News

2014年4月10日(木)

『俺たちに翼はない』の魅力を王雀孫さん自ら解説! シナリオライターとなった経緯や新作の予定についても聞いた!!

文:ごえモン

 MAGES.のゲーム&音楽ブランド5pb.から、4月10日に発売されたPS3/PS Vita用ADV『俺たちに翼はない』について、脚本を手がけたシナリオライターの王雀孫さんにインタビューを行った。

『俺たちに翼はない』

 インタビューでは、PC版の制作経緯やコンセプト、コンシューマ移植が決まった時の感想、各ルートの見どころなどについて伺っている。作品のみならず、シナリオライターとなったきっかけや今後の新作など、王雀孫さんご自身についても話していただいた。王雀孫さんが書いた名作のテキスト同様、どれも魅力あふれる回答となっているので、ぜひぜひご覧いただきたい。

――まずはPC版『俺たちに翼はない』の制作経緯、コンセプトを教えてください。

『俺たちに翼はない』

 新作の企画書を作成するにあたって、僕はまず自分のやりたい方向性を列挙してみました。まずは定番のボーイミーツガールな王道ラブコメディ。次いで孤立した主人公の視点で語られる感傷的な恋愛抒情詩(じょじょうし)。そして王道に対するカウンターカルチャーとしてのアングラな青春ストリート活劇。これらの企画を並行して膨らませてゆくうちに、ありがちなのですが、いずれにも深い愛着が湧いてきて全部をやってみたいと思うようになってしまいました。

 まったく空気の異なるこれらを一本に収めるにはオムニバス形式にするしかないのですが、それは美少女ゲームという分野においてあまり歓迎されないフォーマットです。ただのオムニバスでは上層部からのGOサインももらえないだろうと思い悩みに悩んだ結果、今の形に行きつきました。まだPC版やアニメ版を未体験の方はぜひプレイしていただいて、あるタイミングでなるほどと手を打ってやってください。

――タイトルにはどのような意味が込められているのでしょう? ネタバレにならない範囲で教えてください。

 “俺たち”というのは狭義には主人公たちであり、広義には登場人物たち全員、そしてもっと拡大解釈すればこの現代社会に生きるあまねくすべての人間たちということになります。彼らは決して完璧な存在ではなく、皆何かが欠落しているものではあるまいか、といったようなニュアンスを込めております。プレイ中、新たなキャラクターが登場するごとに「このキャラは何が欠けてるのかしら?」などと詮索しながら読み進めていただく楽しみ方もいかがでしょうか。

――『俺たちに翼はない』の移植が決定した時、どのような感想を持たれました?

 「え、無理でしょ?」という疑念が晴れず、しばらく実感が湧きませんでした(笑)。

――コンシューマでは難しい表現が多々出てくると思うのですが、移植する際に苦労された部分はありましたか?

 なにせPC版は移植前提の作りをしておりませんでしたので、およそ苦労ばかりでした。ですからPC版をプレイされたユーザー様におかれましては、たとえば「余は射精がしたい」「○に陰○を挿入するゲーム」「下品な言葉も平気で叫んだ! ×んこ×んこ×んこ!」辺りの好き勝手やり散らかしたひどい個所を、牙の抜かれた虎である僕が今回どのように折り合い付けたのか見届けて「おいwwww」と苦笑していただければ幸いです。

『俺たちに翼はない』
▲王雀孫さんの心の声と思われるテキストも本編で楽しめる。

――ここだけ読むと未プレイの人たちが誤解してしまいそうなので(笑)、改めて『俺たちに翼はない』の魅力や注目ポイントを教えていただけますか。

 同じ場所でも主観によって景観はまったく異なる、というのが本作のテーマの1つでもあります。ライターとしては、語り手(主人公)が変わればテキストの筆致も一変するよう留意しました。またBGMについても同様で、各章ごと性格の異なる楽曲群を用意してもらいました。

 例えば感傷的な語りの際立つ羽田鷹志編ではピアノやストリングスのアコースティック感を強調した生演奏にこだわっていますし、バイト先の喫茶店が主な舞台となる千歳鷲介編ではジャズ色の強いラウンジミュージック、夜の繁華街に集まるアウトローたちの物語である成田隼人編ではクラブシーンやライブハウスを意識したロックやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)で固めています。これらを1つのパッケージに詰めこんだごった煮感、しっちゃかめっちゃか感を楽しんでいただければ幸いです。

――ここからは各主人公のシナリオについて伺いたいと思います。まずは羽田鷹志編の見どころを教えてください。

『俺たちに翼はない』

 この『おれつば』という作品は、“真冬の厳しい寒さの中で愉しむホットレモンのような”と形容しているのですが、物語の幕開けを担う羽田鷹志編はとりわけ“真冬の厳しい寒さ”を象徴する空気に満ち満ちております。

 個人的には鷹志君の不器用な生き方や異世界グレタガルドでのご都合主義にも程がある活躍っぷりに飛びっきりのおかしみ、あるある的なユーモアを込めたつもりなのですが、残念ながらちょっと好みの分かれるユーモアだったようです。しかし後半になれば鷹志君を取巻く世界が徐々に温かなものとなっていきますので、どなた様もどうぞ出来の悪い子どもの成長を見守る母のような目でプレイしていただければと思います。

――千歳鷲介編の見どころを教えてください。

『俺たちに翼はない』

 鷹志編の見どころはだいぶ言葉に迷いましたが(笑)、こちら鷲介編はだいぶシンプルに、萌えて笑える会話劇をお楽しみくださいと申しあげられます。実際いただいた感想などを見ると、単体ではこの章がもっとも人気があったように思います。なにせ鷹志編や隼人編で王道とは言いがたい方向性を目指してしまった分、ここではひたすら王道に徹しました。とある男性キャラのせいでだいぶ下ネタ多めになってしまったのはご愛嬌ということでお許しいただければ幸いです。

――成田隼人の見どころを教えてください。

『俺たちに翼はない』

 後の『電車男』などで顕著となりましたが、一般人にとってアキバ系カルチャーが未知の世界でありそれを垣間見せることがエンタメとして成立するのなら、その逆もありえるのではと思ったのがこの隼人編の始まりでした。

 残念ながら僕はリア充文化に縁のない人間だったのでリサーチがだいぶ偏ってしまったのですが、一応ある種の現代社会を切り取りつつコメディとしてデフォルメしてみました。構想当時から十年以上経っていてすでに時代錯誤な部分も多々ありますが、メンマやプラチナ、エージ、咲夜など実在の人物をモチーフにしたキャラたちも多く、一見なにを考えているか分からない異世界の住人っぽい彼らも根っこはみんな同じ人間なんだなあなどと感じていただければ幸いです。

――今回、新たに林田美咲ルートが追加されましたが、美咲ルートの魅力、見どころについて教えてください。

『俺たちに翼はない』

 すでにPC版の発売から五年、アニメ放映からでも三年が経過しての移植ということで僕が思ったのは、新規のお客さんはどのぐらいいるのだろうということでした。ありがたいことにこの『おれつば』というコンテンツは深く長く愛してくださっているユーザーさんが多く、移植決定が報じられた際にも旧来のファンの方々からうれしいです買いますという声をたくさんいただけました。

 今回の新規追加部分では彼ら彼女らに対する恩返しの意味も込めて、美咲との恋物語に終始せず、PC版で消化しきれなかった要素についても詰めこめるだけ詰めこんでみました。また明日香様という絶対の存在がいるのに鷹志が他の子に走るなんてありえない、と思っていらっしゃる方もおられると思いますが、そこはもちろん僕もそう思っていますので、ちゃんと説得力のある設定を用意してございます。新しいお友だちも永らくのお友だちもどうぞご安心して楽しんでいただければ幸いです。(ところで皆さんPC版のころから存在した京ルートって忘れてませんよね……?)

『俺たちに翼はない』 『俺たちに翼はない』

――書いていて一番楽しかったルートはどれでしょう?

 世間でライターのオ○ニーなどとも呼ばれている“あのルート”は実際書いててすげえ気持ちよかったです。すぽんすぽん。

――特に気に入っているキャラについて教えてください。

 優等生ぶるわけじゃないんですが、実際自らの腹(?)を痛めて産みだした子たちですから出番の大小にかかわらず等しく全登場人物に深い愛着を持っております。ただ出来の悪い子ほどかわいいなどという言葉もあります通り、世間で人気の薄いキャラほど作者が愛してあげねばという気持ちはあります。たとえばメインヒロイン4人の中でいつも人気投票最下位だった某妹キャラ(ストップです)。

『俺たちに翼はない』
▲ストップです。

――書かれる際に特に苦労されたキャラはいらっしゃいますか?

 過去編などで登場する羽田鷹志の幼少期版は、限られた子どもの語彙しか使えないので苦労しました。当時同年代だった甥っ子の言葉に耳を傾け「ぜっこーすんぞ」「バリア張った」「いのち賭ける」などの子ども言葉を必死にメモった覚えがあります。

――『俺たちに翼はない』以外で、王雀孫さんが携われた作品の中で移植をしたいタイトルはありますか?

 僕の執筆パートはそう多くないのですが、企画自体にはキャラ造形ふくめ最初から最後までがっつりかかわっていた『月に寄りそう乙女の作法』はおかげさまで評判もよく、女性ユーザーや若い方にもぜひプレイしていただきたいので5pb.さん、いかがでしょう。返答次第によっては尻を出せ。

――シナリオライターとなったきっかけ、経緯などについて教えていただけますでしょうか?

 もともと学生時代から文学かぶれで趣味で小説などを書いていたもので、大学卒業後なんとなく流れで小さい出版社に勤めだしたものの、いつか文字を書いてメシを食えたらなあなどとぼんやり考えていたところ、知人がエロゲ会社を立ちあげたというので拾ってもらいました。当初は文筆業未経験ということで営業配属だったのですが、先輩ライターのあごバリアさんが早い段階で一人前のライターとして推挙してくださったのですぐにシナリオ専任となりました。今でも感謝しています。

――初めて執筆された作品はどのような内容だったのでしょうか?

 商業作品では『21 TwoOne』という作品のパラレル的なおまけシナリオを担当させていただいたのが最初になります。趣味のレベルでは……中学ぐらいに身内でやっていたテーブルトークRPGのリプレイ小説だったような。思い出しただけで嫌な汗が吹きでるような内容ですが。

――シナリオを執筆される際に、特にこだわっている部分、気をつけているところはありますか?

 自分は小説寄りの情報過多な筆致を好む分、読んでて疲れないような一読してすんなり頭に入る文字の並びを心がけています。例えば修飾語と被修飾語は極力近い位置に置くですとか、助詞を調節して潜在的に日本人の好むリズムに整えるですとか。また限界はありますが、会話文はなるべく生の口語体を再現しているつもりです。

『俺たちに翼はない』 『俺たちに翼はない』

――キャラクターをうまく作り出すコツはなんでしょう?

 自分の場合ですが、リアルな人間っぽさが宿ると一気にキャラが立ちあがってくるという感触があります。ゲーム的にデフォルメされた突飛なキャラであっても、そうした言動をとるに至った背景が出そろうと(僕の中では)リアルな人間っぽさが感じられて以降すんなり動かせるようになります。

 よくやるのは、そのキャラがふだん家族とどんな会話をしているのかシミュレートすることです。例えばYFBやR-ウィングのブッ飛んだあいつらが、家でオカンとメシ食ってる時はどんな口調なのか。するといろんなことに理由が付いてきて、二次元的なキャラクターが裏設定豊かな人間になっていきます。気がします。たぶん。

――アイデアを出したり集中力を高めたりするためにやっていることはありますか?

 例えばシナリオの続きを書く時なら、そこまでの流れをもう一度読み込むのがいちばん高まるのは間違いないのですが、そこが自分で納得のいく出来でなかった箇所の場合うわあああああと身悶えしてなかなか読み進められないので難しいところです。

――影響を受けた作品や、作家・シナリオライターはいらっしゃいますか?

 トールキンで厨二心を養い、太宰で自意識をこじらせ、氷室冴子でエンタメに目覚めた王雀孫ですこんばんは。

――今後、書いてみたいジャンル、挑戦してみたいことはありますか?

 長大な文章を書くことに疲れてしまい裏方に回って久しい状態ですが、いつか再びメインライターとして一本のゲームを作りたいという野望はあります。しばらくはちょっとした仕事が続くと思いますが……。

――王雀孫さんの新作の予定などありましたら、教えてください。

 ちょっとした仕事の一つとしてライトノベルとか書いてみました。諸々の事情で詳細はまだお伝えできませんが、すでに入稿済みなのでいつか出るのは間違いないと思います。

――PS3/PS Vita版『俺たちに翼はない』を楽しみに待っている読者へ、メッセージをお願いします。

 新しいお客様。ちょっと癖のある作品ではありますが、萌えと笑いとほんのりええ話がごちゃっと詰まったこの一本、ぜひこの機会にお試しいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 おなじみのお客様。お久しぶりです。恥ずかしながら帰って参りました。新規追加部分だけでなく、既存の部分も地味に演出強化など施しておりますので、この機会にまた柳木原とグレタガルドを改めて一から散策していただければ望外の喜びであります。どうぞよろしくお願いいたします。

→『おれつば』羽田鷹志編レビュー&林田美咲ルートの感想はこちら!

→『おれつば』千歳鷲介編のレビューを掲載中!

→『おれつば』成田隼人編のレビューを掲載中!

→『おれつば』をプレイしたアフィリア・サーガ ユカフィンさんの感想は?

(C)Omegavision, Inc. (C)2013 MAGES. / 5pb.

データ

関連サイト