2015年8月20日(木)
【電撃PS】SCE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。第65回のテーマは“遊びの天才に甘えない”!
電撃PlayStationで連載中の、山本正美氏によるコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。
この記事では、電撃PS Vol.596(8月12日発売号)に掲載されているコラムを全文掲載! この夏、山本氏が子どもとのふれあいで感じたこととは?
第65回:遊びの天才に甘えない
しかし暑い日が続きますなあ……。何やらこの暑さ、10月まで続くといった予報もあるようで、聞いただけでぐったりしてしまいますね。そんな暑い日の涼の求め方は人それぞれ。かき氷を食べたり、クーラーの効いた図書館、ショッピングモール、映画館に遊びに行ったり。学生さんが夏休みに入ったこともあり、海やプールなんかも人でいっぱいでしょうね。
逆に、暑さに負けず熱くなる、という意味で、音楽フェスなんかもこの時期の風物詩になってきました(あのリア充感、僕は苦手ですが)。皆さんはどんな暑さ対策をされているでしょうか。
さて、プールといえば、僕の家から自転車で10分のところに市民プールがあります。子供たちを幼稚園に送り迎えするルートの途中にあったので、昔からちょこちょこ遊びに行っていました。流れるプールやウォータースライダーなどの派手な設備は一切ないのですが、その分安い! 大人が300円、14歳までが100円というリーズナブルさで、毎年お世話になっています。
そんな近所の市民プール、老朽化や地域の再開発などもあり、今年で営業終了とのこと。庶民に優しい施設がまた一つ幕を閉じるのかと思うと寂しさも募りますが、その分、感謝を込めて今年は行きまくろうということで、既に3回、娘と遊びに行っています。
水にプカプカ浮かぶって、非常にリラックスできますよね。“浮かぶ”という体感そのものもそうなのですが、なんせ聞こえてくる音がいい。跳ねる水の音、子供たちの遊ぶ声、セミの声。どれもが懐かしさを感じさせてくれます。
しかも、プールの横には野球場があり、この季節、高校野球の地区予選もヒートアップしていて、その応援の声や、“キンッ!”という金属バットの音なんかも時折聞こえてきます。いや~、夏だなぁ~……と耽っていると、結構な頻度で“ノイズ”が入ることに気づきました。ノイズとは、“係員の方の放送”です。
「プールサイドを走らないでください」や「飛び込みは禁止です」はまだいいです。僕が子供のころからプールで聞いていたフレーズで、それこそ懐かしさすら感じる。でも聞いていると、そこまで!? という注意がいくつも放送されるのです。「コースロープは持たないでください」「ビーチボールは投げないでください」「肩車は禁止です」「背泳ぎは禁止です」などなど。
確かに、プールは怪我や事故が多い場所です。運営サイドが慎重になるのも分かるのですが、もう少し伸びやかに遊ばせてほしいなあと、プカプカ浮かびながら思ったのです。
少し前に読んだ新聞で、子供の体力に関するこんな記事がありました。走ったり、投げたり、飛んだりなど、子供の運動能力は、年々全般的に落ちていると。で、その理由として、“3つの間”が関連している、ということでした。3つの間とは、“時間”“空間”、そして“仲間”だそうです。
最近の子供は塾や習い事が忙しく、体を使った遊びに割く時間がどんどん減っている。そもそも、塾や習い事をしていない友達とは時間が合わないわけで、ともに遊べる仲間の絶対数は減る。この時間と仲間の関連性については、親の人生観や生活格差なども起因しているはずで、一様に改善することは難しいかもしれません。しかし2つ目の“空間”は、大人の努力でもう少しなんとかなるのではないか。そう思います。
たとえば、最近の公園の注意書きの看板です。“危険な遊びはやめましょう”や“ゴミは持ち帰りましょう”など、当たり前の注意書きに加えて、たいていの公園では、“野球・サッカーは禁止”と書かれています。公園の広さにもよるとは思うのですが、ざっくり“ボール遊び禁止”と書かれている公園もあります。さらには“大声禁止”“談笑禁止”。一体公園で何をして遊べと言うのか。
僕はゲームを作っているので子供達がゲームで遊んでくれるのはものすごく嬉しいことなのですが、それでも公園で携帯ゲームを遊んでいる子供がいたら、もっと体も動かそうよ! とは思います。ですが、公園でゲームを遊ぶしかない状況に追い込んでいるのは、紛れもなく大人の仕業だなあと思うのです。禁止と許可のバランスがとれた空間の用意に、大人はあまりにも無頓着すぎると思います。
僕達は、ゲームが完成に近づくと、実際にお客さんとなるであろうユーザーに遊んでもらう、モニター調査というものを実施します。キッズ向けの企画だと、もちろん子供達を呼んで遊んでもらい、意見を聞かせてもらうのです。
子供達は、一生懸命遊んでくれるので、その姿に癒されたり、自信を持ったりするわけですが、制作者としてそれは間違っている、とも思います。なぜなら、子供達はゲームが大好きだからですね。現時点の内容に自信を持たせてくれるほど、楽しそうに遊んでくれます。
だからこそ、面白そうに遊んでくれるその姿に酔ってはならない。「どこが面白かった?」ではなく「どこがつまらなかった?」を聞きまくらないと、結果的に商品としての強さは宿らないのではないかと感じます。
子供達は、たとえその都度係員に注意されるプールでも、禁止事項が多い公園でも、作りかけのゲームでも、本当に楽しそうに遊びます。大人が決めたルールの狭間から楽しむ余地を見出だし、想像力豊かに遊ぶのです。
しかしルールの創造主は、決してそれに甘えてはならない。子供たちにもっと楽しいプールを。もっと楽しい公園を。そして、そのどれよりも面白いゲームを。日焼けした皮を剥きながら、そんなことを思うのでした。
ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー
山本正美 |
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『勇者のくせになまいきだ。』シリーズなどのプロデュースを経て、クリエイターオーディション“PlayStation CAMP!”を主宰。全国から募ったクリエイターとともに、『TOKYO JUNGLE』『rain』などを生み出す。昨年に、『ソウル・サクリファイス デルタ』『フリーダムウォーズ』『俺の屍を越えてゆけ2』をリリース。最新作『Bloodborne』が全世界で好評発売中。
Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)
山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!
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