2015年6月17日(水)
『シェンムー3』はファンの要望で形になった! 鈴木裕さんが目指す独特な世界観とは?【E3 2015】
米国で開催されている“E3 2015(Electronic Entertainment Expo 2015)”の会場にて、PS4/PC『シェンムー3』を手がける鈴木裕さんへのインタビューを実施した。
本作は、ドリームキャストで発売された『シェンムー』シリーズのナンバリング3作目。前作発売から14年を経て、キックスターターという形でプロジェクトが再始動した。募集開始から9時間で目標金額を達成し、世界中から高い注目を集めている。
今回インタビューしたのは、シリーズを手がけ、『シェンムー3』ではプロデューサーとディレクターを兼任する鈴木裕さん。タイトル発表後から今までの心境やキックスターターについて、またゲームの内容についても伺ったので、往年のファンはもちろん、話題の作品が気になるという人もぜひチェックしてほしい。
▲鈴木裕さん |
――キックスターターの目標金額達成おめでとうございます。鈴木さん自身、これほど早く達成されると思われていましたか?
ありがとうございます。今回はAWESOME JAPAN様と組んでやらせてもらっていて、キックスターターが初めてで感覚がわからないために「出足はいかがですか? 順調ですか?」って聞くと、「すごいです」と言われるんですね。ただ、何がすごいかわからないワケですよ。
実際にすごさを実感したのは、アクセスが一気に来たためにサーバがクラッシュしたと聞いてからです。あとは100万ドルや200万ドルを達成するスピードが、ゲームでは1位だったとか、全体でも2位だったという話を聞いてよかったなと思いました。初めてのことばかりなので、そういうところでしか実感できないですね。
――目標金額を達成したということで、開発はスタートできるという認識でよろしいでしょうか?
厳密に言うと、キックスターターの募集期間が終わるまではキャンセルができるんです。これで多くの人がキャンセルされてしまうとできなくなっちゃうので。
――キックスターターの目標額を達成された実感としてはどのような心境ですか?
先ほど言ったように驚いています。ただ、僕はいつも新しいことにチャレンジしたいので、より多くのことにチャレンジできるようたくさんバジェットが集まったほうがいいんですよ。ですから、いけるところまでいってほしいですね。
――SCEのプレスカンファレンスの登壇されたのは、依頼があったからでしょうか? それともご自分から「出させてほしい」と言われたのでしょうか。経緯について教えていただけますか?
SCEさんであればPlayStationハードの、マイクロソフトさんはXbox Oneのソーシャルグラフを持っています。ユーザーが希望する移植・復活してほしいタイトルの上位に『シェンムー』が来ているという話は前からありまして、彼らも『シェンムー』を出せないか、検討されていたようです。
そういう中でSCEさんと話す機会を得られました。そこで「ゲームの歴史上の重要なタイトルで、皆が新作を望んでいる。『3』をもし展開するのであれば協力します」と言っていただけました。キックスターターでやりたいという話はこちらからすでに伝えていたので、異例は異例なんですけど、カンファレンスの場を設けていただきました。それだけではなくて、それ以上の話も現在しています。
――Xbox Oneで出す予定はないのでしょうか?
決定しているのはPS4とPCのみで、今のところ予定はないです。
――『シェンムー3』を立ち上げたきっかけは、ファンの声に応えて作ることを決めたということなのでしょうか?
そうですね。もう10年以上前からそういう声は届いていたのですが、やる方法がない状況が続いていました。実はキックスターターというシステムを知る前から、一緒に組めるパートナーはいないかと動いてはいたのですが、なかなかスタートができなかったんですね。今回はいろいろな流れでうまく話しが進み、ここまでこぎつけました。
――ということは、キックスターターでなくてもよかったのでしょうか?
ただ、皆さんとともに作っていくキックスターターの性質もマッチしていたと思います。プロモーションフィルムで僕が言っているように、「with in your hand」ということですね。
――総額でどのくらいのプロジェクトになりそうでしょう?
それは募集期間が終わってみないとわからないですね(笑)。ただ、一般的なゲームを作る際にもミリオンでは大変なので、オープンワールドのゲームを作るのはかなり厳しいのは確かです。
――大変だと思います。そこはどう考えられているのでしょうか?
『シェンムー』を待っているファンの声で、まず第一に「残りのストーリーはどうなるの?」というのが一番多く出ます。2つ目に出てくるのは、『シェンムー』独特なオープンワールドを楽しみたいという声です。
『シェンムー』はオープンワールドの元祖みたいなものと思ってくださっているユーザーがいらっしゃいます。そのうえで『シェンムー』は中国系だったり日本系だったり、文化の色があって独特の世界観じゃないですか。海外のオープンワールドとは毛色が違うので、そこが受けているのかもしれませんね。
その両方を満たすゲームだとバジェット(予算)が結構かさんでしまって、いつまでたってもスタートできないと思いました。いろいろ考えた末に、ストーリーはある程度のところまできちんと進めた上で、最初はストーリーオリエンテッドになってもいいのでっていうことを考えました。
――それはいったいどういう意味でしょう?
どんな形であれ、世の中に『シェンムー』が出るのと出ないのでは、どちらがいいのだろうと考えた時に、待っているユーザーの中には「少なくともストーリーだけでも」という人がたくさんいるようなので、出したほうがいいという結論になりました。
皆さんと作っていく形式のキックスターターでストレッチゴール(プロジェクトの目標金額よりも上に設定する、第2、第3の目標金額)というのがありますから、ある程度お金のかかる要素はそちらに入れることにしました。ミニゲームは3つより5つのほうがいいだろうし、アルバイトも5つより10個のほうがいいだろうと。それはそのまま開発費にきいてくるはずなんですよね。
いわゆるオープンワールドの要素については、ある程度は用意しますけど、ふんだんに用意するとお金がどんどん上がっていくので、1つのエリアに対する拡張性をストレッチゴールのほうに置いて、皆さんから集まったお金の範囲で、できるだけスケーラブル(利用者や仕事の増大に適応できる能力・度合い)に計算して、なるべく皆さんの要望をかなえるようにした作りにしています
とはいえ僕もクリエイターなので、皆さんの要望だけではなく新しい仕掛けをやりたい。そういったものもバランスを見ながらストレッチゴールを考え、進めていこうと決めました。
――目標金額に応じて要素が足されていくと。
……ゲームはお金のかかりやすい部分と、お金とは関係ないアイデアとか仕組みだけでおもしろくできる部分があります。低めで収まった時のために、それでもおもしろさを確保しなくちゃいけない。『シェンムー』は日本においてお金のかかったゲームということで有名ですけど(笑)、僕はストーリーとオープンワールドだけがゲームの要素だけとは思っていません。
とはいえ、遊んで楽しい部分と、『シェンムー』を待っているユーザーが絶対ほしいストーリーをどうやって確保すればいいのかを考えています。
――先ほど『シェンムー』はオープンワールドの元祖という話題がありましたが、現在『シェンムー3』を作るにあたって意識されているタイトルはありますか?
『シェンムー』の『1』と『2』ですね。他については今は何も見ていないですね。
――『シェンムー』の『1』と『2』のどういうところを大事にしたいと思われていますか?
やっぱりストーリーをフォローすることがまず一番大事だと思うんですね。あとは1つのキーワードとして“懐かしさ”というものがあると思います。15年前の懐かしい感じとか、さらに言えばゲームは15年前に出したのですが、作中の舞台は86年だったのでさらに昔なんですよね(笑)。そうすると、中国も日本も今以上に文化の色が出てくるんです。
『シェンムー』らしさというのは、文化だったりスピリチュアルなところであったりします。なので『シェンムー』が海外で人気があるといっても、決して海外に向けた作りにはしません。いわゆる東洋のスピリチュアルな部分とか文化とか習慣とかいうものをちゃんと作ることによって、異文化について興味を持っていただけるというのが『シェンムー』のよさだと思っているので。
――なるほど。
『1』や『2』から『3』に持っていける部分というのはたくさんあるんですけど、ストレッチゴール……キックスターターのバジェットが変動するためにスケーラブルな『シェンムー3』の設計をしなければいけない。ですから、スケーラブルになるような構造に置き換えていくというのが重要ですね。スケーラブルにしなくていい部分、スピリチュアルな部分をまっとうするとか、形式的ではないところが『シェンムー』では大事なところだと思います。
――今この時代に『シェンムー3』を出すにあたって、当時とはハードのスペックも全然違いと思うんですが、「これをやりたい」ということはありますか?
15年前に『1』や『2』を計画した時、同時に『3』も計画していたんですよ。『1』では、当時“オープンワールド”という言葉がないので“フリー”と言われ、自由に行動できるようなことをしたいと思っていました。あとは実時間動作ですね。実時間というのは実際の時間ではないんですけど、5分を一定のゲーム内時間で進めるという比例したやり方や、時間を飛ばせないことをやりました。
『2』では、その世界をどーんと広げました。で、15年前に考えていた『3』は、ネタバレのようになってしまうのですが……さらに広げると思わせておいて、どーんと深くいっちゃえっていうのが最初からあった考え方。そのために最初の『シェンムー3』の考え方からまったく変えずに『3』では深く探っていきたいなと思っています。
――世界をさらに広くするのではなく、世界の作り込みをもっとしていくという形でしょうか?
世界というよりも、主人公の芭月涼(はづき りょう)とヒロインの玲莎花(レイ・シェンファ)の関係を深く掘り下げるというのをやりたいなって思っていたんですよ。そういうのが1つと、あとはそれに対してのいろんな工夫とか新しいチャレンジとかを考えています。
他にも今回“技書”という要素を考えています。『1』と『2』の時に、ミニゲームとかギャンブルとかクエストとかの各要素のつながりが、いまひとつ弱いぞと自分の中で思っていたんですよ。アルバイトをして、ギャンブルで増やして、ショップに行ってというように“お金”でのつながりはあるんだけども、直接的にゲーム進行に寄与したり、強くなったり、相手をやっつけやすくなったり、そういう部分っていうのはちょっと関連性が弱かった。
それぞれが持っているいろいろな要素のつながりをもう少し強くしたいなと、『1』と『2』が終わった時に自分の中にありました。『3』を作る時に、その辺のつながりをもうちょっと強くしたいって思いがあったので、今回は技書というシステムを使って、いろいろな要素のつながりを強くしたと思っています。そのほうが『シェンムー』にとって絶対ベターだろうということですね。
なので、涼とシェンファの関係を深く描きたいとか、それぞれの要素のつながりを強めたいというのが、次の『シェンムー3』で僕がやりたいことですね。
――まだ気が早いとは思いますが、キャラクターの声優は前作と同じキャストになるのでしょうか? それとも変更されるのでしょうか?
検討中です。正確に言うと、まだ言える段階ではないですね。キャストのスケジュールや事務所さんのご都合などが関係してきますから。
――スケジュールとしてはどのくらいに発売をされるのでしょうか?
2017年の末までにリリースをする計画ですね。
――では最後に読者にメッセージをお願いします。
長年に渡って『シェンムー』を待っていてくれた方の声が、途切れず僕にずっと届いていたので、そのおかげでこういうスタートをすることができる運びになりました。これはすべて『シェンムー』をサポートしてくれる人たちがあってこそのことなので、今後ともこれからも頑張って作っていきます。応援、サポートをぜひお願いします。