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2014年5月13日(火)

史実の戦車戦を再現した『WoT』の“ヒストリカルバトル”――その背景となった第二次世界大戦の歴史をミリタリーアドバイザーが解説!

文:チョロ松

 オンライン戦車ゲーム『World of Tanks(ワールド オブ タンクス)』(以下、WoT)では、4月17日のアップデート9.0にて、新たなゲームモード“ヒストリカルバトル”が追加された。その背景となる史実での出来事や、このモードの今後の展望を解説するプレス向けの説明会が、ウォーゲーミングジャパンの社内にて行われた。

『World of Tanks』
▲ヒストリカルバトルについて解説してくれたのは、ウォーゲーミングジャパンでミリタリーアドバイザーを務める宮永忠将さん。

 『WoT』のヒストリカルバトルは、第二次世界大戦などで起こった実際の戦車戦をゲームの中で再現するモード。ウォーゲーミング社が2014年に進めていこうとしているプロジェクトの1つの大きな土台になっている。さらに、このヒストリカルバトルに込められた狙いには、『WoT』だけでなく、今後登場する『World of Warplanes』や『World of Warships』の先々への展開に関するヒントが隠されているのだ。

 『WoT』の開発元であるウォーゲーミング社は世界各地域に専任のミリタリーアドバイザーを置いており、今回の説明会で解説してくれた宮永忠将さんはその中でアジア地域全体を担当している。その宮永さんから最初に提示されたのは、“WARGAMING and Militaria(ウォーゲーミング アンド ミリタリア)”というキーワード。ミリタリア(Militaria)とは軍事関係の収集品という意味で、転じてミリタリーファンあるいは軍事オタクを示しているとのこと。ウォーゲーミング社は、そういった人たちがさまざざまな情報を発信して、さらにゲームをおもしろくしてくれることを期待しているのだそうだ。

『World of Tanks』

■ウォーゲーミングが取り組む軍事技術保存活動

 ウォーゲーミング社はゲームの開発・運営だけにとどまらず、ミリタリーに関するさまざまな文化の発展を手助けするというプロジェクトを推進している。今年の5月にモスクワのクビンカ戦車博物館でスタートした、ドイツの超重戦車・マウスの復元プロジェクトもその1つ。マウスは戦争集結間際にドイツが完成させた巨大な重戦車で、『WoT』でもTier Xで登場する。この復元プロジェクトでは、エンジンおよびモーターを積み込んでの自走化が図られる他、設計図(ブループリント)を基にした内装の完全再現も行われる。

『World of Tanks』

 このマウスが“発見”されたのは、1980年代後半のこと。ソビエト連邦が健在だった東西冷戦時代に「モスクワに戦車の博物館があるらしい」ということが西側諸国に伝わったものの、外国人が見学するのは難しい状態だった。しかし“グラスノスチ”(情報公開)の政策が進む中で、フィンランドのテレビ会社がこの博物館を取材。その番組で、映像の背景にチラリと映ったマウスの姿に気づいたミリタリアの人たちが、「あれはマウスじゃないか!?」と食いついたのだそうだ。

●超重戦車マウス 復元プロジェクト(日本語字幕あり)


 さらにウォーゲーミングは戦車だけに限らず、さまざまな軍事技術の保存活動に参加しており、ドーバー海峡に沈んでいたドイツ・ドルニエ社の双発爆撃機“Do-17 Z-2”の引き揚げにもスポンサーとして協力を行っている。この機体は、現存している唯一のDo-17 Z-2となっており、1940年の8月26日にRAF(イギリス空軍)の第264戦闘機中隊(デファイアント)に撃墜されたことがわかっている。かなり朽ち果てた状態ではあるものの、整備・復元を行った後にRAFミュージアムに寄贈され、館内に展示される予定だ。

『World of Tanks』
『World of Tanks』 『World of Tanks』
▲RAFミュージアムには既に展示予定スペースが設けられており、実機の到着を待っている状態だ。

●Do-17 Z-2 引き揚げプロジェクト(日本語字幕あり)


 この他、ミャンマー(旧ビルマ)のヤンゴン(旧ラングーン)周辺に埋設遺棄されたスピットファイア戦闘機の発掘作業が2012年12月から進められているが、その資金も提供しているとのこと。今後も各国の軍事博物館や記念館との協力を強化して、ミリタリー文化を盛り上げていく予定となっている。

 ちなみに宮永さんの夢は、和歌山県沖の深海に沈んでいると言われている航空母艦・信濃(大和型3番艦)を発見することだそうで、その話をベラルーシの本社に伝えたところ、「億単位のお金が掛かるのでちょっと待ってて」と返答されたそうだ。

『World of Tanks』 『World of Tanks』
▲ウォーゲーミングジャパンの社内に飾られていた大和のアートワーク。実際のゲームデータからレンダリングされたCGなのだそうだ。

 なぜウォーゲーミングがこのような活動を積極的に行っているのには、いくつかの理由がある。保存活動が話題になれば、それがゲームのPRにつながるというのが1つ。またゲームの開発には、膨大な量の資料やミリタリアの人たちが持つ知識・意見が必要になるのだが、このような活動を進めていくことで新たな資料を発見し、ミリタリアの人たちに新たな情報を提供して利益を還元できるというのが、もう1つの理由だ。

 そして、そこから得られたフィードバックをもとにゲームをより上質なものへ進化させ、ゲームファンとミリタリア、そしてウォーゲーミングがともにミリタリーエンターテインメントの文化を確立していくというのが、最終的な目標となっている。

『World of Tanks』

■ミリタリアを魅了するヒストリカルバトル!

 『WoT』のヒストリカルバトルは、ミリタリアの人たちにアプローチするためのコンテンツでもある。現在は、クルスクの戦い(1943年7月)、バルジの戦い(1944年12月)、春の目覚め作戦(1945年3月)の3つのシナリオが楽しめるのだが、それぞれの全体的な概要が宮永さんから説明された。

『World of Tanks』

●クルスクの戦い(1943年7月)

 第二次世界大戦の中盤、ロシア南西部のクルスクにできたソビエト軍の巨大な突出部(約500km)に対して、90万人規模(戦車2,700両)のドイツ軍が南北から“ツィタデレ作戦”という挟撃作戦を展開したのが“クルスクの戦い”。

 ドイツ軍の指揮官であるマンシュタイン将軍は5月の作戦開始を主張したが、パンター中戦車やエレフェント駆逐戦車の量産配備が優先されたため、作戦は7月までずれ込んだ。ソビエト軍はこの間に対戦車陣地を構築するなど、万全の迎撃態勢を整えてしまう。結果、北からの攻撃は早々に頓挫。南からの攻撃は成功しかけたが、プロホロフカの戦車戦で消耗しつくしたドイツ軍は西側連合軍によるシチリア上陸作戦に備えるため、ツィタデレ作戦を中止してしまった。

『World of Tanks』
▲図版は『第二次世界大戦通史』(原書房)より。

●バルジの戦い(1944年12月)

 東西からの挟撃にさらされたドイツ軍は、強力だが打たれ弱い西側連合軍を決定的に叩いて時間を稼ぎ、全軍でソビエト軍に対抗するという戦略を画策する。そのターゲットとして選ばれたのは、ベルギー南部のアルデンヌ森林地帯。1940年の5月にはこの森を戦車部隊が突破して、フランス軍を降伏に追い込んだこともある。

 2個装甲軍によるドイツの奇襲は成功したが、高度で柔軟な通信網と膨大な機械化戦力、そして潤沢な航空戦力を用意した西側連合軍に進攻を阻まれてしまう。結果、作戦開始から1週間が経過すると、戦線には巨大な突出部(バルジ)が現れた。それは、ドイツ軍が突破に失敗した姿であった。

『World of Tanks』
▲図版は『第二次世界大戦通史』(原書房)より。

●春の目覚め作戦(1945年3月)

 西の要衝であるライン川が西側連合軍に突破され、東ではソビエト軍がベルリンから目と鼻の先にあるオーデル川に迫っている状況。ここに至っても、ドイツは勝利をあきらめていなかった。戦争を長期にわたって継続するのに必要な石油を求め、ハンガリーの油田を確保するために最後の機械化戦力を投入したのがこの作戦だ。

 3月6日に始まったこの作戦。ドイツが保持していたあらゆる戦力が投入されたため、登場する戦車も非常に派手で、『WoT』のヒストリカルバトルでも華々しい戦車たちが登場する。

 ドイツ軍は緒戦こそ奇襲に成功したものの、雪解けによって泥がぬかるんだ状態になった戦場で頼みの重戦車が身動きできない状態になり、燃料不足に陥って次々と車両が遺棄された。混乱から立ち直ったソビエト軍は、3月16日には反撃を開始。ドイツ軍は成す術もなく敗退し、4月16日にはウィーンが陥落してしまう。そして首都ベルリンでも、最後の市街戦が始まろうとしていた――。

『World of Tanks』
▲図版は『第二次世界大戦通史』(原書房)より。

■歴史を知るとヒストリカルバトルがさらにおもしろく!

 これらの戦いがどのような状況で発生したのかがわかるよう、第二次世界大戦の全体の流れについても解説があったので、まとめて紹介しておこう。これらを理解しておくと、今後実装される新たなヒストリカルバトルのシナリオを、より深く楽しめるだろう。

『World of Tanks』

●第二次世界大戦、勃発(1939年9月~)

【主な戦史・事件】
・ドイツ軍がポーランドに侵攻。ソビエトとともにポーランドを分割
・ソビエト軍がフィンランドに侵攻(ソ=フィン戦争)
・ポーランドの同盟国である英仏西側連合軍がドイツに宣戦布告するものの、戦争の準備が出来ていなかったため、積極的には戦闘を行わない“奇妙な戦争”状態に

【この次期の主な戦車】
・ドイツ……I号戦車、II号戦車、35(t)、38(t)
・ソビエト……BT-5、BT-7、T-26 、T-70
・ポーランド……TKS豆戦車、7TP軽戦車(未実装)
※実質的に戦車戦は発生せず。


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●独ソ戦(1941年6月~)

【主な戦史・事件】
・1940年4~6月:ノルウェー、低地諸国、フランスが降伏(ドイツが鉄鉱石の輸入ルートを確保)
・1940年7月~:バトル・オブ・ブリテンでドイツは負けに近い引き分けに
・1941年2月~:リビアを失いかけたイタリアを支援するため、ドイツのロンメル将軍がアフリカに上陸
・1941年4~5月:ドイツがイギリス上陸を防ぐためにバルカン半島に侵攻
・1941年6月:独ソ戦が勃発。

【この次期の主な戦車】
・各国……Tier II~Tier IVの車両
・ソビエト……Tier II~Tier V(T-34が登場)

【ヒストリカルバトルに登場しそうな戦い】
・西方電撃戦……フレネー、ストンヌ、アラスの戦い
・北アフリカ……クルセイダー作戦、ガザラの戦い
・独ソ戦……スモレンスク攻防戦(その他は地形のバリエーションで)


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●スターリングラードの戦い(1942年11月~)

【主な戦史・事件】
・1941年10~12月:ドイツがモスクワ攻略に失敗(異常気象が大きな原因に)
・1942年1月~:ソビエトの冬季反攻
・1942年6月~:ドイツがコーカサスに侵攻(戦争の長期化を見据えて油田の確保を画策)
・1942年6~10月:スターリングラード攻防戦
・1942年11月:エル・アラメインの戦い
・1942年11月:ソビエトのウラヌス作戦によってドイツの将兵30万人が降伏

【この次期の主な戦車】
・各国:Tier III~Tier VI(ドイツのタイガー戦車が登場)

【ヒストリカルバトルに登場しそうな戦い】
・モスクワ攻略……雪中戦、冬季反攻など
・スターリングラード……市街戦、ウラヌス作戦、冬の嵐作戦
・北アフリカ……アラム・ハルファ、エル・アラメイン


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●クルスクの戦い(1943年7月~)

【主な戦史・事件】
・1943年3月:第三次ハリコフ戦
・1943年4月:チェニジア攻防戦
・1943年7月:クルスクの戦い
・1943年7月:シチリア島上陸作戦
・1943年8月:ルミャンツェフ攻勢
・1943年9~12月:東ウクライナ攻防戦

【この次期の主な戦車】
・各国:Tier IV~Tier VIII(ソビエトはレンドリースで各国から戦車を調達)

【ヒストリカルバトルに登場しそうな戦い】
・チェニジア……アメリカ軍登場
・シチリア……アメリカ、イギリス連合軍
・ルミャンツェフ以降……防衛側のドイツ軍


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●ノルマンディーの戦い(1944年6月~)

【主な戦史・事件】
・1944年1月:アンツィオ攻防戦
・1944年4月:ウクライナ解放戦
・1944年6月:ノルマンディー上陸作戦
・1944年6月:バグラチオン作戦
・1944年8月:ファレーズの戦い
・1944円9月:マーケットガーデン作戦

【この次期の主な戦車】
・各国:Tier V~Tier VIII

【ヒストリカルバトルに登場しそうな戦い】
・アンツィオ……山岳戦
・ノルマンディー……ヴィレル・ボカージュ、バルクマン・コーナー、コブラ作戦
・マーケットガーデン……防衛側のドイツ軍


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●バルジの戦い(1944年12月~)

【主な戦史・事件】
・1944年9月:アラクールの戦い
・1944年9月:ゴシック線の戦い
・1944年12月:バルジの戦い
・1945年1月:コンラート作戦

【この次期の主な戦車】
・各国:Tier V~Tier VIII(タイガーIIなどが登場)

【ヒストリカルバトルに登場しそうな戦い】
・アラクール……パンター旅団の戦い
・バルジの戦い……バストーニュ、サン・ヴィト、オットンなど


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●春の目覚め作戦(1945年3月~)

【主な戦史・事件】
・1945年1月:バルジの戦い(追撃戦)
・1945年3月:ライン川渡河作戦
・1945年3月:春の目覚め作戦
・1945年4月:ベルリン攻防戦

【この次期の主な戦車】
・各国……Tier V~Tier VIII
・ドイツ……Tier V~Tier X

【ヒストリカルバトルに登場しそうな戦い】
・ライン渡河……渡河強襲
・ベルリン攻防……ドイツ試作戦車群


■宮永さんの考えるヒストリカルバトルの課題とは?

 新たに導入されたばかりということで、『WoT』のヒストリカルバトルにはさまざまな課題が存在すると宮永さんは考えている。まず勝利条件。現状では史実の勝敗が戦闘結果に反映されておらず、敗者側でチャレンジするという動機が薄くなってしまっている。不利な側でプレイした場合には、得られる経験値が多くなる、特別な勲章がもらえるなどの特典があるとうれしいところだ。

 またヒストリカルバトルの戦場において、航空支援や歩兵の砲撃など、勝敗を決定づけた要因が反映されていないことも問題点の1つ。ただし、ゲーム内のマップのスケールを考えれば、必ずしもそういった要因が影響する広さになっているとは限らないので、ビジュアル面などで雰囲気を再現するといった手もあるだろう。

 そして、ゲーム開始前の参加条件の厳しさ。ヒストリカルバトルでは参加できる戦車が限られており、なかなかマッチングが決まらないという問題がある。また車両ごとの本来の運用術が反映されないのが、残念なところだ。

 これらの問題点を解消するためのポテンシャルは十分にあるので、ミリタリアの人たちの積極的な関与や意見交換などを活用して、ヒストリカルバトルがさらに魅力的なコンテンツになるようブラッシュアップをおこなっていきたいというのが、宮永さんの考えだ。ミリタリーアドバイザーとしての見解や、ウォーゲーミングが集めたミリタリー情報などをFacebookなどを通じて発信するプロジェクトも、近々本格的にスタートするとのこと。今後の『WoT』の展開に注目しておこう!

『World of Tanks』
▲『WoT』のオフィシャルグッズとして台湾で製作されたヘルメット型の傘がお気に入りという宮永さん。この傘を開いて渋谷の街を歩いていたところ、周囲の人たちから大いに注目を集めてしまったそうだ。

(C) Wargaming.net

データ

▼『World of Tanks(ワールド オブ タンクス)』
■メーカー:ウォーゲーミングジャパン
■対応機種:PC
■ジャンル:ACT
■配信日:2013年9月5日
■価格:無料(アイテム課金)

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