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2015年10月15日(木)

ゲーム制作に必要なのはアイデアか予算か? 松山洋社長らゲームクリエイターが激論!

文:イトヤン

 徳島県徳島市で開催された“マチ★アソビ Vol.15”クライマックスラン。ここでは10月11日に新町橋東公園ステージで行われた“ゲームクリエイタートークショー”の模様をお届けします。

“マチ★アソビ Vol.15”

 ゲーム業界で活躍するクリエイター陣が集結する“ゲームクリエイタートークショー”は、“マチ★アソビ”恒例のイベントとしてすっかりおなじみになっています。

 今回はゲストとして、カプコンの小嶋慎太郎さん、アークシステムワークスの森利道さん、セガ・インタラクティブの大崎誠さん、バンダイナムコエンターテインメントの富澤祐介さん、同じくバンダイナムコエンターテインメントの新野範聰さんの5人が登壇。

 司会進行は、サイバーコネクトツー代表取締役の松山洋社長が担当しました。

“マチ★アソビ Vol.15”
▲写真左から、松山洋さん、小嶋慎太郎さん、森利道さん、大崎誠さん、富澤祐介さん、新野範聰さん。

 ここ数年は昼間での開催が多かったこのイベントですが、今回は19時30分からという、日が暮れて周囲が真っ暗になった時間からのスタートとなりました。

 そういった雰囲気もあってか、今回のトークショウでは例年以上にここでは書けないようなアブない発言が続出。特に、“炎上させない”という言葉がトークのキーワードとなり、いろいろな方の口から繰り返し登場していたのが印象的でした。

シリーズ作品が前作を超えるために必要なものはアイデア? それとも予算?

 今回参加したクリエイター陣はいずれもシリーズ作品を手がけているということで、まず初めに司会の松山さんから“シリーズ作品の苦労点、およびおもしろい点”と“前作を超える作品を作るために心がけていること”についての質問が投げかけられました。

 この話題に対して、11月28日発売の3DS用ソフト『モンスターハンタークロス』のプロデューサーを務める小嶋さんは、「今のタイトルを作っている時点で、次回作のネタがすでにある」と回答。

 ゲームの完成間際の、もう変更ができないという段階になった時に「もっとこうすればよかった」というアイデアが浮かぶことが多くあり、そうした思いが次回作を作るパワーになるのだそうです。

 特に『モンスターハンター』のように人気の高いシリーズは、ユーザーさんからの期待が大きいぶん、その期待を超えるためのネタはつねにストックしておく必要があると、小嶋さんは語っていました。

 続いて、今冬稼働のアーケード用FTG『BLAZBLUE CENTRALFICTION(ブレイブルー セントラルフィクション)』のプロデューサーである森さんは、苦労している点は“予算”であるとストレートに回答。

 森さんによると続編の場合、「1作目で基礎を作っているのだから、続編はもっと安く作れる」という理屈で、予算を前作よりも減らされることが多いのだとか。そこで、より多くの予算を獲得するためにも、この作品が大きな期待を集めているのだという“ファンの反応”が非常に大事になると語っていました。

“マチ★アソビ Vol.15”

 森さんの発言を受け、アーケードからPS4に移植される『初音ミク Project DIVA Future Tone』や『艦これアーケード』を手がけている大崎さんも、苦労する点として“社内の理解”を挙げていました。

 大崎さんはかつて、名作アーケードゲームの続編の『アウトラン2』の制作を手がけたことがあるそうです。自分自身が夢中になった過去の名作の続編を作ることができるのはうれしい反面、記憶によって美化された“過去補正”に打ち勝たなければいけない難しさがあったとコメント。

 その一方で、『ゴッドイーター』シリーズのプロデューサーである富澤さんは現在、5年前に発売したPSP用ソフトの『ゴッドイーター』を、10月29日発売のPS4/PS Vita用ソフト『ゴッドイーター リザレクション』へと生まれ変わらせるというプロジェクトに挑んでいます。

 富澤さんによると、十数年前に登場したレトロゲームを復活させるのではなく、まだ現役に近いゲームを生まれ変わらせるというのは、かなりセンシティブな部分もあるそうです。

 ハードの移行も含めて、ユーザーさんの成長とどれだけ歩調を合わせて一緒に進んでいくことができるかという意味で、“ユーザーさんの成長との戦い”をもっとも意識していると語っていました。

“マチ★アソビ Vol.15”

 ここで司会の松山さんから、「『ゴッドイーター』のようなアクションゲームの場合、シリーズを重ねるごとにゲームのスピード感がアップしたり、アクションが複雑になったりすることで、初心者が入りにくくなってしまうのでは?」との質問がありました。

 これに対して富澤さんは「『ゴッドイーター リザレクション』ではシリーズの原点である“敵を捕喰するアクション”に立ち返ることで、『ゴッドイーター』ならではのアクションのテンポ感をもう1度見直した」と回答。実際に手応えを感じているようです。

 続いて松山さんは、小嶋さんが手がけている『モンスターハンタークロス』を話題に。小嶋さんによると、絶対に変えることのできないシリーズの核となる部分と、新しいと感じてもらいたい部分のせめぎ合いはつねにあるとのこと。

 そのうえで「『モンスターハンタークロス』では、これまでより一歩踏み込んだチャレンジとして、“狩技”や“狩猟スタイル”といった新しい要素を取り入れ、もう1度、より気持ちいいハンティングというものがどんなものであるかを見直している」と語っていました。

 かなり深いゲーム論になってきたところでラストの回答者として登場したのが、12月17日発売のPS4/PS3用ソフト『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』を松山さんとともに手がけている、プロデューサーの新野さん。

 新野さんは、前作にあたる『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』が対戦格闘ゲームだったのに対して、『アイズオブヘブン』は2vs2のタッグアクションとなっていると紹介。

 これは「“『ジョジョ』の魅力を引き出すのに、はたして格闘ゲームという形は最適なのか?”という、コンセプトの検討を踏まえて出されたアイデアだ」と真面目に語ったうえで、苦労している点は“松山洋のコントロール”だと回答。順番的にオチ担当として、しっかり会場の笑いを誘っていました。

“マチ★アソビ Vol.15”

ゲームクリエイターが個人的に発売を楽しみにしているゲームとは?

 松山さんから出された次の質問は、「個人的に発売を楽しみにしているタイトルは?」。自分以外が作ったゲームやアニメ、映画や本から、今1番楽しみにしている作品を回答するというものです。

 小嶋さんは、今年の東京ゲームショウで度肝を抜かれたタイトルとして『スター・ウォーズ バトルフロント』を挙げていました。グラフィックからサウンドまで、映画の再現度が素晴らしく、強く印象に残ったようです。

 ちなみに小嶋さんは楽しみにしている映画も『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を挙げていました。

“マチ★アソビ Vol.15”

 そして森さんもなんと、『スター・ウォーズ バトルフロント』と回答。理由としては、森さんの世代が『スター・ウォーズ』に夢中になった要素が、このゲームにすべて入っているからだそうです。また、先日アニメ化された『オーバーロード』の原作小説がおもしろいとも語っていました。

 大崎さんは、以前からミリタリー系の硬派なFPSが好きだということで、『レインボーシックス』と『コール オブ デューティ』の新作を挙げていました。そのうえで、いつかは自分もこうした本格的なFPSを作ってみたいそうです。

“マチ★アソビ Vol.15”

 富澤さんが、「圧倒的な存在感を放っていて絶対に外せない」として挙げたタイトルは『ペルソナ5』。富澤さんとしては、ゲームはもちろん、プロモーションやPVの作りにも注目しているとのこと。

 そして新野さんが挙げたのは、『モンスターハンター』です。新野さんが唯一、奥さんと一緒に遊ぶことのできるゲームが『モンハン』なのだとか。

 この回答に対して『モンスターハンタークロス』を制作している小嶋さんは、「『モンハン』を夫婦のコミュニケーションツールとして使ってもらえるのはうれしい」と語ったうえで「自分は独身なので羨ましい」と付け加えていました(笑)。

 イベントも終盤となり、松山さんから投げられた最後の質問は「次世代のクリエイターに期待すること」。

 これに対して小嶋さんは「先輩を倒せ!」と回答。カプコンの社内でも実際に、若手のスタッフに向かって言っているそうです。

 先輩である小嶋さんも、もちろん負けるつもりはないとのことで、若手のスタッフといい意味でぶつかりあって、一緒に上昇していきたいと語っていました。

 森さんは、小嶋さんと内容がかぶることをぼやきながらも「悔しい思いをさせてほしい」と回答。

 森さんとしては、悔しい思いをしないと、それ以上のものを作ってやるという気持ちが起きにくくなるとのこと。「新しい人たちに僕らの想像を超えるものを作ってもらって、それを僕らが悔しいと感じるようなものであれば、僕らの世代にとっても糧になる」と語っていました。

 大崎さんの回答では「知るかボケの精神」という、かなり過激なワードが飛び出していました。

 大崎さんは「安易に他人の意見を受け入れて、それで失敗したら反省にもならない」と、自分の体験からくる話を披露。そこで若いクリエイターには、「他人に何か言われたら1回目はまず“知るかボケ”と心の中で言ってみるという気概を持ってほしい」とエールを送っていました。

 ここまでは先輩からのアドバイスといった趣の回答が続きましたが、富澤さんは一風変わった視点から「若い世代の新しいコミュニケーションを、遊びに転化してほしい」と回答しました。

 「今後登場する若い世代の新しいコミュニケーションツールから、新しい遊びが生まれてくればおもしろい」と言う富澤さん。この回答には、自分自身もそうした変化にちゃんとついていかなくてはいけないという、自戒の意味もあるそうです。

 新野さんは「ワクワク感」という幅の広いふんわりとした回答をしたので、司会の松山さんも、思わずツッコミを入れていました。

“マチ★アソビ Vol.15”

 新野さんによると「若手のスタッフにはワクワクする気持ちをいつまでも失わないでほしい」というメッセージを込めているとのことですが、裏を返すと「社会にはそれだけたくさんのしがらみがある」という意味も含まれているようです。

 こうして、“マチ★アソビ”恒例となったゲームクリエイターのトークショーは好評のうちに終了しましたが、トークの途中で富澤さんが語っていたエピソードがとりわけ印象に残ったので、ここに記載したいと思います。

 富澤さんによると、今回の“マチ★アソビ”の会場で『ゴッドイーター リザレクション』を試遊した人は、クライマックスランの初日だけで約300人もいるそうです。このペースで3日間の試遊を行うと、その人数は東京ゲームショウでの試遊人数より多くなるのだとか。

 アニメが中心のイベントと受け止められている“マチ★アソビ”ですが、ある意味、西日本のゲームショウ的な意義もあるのではないでしょうか。今後の“マチ★アソビ”でもゲーム関連の出展やこうしたゲームクリエイターのトークショーに、大いに期待していきたいところです。

“マチ★アソビ Vol.15”

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