2015年4月22日(水)
『海腹川背』シリーズがPS Vitaに! 完成度の高い名作ラバーリングアクションの魅力をお届け
『海腹川背』シリーズは、1994年にスーパーファミコンで第1弾が登場して以来、高い評価を集めてきた2Dタイプのアクションです。1997年には第2弾としてPS版『海腹川背・旬』が発売され、2000年には『旬』をアレンジしたPS版『海腹川背・旬 セカンドエディション』が発売されるなど、ゆるやかなペースながら息の長いシリーズとしてリリースされ続けてきました。とくに『セカンドエディション』はゲームアーカイブスでも大好評配信中なので、旧作発売当時を知らなくても「タイトルには見覚えがある!」という人も少なくないかもしれません。
そして、アガツマ・エンタテインメントから明日4月23日に発売されるのが、PS Vitaではシリーズ初となる『さよなら 海腹川背 ちらり』。2013年に発売されたニンテンドー3DS版『さよなら 海腹川背』(以下、3DS版)をベースに、新要素が追加された注目の1本なのです。
■どこかほのぼのとした雰囲気の古きよき2Dアクション
『さよなら 海腹川背 ちらり』は、基本的なゲームシステムは従来のシリーズをそのまま継承しており、古きよき2Dタイプのアクションとしてまとまっています。プレイヤーは主人公・海腹川背をはじめとした女の子を操作して、各フィールド(ステージ)に用意された扉からの脱出を目指すことに! 1つのフィールドに複数の扉が隠されていることもあり、どの扉から脱出したかによって、次に進めるフィールドが変化するのもポイントの1つ。一度クリアしてからも別のルートで改めて遊び直せるなど、繰り返し楽しめるように工夫されています。
▲フィールドに待ち受ける敵は、擬人化された魚介類たちという(一部、両生類も!)、シュールな設定が特徴的。背景のデザインやBGMは全体的に“ほのぼの”とした雰囲気に包まれており、親しみやすくなっています。 |
■“ラバーリングアクション”と銘打たれた独特のゲームシステム
ゲームジャンルが“ラバーリングアクション”とうたわれている理由はズバリ、主人公が手にしている武器(?)・ルアーにあります。ルアーは先端にフックが取り付けられたロープのようなアイテムで、ルアーボタンを押して使用した際にボタンを押しっぱなしにしておくと、ルアーを対象物にくっ付けた状態で固定できるというスグレ物なのです。
▲ルアーは四方八方、好きな方向に投げつけることができます。敵に当てれば相手を一時的に気絶させることが可能(ボスなど一部例外を除く)。気絶している敵にルアーを固定してロープを引っ張れば、釣り上げる要領で相手を倒すこともできます。 |
おもしろいのが、ルアーを天井や壁に向かって投げつけてルアーボタンを押しっぱなしにしておけば、ルアーを地形に固定できることです。例えば天井に固定すれば、そのままブランブランとぶら下がれる上、体を左右に揺らしたり、ロープの長さを伸ばしたり縮めたりすることだって可能です。しかも、このとき体の振り子運動とロープの長さ調節をタイミングよく組み合わせると、なんとロープに“ビョーン”とゴムのような伸縮性が発生! この反動を利用すれば大ジャンプといったアクティブなアクションを使いこなすことも可能で、それが本作の醍醐味にもなっているのです。
▲ルアーを地形に固定しておけば、ぶら下がってさまざまなアクションにつなげていくことができます。うまく操作するとロープにゴム紐のような伸縮性が生まれるのがポイントで、それを使いこなせばゲームの楽しさがどんどん広がっていくことに! |
■おなじみのキャラクター・海腹川背以外にも魅力的な女の子が大活躍
本作では、シリーズを通して主人公を務めてきた女の子・海腹川背の他、江美子ちゃん、横山埜鼓(よこやま のこ)といった個性豊かな女の子たちもプレイヤーキャラとして選択できます。また、特定の条件を満たせば隠しキャラ“川背ちゃん”も使えるようになります。
なお、海腹川背を使っている時にLボタンを押すと“モーションストップ”がかかって、ゲーム中の時間経過を約2秒間止められるなど、各キャラには固有の特殊能力が用意されています。その特殊能力を使いこなして、キャラごとの攻略法を編み出していくのも楽しみの1つになっています。
海腹川背 |
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ファンにはおなじみの女の子。流しの板前をしながら、日本全国を放浪しています。ちなみに隠しコスチュームを入手すると、初代『海腹川背』バージョンの姿でゲームを進めることも可能に!
●特殊能力“モーションストップ”:ゲーム内の時間経過をストップできます。その間、ルアーを投げる方向を操作できるのがミソ。
江美子ちゃん |
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小学校時代の川背ちゃんの友だち。美しい金髪を持つ、ハーフの女の子。魚業を学ぶために日本にやってきたノルウェー人の父親と、港町出身の母親がいます。
●特殊能力“リスタート”:チェックポイントを通過すると、ミスしても1回だけその場復活できます。
横山埜鼓 |
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迷彩柄のリュックを背負ったクールな女子高生。その正体は、未来からやって来た時空警察の潜入調査員で、海腹川背の子孫というオドロキの設定も!
●特殊能力“スロー”:モーションストップの発展型。ゲーム内の時間経過の流れをスローにできます。
川背ちゃん |
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ランドセルを背負った姿がキュートな、小学校時代の海腹川背。引っ越しが多かったため同世代の友だちとの思い出は少ないが、江美子ちゃんと川で溺れかけたことはよく覚えているそうです。
●特殊能力“リスタート”:江美子ちゃんと同じ能力。
■PS Vita版ならではの新要素も盛りだくさん!!
本作は3DS版をベースに、内容はさらにゴージャスにパワーアップ! 3DS版に収録されていた全50フィールドは、敵キャラの配置から思考ルーチンまで再調整を施し、さらに本作オリジナルフィールドも10種類を追加。フレームレートも秒間60フレーム(60fps)にクオリティアップし、街角でスズメが飛び交う演出などが加わって、見ごたえも増しています。
もちろんオンライン機能にも対応しており、クリアタイムランキングを全世界共通で競えます。さらに、他のプレイヤーのリプレイデータをダウンロードしてゲーム内で鑑賞できるなど、システムも充実。また、シリーズ1作目となる『海腹川背』もまるまる収録されているので、往年のファンなら懐かしさひとしおでしょう。
▲細かいところに手直しが加わり、グラフィックの見ごたえは増しています。3DS版を遊んだことがある人は、違いを探しながら遊んでみるのも一興でしょう。 |
▲初代『海腹川背』も完全再現。当時は現在より高難度のアクションが好まれたため、全体的にシビアかつ、キャラの動きもスピーディにバランス調整されています。 |
■開発者のブレない狙いがクッキリ見える! だから私は『海腹川背』の永遠のファン!!
編集部きってのアクション好きなライター・城イドムが、PS Vita版『さよなら 海腹川背 ちらり』を一足早くプレイ! 熱い愛を込めて、プレイインプレッションをお届けする。
「クセは強いが、指先に確かな手ごたえを感じ取れる」――この独特の想いに駆られたのは、これで2度目だ。そんな感触に初めて出会ったのは約18年前、筆者にとってはシリーズ初体験となるPS版『海腹川背・旬』を手にした時だった。今筆者の心をそれと同じ気持ちで満たしてくれている作品、それがPS Vita版『さよなら 海腹川背 ちらり』である。
そもそも『海腹川背』シリーズとはどんなアクションなのか、改めて振り返っておこう。2Dタイプのアクションというジャンルは1980年代に隆盛を極め、1990年代には徐々に勢いを失っていったものの、当時はまだまだ固定ファンから根強い人気を集めていた。
シリーズ初作の『海腹川背』が登場した1994年、そして『海腹川背・旬』がリリースされた1997年は、一般のゲームファンにとって“古きよき2Dアクション”がなじみ深い存在だった“最晩年”といえる。そんな時代背景のもと、これらの作品は“普通の2Dアクションとは一線を画する意欲作”として迎えられた。
操作しだいでゴムのような伸縮性が生じるルアーは斬新そのもの! また、そんなルアーの特性をより深く追求できるように、1つのフィールド(ステージ)を比較的小規模のマップで構成し、特定のテクニックを駆使しないと進めない足場を地形の随所に盛り込んだゲームデザインは、異色の存在感を放っていた。当時、「これはおもしろい!」と、私も夢中にさせられたものである。ただ、そんなゲーム設計ゆえに、ルアーの扱いをマスターしないと本当の長所が見えてこない側面があり、“クセは強い”とも感じていた。
『さよなら 海腹川背 ちらり』は、ルアーを使ったゲーム性といい、絶妙な配置の地形といい、初期シリーズをプレイした時に感じたあの魅力がしっかりと息づいている。もちろん、独自のアレンジは加えられており、全部が全部、旧作そのままという訳ではない。
例えば、『海腹川背』や『海腹川背・旬』では、通称・ダッシュと呼ばれるアクションが存在した。細かい操作手順は割愛するが、足元にルアーを固定したまま一度右手(または左手)に移動し、ロープの張力を利用して左方向(または右方向)にダッシュする、というシリーズ独特のアクションだ。しかし『さよなら 海腹川背 ちらり』で同じ操作手順を踏んでも、ロープの張力はほとんど発揮されない。ダッシュに近いアクションを実行するためには、一連の手順にロープを巻き取る操作(方向キー下)を組み合わせる必要があり、往年のファンの中には違和感を覚える人がいるかもしれない。
それでもそんなシステム設計のもと、「ルアーを使いこなすほど、新たなおもしろさに出会える」という『海腹川背』らしさはしっかりと作中に表現されており、地道にテクニックを研いていくのが好きな人ならドップリとハマれること、ウケ合いだ。
ただ、初心者が軽くプレイして十分に楽しめる作品かというと、筆者は“厳しい”と分析している。一応、旧作に比べれば、格段に遊びやすくなっているのは確かだ。ゲーム展開全体の流れを旧作よりスローモーに再調整するなど、開発者が「より遊びやすくしよう!」と配慮した姿勢も感じ取れる。しかし、ルアーをめぐる高度なアクションを成功させる喜び、それをゲーム中に盛り込むことにかけては、並々ならぬコダワリが作品全体にみなぎっている。そのコンセプトを貫く限り、やはり“クセは強い”という側面が残ってしまうのは致し方ないだろう。
しかし、クセの強さ、それこそが筆者個人がこのゲームで最も高く評価しているポイントに他ならない。今風のアレンジを可能な限り加えながらも、「こういう魅力を作品で表現したい!」というゲームデザインに一切の妥協がないところが、実に潔い。だからこそ、初見は「少し地味かな?」とさえ思える作品ながら、やり込んでいくと底知れない奥深さに感動させられるのである。
一般に往年の名作シリーズが新たにリリースされる場合、最新のトレンドに合わせて生まれ変わり、旧作の“らしさ”とは異なる魅力が再構築されていくのが普通だ。そんな中、本作のように時代に迎合しない、そんなゲームがあってもいい。その存在そのものが、長らくゲームを愛してきた筆者にとっては堪らない喜びをもたらしてくれている。
完成度の高さは保障付きだ。作風・魅力・リリースのあり方、どの観点においても“通”に強くオススメしたい、そんなアクションである。
(C)2015 Agatsuma Entertainment Co.,Ltd. (C)モーションバンク/2015 スタジオ最前線
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