2015年11月8日(日)
電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。
ここでは、電撃PS Vol.600(10月8日発売号)のコラムを全文掲載!
夏の猛暑もどこ吹く風、すっかり秋めいてきましたね。学生の皆さんにとっての秋の二大行事といえば、やっぱり運動会と学園祭、でしょうか。実は僕、学園祭にはちょっとした思い出があります。
ウチの子供が数年前に中学受験をしたときのことなのですが、たくさんある学校の中から相性のよさそうなところを探すために、いろんな中学校の文化祭を見学に行ったのです。学校側も、受験者(というよりは保護者)へのアピールとして文化祭を開放しているわけですね。たぶん、数にして10~15校は見学したと思います。で、これが、それぞれの学校がその校風を表す様々なイベントを用意していて、ことのほか面白かった。生徒が夏休みの自由研究を開示したり、クラスごとに、出店や迷路、クイズ、ペットボトルとサッカーボールを使ったボウリング、といったアトラクションを運営するなど、生徒が主体となってお客さんを楽しませようとしていて、本当に微笑ましかった。
なかでも、運動部系のエキシビジョンマッチや吹奏楽部の演奏など、見ごたえ聞きごたえ十分なものもあったのですが、僕が一番楽しみにしていたのが、そうです、いわゆる『パソコン部』的なクラブによる、“ゲームの展示”でした。というわけで、当初の息子の学校選びの一環として文化祭に趣くという僕の目的は、2校目から完全に、“中学生が作ったゲームを遊びに行く”に変わっていったわけです。
上記は2009年~2012年くらいの話なのですが、まず全体の傾向としてどんなゲームが多かったか? これはもうわかりやすいくらい、“中学生ゲームの二大ジャンル”がありました。それは、『脱出ゲーム』と『弾幕シューティング』です。わかりやすいでしょ。でも、手習いということを考えれば、すごく腑に落ちるジャンルなわけですね。
脱出ゲームは、ツクールで有名なRubyという言語で組まれたモノが多かったと思います。見下ろしタイプの、さすが中学生だけあって、学校をテーマにしつつ、教室から脱出する、という内容が主でした。こちらは、静的なフラグ制御という意味で作りやすかったのでしょうね。
一方の弾幕シューティングは、Flashのアクションスクリプトで組まれたモノが多く、弾や敵キャラの軌道などある程度のアルゴリズムで動いていて、結構遊べるゲームが多かった。どちらとも、ゲームを作る上での基本を学ぶにはもってこいのジャンルで、顧問の指導なのかどうかはわかりませんが、理にかなっているなあと思ったものです(そういえばある学校で、『勇者のくせになまいきだ。』を真似たゲームを作っているクラブがあって、思わず名刺を渡しそうになったこともあります)。
というわけで、僕が“学園祭ゲーム部行脚”をしていた当時は、まだ『3Dによるゲーム』はほぼ皆無でした。1校だけ、潜水艦が海に潜る3Dゲームを展示していた学校がありました(すごい偏差値の高い学校でした!)が、他はひとつもなかった。それぐらい、3Dで何かを表現することは、ハードルの高いことだったのです。しかしそれから数年。状況はすさまじく変化しています。
先日、とあるスジから依頼を受けて、『Unityインターハイ2015』というイベントの審査員をやらせてもらいました。Unityとは、ひとことでいえば、“マルチプラットフォームに対応した、簡便にゲームを作るための優れたゲームエンジン”です。このエンジンを使ったゲームコンテストの審査員を、ありがたいことにやらせてもらったわけです。
以前このコラムでも、Benesseさんが主催された『Global Math』という企画コンテストの審査員をやったときの、“アウトプットすることのハードルが下がっていることへの驚き”について書きました。今回はさらに、Unityという優れたエンジンを使うことにより、3Dのゲームがわんさか応募されていて、またもや驚いてしまったのでした。なんせ、小学生からの応募も数件あり、どこかのアプリで遊んだことのあるゲームの模倣ではあるものの、ちゃんと3Dで動いていたのですから。
2Dであれ3Dであれ、思いつきをスピーディにアウトプットできることは素晴らしいことです。一方で、“それっぽくアウトプットできてしまう”ことによって、早い段階でスポイルされていることもあります。それはつまり、“オリジナリティ”ですね。創作は、模倣から始まり腕を上げていくのが常。何かのエッセンスを持ち寄ったり何かに似せて作品を作る過程はもちろん重要です。ですがそれと同時に、“新しいゲームルールを生み出す”、という気概もまた、重要だと思うのです。
今回も、そして学園祭行脚をしていたときも思ったのですが、グッとくる作品には共通していることがある。それは、“やろうとしていること”と“やれること”のバランスを慎重に検討し、“やれること”の制限のなかで“やろうとしていること”を研ぎ澄ました結果、“やりたいこと”がオリジナリティとしてプレイヤーに鮮明に伝わっている、ということでした。優れたツールはアウトプットへの近道ですが、優れたアイデアの思いつきに便利なツールはない。それっぽいモノではなく面白いモノを生み出すためには、“やりたいことの価値”を磨くしかありません。
しかしねえ、確実にプロの制作者予備軍は裾野広く育っていますよ~。うかうかしているとあっという間に世代交代が進む気がします。それはもちろん喜ばしいことで、あるべき姿です。が、おっさんはおっさんでしぶとく頑張る所存です!
ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー
山本正美 |
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『勇者のくせになまいきだ。』シリーズなどのプロデュースを経て、クリエイターオーディション“PlayStation CAMP!”を主宰。全国から募ったクリエイターとともに、『TOKYO JUNGLE』『rain』などを生み出す。昨年に、『ソウル・サクリファイス デルタ』『フリーダムウォーズ』『俺の屍を越えてゆけ2』をリリース。部内最新作『Bloodborne』が全世界で好評発売中。
Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)
山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!
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