2015年2月27日(金)
第21回電撃小説大賞の《メディアワークス文庫章》を受賞した『ちょっと今から仕事やめてくる』。メディアワークス文庫から2月25日に発売された本作の著者である北川恵海先生のインタビューをお届けする。
『ちょっと今から仕事やめてくる』は、ブラック企業にこき使われて心身ともに衰弱した主人公・隆に訪れる不思議な出会いを描いた物語。無意識に線路に飛び込もうとしてしまった隆は“ヤマモト”と名乗る男に助けられる。同級生を自称する彼に何かと助けてもらう隆だが、彼の名前をネットで検索してみると3年前に激務で自殺してしまった男のニュースが出てくる。彼の正体はいったい……?
――まずは第21回電撃小説大賞≪メディアワークス文庫賞≫を受賞した時、どのような心持でその報告を聞きましたか? そして、ついに2月25日に受賞作がメディアワークス文庫より発売されましたが、今の心境も教えてください。
当日はただひたすらドキドキしながら部屋で電話を待っていました。発売については、ついに来たかー!という感じですね。長かったです。今さらジタバタしてもしょうがないので、なるようになれと自分に言い聞かせています。
――本作はブラック企業で働き、衰弱したサラリーマンが遭遇した奇妙な日々が綴られています。どうしてこのようなお話を書こうと思ったのか、その理由を教えてください。
私自身が仕事に対して悩んでいたりする時期だったので、その時に感じていた心の中にあるモヤモヤを、書くことでスッキリさせたかったのかもしれません。
――ご自身が物語を構築する過程で、力を入れたところ、楽しんで書けたところはどこでしょうか? 北川さんの実体験が込められているような気がしますが、実際のところはいかがでしょう。
テーマが重いのでそれに引っぱられないよう、内容は楽しく、文章は読みやすくなるように気をつけました。物語が進むにつれて勢いが増す構成だったので、最後の方は特に書いていて気持ちよかったです。おっしゃる通り、物語はあくまでフィクションですが、実体験も込められています。具体的にどういった部分かは秘密にしておきます。
――主人公のサラリーマン・隆と大阪弁の謎めいた同級生・ヤマモトについてお聞きします。2人のキャラクターメイクで心がけたことや彼らの誕生秘話を教えてください。書き上げた今、ご自身の思い通りの人物像になっているでしょうか。
ヤマモトに関しては「辛いときに助けてくれるヒーローがいればいいのに」という願望から生まれました。隆は「とにかく疲れ切った新卒サラリーマン」ということだけ決めて書き始めました。2人の背景などは大部分が後づけです。最初にあまり細かいキャラ設定はしないのですが、物語が進むにつれ2人とも素晴らしいキャラクターに成長してくれたので良かったです。
――働くということ=人生とはなにか、という悩みと向き合うことを軽快な筆致の物語で読ませてくれる本作。しかも、主人公の隆と家族との心温まる交流も描かれています。この作品を通じて、どのようなことが一番読者へ伝わってほしいと思いましたか?
とにかく「死ぬな」ということです。手を替え品を替え、それしか言っていないくらいです。作品中の誰のどんな思いが一番伝わるのかはわかりませんが、読んだ方に何でもいいので、ほんの少しでもプラスの感情を抱いてもらえればいいなと思います。
――メディアワークス文庫『ちょっと今から仕事やめてくる』をこれからを手にとる読者の方へ、ぜひ「この人に注目してほしい!」というキャラクターはおりますか?
やっぱりヤマモトです。「この人は一体何者か」という謎がベースになっています。ですが主人公は隆ですので、彼の成長にも是非注目してもらえると嬉しいです。
――本作の執筆は難産でしたか? 執筆中に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。また、「人は何のために働くのか」と主人公の隆が悩んでいるシーンがありますが、「私は何のために書くのか――――」という方向に思考がいったりはしませんでしたか?
そういった方向には一切いきませんでした。むしろ、書くことでストレスを発散していました。執筆は楽しかったです。締切に間に合うかどうかギリギリのラインだったので、体力的にはキツかったですが……。物語自体はスムーズに進みましたが、情景描写が苦手なのでそこに時間がかかりました。
――ご自身が考える、本作のみどころを教えてください。
隆とヤマモトのほっこりする友情から、ヤマモトに浮かび上がる様々な疑惑。それに振り回される隆の感情と、会社での危機。ダメダメだった隆がどう成長していくのか、ヤマモトとの友情はどうなるのか、色々な角度でお楽しみいただければ幸いです。
――お話は変わりますが、アニメ、ゲーム、小説、映画など、今、注目している作品や過去に影響を受けた作品などがありましたら教えてください。
好きな作品はたくさんありますが、やはり今一番注目しているのは、同じ電撃大賞で受賞された方の作品ですね。バラエティに富んだラインナップだと思うので、本当に早く読んでみたいです。
――これから電撃大賞を目指す作家希望のみなさんに、ご自身の体験をふまえてのアドバイスをお願いいたします。
まだまだみなさんにアドバイスできるような立場ではないので恐縮ですが、応募規定を守ることが一番大切だと思います。印刷時にページをとばしたりしていないか等も。せっかくの苦労が水の泡ですので。誤字脱字や細かいミスは、優しい電撃関係者の方々は(ある程度は)目をつぶってくださるようですよ。
ちなみに以前、編集担当者さんが「作家さんにはのびのび書いてほしい」とおっしゃっていたことがあります。私も書きながら色々と考えてしまう質ですが、気にしだすとキリがないので書きたいこと思いっきり書くのが良いのかな、と思います。
同じ世界を目指す者同士、共に頑張りましょう!
――これからどんな作品を書いていきたいかなど今後の抱負を含め、読者のみなさんへメッセージをお願いいたします。
今回シリーズものではないので、次にどのような作品を書くのかまだわかりませんが、とにかく楽しいもの・興味深いものを追い続けてそれが物語になればいいなと思っています。是非、今後ともよろしくお願いします。
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イラスト:やまざきももこ
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