2014年9月5日(金)

“Morpheusでの作曲”の構想も!? 佐野電磁さんから『KORG DSN-12』ライブイベントにてDETUNEが描く“ゲーム機用シンセ”の今後を聞く

文:皐月誠

 東京都新宿区・S CUBEにて、8月29日に“Oscilloscope Friday”が開催された。

 “Oscilloscope Friday”は、3DS用ソフト『KORG DSN-12』の発売から2カ月にあたって開催されたライブイベント。『KORG DSN-12』はDETUNEとKORGが共同開発した作曲ソフトで、細かいパラメータ設定による音作りから楽曲制作を楽しめる。イベントは一般参加型となっていて、ヘビーユーザーたちが出演者として招かれた。

 司会進行を務めるのは、ゲームミュージック界ではおなじみのDETUNE代表取締役社長・佐野電磁(佐野信義)さん。そんな佐野さんからは、「酔うとできないかも知れないから」ということで、開演前から早々に“魅惑のリサジューショー”が披露される一幕もあった。

 電子音が響く中、うねる波形が壁一面のモニタへ映し出される光景は実に幻想的。音楽から映像を生み出すオーディオビジュアライザは色々と存在するが、“音そのものを目で楽しめる”状況は、なかなか希少ではないだろうか。

『KORG DSN-12』 『KORG DSN-12』
▲静止画で見ると“ただの線”と思えるかも知れないが、これが観客を異様に盛り上げる! ▲壁一面の波形をバックに背負い、まさにドヤ顔の佐野さん。
『KORG DSN-12』
▲いよいよ開演。波形に包まれる中、皆でカンパイ!

 出演者が披露した楽曲は、シンセサイザーらしいテクノサウンドから、携帯ゲーム機で作られたとは思えないようなストリングス系ダブステップ、繊細なパラメータ調整が音色に感じられるクラシック調など、実に多種多様。『KORG DSN-12』というソフトウェアが持つ、自由度の高さと可能性の幅広さを体感できた。また、佐野電磁さんのFacebookページでは会場の模様を収めた写真や動画が掲載されているので、チェックしてほしい。

『KORG DSN-12』 『KORG DSN-12』
▲楽曲を披露する『DSN-12』プレイヤーの皆さん。演奏後には、佐野さんが楽曲のポイントを尋ねたり勝手に聴いたりするワンコーナーも設けられた。
『KORG DSN-12』
▲表示される波形も、画像のオーロラ状のものや直線的なもの、絡まった糸のようなものなど、音色によってさまざまに変化する。
『KORG DSN-12』 『KORG DSN-12』
▲ミキサーに接続された3DS LL。冷静に見ると不思議な光景だ。 ▲会場には佐野さんが中学生時代に買ったという『KORG MS-10』実機と、開発用に秋葉原で買ったというオシロスコープが、自由に触れられる状態で展示されていた。

 そんな『KORG DSN-12』だが、“自由度の高い作曲ソフト”と聞くと「難しくて手を出しにくい」と思ってしまう人も多いのではないだろうか? そこで、DETUNE代表取締役社長の佐野電磁さんに、初心者へ向けたメッセージを頂いた。

■佐野電磁さんからのメッセージ

 「立派な曲を作ろう」という感じではなく……。例えば、小さいころに粘土を触っていたら変な怪獣ができた、あるいはそれを怪獣とする、みたいな遊びをやるじゃないですか。あの感覚で遊んでもらったらいいかなとは思います。

 今は「ちゃんと作らなきゃいけない」みたいな風潮がありますが、あれはあれでいいんですけど、作曲というより「自分が気持よければいい!」みたいな感じで触れてもらいたいですね。

 買っていただければそれが一番なのですけど、『KORG DSN-12』は実際に見ないと伝わりづらいですよね。なので、興味がある方は僕を呼んでください。自慢しに行きます!! 本気です!!


 その他、『KORG DSN-12』やDETUNEの展開に関して簡単ながらお話を伺ったので、以下に紹介する。

■佐野電磁さんへのインタビュー

――初のユーザーライブイベントですが、開催にあたっての感想をお聞かせ下さい。

 無事にリリースできて、皆様にもご愛顧いただき、大変よかったかなと思います。ただ「もっとパイが広がるといいかな」と思って、このイベントを開催しました。あと、僕が個人的にスーパーユーザーさんの『KORG DSN-12』の音を大音量で聴きたいという理由もあります(笑)。ユーザーさん同士の交流のきっかけにもなればいいですね。

――『KORG DSN-12』発売以降の反響はいかがでしょうか?

 日本での反響はもちろんですが、まだ出ていない海外からの“あれはどういうものか?”、“いつ出るのか?”という問い合わせもけっこうあります。多分、以前の『KORG M01D』よりも多いのではないでしょうか。

※『KORG M01D』……2013年にDETUNEよりダウンロード専用として発売された、3DS用作曲ソフト。2010年に発売されたDS用作曲ソフト『KORG M01』に各種追加要素を搭載したもの。

――『KORG DSN-12』の最大の特徴は3Dオシロスコープだと思われますが、これを搭載しようとしたきっかけは何だったのでしょうか?

 これはもう、一番最初から「3DSの上画面でオシロスコープをやりたい」という気持ちがありました。

――コンセプトありきだったのですね。

 で、オシロスコープをどう表現しようかぼんやり考えていました。JSPA(日本シンセサイザープログラマー協会)理事の齋藤久師さんという、非常にシンセサイザーに長けたミュージシャンの方の家へ遊びに行った時に、アナログシンセとオシロスコープを直結したものを「佐野くん、きっと好きなはずだから」と見せてもらって。それで「うわ、これだ!」と思いました。アナログシンセとオシロの親和性を再認識したというか。

 その時点である程度の原型はできていたのですが、リサジューモードという図形のようなパターンが表示される機能を入れようと思ったのは、齋藤さんの家へ遊びに行って、オシロスコープにそのモードがあることを教えてもらったからです。

『KORG DSN-12』 『KORG DSN-12』
▲リサジューモードを実演していただいている様子。音の波形が二次元的に表現され、さまざまなパターンを描く。

 で、最初は「波形をいくつかレイヤーして3Dでいいかなあ」と思っていたのですが、そういった経緯でリサジューを追加しました。さらに、KORGの開発者の方から「リサジューも単にレイヤーじゃなくてx軸を微分して……」って、未だに僕も自分で言っていてわからないのですが(笑)、「こうやったらおもしろいよ」と言われて、仕様が決定しました。

――オシロスコープを3Dで表現するのは『KORG DSN-12』が世界初となるのでしょうか?

 個人レベルで、PC上で遊びでやってる方は何人か……本当に数えるくらいの方はいらっしゃいましたが、商業的には今までなかったと思いますね。

――『KORG DSN-12』上に再現されているシンセサイザーの『KORG MS-10』は、以前発売された『KORG DS-10』と同様ですが、設計は共通なのですか?

※『KORG DS-10』……AQインタラクティブ(当時)から2008年に発売されたDS用作曲ソフト。2009年には機能拡張版『KORG DS-10 PLUS』も発売されている。

 『KORG DSN-12』は3DS用ということもあり、ゼロから作っています。また、追加されているパラメータもあります。

――『KORG DS-10』から『KORG M-01』、『KORG DSN-12』とシリーズ的にDS・3DS用シンセサイザーを発売されていますが、今後も継続していく予定はありますか?

 3DSに限定したわけじゃないですが、そうですね。今の構想としては、ちょっと別のベクトルで「音はおもしろい」というのを伝えられるといいなあと。

 今回のようにシンセとオシロが一緒になると、音と映像がほぼ完全に同期しているので、今まで全然興味がなかった人でも「音って絵になるんだ。絵って音になるんだ」とわかるきっかけになりますし、なにより気持ちよさは伝わるかなあと。すごいボンヤリした話ですが、今後は、なんかこう“ゲームでも楽器でもない、音もの”を作ってみたいなと思っています。

 あと前からすごく作りたかったのが、“絵と音を同時に作るやつ”ですね。普通は“音ができてそれに合わせて絵を作る”とか“絵にあわせて音を作る”とか、そういう感じで同時に作ることはないですよね。でも今回『KORG DSN-12』を作ってみたら、それを同時にできる感覚がありました。だから、これは「もうちょっとこの感じで膨らませたいな」と思っています。あまりまとまらない話ですが(笑)。

――先の質問と少し被りますが、3DS以外のゲームプラットフォームにおける展開という点ではどうでしょうか。

 もちろんやりたいです。3DSの3D機能を使った今回のように、ハードならではの特性を生かしたソフトを作りたいですね。

――例えば、Xbox OneのKinectで“動きを音にする”ような?

 あーいいですね! あと、すごく気になっているのがPS4のSHAREボタン。あれでゲーム実況ができますけど、あの配信機能に楽器での演奏を乗せたらライブもすぐにできるから、すごいいいなあと思ってますね。PS4と言えば、“Morpheus(モーフィアス)”もとっても気になります。

――“Morpheus”を音楽制作用に……ということでしょうか?

 例えばですけど、3D化したリサジューの中で、音を作りながら遊ぶみたいな感じですね。

――その他、『KORG DS-10』の時に行った“DG-10”のようなプロモーション展開も気になりますが、そういった方面の構想はありますでしょうか。

※“DG-10”……佐野電磁さんのプロデュースによるヴォーカルユニット。メンバーは今井麻美さん(VCO役)、長谷川明子さん(VCF役)、又吉愛さん(VCA役)。『KORG DS-10』発売当時、同ソフトを音源に使用した楽曲がリリースされた。

 あー! すごいやりたいです!! アナログシンセとオシロスコープにご興味のある声優さん、タレントさん、ぜひご連絡を!!


■『KORG DSN-12』紹介

 『KORG DSN-12』は、DETUNEとKORGが共同開発した3DS用のダウンロードソフト。12台のモノフォニック・シンセサイザーを搭載しており、それぞれに3系統のエフェクトを加えることで、非常に幅広いサウンドを作成できる。各シンセサイザーおよびそのシーケンスにはシームレスなアクセスが可能となっていて、DJ感覚の“再生しながら作曲する”といったスタイルでも楽しめる。

 シーケンスによって構成したパターンは、最大64個までメモリー可能。これらを自由につなげていくことで、複雑で奥深い楽曲制作が可能だ。さらに、ユーザー間で楽曲や音色を交換する通信機能も搭載されている。海外発売も行われる予定となっている。

『KORG DSN-12』
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データ

▼『KORG DSN-12』
■メーカー:DETUNE
■対応機種:3DS(ダウンロード専用)
■ジャンル:ETC
■発売日:2014年6月25日
■価格:3,800円(税込)

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