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2015年10月1日(木)

【電撃PS】SCE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』第67回。テーマは“ゲームへいらっしゃい”!

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.598(9月10日発売号)に掲載されているコラムを全文掲載! 

第67回:“ゲームにいらっしゃい”

 とある日曜日。夏休み明けにテストがあるというので、娘と図書館に行きました。ウチから近所にある図書館は、まだできて2年と経たない図書館で、そのぶん設備は最新です。自動書架が採用され取り出しはスピーディ。本にはICタグが埋め込まれているので貸し出しは無人、閲覧席の予約も専用の端末から可能です。しかも駅から直結で利便性は抜群。というわけでちょこちょことお世話になっているのですが、この図書館がまあいつも混んでいる。本を閲覧できる座席が、児童用、中高生専用、大学生社会人専用、PC専用など種類が分かれていて、合わせるとざっと200席はあります。が、毎度すんなり座れたことがありません。

 僕が中学生のころ、やはり家の近くに図書館ができました。緑地公園とセットで、その敷地内にキレイな図書館が建てられたのです。そのとき僕は中1だったのですが、最初の頃はよく足を運びました。今でこそ読書がわりと好きですが、当時はもちろん、漫画以外の本など読みません。あまつさえ夏休みの宿題をやりに行く、なんてこともなかった。ではそんな僕が図書館に何をしに行っていたかというと、緑地公園で遊んで渇いたのどを潤しに、冷水器の水を飲みに行っていたのです、ハイ。

 なのでこの歳になって混雑している図書館に足を踏み入れたときは、勉強している人の数にちょっと面食らいました。学生さんがテスト勉強をするのはまあわかります。社会人の皆さんも、ぼんやり気づく範囲では、単純な調べ物から何らかのレポート書き、資格の勉強などさまざまなことをされていて、生涯一学徒という言葉もある通り見習わなければなあとも思う一方、ふとした疑問も湧くのです。そもそも、「なぜ、図書館なんだろう?」と。

 必要としている情報を、図書館にある膨大な本に求めている、ということは容易に想像できるのですが、それもネットが自宅にあればある程度解決するはずです。ではネット環境がない人ばかりが情報収集のために来館しているのかというと、逆にそれっぽいお年寄りは少ないし、皆さん結構スマートフォンをちょこちょこ見ているので、その限りではない。

 片や学校から出されている子供の宿題を見ると、“ネットで調べるのはやめましょう”、“ウィキペディア禁止”と書いてあることが多いので、ネット以外の情報源として図書館を利用している、ということはわかります。でも、情報閲覧とは無縁の勉強(計算問題や手持ちの問題集を解いたり)をしている子もたくさんいて、やはり図書館の“本”という情報源のみを目当てに座っているわけでもないなあと思うのです。

 映画『耳をすませば』では、主人公の少女が、自分が借りようとした本が、ことごとく先に同じ人に借りられている、ということを貸出カードの名前で知ることを皮切りに、ほのかな恋の物語が始まります。システム化と個人情報尊守の観点から、今の図書館から貸出カードはなくなりつつありますが、それでもそういった図書館が持つ物語的なイメージ。漂う匂い。情報、記録といった、データが固着化した本という存在が放つ世界観。ノイズになる前に霧消する、人の声や物音など、情緒的な濃い魅力があるのは確かです。

 きっと、その空気感みたいなものを求めて図書館に集っている、ということはあるでしょう。そしてそれに加えて僕が大事だと思うのが、図書館ほど、通底したひとつの共通理解のもとに成り立っている空間はない、ということです。その共通理解とは、“人の迷惑にならないよう静かに利用する”というルールです。

 このルールのすごさは、“本”によって“学ぶ”意識のある人が“静かに”利用するという要件によって、ある一定の属性を持つ層の流入をそもそも排除しているところにあります。本に興味がなく、学ぶことから逃げ、うるさくするような“迷惑をかけそうな人”は、前提条件として図書館には来ない。これにより構築されている居心地の良さは他に類をみず、それがすなわち大きな求心力に繋がっているのだと思います。やるなあ、図書館。

 先日、ある図書館が、「夏休みが明けて学校が始まることがつらいと思う子は、図書館にいらっしゃい」という趣旨のツイートをし、話題になりました。「マンガもライトノベルもあるよ、一日中いても誰もなにも言わないよ、図書館を逃げ場所に使ってもいいよ」と発信をしたのです。なぜか? その意味を、夏休み明けの9月1日に、色んな事情があるのでしょう、残念ながら自ら命を絶つ子供が多い、という内閣府の調査結果の記事を読み、理解しました。これは、居心地の良さが担保する“救済”なのだと。

 ゲームも同じです。ゲームは、原始の世界にも行けるし騎士にもなれるし空も飛べる。恋もできるし悪い奴らを倒すヒーローにもなれます。自分の代わりに自分のキャラクターがやられてくれるし、また生き返ることもできる。うまくいかなければリセットをすればいいのです。ゲームそのものはバーチャルかもしれません。しかし、ゲームを遊んでいることそのものは、紛れもない“現実”です。その面白い現実を、存分に楽しめばいい。だから、僕もこの場を借りて言いたい。つらいことがあったら遠慮なく、ゲームにいらっしゃいと。

ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

『勇者のくせになまいきだ。』シリーズなどのプロデュースを経て、クリエイターオーディション“PlayStation CAMP!”を主宰。全国から募ったクリエイターとともに、『TOKYO JUNGLE』『rain』などを生み出す。昨年に、『ソウル・サクリファイス デルタ』『フリーダムウォーズ』『俺の屍を越えてゆけ2』をリリース。部内最新作『Bloodborne』が全世界で好評発売中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStation Vol.599』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2015年9月24日
■定価:694円+税
 
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