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2015年6月12日(金)

IPの効果は100億円以上? 『ブレフロ』『ログレス』『ぷよクエ』の3社が語る売れるアプリの育て方

文:広田稔

 「数十万で勢いが止まらず、数百万、数千万とダウンロード数を伸ばしているスマホアプリは、どんなマーケティング手法を使っているのだろう?」

 6月8日、メタップスはそんな疑問を解消してくれそうな、スマホアプリのマーケティングに関するトークイベント“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”を六本木アカデミーヒルズで開催した。

“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”

 “月商10億円を超えるメガヒットアプリの“軌跡”と“最新の成長戦略”が解き明かされる”をキャッチコピーに掲げた本イベント。アプリ開発者やマーケティング企業が自分たちの成功体験をプレゼンしたり、座談会で語り合うという濃厚な2時間だ。

 中でも大きな注目を集めたのが“ゲームアプリビジネスの現在(いま)と未来(これから)”と題されたパネルディスカッション。ここでは、ゲームアプリビジネスで成功を収めた人物たちによる、歯に衣着せぬ本音を聞くことができた。ここでは、特に興味深かった内容をピックアップしてお伝えしていこう。

“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”
▲スピーカーは、左からエイリム代表取締役COOの高橋英士氏、マーベラス執行役員でマーケティング本部長の三枝明大氏、セガゲームスセガネットワークスカンパニーのCOO・岩城農氏。司会はメタップス取締役で、スクウェア・エニックス元代表取締役社長の和田洋一氏だ。
“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”
▲エイリムは、2015年7月で2年目を迎えるRPG『ブレイブフロンティア』の開発会社。gumiとともに世界106ヵ国で配信しており、ダウンロード数は国内でもうすぐ600万、全世界で2300万を超えているという。
“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”
▲マーベラスは、Aimingが開発した『剣と魔法のログレス』の運営会社。本作は、Aimingが東証マザーズに新規上場した3月25日にトップセールス1位をとる快挙を成し遂げている。
“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”
▲セガネットワークスは、セガゲームス内のカンパニー。『ぷよぷよ!!クエスト』などのソフトを手がけるほかマーケティング支援ツール『Noah Pass(ノアパス)』も提供している。

■人気番組ではなく、あえてダラダラ観れる番組でTV-CMを出す

 ディスカッションの冒頭では、TV-CMをどう効果的に使えば、アプリランキングの上位に食い込めるかについてが語られた。和田氏の「Amingが新規上場をはたした3月25日に、なぜ『ログレス』はセールスランキングの1位を取れたのか」という問いに対し、マーベラスの三枝氏は次のように答えている。

“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”

 「『ログレス』がトップセールスの1位を取るまでの経緯ですが、共同開発のAimingさんと協議をして、今年1月後半から2月の後半の広告費の使い方を大きく変えたんです。

 また、Aimingさんの上場がだいたい3月25日だろうということも考慮し、その日をターゲットにトップセールス1位を狙えるよう、ゲーム内イベントとプロモーションを両社で設計しました」

 そのプロモーション設計というのは「多少GRP単価が上がっても構わないので、こちらが指定した番組に極力TV-CMを出稿させてくれ」ということ。三枝氏は同時に「TV-CMはただ漠然と流しているだけでは、対象となるターゲットに対して効果的なアプローチができない」と述べている。

 そこで三枝氏は、TV-CMを流すタイミングを独自路線で調整したという。

 三枝氏が言うには「たとえばドラマなど、視聴者が内容をしっかりと観たい番組の場合はリアルタイムでTV-CMを見ても、関心がそこに行かない。また、録画されてスキップなどの機能でTV-CMを飛ばされることも多い。よってTV-CMを流す際は、リアルタイムになんとなく流して観てしまうような番組の方が効果が高いんです」とのことだ。

 さらに、TV-CM発注額を東名阪エリアに集中させず、地方局にもしっかり寄せることで無償パブ番組を大量に獲得し、タレントなど人の言葉で『ログレス』を紹介するといった状況を作り出せたのも大きかったという。それを日本全国で展開することで、既存のユーザーに対しては刺激を与えつつ、新規ユーザーも獲得できたとのことだった。

■プロモーションは、その国を熟知している人間とやらないとダメ

 アプリのグローバル展開についても興味深い議論が展開された。海外でアプリを売る際には、プロモーションやマーケティングのやり方、開発そのもの、ビジネスの成功や失敗を評価するKPI(重要業績評価指標)の国ごとの違い、カルチャライズの必要性など、さまざまな疑問が生じるという。

 こうした問いかけに対して、高橋氏は次のように語る。

“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”

 「『ブレイブフロンティア』は国内よりも海外のほうがユーザー数が多く、gumiの海外チームがローカライズも行ってくれています。グローバルに展開する際、最も苦労したのはプロモーションでした」

 高橋氏によると、国によってプロモーションに使える手法がまったく異なり、場合によっては手段そのものを使えないこともあるという。「その国で効果的なプロモーションを熟知している現地の人たちとやらないとダメだと感じましたね」と高橋氏は述べていた。

 さらに“海外でウケるためのカルチャライズ”についてだが、高橋氏は「個人的にはあまり関係ないと思う」と語る。「根元的にはゲームの内容が重要なので、そのゲームがおもしろければ大丈夫」であるとしたうえで、gumiと一緒に掲げた“アジアファースト”というテーマに関しては誤算な面もあったとコメント。

 高橋氏は「中国や韓国は距離が近く、ゲームが好きなユーザーも多いので取りにいこうという話をしていたのですが、結果的に売れたのは北米で、次いでヨーロッパでした。中国と韓国で苦戦した理由は、もともとオンラインゲームが成功していた国で、国内でゲームを作れるメーカーが多いというのも一因だと思います」と分析している。

 中国と韓国は早い段階からおもしろいアプリが自国で次々に登場していた。そのため、外から来たゲームはやる必要がなかったのではないかと述べる高橋氏。しかし、そんな高橋氏も『ログレス』ならいけるのでは?」と期待を寄せているようだ。

 それに対し、三枝氏は「『ログレス』のアジア展開にあたっては、パートナー会社のAimingさんと協議をして、先ずは台湾・香港・澳門エリアにおいてシンガポールの企業と一緒にやることを決めました。韓国は過去に検討はしたのですが「『カカオトーク』に入れないとダメだよ」と真っ先に言われましたね」とコメント。

 三枝氏によると、韓国市場はネットゲームのプラットフォームが強力すぎるがゆえに、予算を何十億円使っても勝てないのだと言う。「しかし『カカオ』などに載せようとすると、高額なPF利用料で収支が見合わないところが難しいところでした」と語っていた。

■1年で100億円使っても到達できない場所に行けるのがIP

 トークの終盤では、セガネットワークスの岩城氏を中心に、IP(Intellectual Property、知的財産)について議論が行われた。

“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”

 「セガって新しいものを作りたくなっちゃうので、あまりIPを育てるのがうまい会社じゃないんですよね(笑)」と岩城氏は語る。そんな岩城氏だが、IPの力を『ぷよぷよ!!クエスト』で実感したという。

 「『ぷよぷよ!!クエスト』を出した最初のタイミングって、毎時間1万ダウンロードがあったんです。この初速や威力はすごい。知っているから入りやすいという、そういった大きな扉をこじ開けたのがIPでしたね」とコメント。

 またカプコンの『バイオハザード』を例に挙げ「ビッグタイトルは累積の投資額が尋常じゃない。1年で100億使っていい、と言われても同じ場所にはいけない。そこを乗り越えるのがIP」と威力の大きさを語っていた。

 和田氏も「『ぷよぷよ』は『ぷよぷよ』って言われた瞬間にユーザーがどんなものかを理解できる」と絶賛。なお、三枝氏もIPを利用する必要性に迫られているようだ。

 三枝氏は「そろそろ『ログレス』も1年半だからやらなくては」と前置きしたうえで「類似した世界観のIPでないと、ゲームの世界観が壊れてしまう」とコメント。

 「しかし、今後はやっていく必要がある」とIPの重要性について述べていた。

■誰かに遊んでほしい、楽しんでもらいたいという声を聞きだせたらOK

 パネルディスカッションの最後に設けられた質問タイム。冒頭で和田氏は「今日のセッションはしゃべりっぱなしで、まとめるつもりはありません」と語っていたのだが、寄せられた質問がまとめにふさわしい内容だったので紹介しよう。

“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”

 質問の内容は「ゲームの開発を始めるにあたって、企画の段階でマーケティングを最大限取り入れるのか。それとも作り手の意思を尊重するのか。どういった開発手法を取ってるのか教えてほしい」というもの。

 この問いに対し最初に口を開いたのは高橋氏。「プロモーションの話をしても、市場の話をしても、ゼロに何をかけてもゼロ。はじめに掛け算されるゲームがそもそも成立していないとすべてムダになってしまう。そこをマーケティングで計算できて、このマーケティング手法を取ればこれだけ跳ねる、ということを見抜けたら天才だと思います。

 ゲームは結局ゲームなわけです。ゲームクリエイターが何を作りたくて、何に対して“これ面白いでしょ”と言いたいのかを重視しています。クリエイターは“いつか機会があったらこういうタイトルを作りたい”という思いを抱えているはずです。

 最初のゲームのところをおろそかにして、スキームだけ語っても……と個人的には思います」と語った。

 このコメントを受け三枝氏も「大前提に、開発を初めてもゲームができるかどうかはわからない。だからプロモーションは、最後の段階で、リリースの見通しがついたステータスになってからはじめて契約を始めるようにしてます」と意見と述べた。

 高橋氏同様、クリエイターの情熱に言及したのは岩城氏だ。「パッションは重要視します。RPGなどは、得意な人しか作れない。クリエイターには得意なジャンルがありますし、逆に言うと作りたいものがいくつかあると思う。

 ターゲットユーザーがちゃんといると思うし、パッションもあるのでいける、という組みあわせを探すのが重要だと思います」と語った。

 最後に和田氏は次のようにまとめている。「パッションも重要ですが、“自分がやりたいゲームを作りたい”というのは、たいていコケます。自分が作りたくて、あの人に遊んでほしい、あの人が遊んだらきっと楽しく思ってくれるだろう、という声が聞き出せたらOK。

 次に見るのが、ゲームを最後まで作れるかどうか。これはものすごく大変。作りきれるかどうかが最低限必要な能力です」

 和田氏のコメントで幕を閉じた本イベント。今後、ますます競争が激しくなると予想されるスマホアプリビジネスの世界。ここからどういった作品が流行し、人気を獲得していくのかに興味は尽きない。

“Smartphone Game Conference Vol.1 in Tokyo”

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