2015年9月17日(木)

日野晃博氏が下す“帝王判断”とは。クリエイター兼経営者だからこそできたことがある【TGS2015】

文:原常樹

 コンピューターエンターテインメントビジネス関係者に向けて、多くのパネリストが幅広い視野でさまざまなテーマを語る“TGSフォーラム2015 基調講演”。

 第一部では、日本ゲーム業界を代表するヒットメーカー・日野晃博氏(レベルファイブ 代表取締役社長 CEO)が“クリエイター兼経営者だからこそできたヒットコンテンツ創出”というテーマで講演を繰り広げました。

TGS2015基調講演

多くの経験を生かした日野氏による強引なワンマン判断“帝王判断”とは

 『レイトン教授』シリーズや『イナズマイレブン』シリーズなどのヒット作で知られる日野氏。特に『妖怪ウォッチ』は2014年度の市場規模が2,200億円以上、ゲームソフトの累計出荷本数が900万本(DL版も含む)と数字の上でもその実績は際立つものがあります。

 1タイトルごとの平均売上本数が93万6千本以上というデータからも新しいタイトルを作ることに自信を持っているという日野氏ですが、成功の一因は、自身がクリエイター兼経営者という(一般的なゲーム会社から見て稀有な)立場にあったと語ります。

 経営者とクリエイターは相反する意見に至ることが多く、なかなか連携を取るのが難しいわけですが、日野氏が率いるレベルファイブでは、経営陣とクリエイティブ陣の視点が同じなので(経営陣がクリエイターを兼ねているため)、特殊な形でコンテンツを生み出すことができたと分析。

 しかも、日野氏自身がプログラマーからプランナー、プロデューサーといった多くのスキルを兼ね備えているために、強引なワンマン判断が可能だったといいます。日野氏は講演の中でこれを“帝王判断”と命名!

 ここにこそ必勝パターンにつながるヒントがある……とのことで、過去にリリースした人気タイトルで、どのような“帝王判断”があったのかを振り返っていきます。

TGS2015基調講演

クリエイター&経営者という2つの方向からコンテンツの可能性を広げる

 ナゾトキ・ファンタジーアドベンチャーとして知られる『レイトン教授』は、もともとニンテンドーDSの大ヒット作『脳トレ』(脳を鍛える大人のDSトレーニング)に追随するタイトルとして企画したもので、本格的なゲームとはかけ離れた“クリエイターに嫌われるプロジェクト”でした。

 しかも製作費は1.5億、宣伝費は2.3億(当初は1.5億ぐらい)とあまりコストをかけていなかったそうですが、日野氏はクリエイティブな視点でメンバーを説得し、モチベーションを出させていたといいます。

 企画自体も多湖輝氏の“頭の体操”を主軸に据えたもので行く予定が、諸事情でそのまま企画を進めることができなくなり、ゲームの1モードであった今の形を主軸に据えることになったのだとか。日野氏が大胆な“路線変更への即決判断”をできたのがポイントとなったようです。

 また、“携帯ゲーム機では音を消されてしまう”というニンテンドーDSの過去の慣習を打ち破り、純粋なユーザー視点から声優としてタレントを起用するという英断に踏み切ったことも成功につながったのだとか。

 一方で『イナズマイレブン』では、出資者であり原作者でもあるという強みを活かして、日野氏はアニメや他のメディアクリエイティブへも介入。

 この“帝王判断”については賛否両論があったそうですが、クリエイター&経営者という2つの方向から他社と関係をつなげられたのはよかったと語っていました。

いい加減な判断ではなく、状況を見て強引な判断が必要

 アニメ方面での実績を活かしつつ、ゲーム業界では不可侵に近い存在となっていたスタジオジブリと連携したのが『ニノ国』です。ここではダメ元で様々な契約パターンを用意しつつ、現場で即決させることをコンセプトに動いたそうで、会話の最中に柔軟に路線を変更するという“帝王判断”も活きたのだとか。

 この『ニノ国』では、予算と期間に明確な答えがないままプロジェクトを進めていたという日野氏ですが、不完全な状態でプロジェクトを進めるというリスキーな判断も功を奏したようです。

 そして、いよいよ注目の『妖怪ウォッチ』。まず日野氏はメディアを超えて展開する同作品の総合プロデューサーとしてコンセプトの見張り番となる──という“帝王判断”を下します。これにより筋の通ったアプローチができるようになったのだとか!

TGS2015基調講演

 また、アニメフォーマットにも介入し、ストーリーだけではなく番組全体にも口を出したそうです。そのコンセプトはずばり、テレビ業界で高視聴率を取り続ける“バラエティ番組”を子供向けにすることから始まったそうです。

 アニメ『妖怪ウォッチ』でのオムニバス仕様やシリーズ内シリーズ、そしてエンディングでのCGを使ったダンスは、こういったバラエティ番組をヒントに生まれたようです。

 さらにコンセプトは子供向けだけではなく、家族向けの設定となり、過激な内容も盛り込まれていったのだといいます。なかでも人形の首が飛ぶシーンはショッキングすぎて苦情が殺到してしまったそうです……。

 ちなみに、番組の中での“コラボレーション”はパクりではなく、承諾を得たものであるということもしっかりと強調!

 ここまで“帝王判断”での成功を語ってきた日野氏ですが、それはあくまで強引にやっているだけであって、決していい加減にやっているわけではないとコメント。また「多くの経営者やクリエイターをお酒を飲んで話したうえで、総合的な視野において判断できることが成功につながると感じる」とも話していました。

「クリエイターと経営者は仲よくしなさい!」

 講演を総括して、日野氏は経営者に「クリエイターを過保護にするな」と、クリエイターには「理解してもらう努力を怠るな」とそれぞれがそれぞれに手を差し伸べるようにアドバイス!

 そして、エンターテインメント業界のすべての経営者とクリエイターに向けた「仲よくしなさい!」という言葉を贈り、講演を締めくくりました。柔軟な発想でゲーム業界の明日を切り開いてきた日野氏の言葉が“ヒント”になったという人も多かったのではないでしょうか……!

■東京ゲームショウ2015 開催概要
【開催期間】
 ビジネスデイ……2015年9月17日~18日 各日10:00~17:00
 一般公開日……2015年9月19日~20日 各日10:00~17:00
【会場】幕張メッセ
【入場料】一般(中学生以上)1,200円(税込)/前売1,000円(税込)
※小学生以下は無料

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