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2015年1月28日(水)

インディーの最前線を行くクリエイターが“ゲーム制作”を語る『黒川塾(二十参)』をレポート【電撃PS】

文:電撃PlayStation

 1月23日、大阪デジタルハリウッド大学にて、“エンタテインメントの未来を考える会(黒川塾)”の第二十参回が開催された。黒川塾とは、ゲームやアニメなど、あらゆるエンタメコンテンツに精通したメディア評論家、黒川文雄氏が主催して行っている勉強会だ。

■豪華ゲストを迎え、大阪での初公演となった黒川塾(二十参)

 23回目を迎えた今回は『ゲーム作りは大変じゃない!?…』をテーマに、インディーゲームに造詣が深いクリエイターが登壇。ゲーム制作における裏話やインディーゲームの今後について熱い討論を展開された本勉強会の内容を、みなさんにお届けしよう。


◆◇◆◇◆黒川塾(二十参)登壇メンバー◆◇◆◇◆

『黒川塾』

黒川文雄氏

 メディアコンテンツ研究家として、雑誌やWEBなど多方面で活躍。大手ゲームメーカーや映画配給会社などであらゆるコンテンツを成功に導いてきた実績を持つ。


『黒川塾』

吉田修平氏

 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオのプレジデント。あらゆるメディアでインディーゲームが大好きと公言しており、これらタイトルの発展にも尽力している。


『黒川塾』

五十嵐孝司氏

 『悪魔城ドラキュラ』などのヒットタイトルをいくつも手掛ける。2014年9月に株式会社ArtPlayを立ち上げ。現在はスタジオのある中国と日本を往復しつつ、モバイル向けの新作を制作中。


『黒川塾』

楢村匠氏

 インディーゲームクリエイターのコミュニティ“Indie Stream”の発起人として活動。2Dスクロールアクションアドベンチャー『LA-MULANA』を開発し、海外で大ヒットを記録。現在はその続編である『LA-MULANA2』の開発資金をキックスターターで集め、開発中とのこと。


『黒川塾』

水谷俊次氏

 インディーゲーム配信サイト、PLAYISMの広報としての業務にとどまらず、イベントでの講演なども実施。国内外のインディーゲームをサイトを通じてユーザーに提供している。


■インディークリエイターが集う“Indie Stream”でゲストが感じたこととは?

 まずはじめに議題にあがったのは、2013年9月にSCEJAとNIGORO、PLAYISMが共同で立ち上げた国内外のインディーゲームクリエイターによる交流会、“Indie Stream”についてだ。このIndie Streamについて楢村氏は「新たなブランドというよりは、インディークリエイターたちの労働組合のようなもの」と表現。

 実際のところ、黒川氏が今回のテーマである『ゲーム作りは大変じゃない!?…』のセッションを行うきっかけになったのも、このときの交流会で楢村氏や水谷氏、さらには株式会社comceptの稲船敬二氏らと出会ったことがきっかけだったという。

 ちなみに、Indie Stream立ち上げの際には、SCEのビルでパーティが行われたのだが、そこには300人以上ものクリエイターが集結。実業家として知られる堀江貴文氏の姿もあったとのことで、吉田氏もその盛り上がりには非常に驚いたとのことだった。

『黒川塾』

 当時の五十嵐氏も、Indie Streamのような流れは確実に来ると予想していたようで、五十嵐氏は「もともとゲーム市場というのは、現在のインディークリエイターのような、オレはこれを作りたい、と考えている人しかいなかった。しかし、市場規模が大きくなるにつれて堅実にお金を稼ぐ方向へとシフトしてしまい、気づいたらナンバリングタイトルばかりに。だからこのIndie Streamの流れはいいぞ、と思って見てましたね」と語る。

 さらに、五十嵐氏は大手ゲームメーカーに所属していたときのことを「大手にいると安定した給料をもらえるということはあったが、環境的には、自分が作りたいものを作れる環境でもなくなっていた。結局、モノを出して、ユーザーさんの反応を見てなんぼの世界なのに、その反応すら見られなくなっていたんです」と振り返った。

 そんな五十嵐氏は、現在はモバイル関連のタイトルを作成しているとのことだが、ゆくゆくはコントローラで遊べる作品を作りたいと述べている。ゲームで体験できる感覚や触覚を楽しむためのデバイスとして、現状最高なのがコントローラ、という考えが根底にあってのことだという。

『黒川塾』

■「ネットを通じてゲームを売る時代がきっと来る」(楢村氏)

 一方、五十嵐氏とは逆の立場で個人でゲームを制作してきた楢村氏はゲーム制作について、「会社務めをしていないと保険をはじめ全部自分でやらなくてはいけないし、資金繰りなどやらなくてはいけないことも多い。それでもやめないでやっていけるのは、これはイケるという確信があったから」と述べる。「最初は苦しいかもしれないが、ネットの発達に伴い、ネットを通じてゲームを売る時代はきっと来る。この2年の間で、急速に話が広がってきましたね」とも加えた。

『黒川塾』

 実際にこの1年の間にPLAYISMでもスムーズにゲームを配信できるようになるなど、目に見える変化も起きている。4年ほど前は、日本国内のインディーゲームはXboxを中心に少しだけしか存在せず、世界で戦えるクオリティを備えたタイトルも『LA-MULANA』や『東方Project』ぐらいしかなかったと語るのは水谷氏。

 しかし、PLAYISMも当初は、日本のゲームを世界で売りたいという目標を掲げてはいたものの、ソニーからゲームを出すこともできず、どうやって世界に出ていけばよいのかわからないと頭を抱えていた時期があったという。

 そんな閉塞した状況のなか「『LA-MULANA』を世界で出したい」と楢村氏に伝えたところ「本当に日本でインディーシーンを盛り上げたいならウチと心中する覚悟はある?」と伝えられたとのことだった。こうした覚悟を持って勝負していったということからも、国内のインディーゲームを取り巻く環境がいかに苛烈なものであったかが伺える。

『黒川塾』

 そんな楢村氏も現在ではインディークリエイターのフラグシップとして、あらゆるステージで活躍している。「もともと前に出るタイプではなかったのだが、海外ではクリエイターが見られるので前に出ることが必要になった。キックスターターも面白そうなものを作ろうとしてるヤツがいる、ということでお金を出してくれるんです」と楢村氏は述べる。

 近年は3月にアメリカで開催される、ゲームデベロッパーズ カンファレンス(以下、GDC)で、GDCアワードと同会場にてインディーゲームフェスティバルが開催されるなど、AAAタイトルの授賞式とインディータイトルの授賞式が同スペースで行われる。それを見て楢村氏は、インディーゲームのクリエイターも知名度や売上などで報われる時代は来ると感じたようだ。

■「勢いや熱意で作られているインディーゲームは本当に楽しいし、業界が盛り上がるために必要なこと」(吉田氏)

 セッションの後半では、ゲームの作り方の変化について様々な意見が交換された。「DLでゲームが売られることが主流になりつつある今、パッケージのような出して終わり、という売り方とは違う新しい運営方法や売り方が必要になるかもしれない」と述べる黒川氏の意見に続いたのは楢村氏。「パッケージはリリースされたときにドンと売れるし、その点はDLも同様だが、DLはゼロにはならない。上手く宣伝や活動を見せ続ければ数カ月ヒットしたりも」と、自身の経験をもとに語った。

 活動を見せるということに対して、吉田氏も「『LA-MULANA』には作り手と会話をしながらゲームを遊んでいる感じがある。インディータイトルは少人数で作っているからディレクターなども細かい部分まで見られる」と述べ、「ゲーム制作においては我々が作る映画のような大作も業界として大事だが、同じくらい新しい取り組みも大事。流行りではなく、自分がいいと思うものがもっとたくさん世の中に試されるべきで、失敗が多かったとしてもそういったダイナミズムがこの業界には必要だ。勢いや熱意で作られているインディーゲームは本当に楽しいし、業界が盛り上がるために必要なこと」と続けた。

『黒川塾』

■「限られたなかでどれだけ遊べるかがエンターテイメントだと思う」(五十嵐氏)

 新しく会社を立ちあげ、今までと異なるフィールドで挑戦しようとしている五十嵐氏は、現代のゲーム業界を取り巻く変化について触れつつ、エンターテイメントにおいて何が重要かを語った。「昔と違い、今はゲームの取扱説明書を読むことはナンセンスになっている。誰もがわかる仕組みのなかで、どれだけ悪ふざけをするか、どれくらい悪ふざけができるかが重要だと思う。限られたなかでどれだけ遊べるかがエンターテイメントだと思うんです」。

 「たとえば、将棋とかでコマを指したら火柱が上がるとか、必要なくても面白いじゃないですか。どれだけ作り手が楽しんでいじれるか。それをやれなかったゲームは面白くないのではないかと思う。遊び心がないとゲームがつまらなくなる確率が高まると思いますね。面白さを作るためには悪ふざけをして突っ込んでいかないと」と述べた。ただ、黒川氏の「ユーザーのためにびっくりさせようとか、楽しんでもらおうとしている?」という問いかけについてはクリエイター2人ともその感覚はあまりないと述べる。

『黒川塾』

 「ユーザーのためにという感覚ではなく、自分が楽しいからやる」というのは楢村氏。五十嵐氏も、「僕の作品は海外での評価は高いけれど、海外に向けて作ったことは1度もない」と述べる。「自分の主観で面白いと思うものを作り、共感してもらうしかないのかも。ムチで戦う某アクションゲームもアメリカ向けには何もしていないけれど、僕らが面白いと信じたことをそのまま体験してもらえたから売上につながったのかな」と分析していた。

 この意見を受け、アメリカのゲーム市場をよく知る吉田氏も、「日本で海外市場が伸びてきた時期には、海外市場を意識したタイトルが多かったが、そういうものはやはり厳しそうだった。海外のユーザーも、JRPGのような日本人が日本人のために作ったゲームを欲しているように見える」と加えた。楢村氏も「アメリカでDL販売がウケた理由って、数十キロ車で運転しないと都会に着かないような、郊外に住んでいる人が多かったという背景もあるのではと思う。結局、その辺りまで考えると何をきっかけに売れるかはわからない。だから自分が作りたいものを作るのがいいと思います」と語る。

 なお、水谷氏も、このゲームは海外市場でウケるか、といった質問をよく受けるという。水谷氏は「インディータイトルに関して言えば面白いと感じる部分は全世界共通で、海外などは関係ない。面白さを遠慮なく追及して出せばいい」と加えている。入国審査官になってパスポートや書類をチェックする『Papers, Please』や、家族に自分がタコであることがバレないように生活する『Octodad』など、誰も見たことがないようなタイトルが目立つ現在のゲーム市場。「日本や海外など関係なく、勇気を持って振りぬいてほしい」と、エールを送った。

■「作り手もユーザーもたくさんいることで、次につながるような場にしていきたい」(吉田氏)

 最後にPlayStationの1stパーティとして、インディーに何を期待しているかを吉田氏に尋ねた黒川氏。吉田氏は、「『Octodad』のような若者が作ったタイトルと、過去にヒット作を生み出したようなベテランがセルフパブリッシングして作ったタイトル、この2つの潮流ができつつある。インディーには、大手ゲームメーカーがパブリッシュするようなシリーズものにはないゲームを期待したい。続編も素晴らしいが、そればかりだとみんな飽きてしまう。PlayStationのプラットフォームならストアでいろんなものが選べるねと言ってもらえるような、それでいて、作り手側もユーザーがたくさんいることでお金も回収できて次につながるような、PlayStationをそういう場にしていきたい」と語りセッションを締めた。

『黒川塾』

 質疑応答を含め、約2時間にわたり討論が行われた今回の黒川塾。最後に、出演者たちが今後のビジョンについて語ってくれた。

水谷氏:PLAYISMを見たことがない人は一度見て頂きたいです。インディーゲームは素晴らしいもの。あとは五十嵐さんにタイトルを何か作ってもらえると嬉しいですね(笑)。

楢村氏:インディーゲームはまだまだ現状では苦しい部分もありますが、覚悟して進めば楽しい仕事です。きっかけとパワーで続けていける。気になっている人は一刻も早くスタートしてみてください。

五十嵐氏:今年の目標はモノを出すことです。どんな形でもモノを出して、みなさんの評価を受ける。クリエイターの原点に立ち返ろうかと思います。あとは、何かを発信したい人の後押しができればいいですね。

吉田氏:日本のインディーゲームはもっと盛り上がってほしい。クリエイターを目指しているなら、“作って発表する”を繰り返してください。最初からヒットを出せる人はいないので、批判なども糧にしてほしいです。ゲームファンの方も、インディーゲームは楽しいものがたくさんありますし、それを探すのも楽しいので、自分が見つけたゲームを仲間とシェアなどして、どんどん遊んでほしいですね。