2015年6月17日(水)
PS4なら『人喰いの大鷲トリコ』を最高の形で実現できる。E3会場で吉田修平氏に直撃インタビュー!【E3 2015】
アメリカ・ロサンゼルスで開催された世界最大のゲーム見本市E3 2015。SCEのカンファレンスを終えた吉田修平氏に、今回の手ごたえやこれからの展開などを聞いた。
▲ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオプレジデントを務める吉田修平氏。 |
■『人喰いの大鷲トリコ』は『ICO』と『ワンダと巨像』の良い部分を合わせる発想からスタート
――プレスカンファレンスの開幕では『人喰いの大鷲トリコ』が会場を沸かせました。
発表してしまったので、これからはプレッシャーとの戦いです(笑)。2016年発売と公表しておいて、また遅らせられないぞ、と。ただ開発の進行は順調なので、これは行けるだろうと判断して今回発表させてもらいました。
――今回はムービーだけでしたが、いろいろ気になる要素が見受けられました。
本当はライブ映像で見せたかったのですが、アドベンチャーなのでどうしても長くなってしまいます。また、大鷲“トリコ”がAI(人工知能)で動くので、思った通り飛んでくれないこともあるんですよ。カンファレンスの時間はキッチリ決まっているので、今回は映像という形になりました。ただ、別の場所ではちゃんと動かして見せられるぐらい開発は進んでいるので安心してください。
――大鷲“トリコ”について教えてください。
主人公とのコミュニケーションでちょっと変化していきます。トリコに対して何か発言すると、いろいろなレスポンスが返ってくる。そのなかで、トリコとの関係性もちょっとずつ変わっていくようです。
――では、あのシーンはある程度ゲームが進行した場面なのでしょうか。
そうですね。最初はお互い知らない同士として出会うところからスタートするので、あのシーンではある程度信頼関係ができたところになります。
――話を聞いていると、同じく上田文人氏が手がけた『ICO』を思い出します。
そういう意味では似ていると思います。主人公がトリコにしがみつくところなんかは『ワンダと巨像』を彷彿しますよね。見てもらえるとわかると思いますが、本作はこの2作の良い部分を合わせる、という発想からスタートしています。
――主人公がトリコと協力してステージをクリアしていく、というようなゲーム内容なのでしょうか。
そうです。アドベンチャーゲームなのでいろいろなシーンがありますが、大きな意味では『ICO』に近いと思います。
――プラットフォームがPS3からPS4に変わりましたが、こちらについては?
PS3で発表した当初は開発チームがすごく苦労していました。発表時はあの映像で動いていたのですが、実はゲームエンジンに実装してみると、あのスピードで動作していませんでした。パフォーマンスやフレームレートが低くて、すべての要素が入っていませんでした。開発そのものは順調だったので行けると考えPS3での発表に踏み切った訳なのですが、技術的には煮詰まっちゃって。2010年の東京ゲームショウでは公開できていましたが、2011年はほんとうに苦労しました。
――そこにPS4が登場したと。
このままPS3で作り続けても、ゲーム内容やその他もろもろに関して妥協しなければならない部分が出てきてしまいます。もちろん、ユーザーさんがイメージするビジョンにも届きません。それだったら最高の形で実現できるPS4で挑戦してみようと。その決定が確か2012年だったと思います。
――そこからの開発は順調だったのですか?
そこからも時間がかかりましたね(苦笑)。主な原因はPS3という特殊な開発環境で進めていたため、PS4用にほぼすべてをやり直す必要があったからです。「『トリコ』は何時出るんだ」なんて声もあって、上田さんにもツラい思いをさせてしまいました。そんななかで去年あたりからPS4での開発が本格的に進み、今回ようやく目途がたったという感じです。
――開発当初からハードルの高さがうかがえます。
今考えても、技術的にやるべきこと、PS3で実現したかったことの難易度が高かったと思います。キャラクターの制御とかAI、アニメーションの自然さを妥協しないレベルで実現しようとしたときに壁にぶつかってしまった。PS4ならそれが実現できるのですが、それでも時間がかかってしまいましたね。
■日本向けのタイトルが目立つなか、ワールドワイドな作品も登場!
――カンファレンスでは日本のタイトルが目立っていましたね。
とても反響が大きかったですね。会場が沸くだろうなと思っていたのは『FFVII』のリメイクと『シェンムー3』、そして『トリコ』です。これらはある程度の反響は予想していましたが、これほどとは思ってなかったので鳥肌ものでした。
――『FFVII』のときは、会場内に「これはVIIか、VIIなのか?」という雰囲気が漂いました。
みんな立ち上がっていましたね。ああいった欧米ならではの反応のなかにいるのはおもしろいです。日本の発表会だとわりと静かなので(笑)。
――『FFVII』は日本国内での反応も大きかったようです。とくにゲームから離れていた人たちからの反響がすごかったですね。
これを機会に戻ってきてもらえるとうれしいですね。聞いた話だとスクウェア・エニックスさんの株価も上がったようです。
――吉田さん的には『FFVII』にはどのような期待をしていますか?
私はPS初期から開発に携わっていましたので、ハード競争の流れを大きく変えた感慨深いタイトルですね。そこまですごく苦しい時代だったので(笑)。あのときの日本のコンテンツパワーをよみがえらせる起爆剤になってくれたらうれしいですね。
――思わせぶりな映像のチョイスも上手かったと思います。
それかなと思わせながら最後にバーンと、インパクトがありますよね。音楽が決め手だったと思います。スクウェア・エニックスさんには現在も『FFVII』の主要な開発メンバーがいらっしゃるようなので、ものすごいものが出来上がると思います。
リメイク版『ファイナルファンタジーVII』のトレーラー映像はこちら
――『シェンムー3』は本当にビックリしました。今回の発表にはどのような経緯が?
あれもすごいリクエストがあるタイトルでしたね。“セイブシェンムー”という活動があって、毎月3日にはツイッターで「セイブセイブ」とツイートが来ているぐらいでした。ただ、サードパーティでなにかできないかと相談していたところ、キックスターター案が出たんです。キャンペーンを成功させるためにもE3で発表したほうがいいだろうと準備していたようですね。
――早くも目標金額の200万ドルを突破したようです。
早いですね。すごいすごい。
――ぼくらのイメージするシェンムーだとお金がすごいかかりそうですが……
そう思う方もいるかもしれませんね。集まった金額によってどこまで作るかが変わるので、もっといって欲しいですね。
――新規タイトルでビックリしたのが『Horizon Zero Dawn』です。
今回、個人的に一番のウェイトを占めていたのが本作のデビューです。感情的には『トリコ』も大事でしたが、これはみなさん待っていただいているのである程度ウケるのは予想できていました。ただ、『Horizon Zero Dawn』はゲリラゲームズがものすごいお金と時間を費やして作ってきたものなので、これはドキドキものでした。
――検索ワードでもかなり上位に来ているようです。
日本での反響も上々なようでうれしいですね。
――アクションゲームの新しいトレンドを感じさせるタイトルですね。
ジャンル的にはオープンワールドのアクションRPGなのですが、アクション部分の作り込みはすごいですよ。絵的にはそこまで見せていないのですが、ロボットとの戦いや戦術的な部分はすごく時間をかけています。なんどもなんども作り直していますし、アクションの手触り感やバトルの楽しさなどは私自身も確認しているので期待してください。
――バトルがパターン化されていないように感じます。
そこもいろいろ工夫しています。ロボットにもいろいろ種類がありますが、フィールドによって戦い方も変わります。プレイヤーが持つ武器もたくさんあってアップグレードで強化もできますし、その組み合わせで戦術も変わってくるので長く遊べると思います。
――トレーラーからワクワク感が伝わってきて、興奮しました。
あまり深くは説明できませんが、ロボットは過去にあった文明のもので、それを生き残った前時代的な武器で戦っていくというギャップがおもしろいところです。ただロボットを倒すといろいろなパーツが取れるので、それを利用して自分たちが強くなっていく、という流れになっています。
『Horizon Zero Dawn』のトレーラー映像はこちら
――世界観や女の子など気になる部分が多かったです。
最初は内部でも主人公が女の子はどうか、という意見もありました。ユーザーテストをヨーロッパやアメリカで行った結果、逆に女の子の主人公がカッコイイという声が大きかったので、この形になりました。女性が強くなっている現代ならではなのかもしれません。他社さんのタイトルやほかのカンファレンスを見ても女性が主人公のゲームが増えていますし。
――ワールドワイドタイトルということで日本版を期待しています。
どうしても海外優先になってしまうのが歯がゆいですが、それはパブリッシャーさん頼みということで(笑)。
■Project MorpheusやPS4の現在、これからの展開について
――意外だったのはProject Morpheusで、カンファレンスでの紹介はアッサリしていましたね。
Project Morpheusは体験してもらうのが重要ですから。ただ今回は規模も大きくなっていてブースやタイトルも増えています。私が知っている範囲だと『RIGS』というタイトルがオススメ。アリーナを舞台に3対3で戦うロボットものなのですが、すごくおもしろいです。あとモーフィアスを装着した人と、デュアルショックを持った4人で戦う『Monster Escape』などもあります。サードパーティだとカプコンの『Kitchen』でしょうか。この3つは超オススメです。
――日本受けしそうなのは『初音ミク』と『サマーレッスン』の技術デモあたりでしょうか。
『サマーレッスン』は反応が楽しみなタイトルです。『初音ミク』はPS Moveをサイリウムに見立てて画面がシンクロしていく。みんなとタイミングがずれると恥ずかしいので、一生懸命振ってください(笑)。
――今回は技術デモではなく、ゲームタイトルも発表されているんですよね?
うちの『RIGS』もそうですし、ロンドンやジャパンスタジオで見せてきているものを商品として出す予定です。
――タイトルはかなり増えているのでしょうか?
増えていますね。『バトルゾーン』という昔のアーケードゲームのライセンスをとって、今風に作り直したタンクアリーナシューターがあるのですが、すごく楽しいです。あと『ヘッドマスター』は飛んできたボールをヘディングでシュートするゲーム。なんの説明も必要ないので、すぐに遊べます。プレイしている人を見るのもおもしろいです(笑)。
――Project Morpheusの開発も順調そうですね。
イイ感じだと思います。今年のモデルは性能がいいので、気持ち悪くなる人の数がガクンと減っています。
――今年の会場はVR色が強くなっているようです。
オキュラスさんもファーストパーティのゲームを出しているようですし。オキュラスの発表で興味深かったのが、かつて我々と一緒に仕事をしたメンバーとチームを組んでいたこと。きっといい仕事をしてくれると思います。互いにいいコンテンツを出し合えれば業界全体が盛り上がりますので、いい傾向ではないでしょうか。
――PS4発売から1年半経過しましたが、現在はどのようなステージだと考えていますか?
世界全体で見ると普及のスピードは落ちていません。日本はややスローですが、今年の春から上がってきていますし、今後ビッグタイトルが怒とうのように出てきますので期待しています。欧米に関してはまったく落ちていませんね。『バットマン:アーカム・ナイト』『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』『Destiny』『Fallout 4』『アサシン クリード シンジケート』など、ビックタイトルが怒とうのように出ます。とてもいい状況だと思います。
――日本はやはり欧米とは少し異なるペースですね。
PS3も普及がゆっくりでしたので、ある程度予想しています。欧米のパブリッシャーも次世代シフトも終わっている感じですが、日本のパブリッシャーはまだこれからといった感じ。あと2年後ぐらいすると景色も変わってくるのかなと思います。カンファレンスで新しいものが発表され、『ファイナルファンタジーVII』のリメイクもありますし、『ドラゴンクエストヒーローズ2』や『ペルソナ5』、『ファイナルファンタジーXV』などもあるので。
――ゲームの作り方もだいぶ変わってきたように思います。
明らかにオープンワールドが増えましたね。作るのは大変ですけど、楽しいですよね。
――ベースとなる既存の町があると作りやすいと思いますが、オリジナルだとより大変だと思います。
クリエイター的にはやりがいがあって楽しいと思います。ただデカいステージが用意されているだけに、そこをどうやって魅力的なコンテンツで埋めていくかが課題ですね。また、オープンワールドでもアプローチや目的が違っていているので、そこを見比べてみるのもおもしろいかもしれません。
――インディーズ系タイトルのクオリティもどんどん高くなっています。
徐々にではありますが、規模も大きくなっています。ただ目立っているのは時間とお金をかけて作れる“スーパーインディー”なところで、前からあるいわゆるインディーな人たちはちょっと苦戦しているようです。我々プラットフォーマ―としては、ゲームを作れてもお金がないようなインディーをいかにサポートしてくかが今後の課題になると思います。