2015年6月26日(金)
『プラスティック・メモリーズ』藤原佳幸監督が語る最終話。ツカサとアイラの想いはどこへ向かうのか?
科学ADVシリーズのシナリオでおなじみ、MAGES.の林直孝氏が原作・脚本を手がけるTVアニメ『プラスティック・メモリーズ』。心を持ったアンドロイド“ギフティア”の少女・アイラと、18歳の少年・水柿ツカサの恋愛はどんな結末を迎えるのか――? 最終話直前の今回は、藤原佳幸監督に2人の“今までとこれから”についてお話を伺った。
●藤原佳幸(ふじわらよしゆき)
アニメーション監督。おもな代表作はTVアニメ『プラスティック・メモリーズ』、『GJ部』『未確認で進行形』など。
【#12までのあらすじ】
18歳の少年・水柿ツカサが就職したのは、心を持ったアンドロイド、通称“ギフティア”を製造・管理する企業の一部署“ターミナルサービス”。新人のツカサはギフティアの少女・アイラとパートナーを組んで、寿命を迎えるギフティアを回収している。
刻一刻と近づいていくアイラの寿命。2人で担当する最後の仕事だった、ギフティアのサラの回収が完了した日、ツカサの携帯にミチルからの留守電が。ターミナルサービスの仲間たちが、アイラの労をねぎらうパーティーを用意してくれたのだ。笑いあったり、食事をしたり、シャンパンを飲んだりと楽しい時間を過ごしたアイラは、みんなに出会えた幸せを噛みしめる……。
――いよいよ#13を迎える本作。藤原監督がオススメする、最終話の見どころを教えてください。
アイラとツカサがどんな結末を迎えるのか……というのは、#11と#12を観ていただいている方なら、もう察していると思います。ツカサとアイラが直面している現実や、自分たちなりに整理をつけた気持ち、そしてまだ整理のついていない気持ち。そのあたりをぜひ観ていただきたいです。
――本作は、誰かと出会い大事なものを共有していくという、“生きる”ということをストレートに描いている作品だと感じました。
主人公のツカサが作中でずっとやってきたのは、“積極的に他者とコミュニケーションをとる”ことなんですね。ツカサが今まで他者と、特にアイラと深く関わってきた結果、どんな影響を受けたのか。そういったことを意識して#13のコンテを描いていました。最終話を観てくださったみなさんが、明日からもうちょっと真摯に人と向き合ってみようと思えたり、人と出会うことに肯定的になってくれたりしたらいいな……なんて。そんなことも思っています。
――前回、原作の林直孝氏にインタビューした際、謎が多いツカサのプロフィールについて、藤原監督なら何かご存知なんじゃないかというお話がありました。いかがでしょうか?
たぶん、ツカサは勉強もそこそこできるし、スポーツ全般もそれなりにこなせるタイプなんじゃないかと考えています。なぜその考えに至ったのかというと、飛び抜けた才能があるわけではなく、純粋に真面目に生きてきた感じがするんですよね。先生や大人から言われたことに対して、しっかりとやってきた子なんじゃないのかな……。そこに主体性があったかどうかは、また別問題になってくるんですけど。
だから、もし出会った人たちがターミナルサービスの面々と全然違うタイプだったら、その価値観を受け入れていたのかもしれない。そんな想像を巡らせながらコンテを切っていました。そこまで意志が強いスーパーマンというわけではなく、真面目な普通の子なんだろうなという認識です。
――最初は仕事にマニュアルを求めていましたが、途中からいっさい口にしなくなって。アイラと接するうちに、心境の変化があったようですね?
ターミナルサービスのマニュアルって、臨機応変を求めている時点でマニュアルになってないですよね(笑)。パートナーのアイラの行動もツカサにとっては予想外の連続だったろうし、そもそもギフティアの回収作業はケース・バイ・ケースでやって行くしかない仕事ですから。
#11で全体会議のホワイトボードに、それぞれのメンバーが考えている一番良い回収方法が書かれているシーンがあるんですけど、その内容もすべて抽象的なんです。“真摯に向き合う”“ギフティアと所有者との関係性を見極める”とか。あとはわかりやすく、“報・連・相”(※報告、連絡、相談)とか、当たり前のことぐらいしか会議の場では言えないんですよね。
だから、マニュアルに頼れないと気づいたツカサは、自分の中での価値基準を持てばいいと考えた。外部から与えられた基準じゃなくて、彼自身の経験に基づく基準がしっかりした頃から、すっきりと行動できる子になっていったんじゃないかなと思っています。
――行動といえば、ツカサは恋愛をすることによって成長して、行動力がついた面もあるのではないでしょうか?
恋をすると、平凡な生活がいきなり華やいじゃうあの感じですよね(笑)。これは僕自身にも当てはまることですが、意中の人とうまくコミュニケーションが取れたら自信にもなりますし、さらに行動する力がわきます。そこが恋愛を描く上で面白い部分というか、描いていて飽きないテーマだと思います。
▲#02より、業務上のアイラのサポートを提案するツカサ。彼なりの臨機応変さを見せたワンシーンだ。 |
――以前、鳥羽プロデューサーへインタビューした際、「林さんも藤原監督も気づかないうちに、作品へ素の自分が出ている」と発言されていました。藤原監督が本作を客観的に見て、そういったご自身の価値観が出ているなと思うシーンはありますか?
作品の根底に流れる人生観のようなものはあるかもしれませんが、どこかのシーンに具体的な体験談が織り交ぜられていることはないですね。キャラクターの描写や心情などは、自分の中の表現の引き出しをガラッと開けて使い切った感じです。もう今は空っぽです……。
――その人生観とは監督ご自身のもの……ですか?
そうですね、他人との距離の取り方というのかな? 子供のころって、相手との距離感が近くて衝突することを恐れない部分がありますよね。でも、この年齢になると相手を本気で受け止めたり、救ったりするのは非常に大変だってわかっているから、うかつに近づけない……ということがあると思うんです。
本作だと、物語の前半でアイラが塞ぎこんでいる状況に対して、同じ部署の仲間たちがそこまで深く関わっていないという状況がまさにそれですね。昔、ミチルの父親代わりのギフティアが暴走した時に、娘との大切な記憶を失って暴れる姿や、それを抑えようとしたカヅキが負傷するのを見て、アイラはすごくショックを受けて。しかもその後、カヅキはアイラとのパートナーを解消してしまった……。それはアイラにとって心に突き刺さる悲しい思い出で、それ以降、誰かと思い出を作るということを避けていて。
一方、カヅキは自分がやりすぎたせいでアイラを傷つけてしまったから、彼女から距離を取ろうと思いながらも完全には離れられず。他のキャラクターたちも基本的には親切なんだけど、特にヤスタカなんかはアイラを救うのは自分の役割ではないと思っているような感じですよね。互いに動き出せず、硬直状態だったんですよ、あの部署の人間関係は。
――そこに他者のツカサが入ることによって、硬直していた関係が少しずつ動き出して……。
ツカサがパイプ役として入ったことで、変化が生まれましたね。そもそもどうして、今まで誰もアイラを救ってあげなかったんだろうかって考えると、誰かを“救う”ということは大変で、その人に対して“どこまで人生が賭けられるか”にかかっているところがあるからだと思うんです。実際、アイラのような子が現実の世界にいたとして、「本当に救えるのか?」と自分の身に置き換えて考えてみると……。
――彼女を一番に考えて行動できる人でないと、受け止められないかもしれないですね。
もちろん、ツカサはアイラを救おうなんて上からの目線ではなく、いっしょにいたいという純粋な感情なんでしょうけどね。
ターミナルサービスの仕事は、ギフティアと人間との間には必ず別れが来るということを突きつけてきます。笑顔の別れだったり、涙の別れだったり、怒りの別れだったり……。アイラはお客さんの心に寄り添った仕事をしていて、でも繊細な彼女にはそれが負担になり、いつしか心を閉ざしてしまいました。でも、ツカサと出会ったことで救われていった。ツカサもまた、アイラと出会って過ごした日々によって、救われていてほしいと思っています。
▲ツカサとしっかり向き合ったことで、アイラは徐々に豊かな感情を取り戻していった。 |
――お話を聞いていると、「本当に出会った者に別れはこない」という詩の一節を思い出します。
本作は偶然出会った2人がかけがえのない存在になるという純愛ストーリーですから。2人が出会ったことで起こった変化が、最終的にそれぞれの人生への肯定につながるといいな、そう思いながら#13を作りました。
アイラがずっと抱えていた“別れ”や“思い出”に対する葛藤が、ツカサと両想いになったことでどう変わっていったのか。彼女の抱えている繊細な感情を最後まできちんと描けたかなと思います。ぜひ、楽しみに最終話を観ていただけたら幸いです。
なお“G’sマガジン.com”でも藤原監督のインタビューを掲載中だ。要チェック!!
■TVアニメ『プラスティック・メモリーズ』概要
【放送情報】
TOKYO MX……毎週土曜24:30
チバテレ……毎週土曜24:30
群馬テレビ……毎週土曜24:30
とちぎテレビ……毎週土曜24:30
テレ玉……毎週土曜 24:30
tvk……毎週土曜24:30
BS11……毎週土曜24:30
AT-X……毎週土曜24:30
岐阜放送……毎週火曜25:00
三重テレビ……毎週火曜24:20
ABC朝日放送……毎週水曜26:14
※放送日時は変更になる場合があります。
【スタッフ】(※敬称略)
原作・脚本:林直孝(MAGES.)
監督:藤原佳幸
キャラクター原案:okiura
キャラクターデザイン・総作画監督:中島千明
プロップデザイン&総作画監督:菊池愛
色彩設計:石黒けい
美術監督:川口正明
美術設定:高橋武之
撮影監督:桒野貴文
メカニカルデザイン:谷裕司
3D・CG :渡邉悦啓
編集:平木大輔
音楽:横山克
音楽制作:MAGES.
音響監督:土屋雅紀
音響効果:小山恭正
アニメーション制作:動画工房
【出演声優】(※敬称略)
水柿ツカサ:内匠靖明
アイラ:雨宮天
絹島ミチル:赤﨑千夏
ザック:矢作紗友里
桑乃実カヅキ:豊口めぐみ
コンスタンス:日野聡
縹ヤスタカ:津田健次郎
ほか
(C)MAGES./Project PM