2014年10月10日(金)
現在開催中の“進化宣言! 電撃文庫FIGHTINGフェア”。電撃オンラインでは、電撃文庫作家陣のインタビューを4回にわたってお届け。第4回となる今回は、伏見つかさ先生のインタビューをお届けしていく。
▲伏見先生が執筆する『エロマンガ先生』の表紙イラスト。 |
今回お届けするのは、『エロマンガ先生』最新第3巻が発売されたばかりの伏見つかさ先生のインタビュー。『エロマンガ先生』だけでなく、アニメ化やゲーム化なども果たし、“妹もの”小説の金字塔とも言える『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などについても伺った。
――現在執筆されている『エロマンガ先生』シリーズですが、この作品のタイトルの由来を教えてください。
前作(『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』)もそうなのですが、ヒロインを象徴するようなタイトルにしようと決めていました。
――昨年の“電撃文庫 秋の祭典2013”でタイトルを発表された時、とても衝撃を受けました(笑)。
私も話していて、とても恥ずかしかったです(笑)。このタイトルを冗談だと思われた方が多くて、同業者の友人からも「直前でタイトルを変えるんでしょ?」と言われました。タイトルにはもしかしたら秘密が隠されているかもしれませんので、詳細な由来はまだ秘密ということで(笑)。
――新シリーズを始めたきっかけとは?
前作が最終巻を迎えたので、少し休むのもいいかなと思っていたんです。しかし、担当編集さんから「早く新作を書きましょう」「ファンが待ってますよ」と熱く説得されまして(笑)、それならばと奮起しました。なんとか前作から間をあけることなく、出版することができたので、よかったです。
――この企画に至るまでは、さまざまな企画を出されたのでしょうか?
そうですね。いろいろな企画を出して、それが最終的に合体したものが『エロマンガ先生』になります。プロトタイプの原稿では、“エロマンガ先生”と“紗霧”が、別キャラクターだった時もあるんですよ。男のようなしゃべり方をする友人“エロマンガ先生”と、引きこもりの妹“紗霧”、2人の設定を合体させることによって、本作のヒロインが生まれました。
――『俺の妹』に続いて『エロマンガ先生』も“妹もの”ですが、このジャンルを続けて書こうと思ったのは?
前作を書いていたころから、ぼんやりと「次も妹ものを書くんだろうな」と思っていました。企画作りに入った段階で、編集サイドからも次のジャンルは「妹もので」と提案されたので、ならばと前もって考えていたものを提出しました。
――『エロマンガ先生』の作中では小説家ネタがよく登場しますが、これらは伏見先生が体験されたものからでしょうか?
いろいろですね。私自身の体験談もありますし、同業者から聞いた話をおもしろおかしく誇張した話であったりします。もちろん完全な創作もあるので、すべてが体験談ではありません。
――第1巻に「やる気マックスの時以外、死んでも原稿を書くな」というセリフがありますが、伏見先生はやる気マックスでないと原稿を書かないのか、それともどんな時でも原稿を書くのか、どちらのタイプでしょうか?
やる気がなくても書かざるを得ない状況ばかりですね(笑)。もちろん、やる気がある時の方が、いいものができると思いますので、そういう仕事の仕方ができたら理想ですよねという意味で書きました。私自身も、なるべく理想に近づくよう努力しているつもりです。
――作中の人物にモデルとなった作家さんなどはいるのでしょうか?
前作もそうでしたけど、“この方のこういう特徴を参考にしよう”といったものはありますが、明確なモデルはいないんです。
――作中には電撃文庫の作品名も登場しますが、何か意識しているところはありますか?
実際の作品名を出したほうが、読者の共感を得られると思い、基本的には、許可をいただいた上で、私自身が大好きな作品だけ、名前を登場させています。
――ムラマサ先生が“黒猫”に似ているという話もありますけど……。
黒猫もムラマサも、とてもかわいく描いていただいて、気に入っております。黒猫と同じくらい、読者に好かれるキャラクターに育てていきたいです。
――第2巻の挿絵で“桐乃”が描かれたポスターが登場しましたが、『エロマンガ先生』は『俺の妹』とも繋がっているということでしょうか?
実は私も、第2巻が発売されてから、「桐乃がポスターに描かれているぞ!」と気づいたんです。びっくりしましたが、懐かしい気持ちになりました。
――『エロマンガ先生』を執筆していて、前作との違いを感じるところはどこでしょうか?
ヒロインと主人公が全然違いますね。“一人称小説”“主人公の口調”“モノローグ”といった部分は、前作を読んでくださった方でも違和感がないようにとあえて似せていますが、キャラクターの性格はかなり違います。
『俺の妹』の京介は自分では何もできなくて、よく悩んでいましたし、まったく素直じゃないですけど、いざという時の爆発力が素晴らしかったですよね。一方マサムネは、京介と比べて非常に素直なやつです。できることが多く、目的がハッキリしていて、長く悩まないので、ギャグ小説向きの主人公だと思います。
ヒロインは一目瞭然で違うと思います。両作品の根本にかかわる部分でもあります。桐乃は非常に攻撃的なキャラクターで、少しでもさじ加減を間違えると大変なことになってしまうやつでした。なかなか本音を口にしないので、どうやって彼女の健気な内心や、かわいらしさを表現するかが腕の見せどころでもあり、ヒヤヒヤする部分でもありました。
一方、『エロマンガ先生』――紗霧は、ストレートにかわいらしいキャラクターです。つまるところ今作は、彼女のかわいらしさを、さまざまな手法を用いて、紙面の大部分を使って、全力で表現しようというものです。
――第1巻の段階で、主人公とヒロインがそれぞれ自分の気持ちに気付いていますよね。ここも前作と比べるとかなり違うところですよね。
私が書きたかった話が“そこから先の話”だったからです。『俺の妹』では、この状態にたどり着くまでが、本当に、本当に、長かったのですが……。『エロマンガ先生』は、ここからスタートします。
――第3巻が発売されたばかりですが、本シリーズはどのくらいのボリュームを想定されているのでしょうか。
第1巻で2人の夢が提示されて、作品の目標が決まったわけですけど、そこにたどり着くまで書こうとすると、作中でもかなりの時間経過が必要なくらい、長い物語になってしまいます。ですので、少しずつ区切りながら書いて先に進めていこうかなと。第3巻でひとつの区切りがついて、第4巻以降はまた新しい展開がスタートしていく予定です。
――第3巻ではどのような物語が展開されるのでしょうか?
“夏休み”、“南の島”をキーワードとしたラブコメです。ヒロインたちの、かわいらしい浴衣姿や水着姿を見ることができます。紗霧のみならず、エルフやムラマサといったヒロインたちも活躍しますので、ご期待ください。
――まだ『エロマンガ先生』を読んでいない人たちに向けて、本作の魅力や読みどころをお願いします。
本作は、疲れている時でも楽しく笑って読めるものを目指して書いています。『世界で一番可愛い妹』を、全力で表現したものでもあります。恥ずかしいタイトルですが、勇気を振り絞って、手に取ってみてください。
――『俺の妹』が完結して1年以上経過しましたけど、改めて『俺の妹』を振り返ってみていかがでしたか?
▲2008年8月に発売された第1巻の表紙と、2013年6月に発売された第12巻の表紙。 |
まさに人生が変わった作品でした。私にとって初めてのヒット作品でしたし、執筆スタイルを大きく変えて挑戦した作品でもありました。またアニメ化やゲーム化などもして、ひとことでは言い表せないような作品でした。『俺の妹』を書いている時は、毎日が嵐のようで、苦しいことも多かったのですが、振り返ってみれば楽しかったですね。
――千葉モノレールとコラボするなど、珍しい取り組みもありましたよね。
はい。千葉県知事にお会いしたり、イベントステージで喋ったり、ニコ生に出演したり……いろいろな経験を得ることができました。
――『俺の妹』の結末は、最初から考えられていたのでしょうか? それとも書いている最中に決まったものなのでしょうか?
両方ですね。大枠は最初から決めていたんですけど、ここまで書ききれるとは初期のころは思っていませんでした。
――最初は何巻くらいで終わると考えていたのでしょうか?
第1巻を書いた段階では、ここで終わるつもりでしたし、続きが書けたとしても4冊くらいで終わるんじゃないかなと思っていました。
――『俺の妹』執筆中で一番心に残っている出来事やエピソードは?
う~ん、たくさんありすぎて一番は決められないですね。『俺の妹』フェスも、「もう今死んでも悔いはないな」と思うくらいに素晴らしかったですし、アメリカでの最終回上映にも感動しました。それにいろんなすごい人と会う機会があったり、ラッピングモノレールや『とある科学の超電磁砲』など、びっくりするようなコラボがあったり……。さらに徳島の“マチアソビ”に出させていただいたり、ゲームを作っていただいたりと、本当にいろいろありました。
――6月に発売された、かんざきひろ先生の画集『Cute』に『俺の妹』の短編が収録されていますが、改めて『俺の妹』の物語を書かれてみていかがでしたか?
『俺の妹』の最終巻を書き終えた後、「もうこいつらを書くことはないんだな」とさびしく思っていました。けれど、かんざき先生の画集が発売されると聞いて「そこに寄稿するなら『俺の妹』の物語じゃないとダメだよな」と考え、「またこいつらを書けるんだな」、「ちゃんと書けるかな」と、ドキドキしながら書きました。
完結して半年以上経ってから書き始めたのですが、その間にパソコンを買い換えたので、もう“きりの”と打っても“桐乃”と変換されないんですよ。それが、すごくショックで、さみしくて……。でも実際に書いてみたら気持よく進められたので、身体は覚えているんだなと安心しました。
――『俺の妹』はアニメやゲームなどメディアミックスの広がりも見せた作品でしたた、こうした展開については、どのような形で参加したのでしょうか。
アニメ化もゲーム化も、すべて初めてのことでしたので、勉強にもなるしなるべく参加しようというスタンスでした。アニメでは脚本も書かせていただきましたし、ゲームではシナリオ監修のみならず、書き下ろしのシナリオまで書かせていただきました。でもそれらの仕事がいそがしくて、本業の小説がなかなか書けないということも……。正直に言えばすごく大変でした(笑)。
特に桐乃についてはあつかいの難しいヒロインなので、どうしても口出しをしてしまうことがありました。幸い、いいスタッフに恵まれ、素晴らしい結果を出すことができたと思います。
――『電撃文庫 FIGHTING CLIMAX』では、かなり要望を出されたと伺いましたが。
桐乃がどういうキャラクターなのか、という資料を読ませていただいて、いくつか質問や要望を出したりしました。もちろん私はゲーム作りの素人ですので、要望だけ出してバランス調整などは先方にお任せするスタンスでした。原作者の要望だろうと、ダメなものは遠慮なくボツにしてくださいという形です。要望が反映された部分もあり、反映されなかった部分もあったりして、桐乃については使っていて楽しく、軽快な動きのキャラクターになったと思っています。
――桐乃はコスプレして戦ったり、いろんなものを投げたりして、見ているだけでも楽しいキャラクターですよね。
フィギュアなどのオタグッズは投げないようにしてください、と指定をしたのを覚えています。
――マジックハンドとかダンボールとかを投げていますよね(笑)。
さらにパンツのような……水着を投げ始めたりして……(笑)。
――なんらかの形で『俺の妹』の物語をまた書く予定などはあるのでしょうか?
今のところ予定はないのですが……たとえ機会があったとしても、桐乃たちをもう一度書けるかどうか、これは書いてみないとわからないです。もしも今すぐ書くとしたら、あやせの話を書いてみたいですね。
――伏見先生は小説を書いていない時は、どんなことをして過ごしているのでしょう?
小説を書いていない時はゲームばかりしています。最近は洋ゲーをプレイしたり、後は取材を兼ねて旅行もしています。近年で特に好きなゲームは、『Kingdoms of Amalur:Reckoning』。今年は『The Elder Scrolls Online』と『Diablo III Reaper of Souls』にハマっていましたね。
――取材を兼ねた旅行に行かれたんですね。こちらはどんな取材だったのでしょう?
少し前にホタルを見に行こうとしたんですけど、結局見られなくて……。改めて見に行きたいですね。そういえば、『俺の妹』の時は舞台にするところに取材へ行ってました。クリスマスイベントの時は、渋谷の109やホテル街にも行ったりしました。
――小説などはどんな作品を読まれているのでしょか?
最近は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』と『オーバーロード』を応援しています。『ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた』や『無職転生 - 異世界行ったら本気だす -』も素晴らしいです。Web発の小説がおもしろくて、実は書籍版よりもweb版を主に読んでいます。
――書籍よりもWeb小説を最近は読まれているのですか?
小説作品では、そうです。話題になった瞬間にすぐ読めるのがWeb小説のいいところですよね。
――もし好きなジャンルで新しい作品を書いていいと言われたら、どんな作品に挑戦してみたいですか?
すぐに書いてもいいのでしたら、新しい“妹もの”を書いてみたいですね。舞台を変えて、少し前に流行っていた異世界トリップものとかいいかもしれません。もし“売れなくてもいい”、“伏見つかさ名義で出さなくてもいい”、という条件をつけていいなら、久しぶりにホラー小説を書いてみたいです。
――ホラー小説ですか! ホラー小説で好きな作品はありますか?
貴志祐介先生の『黒い家』『天使の囀り』が大好きです。学生時代に読んで、文章で生理的な嫌悪感や恐怖感をここまで表現できるのかと感動しました。
――現在、“進化宣言! 電撃文庫FIGHTINGフェア”が開催されていますが、進化したいこと、戦っていきたいことなどはありますか?
もちろん、よりおもしろい小説を書けるよう進化していきたいです。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
『エロマンガ先生』という恥ずかしいタイトルですが、お手にとっていただいたことに、深く感謝しております。疲れている時、ヘコんでいる時、いついかなる時に読んでも、「かわいい」、「おもしろい」と笑っていただけるような小説を目指して書いていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(C)伏見つかさ/KADOKAWA CORPORATION 2014
イラスト:かんざきひろ
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