2014年4月17日(木)
MAGES.のゲーム&音楽ブランド5pb.から4月10日に発売されたPS3/PS Vita用ADV『俺たちに翼はない』のレビュー最終回をお届けします。
▲アイキャッチの時点で、これまでとはまったく異なる物語を予感させます。 |
今回は、4人目の主人公・伊丹伽楼羅(いたみ かるら)と5人目の主人公・ヨージのルートを紹介します。……そうなんです。事前情報で“3人の主人公”と口を酸っぱく言っていましたが、『俺たちに翼はない』の主人公は5人存在するんです! いや、正確には6人かもしれない!!
はい、この時点で記事の見出しに偽りアリかもしれませんが、ここだけは許してください。以降は、なるべくネタバレしない方向(できるだけ)で2つのルートの内容と感想をお届けしていきますよ。
これまでの主人公で朝・昼・夜の大都市“柳木原”が描かれてきました。4人目の主人公である伊丹伽楼羅編で描かれるのは、たったの1日。1日でありながら、下で紹介する“とある人物”との濃密で濃厚で官能で……そしてはかない物語が展開します。
【メインキャラクター】
主人公:ガルーダ/伊丹伽楼羅(声:稲田徹)
第4の主人公は、白髪で左目に眼帯を付けた一見ただの中二病の男。自分のことをグレタガルドの国王・ガルーダと名乗ります。攻撃的かつ突拍子もない行動をとる危険な男で、一瞬前まで冷静だったかと思えば、自分や周囲の発言に激昂して暴走、近くにいる人間に襲いかかるなど、つねにタガが外れたような人間です。
多数の次元を渡り歩いていると語り、グレタガルドの王という姿もそのうちの1つ。さまざまな自分の前世を語っては、周囲やプレイヤーを笑わせてくれます。「すぽん、すぽん」「うぉんむ、うぉんむ」「ばふん」などの独特な言葉づかいが特徴。画面上のテキストと実際の音声がかい離している場面が多く登場し、そのかい離っぷりが非常に笑えます。“笑い”ばかりに目がいきがちですが、本作のことを深く理解すると、カッコよさとかわいらしさ、一途ないじらしさも感じられるはずです。
▲軽部狩男に匹敵するぐらい名セリフがあるガルーダ。このルートも、ご家族の前ではプレイしないほうが安全です(笑)。 |
メインヒロイン(?):フェニックス/皇帝(声:日野聡)
10年前に伽楼羅と出会い、再び会えることをずっと夢見ていた……というバックボーンもあって、伽楼羅編の皇帝は無邪気でとても幸せそうです。心から笑っている皇帝を見られるのは、伽楼羅編か隼人編のエピローグだけな気がします。ネタバレになるので伏せますが、伽楼羅に向けて断片的に語られる皇帝の過去を知ると、なぜここまで歪んでしまったのかが理解できるようになり、彼に感情移入してしまうはずです。
【主なサブキャラクター】
▲レイヴン/ハリュー・クロード(声:川原慶久)……伽楼羅編のサブヒロイン(?)。童心に返って、伽楼羅・皇帝・ハリューの3人で遊ぶ姿はとても微笑ましいです。 | ▲羽田小鳩(声:又吉愛)……伽楼羅から“プリンセス・ダヴ”と敬われる少女。これまでの主人公と同様、小鳩は伽楼羅とも知り合い。 |
伽楼羅編の最大の魅力は、会話のおもしろさ! 今までのレビューでも“王雀孫さんのテキストがおもしろい”なんて書いていましたが、今までとはベクトルがまったく異なるおもしろさが描かれます。というか、(いい意味で)頭がおかしいです!! さすが、王雀孫さん自身が“書いていてすげぇ気持ちよかった”と語っていただけのことはありますね。ここは、TVアニメ版も最高でした!
▲フェニックスとレイヴンにいじられるグレタガルド国王の図。 |
「余は写生がしてみたい!」と皇帝に告げ、皇帝が用意した極上のモデルの絵を描くため、夜の街に連れられる伽楼羅のシーンは傑作です。……それにしても、写生て……よく切り抜けたと思います(笑)。このシーンは、原作ファンはオリジナル版との違いに注目し、コンシューマ版から入った人は、原作ではどんなシーンだったのかを想像してみてください。個人的にここの一連のシーンには腹を抱えて笑いました。
伽楼羅自身が次にどのような行動を起こすかわからない人物なので、次に何が起こるのかまったくわからないジェットコースターのようなシナリオも魅力。「げらげらげら!」と楽しそうに笑うハリューや超絶ハイな皇帝と一緒に、伽楼羅との“遊び”を童心に返って楽しみましょう。
▲今までのルートとはテンションが違いすぎて、初見では戸惑うかもしれません。 |
ものすごく笑えるルートなのですが、いろいろと事情を知った後にプレイすると、とても悲しいシナリオに変わります。このレビューを書いている間も、伽楼羅の想いとバックボーンを思い出して涙ぐんでいるほど……。プリンセス・ダヴ(小鳩)と再会して自分の役目に気付いた時の内面描写とその後の行動は切なく、そして自分の役割を貫く姿は非常にカッコいいです。
ちなみに、林田美咲ルートのレビューでは存在自体がタブーだったので言及できませんでしたが、伽楼羅は林田ルートでも登場します。「○○ちゃんパワー」を最大にして活躍する伽楼羅の姿に心打たれてください。
ヨージ編には、鷹志編・鷲介編・隼人編のエンディングを見た後に追加される選択肢を選ぶことで入ることができます。満を持して、メインヒロイン4人の中でこれまでもっとも目立たなかった妹キャラ・羽田小鳩のエピソードが描かれるグランドルートです!(笑)
【メインキャラクター】
主人公:ヨージ(声:中村繪里子)
最後にしてすべての始まりの主人公。ネタバレの関係上、これ以上何も書けません……(汗)。
メインヒロイン:羽田小鳩(声:又吉愛)
羽田鷹志の妹で、通称・ぽっぽ。これまでのルートでは苦笑いやそっけない態度ばかり見せていた小鳩ですが、ヨージの前では無邪気で年相応な態度を見せてくれます。これまでほとんど出番がなかったせいか、ヨージ編では一緒にお風呂に入ったり、トイレを使用中にドアを開けられちゃったりと、サービスシーンが満載です。
【主なサブキャラクター】
▲吉川あきら(声:友永朱音)……小鳩のクラスメイトで親友の少女。小鳩から兄のいいところばかりを聞かされ続けていたため、小鳩の兄にほのかな恋心を抱いています。疑うことを知らず、よく間違った知識を植え付けられているような天然なところがかわいらしい女の子です。 |
その他、これまでのルートに登場したほぼすべてのキャラクターが再登場しますが、ここでは割愛します。詳しくは、これまで掲載した3本のレビューでご確認ください!
ヨージ編は、『俺たちに翼はない』の大体のエンディングを見てから到達するルートなので、一度終わった物語の続きを見ているかのような体験、オマケ感を得られるところが魅力の1つです。これまでのルートに登場したほぼすべてのキャラが登場し、さらには全ルートの主人公まで集結し、非常にコミカルな日常が描かれていきます、前半は。
▲開始時に専用のオープニングムービーが流れ、ほとんどすべてのキャラが登場するグランドルートがヨージ編です。 |
後半は、徐々に徐々に日常にほころびが生じていった結果、小鳩の過去、『おれつば』のすべての始まりに視点を移していく……というような物語になっています。全ルートの中で、もっとも“身近な重さ”が感じられるルートです。
ゲーム画面を撮影する際に、1文レベルで気を使ってしまうほどネタバレが怖いルートで、これ以上はもう何1つ書けそうにありません(笑)。しかし、あと1つだけ言わせてもらえるならば、長年、耐えに耐えてきた少年と少女が救われる様をゲームをプレイして見届けてください、ということでしょうか。
発売直前ニコ生でハリュー・クロード役の声優・川原慶久さんが言っていたように、本作は最後までプレイして絶っ………………体にっ! 後悔しない名作です!! 1本のゲームで4本もレビューを書いてしまう、そして書けてしまうのがその証拠だと思います。総プレイ時間が60時間という長大な物語ではありますが、自信を持ってオススメできる作品なので、ADVファンと言わず、物語が好きなすべての人にぜひプレイしてほしいです!
以上、4回にわたってお届けした『おれつば』レビュー企画でした。それでは、いつもの言葉でお別れです。……世界が平和でありますように。
→第1回 羽田鷹志編レビュー&林田美咲ルートの感想はこちら!
→【読プレあり】本作をプレイしたアフィリア・サーガ ユカフィンさんの感想は?
(C)Omegavision, Inc. (C)2013 MAGES. / 5pb.
データ