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2015年3月7日(土)

最強のJK・大神さくらちゃんはこうして生まれた! 『ダンガンロンパ』の小高氏が語るキャラと物語の作り方【GDC 2015】

文:電撃オンライン

 現在アメリカで開催中の“Game Developers Conference 2015”で、『ダンガンロンパ』シリーズのディレクター・シナリオライターを務めるスパイク・チュンソフトの小高和剛氏がGDCでは初の講演となる“My Ordinary Process for Crafting Extra-Ordinary Stories”を行った。

『GDC 2015』
▲スパイク・チュンソフトの小高和剛氏

 テーマは“非凡な物語を作るための小高式プロセス”というところで、『ダンガンロンパ』シリーズのキャラクターと物語は、ある決められた方法によって生み出されているという。小高氏ならではの方法論を見ていこう。

 小高氏はまず「記憶に残るゲームを作るには記憶に残るキャラクターが必須」という持論を語った。その“記憶に残るキャラクター”を生み出す秘訣は“自分が好きかどうか”の1点に集約されるという。

『GDC 2015』
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▲「男子高校生が好きそう」「女子受けしそう」という第三者的な評価はほとんど気にせず、ひたすら自分がそのキャラクターを愛せるかどうかが、キャラを作るうえでのベースになっているそうだ。

■ステップ1:3つのキーワードでキャラクターを定義する

 さらに小高氏は、毎回決まったプロセスでキャラクターを作っているという。その手始めは、“Backbone(背景・特徴)”“Appearances(外見)”“Personality(性格)”の3つのキーワードをできるだけ多くの数用意し、それらを組み合わせて非凡なキャラを生み出すということだ。

『GDC 2015』
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 実際の過程を見ていこう。氏は格闘技が好きなので、バックボーンは“格闘家”とする。格闘家ならやっぱり見た目はムキムキで、でも日本的な奥ゆかしさもほしいから性格はストイックとする。

『GDC 2015』
▲これら3つの特徴を組み合わせると“ストイックなムキムキ格闘家”となる。なんだか平凡なキャラクターに思えるが……?

 ここで小高氏は「作ったものが地味なら、作り直すかキーワードをさらに加える」という。上記の例では、見た目はムキムキだけど、セーラー服を着ているJKにしよう。だったらいっそ性格は女子力高めにしてみよう。……そんなこんなで誕生したのが、初代『ダンガンロンパ』の超高校級の格闘家・大神さくらだと語る。

『GDC 2015』
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▲キーワードを少し加えるだけで、どこにでもいそうなキャラクターがオンリーワンのキャラクターに!! 小松崎類氏のデザインによってイメージが増幅されている。
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▲ 『スーパーダンガンロンパ2』の九頭龍冬彦も同様に、“ヤクザ”だけど見た目は“かわいい”、けど性格は“好戦的”と、ギャップを意識して生まれたキャラ。ヤクザにしたのは、小高氏がヤクザ映画のファンだからという理由だ。
『GDC 2015』
▲誰もが認めるヒロインポジションのキャラを作りたいということで生まれたのが、アイドルで優等生、性格は優しくて家庭的という『ダンガンロンパ』の舞園さやかだ。

■ステップ2:“役割”を加える

 小高氏はキャラづくりの次のステップとして、3つのキーワードで作ったキャラにゲーム内の“Role(役割)”を加えるという。上記の舞園さやかの役割として加えたのは、“ヒロイン”“主人公の助手役”“幼なじみ”という要素だ。

『GDC 2015』
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▲ここまではゲームの発売前に情報として語られることが多い。ここからさらに深みを出していくために、次のステップからがとくに重要だという。

■ステップ3:イベントを考える

 少々ネタバレになるが、舞園さやかは『ダンガンロンパ』の最初の犠牲者だ。明らかにヒロインポジションの彼女が、ゲーム序盤で早々に脱落する……。この展開に驚いたプレイヤーは多いのではなかろうか。

 小高氏は最後のステップとして、キャラがゲーム中で主人公とどのように絡み、どのように動くかを考えるという。『ダンガンロンパ』の極限状態という世界観において、舞園さやかと主人公はどういう関係であるべきか? より親密になるという選択肢もあったが、小高氏はあえてここで、“最初の犠牲者だが、単純に殺されたのではなく、殺そうとした結果返り討ちにあった。もし最初の殺しが成功していれば、主人公に罪をなすりつけるつもりだった”というイベントを用意した。

『GDC 2015』
▲王道ヒロイン的なプラス要素でキャラを構成してきたからこそ、イベントのマイナス要素が生きると語る。最悪のヒロインができあがったことで、小高氏自身がぐっと彼女に興味が出たという。

 小高氏はイベントの内容を決めるポイントとして、キャラクター性とのギャップがあればあるほどいいと語る。そのギャップを補完するために、キャラのエピソードが生まれるという。

『GDC 2015』
▲舞園さやかは“アイドルになる”という夢のために人生のすべてを懸けてきた。ステージで待つ仲間のために、“どんなことをしてでも”外に出るという強い想いを抱く。

 キャラクター性の深みを出すために、できるだけ予想外のイベントを起こすほうがいいと小高氏は語るが、それもやりすぎるとキャラの人間性が失われ、単なるコマのようになり感情移入ができなくなってしまう。そのラインの見極めは、結局そのキャラに対して「愛があるかどうか」で判断するという。

■キャラクターの死と好感度イベント

 こと『ダンガンロンパ』シリーズでいえば、ゲームが進むにつれメインキャラが続々と死んで脱落していく。その“喪失感”を強くするために用意したのが、好感度イベントだと語る。好感度イベントを進めることでキャラの背景がより理解でき、死を迎えて聞きそびれてしまった余白はキャラにさらなる深みを与える。これは、ゲームシステム自体がキャラとストーリーを盛り上げるのに一役買っているといえる。

『GDC 2015』
『GDC 2015』
▲「おしおきシーンはキャラクターの最後の見せ場」と小高氏。これまで作ってきたすべての要素を、最期のシーンで昇華させる。

 最後に小高氏は「キャラクターに必要なのはやはり愛。しかし、それは深ければいいというものではない。広く愛を持って、好きなものを広げていかないとキャラが偏ってしまう」と述べて、セッションを締めくくった。次回作ではどのようなキャラクターでユーザーの想像を超えてくるのか? これからも注目していきたい。 

『GDC 2015』
『GDC 2015』
▲「今からでも間に合うから、みんなPS Vitaを買おう!」とオチをつけ、笑いを誘った。「決してソニーの回し者ではありません」とは小高氏談。

■講演後の小高氏を直撃!

 本セッション直後、小高氏にお話をうかがうことができた。その内容を紹介していこう。

――GDC初となる講演はいかがでしたか?

 通訳を挟んでの講演は難しかったです。もっとテンポよく話したかったのですが、やはり英語を話せるようになりたいなと思いましたね。でも、こちらでも『ダンガンロンパ』を知ってくれている人が多かったので、そこはよかったです。

――日本と比較して、海外ではPS Vitaの割合が少ないんですよね。

 そうなんですよね。それでも『1』が10万本以上売れているようで。こちらに来る前はもっと少ないと思っていたので、「そんなに売れているんだ」と自分でびっくりしました。

――日本版の内容を、そのまま海外版にローカライズしているのでしょうか?

 基本の内容は変わりません。ローカライズはすごくいいようですね。私があまり英語を得意でないのが残念ですが。

――本日のセッションで話されていたストーリーやキャラクターの作り方ですが、この方法論は小高さんのなかでどうやって確立したのでしょうか?

 自然とそうなっていましたね。最初、GDCの講演依頼をいただいたときに「何か話せることがあるかな」と自答したとき、自分なりのキャラクター制作の方法が頭に浮かんだので、それを伝えようと思いました。

――学生時代は自主映画を制作されていたそうですが、その頃からこういった作り方をされていたのでしょうか?

 いや、つい最近ですね。結局、作っているときは自分のやり方を体系的にまとめたりすることがないんですよね。部分部分では、キャラクターをコマのように扱っているように見せないとか、自分のなかで意識していることはあったんですけど。

――実際に3つのキーワードを組み合わせて作ったキャラクターで、小高さん的に一番ハマったと思えるキャラクターは誰でしょうか?

 田中眼蛇夢ですかね。中二病のキャラを作るということは決まっていたのですが、最初は“超高校級の●●”の部分が空いていたんですよね。そこに中二病とはかけ離れた“飼育員”という要素が思い浮かんだときに、ハムスターを召喚魔法のように呼び出したりできそうとか、いろいろ想像が膨らみました。

 あとは不二咲千尋かな。男の娘だけど天才プログラマーと、いろいろつながったような気がします。

――イベントを作るうえではキャラクターとのギャップが重要ということでしたが、最もギャップを出せたと感じているのは誰でしょうか?

 うーん、狛枝(凪斗)や舞園ですかね。あとは腐川(冬子)もそうですね。あらためて振り返ると、お気に入りのキャラクターはけっこういっぱいいますね。

――実際、『2』をプレイしていたときには狛枝のイベントには驚かされました。

 あそこは出来事だけ最初に思い浮かんでいて、どうやってキャラクターと結びつけようか、いろいろこねくり回して考えました。イベントとキャラクターのギャップを埋めるという、まさに今日の講演で話したパターンでできあがりました。

――個々の要素の組み合わせは、どういうときに思い浮かぶのでしょうか?

 要素を組み合わせてキャラクターを作るのは机の上ですけど、要素を集めるのは何かを見ているときですかね。 日々、いろんなものに目を向けていると、まだまだ要素は出てきます。組み合わせまで一緒にするとパクリになっちゃうのですが、アイデアが枯渇することはまだありませんね。

――記憶に残るキャラクターを作るには自分が好きかどうかが重要で、周りの意見はあまり気にしないとおっしゃっていましたが、周囲はそれで納得するのですか?

 ストーリーに関してはけっこう意見を取り入れたりしますけど、キャラクターに関してはストーリーに乗せてみないとわからない面が多いですからね。「こんなキャラです」と説明しても、実際にゲームでどう動くかを見ないといいか悪いかわからないので。それまでの過程で参考になる意見は聞いた記憶があまりありませんので、初期ではキャラの方向性だけ説明するようにしています。

――周りの意見を取り入れて、自分のなかで考えを変えたキャラはいますか?

 小松崎からあがってくるデザインを見て、設定を考え直すということは多いですね。小松崎は僕の次にキャラクターについて考えている人間なので。彼にデザインを発注する際はあまり事細かに設定を伝えないようにしています。彼のセンスを大事にしたいと思っていますので、まずは一回やってみてと。

 キャラクターを動かすうえでやりすぎはいけないということですが、そのラインを小高さん自身はどうやって見極めているのでしょうか。

 端的にいえば「愛のあるエピソードで補完できないレベル」でしょうか。たとえば弐大(猫丸)がロボットになるという設定は、ギャグにしてしまえばキャラクターが立つのでOKかなと思うのですが、chapter2で九頭龍が死にかけたときに、九頭龍をロボットにしてしまったら、この状況ではギャグにもできないし拾えないですよね。

 つなぐエピソードを思い浮かぶかどうかが重要で、やりたいエピソードでもそれが思いつかなければやりません。まあでもほとんどは、自分がやりたいようにやっているんですけどね。

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