2014年9月25日(木)
東京ゲームショウ2014では『World of Warships』の展示で話題を呼んだWargaming社。同社で重要な役割を担う4人のキーマンに話を伺った。開発にまつわる苦労話などを聞いてきたので、ぜひチェックしてもらいたい。
▲オザン・コチョールさん(『World of Tanks:Xbox 360 Edition』『World of Tanks Blitz』プロデューサー)。 |
▲アレックス・ルブロンさん(Wargaming Asia プロデューサー)。 |
▲タチアナ・サギィロワさん(Art QA スペシャリスト)。 |
▲宮永忠将さん(ミリタリーアドバイザー)。 |
――まずは『World of Tanks Blitz』から話をお聞きします。iOS版がリリースされて、ユーザーの方の反応はいかがでしたか?
オザン・コチョール(以下、オザン):世界規模でご好評をいただいているのですが、特に日本を含めたアジア全体で大成功を記録しました。特に日本では、モバイルゲームだからこそユーザーの反応がよかったのかもしれません。当然、アジアの中でセールス1位となっています。
――ダウンロードしてくれた方と、実際にお金を払ってプレミアユーザーになってくれた方の割合はいかがでしたか?
オザン:それはある程度予想通りで、PC『World of Tanks』に近い割合となっています。モバイルゲームの場合は、有料サービスを利用してくれる率が一般的に若干低めなのですが、それでも満足できる数字です。
PC版から遊んでくれている方も多いですし、初めて遊ぶという新規の方も多いです。『World of Tanks Blitz』をきっかけに、Wargamingのエンターテインメントの世界に入ってくれるとうれしいですね。先日開催した“模型部イベント”でも、『World of Tanks Blitz』しかプレイしたことがない方がいらっしゃいましたよ。
――“模型部イベント”は、プラモデル製作の時間がかなり限られていると思うのですが、皆さん完成させることができたのでしょうか(笑)。
宮永忠将(以下、宮永):1回目の時は「もうちょっとで完成だったのに」という方が多かったので、2回目は1時間ほど多く製作時間を確保しました。その結果、素組までは終了したという方がほとんどでしたね。
オザン:最後のコンテストで優勝したのは、Xbox 360版ユーザーの方だったそうです。Xbox 360版では“Royal Artillery”という大型アップデートが実施されますが、来月くらいには新しい国家の戦車が登場するので、ぜひご期待ください。
――『World of Tanks Blitz』のアップデート計画において、注目すべき要素はありますか?
オザン:あと数週間になりますが、1.3というアップデートを予定しています。実は、このアップデートでビジュアル的な変更を多数行います。特に、草や水、煙などの表現が大幅にリッチになります。
また、新しい戦車とマップも実装します。新マップは、アジア独特の雰囲気を再現したものです。やはり、ユーザーの方が期待しているのは新しいコンテンツだと思いますので、それを今頑張って追加しようと開発を進めています。
――どんな戦車が新しく登場するのでしょうか。
オザン:例えば、アメリカのスーパーパーシングです。PC版でも特に人気のある戦車で、『World of Tanks Blitz』でもそういった戦車を少しずつ追加していくつもりです。
――Android版に関して、基本的にiOS版と同じ内容と考えてよろしいでしょうか。
オザン:まったく同じです。クロスプラットフォームなので、どちらでプレイしても一緒の戦場での対戦が可能です。さらに、1つのIDでデータを共有しているので、iOS版とAndroid版の両方でプレイを楽しめます。また、Google Playならではの独特な要素、例えばクエストなども、徐々に取り入れたいと考えています。実際に、iOS版とAndroid版で対戦してみましょう。
――キャタピラが草に隠れてますね。以前とはかなり雰囲気が変わって、よりリアルになっているのが分かります。
オザン:現状でちょっと苦労しているのは、Android版の開発を進めつつ、さらなるアップデートを続けていくことです。この2つを両立するのは大変ですが、新しいモードやミッションなど、PC版にある要素はどんどん取り入れていきます。
――ああ、やられた! さすがにお強いですね(笑)。
オザン:アジアだけのイベントやキャンペーンも積極的に展開していきます。現在も期間限定でプレミアム戦車などをリーズナブルにご提供していますので、ぜひチェックしてください。今後は、ユーザーの方にeスポーツ感覚で楽しんでいただければうれしいですね。
オザン:PC版『World of Tanks』で、1つ皆さんにご紹介しておきたい新要素があります。以前、期間限定で実装されたサッカーモードはプレイされましたか?
――遊びました! 実はかなりアツくなってしまって、期間中はそればかりプレイしていました(笑)。
オザン:現在予定している新モードは、サッカーモードのように独立して楽しむタンクラリーモードです!
――これは(笑)。すごい迫力ですね!
オザン:戦車でドリフトやジャンプができる、『マ●オカート』のようなモードです(笑)。ワイドパークというマップをベースに、このモードのために改修した場所がレースの舞台になります。実装は9月29日を予定しています。
――戦車が空を飛ぶのを初めて見ました。
オザン:ぜひ、実際にプレイしていただければと思います。気軽に遊べるモードとなっているので、気分転換にどうぞ(笑)。
――Wargamingは“ミリタリーをエンタテインメントする”というコンセプトを掲げていますが、今回紹介していただいた内容は非常にエンタメに寄っている気がします。そういった方針変更のようなものはあるのでしょうか?
オザン:歴史に基づくディープなものを扱っていますが、やはりユーザー数を増やすため、さまざまな方にアピールすることは重要ですので、こういった施策を続けていくつもりです。
――間口をより広げていくということですね。個人的には、戦車で怪獣を倒すモードをプレイしてみたいです(笑)。
オザン:プレイヤーvsエネミー的なモードも、ぜひ検討していきたいと思います。
――期待の『World of Warships』についてお伺いします。ゲームの中で、各艦船の再現度というものはどの程度になるのでしょうか?
宮永:大原則として原図、ブループリントとか青焼きなんて言いますが、それを基にデータを起こしていって、各パーツや写真の状態を再現するということを行っています。資料があるものについては、それをすべて再現していると考えてください。わからないものについては、造船技師や工学エンジニア、歴史の専門家などに監修してもらっています。
それぞれのスタッフがひざを突き合わせながら整合性を高め、新たな資料が見つかれば、それを反映していくという開発環境となっています。そろそろヨーロッパ圏の資料は漁りつくした状態なので、最近では日本にスタッフが来て資料を集めています。
――既にお聞きした中では、年代別の状態も再現されているそうですね。
宮永:例えば“金剛”の場合、建造時とリビルド(改修)された時では、形がかなり違っています。そういったものも、ゲームの中に反映しています。
タチアナ・サギィロワ(以下、タチアナ):史実で改修が行われているものも、すべて私がチェックしてモデリングデータを作成しています。
宮永:同型艦の場合も同じ考え方で、まずはネームシップのデータを作成し、それを基に個々の艦を再現しています。日本の場合、特に多いのは5,500トン級の軽巡洋艦、球磨型・長良型・川内型なんですが、改装の組み合わせによって自分のお気に入りの艦に近づけていくといった遊び方ができます。
“金剛”なら、“比叡”や“榛名”の改装パターンに近づけるようなパーツのデータは、図面があるものはすべて用意しています。それをどうゲームに組み込むかは、デームデザイン側の判断になります。
タチアナ:私はあくまで、図面を基に精密なデータを作成するのが担当ですから。
――ゲーム用をデータを起こす際、実物や模型などの立体物を参考にすることもあるのでしょうか。
宮永:アメリカなんかは現物があったりするので、例えば戦艦“アイオワ”などはもちろん参考にしています。
タチアナ:現地にチームで行って、ビデオなどを撮影してきました。
宮永:日本の場合は、ブループリントや写真が基本的な資料です。
――シロウト的には、日本の軍艦の写真なんて手に入るものだろうかと思ってしまうのですが。
宮永:幸い、写真集などはかなり充実しています。また、大和ミュージアムに所蔵されているものはプリントアウトして持ち帰ることができるので、非常に役に立ちました。また、アメリカの公文書館などでは戦後75年が経過して、最近になって閲覧可能となったものが多くあります。そういったものを拾い集める作業を行いました。
他にも、戦争に参加された方が亡くなって、その遺品を整理しているうちに、これまで公になっていない写真が出てきたりといったこともあります。『World of Warships』の開発をきっかけに、さまざまな資料の存在が明らかになってきたのですが、われわれとしてはアーカイブをきちんと残さなければと考えています。
タチアナ:私が日本の艦の新しいパーツを仕上げて、資料と一緒に宮永さんに送ったら、「今までに見たことがない資料だ!」なんてこともありました。
宮永:いわゆるミリタリーファンの方たちにも、『World of Warships』のビジュアルに関しては、非常に興味を持っていただいているようです。
――各艦のディテールの細かさには本当に驚かされますが、スケール的に、どこまでのサイズまでデータとして用意しているのでしょうか。
宮永:1ピクセルが大体1インチと聞いています。そうすると、1本のパイプが見つかるだけで、新たにデータを作成する必要がでてくるんです(笑)。
タチアナ:アメリカの艦は資料が豊富にあるので助かります。ただ、ありすぎると“困ったもの”が見つかってしまうこともあります(笑)。逆に、日本の場合はやはり資料が少ないので、一部の骨の化石から恐竜の全体像を想像するみたいな作業になってしまいます。
――資料を基に3D化する際、いちばんこだわった部分って何ですか?
タチアナ:写真にあるものは、すべて再現するということですね。最近、アメリカの駆逐艦で、煙突と艦橋の間に何か箱のようなものが映っている写真を見つけたんです。でも、同型艦の写真には何もなかったり、よく見えなかったりということで、いろんな技術資料を調べたのですが、結局その謎は判明しませんでした(笑)。
――見てわからないものは、機能などの面からも謎を追求していくワケですね。
宮永:「わからない」ということがわかったので(笑)、そこからようやくアプローチできるようになるんです。専門家に聞いてみるとか、当時の船員に聞いてみるとか……。わからないものを入れるのは逆に危険ですが、そういったやり取りが常に発生している感じです。
「アメリカは工業製品だからしっかりしているだろう」と思っても、やはり戦時改修などがたくさんあるので……。現場で付けた機銃を入れてしまったりすることがないよう、現場では厳しい判断を迫られています。空母“大鵬”なんかは、いまだに甲板の様子がわからないですからね。
――なんだか気が遠くなりそうなお話です。グラフィック表現で、テクスチャーの見せ方もリアルだと感じました。
タチアナ:そこは私の担当ではないです(笑)。私がデータを作ったあとに、テクスチャーなどの表現をいじるデザインチームへと作業を引き継いでいます。
――軍艦って、艦橋や煙突などに空中線が張り巡らされているじゃないですか。あれもかなり複雑だなと思うのですが。
タチアナ:その空中線もゲームの中で再現しています。
――空中線って、そもそも何のためのものなのでしょうか。
宮永:あれは、アンテナだったり、旗を掲揚するものだったり……。
タチアナ:あとは、煙突などの構造物がカンタンに倒れたりしないように支えているものだったりします。終戦が近づくにつれてアンテナの変更などもありましたから、上層の構造物がどんどん増えていったんです。
――まるで建築のお話しのようです。
タチアナ:ゲームでも船体は図面どおり輪切りの水密構造になっていて、全体が浸水しないようになっています。
――ダメージの食らい方によって、やられ方も変わってくるのでしょうか?
宮永:ゲームに魚雷が登場する以上、そこはしっかり作っています。
タチアナ:この仕事をするに当たって、船のことを何でも知りたいという気持ちになりました。以前は知らなかった用語も勉強して、軍艦の構造にはだいぶ詳しくなりました(笑)。自分でロシア語の用語集を作ったりもしましたよ。
――ロシアの方は、あまり海軍に興味がなかったりするのかなと思っていました。
宮永:ロシアの中でも、ペテルブルグは軍港の町なので、船の文化などはもともとあった気がします。日露戦争の頃の巡洋艦でオーロラ号というのが記念艦として残っているのですが、大変人気のあるスポットになっています。
――港の再現という部分はいかがですか?
宮永:日本には横須賀、佐世保、呉、舞鶴という四大軍港がありましたが、それ以外に海外の占領地を測量した“外邦図”や写真集なども含めて、すべて資料を用意しました。そのため、雰囲気はしっかりと出ていると思います。ただ、ゲーム内の港は個別の軍港を再現したものではありません。
――ゲームの中に入っているものに限らず、いちばん好きな船って何ですか?
タチアナ:“伊吹”です。空母のほうですね。
――巡洋艦のほうではなく?
タチアナ:実際には未完成で終わった艦です。空母のほうですね。すごくスッキリしたスタイルで、とてもきれいだと思います。
アレックス・ルブロン(以下、アレックス):『World of Warships』には、1904年から1955年までの艦が登場します。
宮永:1904年ですと、いわゆるドレッドノート級が登場する前になります。日本だと戦艦“河内(かわち)”とかが入ってくるのかな?
――砲塔を積み替えるなど、1つの艦でどれくらいの改装パターンが選択できるのでしょうか。
宮永:組み合わせの数はわかりませんが……、年度別の図面を要求されることはあります。『World of Tanks』と同様に、いきなりすべてのパターンが作れるワケではないと思いますから、実際に試してみていただきたいですね。
サービス開始後もどんどん追加されていくと思いますよ。ただ、主砲を積み替えることはあまりないと思います。“金剛”が40センチ砲を積むなどはあり得ませんから。仰角を上げるとか、FCS(射撃管制装置)を変えるとか、そういった変更が能力に反映されていくかもしれません。
――3D化でもっとも苦労して作業したのはどの艦ですか?
タチアナ:んー、全部苦労しましたね(笑)。駆逐艦“橘”が特に難しかったかな?
アレックス:1912年の艦ですね。
――(スクリーンショットを見て)あ! スクリューまで作ってあるんですね。
タチアナ:もちろん、全部作っています。
――今後、正式サービスに向けて徐々に動き出していくことになると思いますが、日本独自の展開などは予定されていますか?
アレックス:正式サービスではまず、日本とアメリカの艦のみが登場します。現在のアルファテストでは5,000人が参加しているのですが、そのうち800人はアジアのユーザーです。そして500人が日本人。テスター募集の際には、3万人近くの方に日本から応募いただきました。フィードバックも積極的にお送りいただいていて、実際に検証して修正した例もあります。
日本のユーザーは海や艦船に対する興味が大きいようですので、クローズドベータテストにもぜひ参加していただきたいです。来年の正式リリースを楽しみにお待ちください
タチアナ:軍艦が好きな方、たくさんの艦のきれいな姿を見て楽しんでください。
宮永:『World of Warships』は歴史に対する挑戦でもあります。ゲームの中に先人の努力の結晶が詰まっていますが、さらにクオリティーを高めるためにも、眠っている資料などがあればぜひお寄せください!
――本日はありがとうございました。
(c) Wargaming.net
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