngine 3”も、月10ユーロで利用可能に。インディーズゲームでの利用が進むか。

 テクノロジーはゲームエンジンに任せ、ゲーム開発者はゲームのことを考えよう。その流れが今後、多数のインディーズスタジオの存在によってますます加速していくことは間違いない。それが結実する2014年末~2015年以降、VRゲーミングを含めて驚くほど多彩に広がる次世代ゲームの世界を、ゲームファンは楽しめるようになるはずだ。

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