2014年10月16日(木)
仁科裕貴先生が執筆する、電撃文庫『神なき世界のトーメンター』の紹介記事をお届けします。
時は中世。王族(レギアス)と貴族(アリスト)が覇権を争う絶対階級のこの世界には刻まれた烙印により主従が決まるという残酷な理(ことわり)が存在する。かつては王の命に従い、その暗殺技で数多くの人間を殺めてきたジグだったが、今は表向きには拷問官をしながらも罪なき者を救うという日々を送っていた。
だがある日、無実の罪で殺される死刑囚の王女アリシアを救ったことによって王族たちの陰謀へと巻き込まれることになり……。
王族や貴族を頂点に、絶対的な階級社会が維持されている中世ヨーロッパ風の国々――。どこか退廃的な香りが漂うのは、舞台となるエルドア王国が高い軍事力を誇るテオドキア帝国に占領されており、娯楽を禁じられている住民たちが罪人のギロチン刑をショーのように楽しんでいる世相が描かれているせいかも? 主人公のジグ・アースラントは、そんな時代ならではのバックボーンを持つ人物です。幼少時代、孤児だった彼はアースラント侯爵のもとで“一風変わった使用人”になる教育を受けます。その後、テロドアの皇太子に仕え、政敵を残らず暗殺してきました。暗殺者となった彼の良心の呵責は激しく、ついにはその任を退き、死刑の前に罪人の面倒をみる拷問官へ転職します。しかも、無実の死刑囚を救う、心優しき拷問官へ――。今作のヒロイン、アリシア・メルオールも彼が担当した死刑囚の1人です。アリシアは今は亡きエルドア王の血を引く少女なのですが、母親が使用人だったため、不遇な人生を送っていました。シグはある依頼人の命令で、彼女を養父・アースラント侯爵の屋敷にかくまうのですが……。
その屋敷でジグとアリシアは、謎のメイド殺人事件や暗躍する王族たちの陰謀など、さまざまな困難に直面します。このピンチを心優しき拷問官・シグはどのように解決していくのか。推理小説を読む感覚で謎解きを楽しみつつ、あっと驚く結末を実際に確かめてみてください。
突然ですが、勝気で気品のある王女&執事として彼女にかしづく暗殺者の組み合わせは好きですか?
禁断の主従関係が大好きだという方は、ぜひこの『神なき世界のトーメンター』を読んでみてください。
身分制度が社会の秩序として機能している中世の国で育った平民出身のジグは、物語序盤から王族の血を受け継ぐアリシアの執事になります。「平等に接して」と彼女に命令されても、幼いころから使用人としてのアイデンティティーしか認められなかったシグは戸惑うばかり。いつも完璧な従者である彼が、平静を保てなくなる姿が見られるのはとても貴重です。反対にいつもは幼い女王様のようなアリシアが執事を大事にして甘えるようなシーンも描かれており、そのギャップが実にかわいい。
寂しさを隠すために虚勢を張る時もあるけど、根は素直で自分の非を認められる。そんなお嬢様のアリシアにだったら仕えてもいいという男性は日本全国にたくさんいそうです。中世風の物語なら、高貴な人から命令されるシチュエーションは、ちょっとロマンですよね!!
(C)仁科裕貴/KADOKAWA CORPORATION 2014
イラスト:nyoro
データ