2014年9月12日(金)
夏海公司先生が執筆する、電撃文庫『ガーリー・エアフォース』の紹介記事をお届けします。
突如出現した謎の飛翔体“ザイ”。それは、人類の航空戦力を圧倒した。彼らに対抗すべく開発されたのが、既存の機体に改造を施した“ドーター”と呼ばれる兵器。操るのは、“アニマ”という操縦機構。それは――少女の姿をしていた。
鳴谷慧が出会ったのは真紅に輝く戦闘機、そしてそれを駆るアニマ、グリペンだった。人類の切り札の少女と、空に焦がれる少年の物語が始まる。
謎の飛行物体“ザイ”=災が中央アジアのキルギスに出現し、その攻撃によって大陸のほとんどが壊滅状態に。日本では石川県の小松市にある自衛隊の基地が、ザイ迎撃の最前線になっています。本作はそんな緊迫した世界で紡がれるボーイ・ミーツ・ガールを描いた青春ストーリーです。
主人公は母親をザイに殺された高校生・鳴谷慧。彼は紅い戦闘機を操る少女・グリペンと運命的な出会いをはたし、交流を深めていきます。グリペンの容姿は淡い桃色の長髪が愛らしい美少女そのものですが、実は生身の人間ではなく、人格を持った自動操縦装置! その生い立ちにも秘密があったりして、彼女に慕われて世話を焼く慧にも過酷な試練が訪れます。それをどうやって乗り越えていくのかが、本作の最大の見せ場です。
ザイ襲来という戦時下の物語なので、基本的に戦闘シーンは多め。でも、「シルクロードの空には天国がある」というような、著者の空への純粋なあこがれが垣間見えるセリフや表現が随所にあり、それがこの作品に不思議な爽快感を与えています。金色に輝く西域の荒涼とした大地や空の青さ、オアシスの緑――。そこを飛ぶ航空機を想像しながら読むと、天空にいるような開放的な気分になれます。
グリペンの愛称を持つスウェーデン独自の戦闘機JAS39やイーグルの愛称で知られる制空戦闘機F-15など、実際に存在する戦闘機が美少女の姿で登場するのも魅力的。航空機ファンや人工知能少女好きの人は、特に感情移入しやすいのではないでしょうか。擬人化ものではないのですが、彼女たちの性格と性能はどこかシンクロしているような……。そんな楽しみ方もできる1冊です。
美少女×戦闘機に愛を注いで作られた作品だけあって、本作にはキュートな戦闘機少女(正確には自動操縦装置少女?)が登場します。特に注目してもらいたいのが、スウェーデン製の戦闘機を操縦するグリペン。見た目は無表情でどこかはかなげな美少女ですが、予測不能な行動で相手を翻弄します。主人公の慧などは、初対面の時に突然キスをされてしまったほどです。
物語が進むにつれ、彼女にも女の子らしい感情がちゃんとあることが伝わってきてドキドキ度も上昇……。でも、グリペンは自分の存在意義を“ただの兵器”と割り切っており、そこがとても切ない! 人間の男の子と戦闘機少女が幸せになる未来はあるのか? ぜひ最後まで2人の関係を見守ってあげてください。
生身の少女では、慧の幼なじみ・明華(ミンフォア)の元気っぷりに励まされるはず。彼女はポニーテールがよく似合う16歳の中華娘。受け身な慧をグイグイと引っ張ってくれて、こんな少女がいたらザイが襲来する過酷な世界でも前向きに生きれそうです。明華とグリペンの共通点は、大事な男の子を守るために強くなろうとするところ。健気な2人の活躍に期待です!
(C)夏海公司/KADOKAWA CORPORATION 2014
イラスト:遠坂あさぎ
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