2014年8月11日(月)
『ソードアート・オンライン』作者・川原礫先生の目標は“10年生き残る”こと! アニメ『SAOII』や新シリーズについても聞いてみた
8月から10月にかけて開催される“進化宣言! 電撃文庫FIGHTINGフェア”。電撃オンラインの特集第1回では、川原礫先生へのインタビューをお届けしていく。
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『ソードアート・オンライン(以下、SAO)』や『アクセル・ワールド(以下、AW)』の著者として有名な川原礫先生。6月には新たな小説シリーズ『絶対ナル孤独者《アイソレータ》』が刊行され、7月にはアニメ『ソードアート・オンライン II』がオンエアされるなど、その勢いはとどまるところを知らない。
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▲宇宙から飛来した謎の生命体《サードアイ》と接触し、異能力に目覚めた人々によるバトルが展開する『絶対ナル孤独者(アイソレータ)』。第1巻は、サメのような鋭い歯でターゲットを噛み殺す能力者《バイター》と、主人公・空木ミノルとの戦闘が描かれる。 |
そんな川原先生に、商業作家として6年目を迎えた今の心境などを伺った。小説・アニメファンはぜひ読んでもらいたい。
■『絶対ナル孤独者』は、Web版から9割以上を書き直した作品
――アニメ『SAOII』や、小説新シリーズ『絶対ナル孤独者』が始動し、デビュー以来常に盛り上がっている印象です。現在の率直な心境はいかがでしょうか?
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▲川原礫先生 |
今年でデビュー6年目に突入し、商業作家としての仕事にも慣れてきて、そろそろ新人とは名乗りづらくなってきました(笑)。でも僕の中では、“デビュー10年目までは新人”というスローガンを掲げつつ、今後も頑張っていきたいと思います。
――『SAO』と『AW』が刊行中のこのタイミングで、新たに『絶対ナル孤独者』を出した経緯とは?
昨年末あたりに、担当さんと今年のスケジュールを相談したのですが、その際に「2014年は今までの年6冊から年5冊刊行にしよう」と話し合いました。その時はそれで合意したんですが、冊数を落とすくらいならすでに存在する『絶対ナル孤独者』を世に出して、年6冊ペースを維持したいと思うようになりました。『絶対ナル孤独者』は『SAO』と同じく、過去にWeb上で連載されていた作品で、ちょっと手直しするくらいで文庫化できるだろうと甘く考えていましたね(笑)。実際には加筆修正にかなり時間が掛かり、『SAO』や『AW』以上に手こずってしまいましたが……。
――現在刊行している3シリーズについて、今後の展望を教えてください。
『SAO』は8月に発売された15巻で、《アリシゼーション》編新章に突入します。これまで作中でにおわされてきた《アンダーワールド大戦》がついに勃発し、『SAO』全体を通じたクライマックスが描かれます。展開が派手で、おなじみのキャラもたくさん登場する予定ですよ。『SAO』は一度Web版で完結している作品ですので、電撃文庫のほうでも無事走り抜けたいですね。
『AW』は10月に出る17巻で新たな展開が始まります。前巻までずっと6月のお話ばかりだったので、17巻では夏らしいカラッとしたお話にしようかと。
『絶対ナル孤独者』については、とりあえず2巻を早めに出したいという気持ちだけですね(笑)。一応Web版では文庫3巻に相当する分量の物語を書いていたので、2巻もいろいろと手直し作業して送り出す形になります。
――『絶対ナル孤独者』第1巻は、Web版から主にどんな点が修正されたのでしょうか?
たくさんありますよ。目立ったところだと、“主人公がメガネでなくなった”、“敵キャラが無職からグルメ評論家になった”、“典江の立場が義理のお母さんから義理のお姉さんになった”などなど。『絶対ナル孤独者』のあとがきでも書きましたが、元の原稿の9割以上を書き直しているので、ほとんど別物です。
――元となるWeb版の『絶対ナル孤独者』はもう取り下げたのでしょうか?
いえ、僕のホームページにそのまま残しています。ただし、Web版を読んだ人でも楽しめるように、文庫版の物語は修正しています。
――『絶対ナル孤独者』は『AW』とは違ったスタイルの異能バトルものですが、この小説で川原先生が描きたかったテーマはなんですか?
正直なところ、当時Web版を連載していたころはテーマなど特に考えていませんでした。キャラクターと世界観だけ考えたら、あとは勢いで書いていましたね。しいてひねった部分を挙げるなら、主人公の能力が攻撃系ではなく防御系で、敵サイドのキャラがそれをあれこれ攻略していく展開……でしょうか。
――『絶対ナル孤独者』では、執筆にあたってロケハンをしたそうですが、他の作品でもロケハンをすることはありますか?
僕は普段はロケハンはあまりしませんね。ただ、『SAO』と『AW』のアニメ化の際に、アニメスタッフの皆さんはものすごく取材をすると知りまして。その影響もあってか、『絶対ナル孤独者』では珍しくロケハンを行いました。できれば、さいたまスーパーアリーナの屋根の上を直接見たかったんですよ(笑)。でも一般者は登れないと知り、近くのビルの最上階から屋根の写真を撮ってガマンしました。
――複数のシリーズを手掛ける際、刊行順はどのように決めているのですか?
先ほども話した、年末に行うスケジュール相談の時にもろもろ決めているんですよ。原稿は1冊ごとに集中して執筆し、その間に他のシリーズを並行して書くことはしません。
――1年にどの作品をどれだけ刊行するかで、担当編集と駆け引きがあったりも?
まあ、ありますよね(苦笑)。僕は3作品どれも同じように書きたいと思っていますが、担当さんには担当さんなりの考えや進め方がありますから。いわゆる、大人の事情というものです(笑)。
――3作品で特に筆が乗りやすいものはありますか?
『SAO』と『絶対ナル孤独者』は元の原稿があって、『AW』はまっさらな状態から書くという違いはありますが、一度執筆に没頭したら掛かる時間は同じです。個人的にツライのは、1つの作業が終わって別の作品に移る時のスイッチの切り替えですね。
――Web小説と紙の小説の違いはなんでしょうか?
Web小説の場合、書いて投稿したらすぐに読者が感想をくれて、その繰り返しがモチベーションに繋がるんですよ。紙の小説は何はともあれ1冊書き切らないといけなく、読者の声も本が出た後に届くので、そういった違いは感じますね。僕が書いていたころのWeb小説はまだ小さい世界で、読者のコメントも好意的なものが多く、とても作家に優しい環境でした。書き手にとってはパラダイスでしたね。
――少しプライベートな質問になりますが、川原先生は普段どのようなスタイルで原稿執筆をしているのですか?
ファミレスにノートパソコンを持ち込んで書いています。今年から自宅作業に少しずつシフトしているのですが、今はまだファミレスのほうがはかどりますね。だいたい午後くらいに入店して、夜中まで書いている感じです。行きつけのお店には、大変お世話になっています(笑)。
――息抜きにゲームなどを遊んだりは?
たま~にする程度ですね。まだ『SAO ―ホロウ・フラグメント―』をプレイしているんですけど、大アップデートがあったりしてなかなかやり込めていません(笑)。
■アニメ『ソードアート・オンラインII』で感じた松岡禎丞さんの底力
――川原先生の小説はアニメ化やゲーム化などされていますが、原作者としてどんな関わり方をしているのでしょうか?
脚本会議に出たり、実際に脚本を書いたり直したりと、アニメにはけっこう関わっています。アフレコにも参加して、その場でセリフの最終調整を行っています。やっぱり、声優さんがセリフを発して初めて気付くこともありますからね。
ゲームについては手が回らないことが多く、ほぼ監修作業です。なにせシナリオの量が膨大なので、気になる部分だけ手を加える感じです。『SAO ―インフィニティ・モーメント―』の時は、最初に見せていただいたシナリオがハードな内容だったので、僕と担当さんでもっと軽くしてほしいとお願いしました。実は『インフィニティ・モーメント』の時点でサチが出るシナリオだったんですけど、それは第2弾の『ソードアート・オンライン ―ホロウ・フラグメント―』で実現しました。
――オンエア中の『SAOII』の手ごたえはいかがでしょうか?
いち視聴者として大変楽しませてもらっていますよ! 日本の六本木とアメリカのロサンゼルスで行われた『SAOII』試写会に参加したのですが、アメリカの観客の盛り上がりが特にすごかったです。キャラが登場したり、セリフを言ったりしただけで場が沸くのは、アメリカのお国柄だと思います。印象的だったのは、人気エピソードで挙げられたサチのお話の中で、キリトがサチに「キミは死なない」と言ったところで会場が爆笑したことです(笑)。「おいおい、フラグ立てんなよ」といった意味だったのではないかと思っています。
――《ガンゲイル・オンライン》でのキリト……通称“キリ子”は、見た目も演技もインパクトがありましたよね。
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キリ子の演技については、松岡禎丞さんは全部で4パターン用意してくださっていたそうです。その中で、もっとも女の子に寄った演技は、本当にカワイイ女の子そのもので驚きました。結局、中間バージョンの演技が採用されたのですが、改めて声優さんの底力を感じさせられました。
キリ子はけっこう女の子らしいデザインで描かれていると思うんですけど、松岡さんの演技が変わることで、女の子に見えたりもしますし、「あ、キリトってやっぱり男なんだな」と思わされることもあります。
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――近年、VR(バーチャルリアリティ)技術が進歩し、『SAO』や『AW』の世界に時代が追いついてきた印象があります。こちらについて、何か思うところはありますか?
脳に直接干渉するシステムはまだまだ難しいでしょうけど、ヘッドマウントディスプレイの技術はどんどん進化していますね。僕もニュースを見るたびに驚かされます。
――最近ですと、VR用ヘッドセット“Oculus Rift(オキュラスリフト)”なども出てきましたね。
Oculus Riftは僕も注目しています。あくまで理想ですが、ヘッドマウントディスプレイと、フィードバック機能付きのデータグローブと、さらにロコモーションインターフェースの3つが揃えば、『SAO』はきっと再現できます(笑)。ただ、以前ヘッドマウントディスプレイでジェットコースターのデモプレイを体験したんですけど、3D酔いしそうだなと(笑)。三半規管をきたえておきますね(笑)。
それとOculus Riftといえば、サムスンと提携するんじゃないかって噂を聞きました。もしOculus Riftが携帯電話と接続できれば、街中でも利用できてさまざまな活用法に繋がるかもしれませんね。
動画:『ソードアート・オンライン』×Oculus Rift
※7月にアメリカ・ロサンゼルスにて開かれていたマンガとアニメの祭典“Anime Expo 2014”に出展されていたもの。
■デビューは早ければ早いほどいい! そして僕と仲よくしてください(笑)
――現在デビュー5周年を迎えた川原先生ですが、デビュー10周年までに成し遂げたい目標などはありますか?
まず10周年まで生き延びることが目標ですね(笑)。電撃文庫で10年続けるって、それだけですごいことだと思うので。
――5年後の10周年の時には、現在の3作品はどんな展開になっていると思いますか?
『SAO』はさすがにWebで公開している部分の刊行は終わっている……はずです。『AW』は何も想像がつきません。『絶対ナル孤独者』にいたっては、連載が続いているかどうかも……(笑)。とりあえず、5年後も物書きを続けている自分でいたいと思います。
――デビュー前と今のご自身を比べて変わった部分はありますか?
昔のほうが、純粋に楽しんで小説を書いてたなあと感じます。今は商業作家であり、担当さんが存在していますので、デビュー前とは書き方・考え方も変わったと思います。
――ちなみに作家としてではなく、読者として本を読む時はどんなジャンルを選ぶのでしょうか?
基本は雑食なのでなんでも読みます。ただ、最近は好きな作家さんの本ばかり読む傾向があるので、今年はいろいろな作家さんも発掘したいですね。
――好きな作家さんというと、具体的にはどなたでしょうか?
僕はトム・クランシーという作家の『ジャック・ライアン』シリーズがとても好きで、リアルタイムで読んでいました。予言じみた内容が描かれていたりして、引き込まれますね。昨年亡くなってしまわれたのが悔やまれます。
――電撃文庫作品も読みますか?
読んではいるんですけど……文章ごしにその作家さんの顔や、考えていることを想像してしまうのが悩みです(笑)。なまじ知っているだけに、無心で楽しめないんです。
――川原先生のファンの中には小説家を目指している人もいると思いますが、そんな人たちにアドバイスを贈るとしたら?
僕の持論は、“デビューは早ければ早いほどいい”です。僕が小説を書こうと思ったのは20歳を過ぎてからですが、10代でもどんどんデビューを狙ってほしいです。後は、とにかく引き出しの量がものを言う業界なので、いろいろな経験をして知識を吸収していってください。そして電撃文庫でデビューしたあかつきには、ぜひ僕と仲よくなってください(笑)。
――読者に向けてメッセージをお願いします。
『SAOII』はこれからどんどん盛り上がっていきます。キャストさんの熱演も含め、あらゆる部分から目を離さないでください。原作小説は、これまでと同じペースを保ちつつお届けしていくつもりです。新しく始まった『絶対ナル孤独者』シリーズと合わせて、これからもお付き合いください。
(C)川原礫/KADOKAWA CORPORATION 2014
イラスト:abec、HIMA、シメジ
(C)2014 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAOII Project
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