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2015年2月26日(木)

第21回電撃小説大賞《銀賞》受賞作『レトリカ・クロニクル』の著者・森 日向先生に本作の読みどころを聞く

文:電撃オンライン

 第21回電撃小説大賞の《銀賞》を受賞した『レトリカ・クロニクル 嘘つき話術士と狐の師匠』。メディアワークス文庫から2月25日に発売された本作の著者である森 日向先生のインタビューをお届けする。

『レトリカ・クロニクル』

 『レトリカ・クロニクル』は、巧みに言葉を操る“話術士”である青年・シンとその師匠である狐の話術士・カズラを取りまく旅の物語。ある日、二人は部族間の紛争に悩む狼の部族の少女レアと出会う。その紛争の背後にある大きな陰謀とは……。

――まずは第21回電撃小説大賞≪銀賞≫を受賞した時、どのような心持でその報告を聞きましたか? そして、ついに2月25日に受賞作がメディアワークス文庫より発売されますが、今の心境も教えてください。

 かなり緊張しながら連絡を待っていたのですが、いざ連絡を頂いたときは実感が湧かず「まだしばらく投稿を続けるつもりだったのに、こんないきなり受賞して大丈夫だろうか」などと冷静に考えていたのを覚えています。その後、家族と恋人に伝えて喜んでもらい、初めて自分でも嬉しい気持ちになりました。

 今の心境は嬉しさが九割、残りの一割は不安という状態です。自分の作品が世に出て、これまでとは比べ物にならないほど多くの方々に読まれるというのは、卒倒しそうなほど嬉しいことです。と同時に、私が会ったこともない、だから当然好みなど知りようもない読者の皆様に、本作を楽しんでいただけるのだろうかという不安もあります。

 ですが私の力だけでなく、たくさんの方々の力を合わせて作り上げた作品ですので、きっと大丈夫だと信じます!

――主人公のシンの職業……巧みな話術で難局を切り抜ける“話術士”が印象的です。話術で物事を解決する、というお話を描こうと思った理由を教えてください。

 当時の上司に言葉責めにあって「こんなときうまく切り返せれば……」と悔しい思いをした経験からです。

 ……というのは冗談で、私は作品を書く前にいくつかアイデアを出していちばん面白そうなものを選択して書くのですが、その中に「話術士が活躍する」という案がありました。ですが、初めはかなり難易度の高い案だと思っていました。なぜなら、言葉などというありふれたもので、審査員の方々を納得させつつストーリーを盛り上げるなんて、到底不可能に思えたからです。

 それでも書こうと決めたのは、もしそんな作品を仕上げることができたら、それはきっと他の応募作との大きな差異になるだろうと考えたからです。

 ですが、そんな受賞のための戦略的なことより何より、もっと根本的な理由があったかもしれません。心が震えたんです。武器も持たずに身一つ、話術だけを頼りに戦場へ飛び込んでいく『話術士』の主人公を想像しただけで。

――人間と獣人が共存するファンタジー世界で紡がれる、言葉と旅と絆のストーリー。ご自身が物語を構築する過程で、力を入れたところ、楽しんで書けたところはどこでしょうか?

 執筆で楽しかったのは、シンと登場人物たちの会話シーン、特にシンが師匠であるカズラにやり込められる箇所や、逆に少し頑固な狼の部族の少女レアをシンがあっさりと論破する箇所です。緊迫感は少ないのですが、シンの性格や話術士としての特徴をのびのびと表現することができたと思います。

――話術士の青年・シンと、彼の師匠で狐のカズラ先生についてお聞きします。2人のキャラクターメイクで心がけたことや彼女たちの誕生秘話を教えてください。作品を書き上げた今、ご自身の思い通りの人物像になっているでしょうか。

 一癖あるキャラクターにすることを心がけました。私がこれまで書いてきた――要するに、投稿しては落選してきた作品の主人公たちはピュアすぎると言われることが多かったんです。だから、今度はそんなふうには言わせないぞ、と。その結果、シンは皮肉屋で本心をあまり出さない青年に、カズラは口が達者で妖艶で頭が切れて、でもときどきうっかりしているという色々詰め込んだキャラクターになりました。狐の獣人にしたのは、口がうまいといえば狐だろうという安直な考えによるものです。

 二人ともプロット段階から頭の中で動いてくれたので、執筆開始以降はだいたい思い通りになっています。

――カズラがシンに初めて会った時、彼女は「さて、あんたに他人を騙し続けて生きていく覚悟はあるかい?」と聞きます。小説も現実には存在しない世界や人物を描き、本当の気持ちを伝える作業だと思うのですが、森さんはこの作品を通じて、なにが一番読者に伝わってほしいとお考えですか?

 カズラのセリフにもあるように『覚悟』ですね。支倉凍砂先生に推薦文を頂いているのですが、先生のおっしゃるように結局、言葉を支えるのは『覚悟』や『信念』なんです。カズラの問いを受けたシンが、どんな『覚悟』をもって話術を磨きながら旅を続けるようになったのか、そしてその旅の『目的』は何なのかが伝われば嬉しいです。その答えはラストに明らかになるので、ぜひ最後までお付き合いください!

――メディアワークス文庫『レトリカ・クロニクル 嘘つき話術士と狐の師匠』をこれからを手にとる読者の方へ、ぜひ「この人に注目してほしい!」というキャラクターはおりますか?

 主人公のシンはもちろんそうなのですが、もう一人挙げるとすればカズラです。師匠という立場上、決して活躍シーンは多くないのですが、要所要所でシンに助言したり叱ったりする重要な役割を果たします。ふさふさの尻尾でシンをはたいたり、前足で小突いたりするキュートな彼女をお楽しみください!

――本作の執筆は難産でしたか? 執筆中に印象に残っているエピソードがあれは教えてください。また、ご家族や友人の方は、執筆活動を応援してくれた派ですか? それとも1人でがんばれ派でしたか?

 難産でした。特に議論戦の場面が苦しかったですね。シンの置かれた立場が不利すぎて「このまま主人公死んじゃうんじゃない……?」と思ったことが何度もありました。なんとか生きててよかったです!

 家族や友人は応援してくれました。恋人には、毎日執筆したところまでを送って感想を貰っていました。今回受賞できたのは、少なからずそのおかげもあったと思っています。

――ご自身が考える、本作のみどころを教えてください。

 シンと敵との議論戦がいちばん大きな見どころです。シンがいくつもの議論戦を通じてどんなふうに成長していくのか、そして最後に訪れる絶望的な状況をどうやって話術だけで乗り切るのかをお楽しみいただければ幸いです。それから、シンとカズラたちの普段のやりとりにも話術士ならではの論法を組み込んでいるので楽しんでいただければと思います。

――お話は変わりますが、アニメ、ゲーム、小説、映画など、今、注目している作品や過去に影響を受けた作品などがありましたら教えてください。

 電撃文庫では『漂流伝説 クリスタニア』、『ブギーポップ』シリーズ、『タイム・リープ あしたはきのう』、『狼と香辛料』などが好きです。

 他に思いつくままに挙げると『潮騒』『豊饒の海』(三島由紀夫)、『斜陽』(太宰治)、『赤毛のアン』シリーズ(ルーシー・モード・モンゴメリ)、『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦)、『Gシリーズ』(森博嗣)などなど。

 ゲームだと『ファイナルファンタジー』シリーズ、『ゼノギアス』、『聖剣伝説』が好きでした。最近はあまりゲームしていないので、またやってみたいです。

 映画では、オードリー・ヘプバーンの出演作品、特に『マイ・フェア・レディ』『暗くなるまで待って』が好きです。最近のものだと『レ・ミゼラブル』(2012年版)に感動しました。ちなみに、レ・ミゼラブルは岩波文庫の全四巻も読んだことがあります。マンガでは『3月のライオン』(羽海野チカ)、『ベルセルク』(三浦建太郎)……止まらなくなるのでこのあたりでやめておきます。

 こんなふうに雑食なので、どの作品から影響を受けたかというのは自分でもよく分かりません。たぶん、すべての作品から少しずつ影響を受けているのだと思います。

――これから電撃大賞を目指す作家希望のみなさんに、ご自身の体験をふまえてのアドバイスをお願いいたします。

 諦めずに書き続けることが大切だと思います。私は十作目での受賞ですし、それまでは一次・二次選考で落ち続けていました。でも書き続けていたからこそ、受賞できたのだと思います。

 ただし、ただ書き続けるだけではだめで、戦略が必要なのだと思います。これがいいかどうかは分かりませんが、私はいつまでにデビューするかを決めて、そこに向けて何をすればいいのかを計画表にしました。落選の度に落ち込みましたが(特に一次選考での落選はこたえましたね)、それでも書き続けることができたのは、その計画表のおかげだったと思います。嬉しいことに、そして考えようによっては恐ろしいことに、その計画は前倒しになりました。

――これからどんな作品を描いていきたいかなど今後の抱負を含め、読者のみなさんへメッセージをお願いいたします。

 今後はファンタジーだけでなく、色々なジャンルに取り組んで小説家としての幅を広げていきたいです。ただ、どんなジャンルの作品にしても、読者の皆さんに新しいもの――喜怒哀楽の感情や、新しい知識、そして欲を言えば将来の夢や希望に繋がる活力といったもの――をお届けできるような物語を書くことが目標です。今後ともよろしくお願いします。

(C)森日向/KADOKAWA CORPORATION 2014 イラスト:岩崎美奈子

データ

▼『レトリカ・クロニクル 嘘つき話術士と狐の師匠』
■著:森 日向
■イラスト:岩崎美奈子
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:KADOKAWA
■発売日:2015年2月25日
■定価:本体610円+税
 
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